●日米大手ゲームメーカーのキーマンが激論!

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 2011年9月6日〜8日の3日間、神奈川県のパシフィコ横浜・国際会議センターにて、ゲーム開発者の技術交流などを目的としたCEDEC(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス) 2011が開催されている。

 最終日となる2011年9月8日には、ゲームジャーナリストの新清士氏を司会とし、グリーの田中良和氏、タイトーの庄司顕仁氏、エレクトロニック・アーツ・インタラクティブのアラ・マック・グロウエン氏、そしてカプコンの手塚武氏の4人のパネリストを招いたパネルディスカッション“世界の心をつかむスマートフォン時代のゲームとは”が行われた。

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グリー株式会社
代表取締役社長
田中良和氏

株式会社タイトー
ON!AIR事業本部長
庄司顕仁氏

Electronic Arts Interactive
Electronic Arts Interactive (Playfish) Japan
ジェネラルマネージャー
アラ・マック・グロウエン氏

株式会社カプコン
CS開発総括 大阪制作部 MC制作室 室長
手塚武氏

 ディスカッションに先駆けて、各パネリストの自己紹介が行われた。

「私は2001年から10年ほど中国にいて、もともとは財務部門の仕事をしていました。所属する“プレイフィッシュ”はモバイルゲーム、カジュアルゲーム、ソーシャルゲームといった分野を手掛けています。ソーシャルゲームに携わるようになったのは2007年ごろからですが、その変化にはワクワクしています」(アラ氏)

「カプコンという会社は、モバイルもiモードのころからずっと手掛けてきているんですよ。ただ、この会場に来ている方はご存知かもしれませんが、モバイルの世界、とくに海外では知っている人はまだまだ少ないです。とりあえず『ストリートファイター』を作っている会社だと言うと、「あぁ、あの波動拳の会社か」と言ってもらえるくらいで(笑)」(手塚氏)

「タイトーのモバイルゲームの歴史はけっこう長くて、iモードの立ち上げあたりから携わっています。海外でも2004年くらいから、北米、ヨーロッパ、中国と手広く手掛けています。スマートフォンでは、参入して3年で52、3タイトルくらい作っているんですよ。これからも、市場の変化に合わせていいコンテンツを作って世界で戦っていきたいです」(庄司氏)

「僕とゲームの関係はすごく古くて、僕は小さいころからずっとゲームが好きでした。小学生のときにファミコンを買ってもらって以来、ファミ通にハマってガバスを集めたり、中学時代には『ストリートファイターII』をやるために毎日ゲームセンターに通ったり……ちなみに、ザンギエフというキャラクターを使っていたんですけれど(笑)。そんな子供でした」(田中氏)

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 自己紹介に引き続いて、田中氏がグリーのビジネスモデルについて説明。

 グリーは現在世界での展開を加速させており、OpenFeint社の子会社化を始め、さまざまな会社と提携を進めるなどしてユーザー数の拡大を目指している。さらに世界中に拠点を作っており、ブラジルにも拠点をかまえるなど現在は世界で8拠点。「3年、5年後には10億ユーザーくらいを目標にしています」(田中氏)。また、日本市場も成長を続けており、さらにゲームシステムを洗練させていけばまだまだ伸びると見込んでいるという。

 田中氏が考えるビジネスモデルの鍵となるのは“ユーザー数”であるようだ。

「プラットフォームには、どれだけ多くのユーザーがいるかどうか、どれだけユーザーを集められるかが価値を持ちます。どれだけいいものを作っても、ユーザーが集まらなければ何にもなりませんから。プラットフォームをゼロから立ち上げて、ユーザーを集めるのはたいへんなんです。簡単にできるなら、いまごろプラットフォームだらけになっていますよね」(田中氏)

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 続いては、“世界でうけるソーシャルゲームとは? 日本と何が違う?”というテーマで、各パネリストが持論を展開した。

 世界進出を加速させるなど、グリー関連では何かと海外の話題が多くなっているが、田中氏は日本のソーシャルゲーム業界を高く評価している。「課金システムがすぐれているとはよく言われることですが、それを含めたゲームシステムが洗練されていますよね。その結果はARPU(顧客一人あたりの月間売上高)によく表れています」。おもしろいゲームには人が集まり、売り上げが伸びる。そこで得た利益をシステムの向上に使えばさらなる好循環を生む、というわけだ。

 一方、アラ氏は「日本のソーシャルゲームは非常に洗練されており、ターゲットを絞ってしっかり深く作られています。ジャンルも多い。逆に西洋諸国のゲームは、シンプルでわかりやすいのが特徴。それは、とても広い範囲の層を対象としているからでしょう。一方で西洋のゲームがすぐれているのは、顧客数値のデータです。オープンで、透明性も高い。日本ではそれが不明瞭で、閉鎖的」と分析。今後の課題として、全世界に同じものを発信するのではなく、同じコンテンツでも国によって異なるイベントを導入するなど、地域性を持たせたコンテンツ作りを挙げた。

 そして手塚氏が発言。「国ごとの違いはありますね。ハードで言うと、Androidは課金システムの面で苦戦しています。支払い方法がクレジットカードしかないので、どうしても層が限られてきてしまうんです。iPhoneに関しては、マーケットはアメリカに集中しています。開発者も非常に多く、いまは過当競争の時代です。ゲームの低価格化も進んでいて、そのことで予算が制限されてゲーム制作に影響してきている部分もありますね」と、現況を説明したうえで「スマートフォンのいいところは、ゲームを販売した後もユーザーレビューなどで評価を簡単に調査できるところです。レビューを読んでいると、ユーザーの多様性に驚かされますね。そういった多くのお客さんに楽しんでもらえるものをどうやって供給するかが今後の課題です」とまとめた。

 庄司氏からは、「グローバルに展開するということは、ものすごくローカルに展開することと同じだと思います」というユニークな意見が飛び出した。そして「弊社に『クッキングママ』というタイトルがあるのですが、ゲーム内で“母の日”のイベントを行うとします。母の日というのは、じつは日本やアメリカでは5月の第2日曜で、フランスでは最終日曜に設定されているんです。それから、あげるものもアメリカではカーネーションで、そのほかの地域ではそれぞれ異なったりしています。そういった細かい要素をゲームに反映させることで、敷居がぐっと下がるんですね。それがグローバル=ローカルに展開する、ということにもつながるわけです」と、実例を挙げながら世界展開の手法を説明。「大事なのはコンセプトです。コンセプトをジャマする要素を地域に合わせて消していけば、日本のコンテンツも世界で十分通用するはずです」。

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 熱がこもった発言が続くが、ひとまず切り上げてつぎの話題へ。今後のスマートフォンにおける展開については、スマートフォンの爆発的な普及にともない、SNSも“みんなが使うサービス”になっていく。そのため、今後求められていくのは“究極のわかりやすさ”となるとのこと。「たとえば、“日記を書いて公開する”のも、多くの人にとっては、面倒くさくて敷居が高い。極端な話、“ケータイを開くだけでおもしろい”くらいでないといけないな、と。そこで極力わかりやすいものになるように心がけています」(田中氏)。

 また、スマートフォンが持っている具体的なメリットについて、田中氏は“3つの革命”がスマートフォンによってなされた、と語る。ひとつは、通信の革命。ケータイなのでつねにオンライン、“たまに”でも“すれ違い”でもなく、いつも誰かとつながることができる、というメリットがもたらされた。ふたつ目は流通の革命。すべてがボタンひとつでダウンロードできるため、小売店を介する必要がなく、その分のコストもかからない。3つ目が販売手法の革命。売り手側にとって、従来は商品をまとめて売らなければならなかったのが、ユーザーひとりひとりにバラ売りができるようになり、大幅にコストを下げた。「言うなれば、ソーシャルゲームは入場料のないディズニーランドです」(田中氏)。

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 パネルディスカッションというよりは、各パネリストによる講演が4本聴けた、というほうがピッタリくるほどの大ボリュームの講演となったが、予定時間を大幅にオーバーし、最後に4人からひと言ずつ発言をもらい、終了することになった。

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「ソーシャルゲームは、友人と関わりが持てるゲームということでゲームの原点に戻ったのではないか、と思っています。私の姉妹の子供たちも、それまでゲームをやらせてこなかったのですが、ソーシャルゲームをプレイして、ゲーム内の友人とプレゼントを交換などしているうちに、人と関わりを持つことを学んでいきました」(アラ氏)

「今後フィーチャーフォンからスマートフォンに移行が進んでいくと思いますが、まず大きいのは操作性の変化ですね。いわゆる“5ボタン連打”ができなくなるのでゲームのルールやインターフェースについても考え直す必要が出てくると思います。その中で、ユーザー層も大きく変わっています。従来のゲームファンは10%程度。残りの90%のユーザーに対し、どのようなサービスを提供していくかが課題となるでしょうね」(手塚氏)

「いくら表現がリッチになっても、操作性が多様になっても、変わってはいけない要素が3つあります。それは“無料”“簡単”“わかりやすい”です。家庭用ゲームでは、3年後市場がどのようになっているかもわからない状態から開発をスタートさせ、最終的に何が残るのかはわからない、といった感じでしたが、モバイルではサイクルも短く、ユーザーの反応が数字に現れるので開発者にとってもその後得るものが多い。数字はすべてではないと思いますが、嘘をつきませんから、それをどう活かしていくかが今後の課題です」(庄司氏)

「会場の方、業界の方に伝えたいのは、多くの人の人生を変えるとか楽しませるというのは、とてもおもしろいことなんだ、ということです。僕はビジネスマンとして、儲けるということももちろんですがそれよりも“世界で商売をするんだ”という意気込みを強く持っています。ただ、それには相当のお金が要るので、そのためにたくさんの収益を上げようとしているところです。自分たちが作るゲームが、どれだけ多くの人の人生を変えるか、どれだけ多くの人に影響を与えるかが僕の人生の指標となっています。そういうことができる会社は、世界的に見ても数が少ないですし、何億もの人間の人生を変えるチャンスだと思ってやっています」(田中氏)