●ゲーム業界に憧れる学生へのメッセージ

 2011年8月20日、東京工芸大学で開催されたオープンキャンパス内で、サイバーコネクトツー、日本一ソフトウェア、フロム・ソフトウェアが合同セミナー“〜ゲーム業界で働くということ〜 in 東京工芸大学オープンキャンパス”を開催した。

 このセミナーは、ゲーム業界への就職を考えている高校生やその保護者に向けたもの。サイバーコネクトツー ゼネラル・マネージャーの渡辺雅央氏、日本一ソフトウェア 管理部 総務課の本間翼氏、フロム・ソフトウェア 管理部 人事課の立野怜子氏がパネリストとして登壇し、ゲーム業界の現状や、業界で働いていくうえで必要な心構えなどをパネルディスカッション形式で語った。ここでは、ディスカッションの内容の一部を紹介しよう。

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▲来場者の8割は高校生。フレッシュな雰囲気が会場を包んでいた。


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▲サイバーコネクトツー ゼネラル・マネージャー 渡辺雅央氏。


■ゲーム業界に入るためには
立野 では、私の体験談を話させていただきたいと思います。私は大学を卒業して、新卒でフロム・ソフトウェアに入りました。もともとゲームが好きで、大学では心理学を専攻し、“テレビゲームが与えるよい影響とは何か”ということを研究していたんです。研究をしているうちに、テレビゲームはメディアとして非常におもしろいものだと感じるようになり、ゲーム業界に就職しようと思ったんですね。ただ、作るのは向いていないなと思ったので、開発をサポートする側になろうと思いまして。それで、管理部門を希望して応募したところ、見事に受かった、というわけです。ところで本間さんは、私と同じ管理部ですけど、入りかたが違うんですよね?

本間 私は、じつは一昨年まで公務員だったんです。でも、人を育てるような仕事がしたいな、人事とか……と考えて、転職活動を始めようとしたら、たまたま日本一ソフトウェアの求人情報を見つけまして。応募して面接したら、「明後日から入社してくれ」と言われたんです(笑)。後で聞いたところ、その求人情報は1週間しか掲載してなかったそうで。それを見ていなかったら、いまここにはいないですね。タイミングが重要ということですね。渡辺さんは、私とは違って長く働かれているということですが。

渡辺 私は大学でプログラムの勉強をしていまして、ゲームがずっと好きだったこともあり、ゆくゆくはゲーム業界に入りたいと思っていました。出身が福岡でして、福岡の小さいゲーム会社に就職しました。それから、サイバーコネクトツーという福岡にある会社が、とんでもなくおもしろいゲームを作っていると知り、自分の力を試したいと思って応募したんです。それがもう15年くらい前になりますね。

■採用に関わっていて思うこと
本間 最近、印象に残っているのは、今年の内定者です。ふつう、内定をもらったら満足して、残りは学生生活を満喫しよう、という人が多いと思うんです。ですがその内定者は――アニメーションに興味がある子なのですが、社長に「アニメーションの分野でもがんばって」と言われたことを励みにして、アニメーションの勉強を始めて、「自分でアニメを作ったので見てほしい」と持ち込んできたんですよ。

立野 内定者の鏡ですね。私は……皆さんの応募書類を見ていて、よく「もったいないな」って思うことがあるんです。写真を貼っていなかったり、下書きの線を消していなかったり……面接でも、想定していない質問をされて言い淀んでしまって、話すのを諦めてしまったり。手伝ってあげたくなりますが、それはできないので。こういうとき、採用担当として「もったいないな」って思いますよね。

本間 ゲーム業界に入るうえでは、技術がいちばん大事だと思われがちですが、基本的なマナーとか意気込みがまず第一なんですよね。

渡辺 僕もずっと採用に関わっていますが……印象的なのは、すごく絵が好きな子の面接をしたときです。本当はゲームを作りたいんじゃなくて、絵が描きたいんじゃないの? と聞いたとき、「いままではゲームから元気をもらってきた。今度は私がゲームを作って、誰かに感情を呼び起こす側の人間になりたい」と言ったんですね。そのような「ゲームクリエイターになりたい理由」を聞くと、「この人と仕事がしたいなぁ」と思いますね。何をしたいのか、何を伝えたいのか。これが面接側に響くポイントです。でもウソはだめですよ、ばれてしまいますから。

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▲日本一ソフトウェア 管理部 総務課 本間翼氏。


■この仕事を続けていくためには
渡辺 仕事を続けていくと、いろいろとあります。辛いのはアイデアが出ないとき、一生懸命作ったものがおもしろくなかったとき。そういうときは絶望的な気分になります。でもだいたい、ある瞬間にクリアーされるんです。そうなった瞬間、いままでの苦労がプラスになるんです。ゲームを作るということは、誰もやったことないような仕事をやるということ。いままでにないものを作りだす苦しみ。でもそれが楽しみでもあります。また、自分たちが作ったゲームが店頭に並んでいるのを見るのは、何ものにも代えられない喜びですね。買ってくれた人を見ると握手したくなる。けっして安くはない金額を払って、よくぞ買ってくれたと。もちろん、実際には握手はしませんが(笑)。

立野 採用担当の場合、いい人材が入ったか、というのはすぐにはわからないんです。仕事のやりがいは、わかりやすくはない。でも、採用された人が「フロム・ソフトウェアに入ってよかった」って思ってくださる瞬間があるなら、すごくうれしいと思いますね。仕事は長い時間やることなので、それを通してどんな感情を得るかというのは大事なことだと思います。

本間 辛いことも多い業界なので、辞めていく人も少なからずいます。辞めていく人と残る人の違いを考えますと……“新しいものを作ることにやりがいを感じられるか”、“どんな思いでゲームを作っているか”がポイントになりますね。ゲームを作ることがが自己満足で終わっている人は残らないです。思い通りのゲームが作れなかったので辞める、と。残る人たちは、ゲームはお客さんに喜んでいただくために作る、と心から思って作っています。

渡辺 心の底からゲームが好きかどうか、も大事かと思いますね。ゲームを作っているといろいろ大変なことがあります。そのとき、ゲームが好きだったらなんとかがんばれる。でもそこで、「僕、ゲームじゃなくてもよかったな……」っと、何かを逃げ道として用意していると、続けていくのは難しいのかなと。「自分にはゲームしかない」とトンガリすぎるのもダメですが。それから、社会人としてしっかりしていること。これ、意外と大事ですから覚えておいてくださいね。ゲームクリエイターって、徹夜したり、カップラーメンばかり食べたりしているようなイメージがあるかもしれませんが、みんなふつうに働いていますよ。サイバーコネクトツーは、始業は9時からです。

本間 日本一ソフトウェアも同じです。

立野 フロム・ソフトウェアは裁量労働制ですが、10時には来てください、と言っています。みんなふつうに、まじめに開発していますよ。

本間 それから、自分の任されているの範囲の仕事に、少しでもプラスアルファしていこうというアイデアマンであってほしいですね。また、前後の引き継ぎはかならずあるので、そこで話ができないとダメです。

渡辺 それは面接でもいいますし、研修でも口をすっぱくして言いますね。報告、連絡、相談をすること。それから、日常を大事にすること。「こんなゲームを作りたいんです」と言ったときに、「よし企画書を書いてみろ」と言われるのか、「その前に、まず目の前の仕事をやれ」と言われるのか。それはその人が毎日何を積み重ねてきたか、これから何を積み重ねようとしているかで、その人が信頼できるかが判断されるんです。

■信頼を勝ち得るためには?
立野 私は、以前はギリギリの状況になってから相談するタイプだったんです。そのとき、「もっと前から相談してくれれば、対策もとれたのに」……と言われたんですよね。それから「ああ、もっと早くから相談すればよかった。それに、あいつはギリギリになってから嫌な相談してくる、と思われたらいけない!」と思い、いまは早めに相談するようにしていますね。

本間 報告連絡相談に尽きると思います。あとは、世の中の事実と、自分の意見をちゃんと分けて話せるかどうか。

渡辺 自分ができる範囲から結果を出していくこと。自分が影響を及ぼせる範囲から、ですね。結果が出れば少しずつ広がっていきます。

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▲フロム・ソフトウェア 管理部 人事課 立野怜子氏。


■これからについて
立野 前例にないものを作っていくのはすごくたいへんなことですが、フロム・ソフトウェアはそれでも「作り続けていきたい」と思っています。私はそれを支えていきたいですね。作ることをを楽しんで続けてくれる人を増やしたい。今日みなさんにお話ししているのも、「ゲームを作りたいな」と思ってくださる方をひとりでも増やしたいからです。

本間 私たちには、世の中を明るくするものを作りたいという思いが根底にあります。皆さんにも、人を喜ばせる気持ちを大事にして、その力を3年後、5年後に活かしてほしいですね。

渡辺 ゲーム業界は、そんなに歴史のある業界じゃないんです。プログラマーは35歳が限界だよ、なんて言われた時代もありました。でもいまは、40代のプログラマーふつうにいます。今後も、業界の未体験ゾーンがまっているのは間違いない。そこにいかに立ち向かっていくのか、ですね。60歳でも70歳でも、ゲームを作りたい人がゲーム作れる環境を作る。それが僕らの大事な使命だと思っています。僕も、150歳までは作っていたいなと思っていますよ(笑)。

■学生へのメッセージ
立野 長い時間お付き合いいただきありがとうございます。皆さんが、今後勉強を続けていって就職を考えたとき、「ゲーム業界に入ろう」と思うとは限らないと思います。それはぜんぜん構いません。それまで積み重ねてきた勉強は無駄になりませんから。これから皆さんが積んでいく経験に無駄なことは何もないと思いますので、いろいろと経験を積んで、そしてまた将来を考えたときに、このセミナーのことを思い出してくれたらうれしいです。

本間 今日の話を参考にする、しないは皆さんしだいです。ただ、将来「ゲーム業界に入りたいな」と思ったとき、「あのおじさん、こんなこと言ってたな」、と思いだしてくださればいいな、と思います。いっしょに働ける日をお待ちしております。

渡辺 この後、ゲーム業界に入るかどうかは皆さんしだいで、どちらでもいいと思ってます。でも、できればゲーム業界に来ていただいて、これからの未来をもっと楽しくするものをいっしょに作っていきたいと思います。入る会社はサイバーコネクトツーでなくてもかまいません。これから全力で毎日を過ごして、胸を張れるような日々を過ごしてください。そして、行きたい業界のことをよく調べて、自分の責任で進路を決めてもらいたいと思います。本日はありがとうございました。


 以上、抜粋ではあるがパネルディスカッションの内容をお届けした。この後、質疑応答の時間も設けられ、ゲーム業界を志望する若者たちが、緊張しながら「ゲーム業界に入るにはどんな大学・学部に行ったらいい?」、「資格は必要?」、「いまから何をしたらいい?」などと質問していた。回答は、まるっとまとめてしまうと「大学も学部も資格も、履歴書では見ていない。どこでも構わないのでしっかり勉強をして、人生経験を増やし、やりたいことを語れるようになることが大事」とのことだ。

 また、セミナー終了後も、質問しきれなかった学生たちがパネリストの前に行列を作り、熱心に話をしていた。ゲーム業界を目指す若者たちにとって、このセミナーはいい刺激となったようだ。彼らの5年後、10年後の姿に期待したい。

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▲外国文学を修めて、ゲーム雑誌・情報サイトの編集者になったという筆者のような例もある。大学で何を学んだとしても、なろうと思えば何にだってなれるものだ。がんばれ若者よ。


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