●総合プロデューサーの名越稔洋氏が語るヨーロッパの反応

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ドイツで開催中のgamescom2011。そのビジネスエリアでは、『龍が如く』開発チームによる完全新作『BINARY DOMAIN』が出展されている。先日のディレクター佐藤大輔氏へのインタビューに引き続き、総合プロデューサーを務める名越稔洋氏へのインタビューをお届けしよう。

――今回出展されたバージョンはどの程度の開発状況のものでしょうか?

名越氏 ぶっちゃけて言うとgamescom用に音声認識の場面が多いバージョンに仕上げた部分はあります。今回の敵の配置などを含めてデモンストレーションのためのものなので、実際の製品版とは少し異なる内容ですね。10分程度の紹介でも相手に伝わる内容のものになっていると思います。

――E3のバージョンとはまったく違う内容ですね?

名越氏 そうですね。E3とは違う部分を見せるようにしました。東京ゲームショウ(以下、TGS)での出展は今回と同じステージを予定していますが、日本語で音声ができて、さらにNPCの会話のリアクションがよくなったものをお見せできると思います。

――音声認識が大きな特徴となる作品ですが、その精度は当初想定されていたレベルに仕上がりそうでしょうか?

名越氏 順調に仕上がりつつあります。ほぼ完成に近いと言っていい。じつは今回のデモプレイ向けに用意したバージョンはかなりのところまで来ているものなのですが、どうも会場のまわりの音がうるさすぎて音声認識がされにくいんですよね。まわりの音を全部拾って解析しちゃう。ゲームイベントの会場ほどうるさい家に住んでいる人はいないと思うので、それを基準にされてしまうと困るんですが(苦笑)。TGSで音声認識をプレイするブースでは、もうちょっと密閉率が高くてまわりの音を遮断する設計を考えたいと思います。

――なるほど。ちなみに、今回の出展でヨーロッパの反応はいかがですか?

名越氏 海外のシューターで大事なのなのは、基本的にはまず銃を撃つことが爽快で楽しいっていうことなんですよね。音声認識とかいろいろセールスポイントはあるけれど、大前提として、シューターとして楽しい作品であるということがわかってもらえたことは大きな収穫だったと思う。「日本人はそもそもシューターがわかってないよ」っていうリアクションだったら、その後に何を説明しても全部台なしになっちゃうんで、そうならなかったことはよかったなと。プレゼンテーションの仕方も地域によって変えていく必要があるんですよね。日本ではシューター要素のほかにもきちんとドラマ性があることを伝えないとダメだし、ヨーロッパの人にとってはもっと基本的なシューターとしてのデキとか、ネットワークでワイワイ楽しめるんだっていうことをきっちり説明しないといけない。同じコンテンツでもふさわしい伝えかたというのは異なるので、そこはうまく使いわけられたらと思います。
――『BAINARY DOMAIN(バイナリー ドメイン)』は地域ごとに異なる見せかたをする取り組みを積極的に行っていますよね?

名越氏 そうですね。ただ、海外のプレスに言っていることは「まずは日本でしっかりと売れて、その後で海外でも売れる道筋を作りたい」ということなんですよね。俺自身、その気持ちは強いですし、そこだけは世界のどこにいっても変えずに言っていることです。

――まず日本、となると音声認識は少しハードルが高いように思えるのですが……?

名越氏 たとえば感覚的に恥ずかしいとか、ちょっと面倒臭さそうっていうものは、強い興味を持ってもらえれば乗り越えられるものだと思うんですよ。そうしたエネルギーを持った作品であることを、これからのプロモーションで訴え掛けていけたらなと思う。ゲームプレイの嗜好っていうのは変わるんですよね。昔は「日本人はダンスのゲームなんて絶対やらない」って言われていたけど、いったん流行ってしまえば、抵抗なく遊んでくれる人は少なくないんですよ。それと同じように、入力デバイスひとつを取ってもいろんな遊びかたが融合されていって独自のカルチャーが作られるようになるし、俺たちとしては、「やっぱり音声認識があったほうが楽しいよね」と言ってもらえるものをゴールとして設定したいですよね。

――シューターが苦手な人に向けて、プレイの負荷を軽減するような施策はありますか?

名越氏 ”シュート”っていうのは”殺す”っていう意味と考えていいと思うんですよ。なので、シューターというのは基本的にテンションが高くて殺伐としているがゆえに爽快なんですよね。だけど、殺伐感を大事にするのか、爽快感を大事にするのかといったら、俺としては爽快なものにはしたいけど、殺伐としたものはちょっと違うと思っているんですよ。だから今回の作品で殺伐感に取って代わっているのが、仲間との絆だったりコミュニケーションなんですよね。プレイすると爽快なんだけども、その爽快感の源はこれまでのシューターとは違ったものになっているはず。これは『グランド・セフト・オート』と『龍が如く』の違いにも通じるところがあると思うけど。

――仲間たちとのコミュニケーションが爽快感につながっていくわけですね?

名越氏 そうですね。仲間たちとうまくコミュニケーションを取るなかでエンディングを迎えて、「自分なりによくやった」と思えるのか「俺の選択には疑問が残るなあ」という終わりかたをするのか、プレイ後の感想に幅があるという意味では『龍が如く』シリーズよりも奥の深いゲーム性にはなっているかなと思います。

――『BAINARY DOMAIN(バイナリー ドメイン)』のデモを見たり、プレイしていると感じる温かみは、そのあたりに由来するものなんですね。

名越氏 そう思いますよ。ただし、プレイスタイルというのはユーザーの自由なので、まったくNPCから信頼されないし、こちらもNPCを無視してガンガン先へ進むという遊びかたもありなんですよ。「俺はお前らとはいっさい話したくない」っていうプレイが許されないとダメだと思っている(笑)。それがあるからこそプレイの幅につながるわけで。仲間とのコミュニケーションは、わざわざ自由度を縛るものであってはダメなんですよ。

――そのプレイの両方ができるとなると作り込みの幅はたいへんなものになりすね?

名越氏 結局はブルーレイの容量っていう限界はあるんだけど、ものすごいボリュームの内容が詰め込まれているんで、たいへんですよね。開発の現場も苦労するし、チェックする側の負担も尋常ではない。まあ、シューターとすごい『シーマン』をいっしょに作っているようなものですよね(笑)。『シーマン』とのコミュニケーションは1対1だったけど、今回作っているのは複数とのコミュニケーションなのでややこしい。技術的にも高いものを目指していますね。

――『BAINARY DOMAIN(バイナリー ドメイン)』の特徴のひとつに敵ロボットのNPCのAIに注力していることがあると思うのですが、そのあたりの完成度はいかがですか?

名越氏 ようやく単体の動きはよくなってきたので、いまは複数が集まったときにどう動くのかを調整しているところです。複数の動きもかなり完成に近付いていて、5体のロボットがいたらその5体がたがいに補完しあって隙のない動きをしたりだとか、そのうちの1体がやられたら残りの4体で隙を埋められるようにするような基本的な動きの管理はほぼ出来上がりました。これからは、それに加えて空を飛ぶロボットとの連携や武器のバリエーションを増やしたときの調整をしていくところです。

――最終的に、想定していたレベルには達しそうでしょうか?

名越氏 AIに関しては、俺が当初考えていたレベルには到達しつつあると思うんで、あとは各セクションのスタッフのプライドとの戦いですね。最後の最後まであきらめないでどこまで作り込むのか、これからのラストスパートに期待したいです。

――今後の見通しを教えてください。

『龍が如く』という作品が育ったなかで、そのリソースを活かして新しいことをやってみたいというのが『BINARY DOMAIN(バイナリー ドメイン)』という作品を作り始めたきっかけですが、海外の市場でもキラッと光るものを残したいと思っています。いまの海外には非常に強い作品が多いので、そこで戦うとこは簡単ではないけど、今回の作品では最悪でもそこに一石は投じたいですね。欧米のメディアからは「なぜ急にシューターっていう、欧米メーカーのど真ん中を狙うのか?」っていう質問を受けることが多いけど、そこは正直に「真っ向勝負するのは簡単ではないと思うけど、まずは同じ土俵に立つ内容は考え付いたから」と答えるようにしています。

――最後に、約1カ月後にはTGSが開催されますが、日本のユーザーに向けてメッセージをお願いします。

名越氏 デモンストレーションのしかたを工夫するつもりなので、会場に来て、見て、触ってほしいですね。密閉性の高いクリアケースの中で音声認識がプレイできるので、期待していてください。

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