●さまざまな要素が絡み合った挑戦的なゲームデザイン

Dishonored_ThugvsCityGuard

 2011年8月4日から7日まで、テキサス州ダラスで開催中の、id Softwareのイベント“QuakeCon 2011”。会場でプレス向けに披露された、ベセスダ・ソフトワークスの新作『Dishonored』のリポートをお届けする。本作は日本未発表だが、海外ではプレイステーション3とXbox 360、PCで2012年発売予定。

 開発したのは、2010年8月にベセスダ・ソフトワークス傘下になった、Arkane Studios。『Dark Messiah: Might and Magic』などを開発したスタジオだ。クリエイティブ・ディレクターのラファエル・コラントニオ氏とハービー・スミス氏が解説を行った。

 まだ謎が多いタイトルのゲーム性を、ふたりは“ファースト・パーソン・イマーシブ・アクションゲーム”と呼んだ。Immersiveとは、ゲームでは“没入感がある”といった際に使われる。まだちょっとわかりにくい。“一人称視点の没入感があるアクションゲーム”とは一体どんなものなのか? ゲームプレイの要素としては、アクションだけでなく、コンバット(格闘)要素や、ステルス要素が含まれており、それらが複雑に絡み合っているというのだ。

 その後に聞いた話などを総合してみると、どうやら開発チームは、『Deus Ex』や『Bioshock』に影響を受けているらしい。それなら話は別だ。(とくに今年リリースされるほうではなくオリジナルの)『Deus Ex』や『Bioshock』を正確に定義するのは難しい。どちらのタイトルも見た目のスタイルこそFPS(一人称視点シューティング)だが、アドベンチャーやステルスアクションなど、さまざまな要素が詰め込まれているからだ。さて、本作のプレイの概要は、確かにこれらのタイトルに似ている。ストーリーと関連した大目的(こういう理由で何々を殺さなきゃいけないとか)があって、それを実現するための小目的(この建物に入るためにここまで移動しなきゃいけないとか)がある。それをどう達成するかはプレイヤーに自由が与えられており、コンバット(戦闘)で押して行ったり、ステルスで隠れて進んだり、あるいは各種スキルやガジェットを使って別の方法を取ったりという次第。

 本作の主人公は、超自然的能力を持った暗殺者。プレイヤーは裏切りにより皇后殺人の罪を着せられ、仇討をするか、それとも自らの疑いを晴らすか、選択を行っていくことになる。デモは“エミネント・ドメイン”というミッションを中心に説明が行われた。目的は、アーノルド・ティンチという弁護士を殺すこと。

●どこかにありそうで、どこでもない、少し不思議な世界

Bridge

 舞台となる街ダンウォールは、人口の半分が死滅した荒廃した産業都市で、ネズミや伝染病が蔓延し、どこかイギリスを感じさせる薄暗さがある。とはいえ正確には、ここはヨーロッパどころか地球ですらない。イギリスの第二次産業革命がスチームパンク方向に進んだかのような、独特な世界が作り出されている。

 プレイヤーはスライディングやリーン(体を傾けて覗く)、死体隠しといった、ステルスに必要な動きが可能なだけでなく、パワーを蓄積してスーパージャンプを使ったり、“ポゼッション”というパワーで、ネズミや魚、別の人間に変身することもできる。ネズミはこの薄暗い街のキーになっていて、光の中では縁がないが、暗所ではプレイヤーの動きに反応して、敵の注意を惹いてしまうことも。マップには裏道やネズミのみが通れるルートが記載されており、プレイヤーに多様な選択肢を与えている。デモでは、ネズミになって狭いスペースを通り抜けて見せていた。だが、ネズミが嫌いな護衛や使用人に見つかると、踏まれてしまうこともあるらしい。

 また、先ほどスチームパンクと説明したように、ダンウォールはその見た目とは裏腹に独自の科学技術が進化しており、警報装置があったり、逆に監視塔のセキュリティ機能をハッキングして自分に有利になるように切り替えるといったことが可能だ。

New Dishonored  (7)
Combat04
Sneak_Observation02

 そんなわけで、探索や横道探しの楽しみはなかなか。サイドクエストなども豊富に用意されているという。そんなこんなでターゲットのオフィスに到着し、中を覗いて様子を確認。「1年前より儲かっている。ラットプレイスは収入を3倍にしてくれた」、「それはすごい。他の人は破産しているというのに」といった会話がなされている。恐らく、まともなな企みではないだろう……。サイドクエストには、ここに来る前に彼の悪事を証明するものを発見するというものもあるらしい。仕事を終えてミッションが終了すると、仲間がいる拠点へと戻ることになる。オープンワールドのゲームというわけではなく、拠点からミッション、拠点に戻って装備や能力を強化し、ふたたびミッションに出撃という形で進んでいく。

 今回詳細は明かされなかったものの、本作には“Chaos System”というものがあり、プレイヤーの行動を記録してスコアをつけ、Chaosが一定値を超えると、状況を変化させたり、ストーリーを分岐させたりするという。ちなみにChaosの増減は、市民を殺すとChaosが増えやすく、護衛を殺した場合は説明しやすいのでChaosがそれほど増えないらしい。そのほかにも、たとえば配達を依頼されたものを盗んだ場合などもChaosが増えるそうだ。プレイヤーがどう目的にアプローチするかによって、状況が変わってくるのは想像に難くない。

●クリエイティブ・ディレクター陣に直撃インタビュー!

DSC_0032

 ラファエル・コラントニオ氏とハービー・スミス氏にインタビューする機会もあったので、そちらもまとめてお届けする。

――ベールを脱いだばかりの作品ですが、これまでにどれくらいの期間と開発人数が関わっているのでしょうか?
ラファエル・コラントニオ氏(以下、ラファエル) 期間はだいたい2年半くらいですね。スタッフは50人から100人ですが、部分的に外注もしているため人数に関しては大きく変動しやすいです。

――ゲーム中では数多くのスキルを戦闘や移動に使用する様子が見られました。だいたい何種類くらいのスキルが用意されているのでしょうか?
ラファエル ポゼッションと呼ばれるスキルでは路上にいるネズミへと変身できます。この力を使えば配管やダクトといった人間では通れない場所への移動が可能になり、敵の建物への侵入が容易になります。ただし、敵の中にはネズミ嫌いなキャラクターもいるため、踏み潰されてしまわないように注意が必要です。これはネズミだけでなく、魚などにもなることができます。ルーンとよばれる物を使うことで、武器やアイテム購入することができます。テレポートやスーパージャンプといったスキルは、ルーンを消費することで入手することになります。

Lord_Regent

――キャラクターデザインや世界観が独特な印象を受けました。服装は17〜8世紀の兵士を彷彿とさせますが、建物などの街並みは近代的な様式のものが多いですよね? こういった世界観のバランスを調整するのはハードなことだと思いますが、どういった工夫をしましたか?
ハービー・スミス氏(以下、ハービー) 最初は1666年のロンドンをモデルにしていましたが、結果的に年代を動かして現代に近くなっています。そうしていると少しずつ現実的な世界よりもファンタジーの世界の要素が多くなりました。1850年代や1890年代の世界とビクトリア調の建築を組み合わせ、産業革命時代のスチームパンクの要素も入れて少しずつ独自の世界観を構築しました。舞台は地球ではないですから、かなり自由な設定をしています。

Dishonored_Tallboys

――途中で出現した敵にはすべて弱点が設定されているようにも見受けられました。すべての敵にこのような弱点を用意しているのでしょうか?

スミス すべてのキャラクターに弱点があります。だいたい頭ですけど、ヘルメットを装着している場合はヘルメットをはじき飛ばしてから攻撃する必要があります。ただ、トールボーイと呼ばれる敵キャラクターは正面に木製の盾を装備しているため、盾を破壊してから攻撃しなければなりません。また、オイルタンクを背負った敵もいます、この場合はオイルタンクを攻撃すれば引火し、爆発で倒すことができます。

――タイトルはディスオナー(不名誉)ということですが、これは主人公の境遇を表したりしているのでしょうか?
ラファエル じつはキャラクターの素性についてはあまり公開していません。というのも、実際に遊ぶ前に複雑な知識を与えたくないのと、先入観を持ってもらいたくないと思っているからです。でも、ちょっとだけ説明しますと、主人公は皇后様の護衛をしており、周囲から非常に尊敬されている立場にいました。しかし、彼女が殺害されてしまい、無実の罪を着せられる罠にはまってしまいます。刑務所に入れられてしまい、周囲からの尊敬の念は失われるなど“不名誉”な状況へと陥ります。その無実の罪を晴らすのが目的ですね。

――最後になりますが、なにか日本のゲーマーに対してメッセージをお願いします。
ラファエル “不名誉”という名前から、サムライやニンジャといった印象を受ける人もいるとおもいます。じつは現在のタイトルに決まる以前は、同様の意味を持つ日本語にしようと考えていました。ですので、少々ムリはありますが、つながりを感じてもらえたら嬉しいです。
スミス うーん、『Deus Ex』(PC版の1作目と2作目)って、日本では有名なタイトルなのかな?
――コアなゲーマーには支持されていましたが、PCゲームということもあり、あまり知られていませんでしたね。
スミス 『Deus Ex』のファンやアドベンチャーが好きなプレイヤーには嬉しいゲームとなるはずなので、期待してください。

(取材、写真:スオミ松崎、構成:編集部)