●高速でカッ飛べ! 知る人ぞ知る傑作が大復活
![]() |
アメリカ時間の2011年8月4日に開幕した、id Softwareのイベント“QuakeCon 2011”。id Softwareと関係があるタイトルというわけではないのだが、プレイヤブル出展されていたPC用FPS(一人称視点シューティング)『Tribes: Ascend』を、開発元Hi-rez StudioのCOOであるトッド・ハリス氏へのインタビューとともに紹介させて欲しい。
『Tribes』は、いわゆる“スポーツ系FPS”の走りとなったタイトルで、アクティブに移動しながらハイスピードかつアクロバティックな戦いが楽しめるのが特徴。いま見ると『Halo』っぽく見えるかもしれないが、初代『Tribes』こと『Starsiege: Tribes』が発売されたのは1998年で、初代『Halo』(2001年発売)よりも3年早い。ついでに言ってしまうとid Softwareが産み出したスポーツ系FPSの代名詞『Quake III: Arena』(1999年)よりも発売は早い。
その後の『Tribes』をおさらいしておこう。トレンドを先取りしたタイトルとして、『Tribes 2』(2001年)、『Tribes: Vengence』(2004年)と順調にシリーズを重ねていったのだが、ココ数年はしばらく音沙汰がなかった。そして2010年、Hi-Rez Studiosが『Tribes』ブランドの権利を獲得したことを明かし、2011年3月にボストンで行われたゲームファンのためのイベント“PAX East”で『Tribes: Ascend』を発表したのだ。
さて、スポーツ系FPSよりもリアル系FPSが主流の現在、QuakeConほど『Tribes』の新作にふさわしい場所もないだろう。QuakeConに集まってくる人々は、世界でもっとも熱心に『Quake III: Arena』やその後継である『Quake Live』をプレイするゲーマーだからだ。
編集部からの前説はここまでにして、あとは現地で取材しているライター、スオミ松崎に、実際のプレイした内容を語ってもらうとしよう。
●これだよコレ! スキーイングもバッチリ!
ドモー、『Tribes』フランチャイズが復活すると発表されて以来、一日千秋の思いで続報を期待していたスオミです。7月末に突然Hi-Rez StudiosがQuakeConに出展すると報じたため、心臓をバクバクさせながら会場へと足を運びました。
『Tribes』シリーズは多人数マルチプレイがウリで、戦闘機や爆撃機、さらには戦車といったビークルを活用しながら敵陣へと切り込み、旗を奪ってくるのが目的のFPSだ。
初代『Tribes』と『Tribes 2』でその圧倒的なスピード感に興奮したものの、3作目である『Tribes:Vengeance』では、逆にシリーズ作品のよかった部分をすべて削ぎ落したようなゲームディテールであり、本当にこれが後継作なのかと思うくらい残念な出来に枕を濡らしたのを覚えてます。その後、開発会社は閉鎖し、もうダメかぁと思っていたのですが、まさかまさかの大復活! そりゃぁ、会場で画面をみたら胸に撃たれて泣きそうになっちゃうわけですよ。
そんなわけで、実際にプレイしてまいりました。使用可能なクラスは9つ用意されているが、それぞれ装備内容により重量が大幅に異なるため、軽量級のクラスは移動速度を活かし、重量級は火力を活かしたスタイルが得意となっている。まずは最初に確かめたいことがあったので軽量級のクラスを選択し、バトルフィールドへと突入。
というのも、本シリーズにはスキーイングとよばれるテクニックがある。これは、すり鉢状になった地形の縁の部分から斜面を降りるときにスペースキーを押し続けていると、雪原をスキーで滑り降りるかのように加速することが由来のテクニックだ。最下部まで滑り降りると斜面を登ることになるが、そこでもスペースキーを押し続けていれば滑走時の慣性を維持したままの速度で斜面を上ることが可能なのだ。さらに、加速したまま背負ったジェットパックを噴射すると、通常の移動よりも効率良く遠くに移動することができる。自陣から敵陣の裏側までスキーイングで突破できるルートを発見できれば、超高速で旗を盗み出し、そのまま自陣へ迅速に持ち帰ることも可能なのだ。
『Tribes:Vangeance』では、マップの作りがスキーイングにあまり合っていなかったためか、それまでのシリーズほどのスピード感を味わうことができないプレイヤーが続出し、残念な結果になってしまった。ドキドキしながら今回の『Tribes: Ascend』で試してみたところ、初代と2のマップに近い形状のため、驚くほど簡単に高速で移動できる。が、ニヤニヤしながら戦っていると突如として狙撃されて死亡。初心者ならこの移動速度に対応できないのだけど、普通に狙撃してくるということは僕と同じ経験者なのだろうなと思い、誰かと探すとニヤニヤと笑顔で僕をみるプレイヤーを確認しました。こりゃ憤怒です。
つぎに、重量級のジャガーノートと呼ばれるロードアウトを選択。移動が本当に遅いので若干イライラしつつも圧倒的な火力で旗を盗みにこようとする敵を次々とシバキ倒す気持よさは最高です。ただ、本当に鈍足なので狙撃されました。あいつに。
『Tribes』シリーズといえばビークルに乗れるのが魅力なのですが、乗り物に搭乗するには基地のまえにある搭乗用のパッドに乗らなければならない。3種類のうちからビークルを選択すると、ビークルが謎の空間から転送され、プレイヤーは操縦席へとワープさせられる。これは、乗り物を出したプレイヤーがほかのプレイヤーにハイジャックされないための安心設計となっている。
戦車というか装甲車というか、その中間の乗り物と戦闘機を試したみたのだが、戦場では激しく目立ってしまうのですぐに囲まれてしまう。また、敵陣周辺には敵を自動で攻撃する固定砲台が設置されているため、使い方を間違うとチームに迷惑をかけるだけになりそうだ。いや、実際に迷惑を掛けたのは僕なのです。すみませんでした。
今回出展されているバージョンは機能制限などが施されているため、すべての機能を調べ上げることはできなかった。だが、過去のシリーズをプレイし、1と2が大好きな『Tribes』プレイヤーにとっては、感涙モノの作品になってると言える。事実、僕がプレイしたときの操作感覚は1と2を通してプレイした時とあまり変わらず、当時自分がプレイしていたマウスやキーボードなどのプレイ環境と、使い慣れたものではない試遊台のそれの違いに戸惑った程度だった。ハイスピードで展開され縦横無尽に移動が可能な多人数対戦FPSに餓えているなら、これはマストプレイの作品となるだろう。なんてったって、基本料金無料の“Free 2 Play”だからね!
●『Tribes』シリーズからいい点を抽出し、往年のファンも初心者も遊べるように
![]() |
なぜいま『Tribes』なのか? 今後どのように発展していくのか? Hi-Rez StudiosのCOO(最高執行責任者)である、トッド・ハリス氏に話を聞いた。
――なぜ『Tribes』ブランドを復活させようとしたのですか?
トッド・ハリス(以下、トッド) 昨年10月に『Tribes』ブランドを購入したんだけども、幾つかの理由があるんだ。まず最初に、僕達のスタジオがシリーズの大ファンだということ。『Global Agenda』っていう、モロに影響を受けたタイトルを作っているくらいだしね。ふたつめの理由は、昨今のFPSゲーマーの迷走が気になるのが原因かな? 地上を走りまわるだけで動きがスローテンポだったり、カバーアクションを前提とした動きのモッサリしたものが多い。だから、ハイスピードでアクロバティックに遊ぶことができるアクション性が非常に高いタイトルを市場に出したかったんだ。
――『Tribes』と『2』は本当に楽しかったのですが、3作目でシリーズの持つ遊んでいて楽しいと感じるポイントを全部なくしてしまいました。今回展示されているバージョンでは、3作目でロストした物を完全に取り戻している印象を受けました。
トッド そいつは良かった! 僕達は過去に発売されたシリーズ作品をすべて精査し、いい点を洗い出したんだ。『Tribes』ではキャラクターの操作感覚。『2』ではビークル(乗り物)の操作感覚。そして、色々と評価の悪い3作目の『Vengence』からは、アクション性と初心者でも怖がらずに遊べる間口の広さをピックアップしている。ただ、斜面を滑り降りるスキーイングと呼ばれるテクニックがキーポイントだ。スペースキーを押すだけで誰でも素早く移動ができるけど、熟練者の場合は背中に背負ったジェットパックによる浮遊動作を組み込むことで慣性を維持したまま遠くまで飛び出すことが出来る。だから、初心者と熟練者ではテクニックの差が出やすいようにしてあるよ。
――ちなみに『2』では基本的に64人での対戦が実現されていましたが、今回作品では何人で対戦できるのでしょうか?
トッド 今のバージョンでは32人だね。将来的に64人での対戦をサポートするつもりで取り組んでいるよ。今回のイベントで使用しているマップはミドルサイズだからというのもあるけど、もっと大きなマップもあるから安心してほしい。『2』のリバイバルマップも用意しているので、昔プレイしていたプレイヤーは、ブラウン管で見ていたテレビ番組をHDモニターで見ている気分になるんじゃないかな(笑)。
――Xbox 360とプレイステーション3のバージョンを発表後、結果的にキャンセルしていますね。何故ですか?
トッド まず最初に、PC版を完成させなければならないからだね。そのほかにもいくつか理由があるんだけど、一番大きな理由は、本作が基本料金無料の“Free 2 Play”だからだ。マイクロソフトやソニーとはこのシステムについてディスカッションを継続しているが、OKが出ない。だからPC版を優先させているんだ。家庭用ゲーム機ではアップデートパッチや追加マップの配信などでハードウェアメーカーに許可をもらうための費用や時間がかかるけど、PCなら特に制限なくユーザーに提供できるのも大きいね。
――継続しているってことは、将来的に家庭用ゲーム機バージョンがリリースされる可能性も一応ある?
トッド 将来的にはあるかもしれないね。僕も期待しているよ(笑)。
――“Free 2 Play”だと有料コンテンツもあるはずなのですが、どういったコンテンツが有料になるのでしょうか? 最近のトレンドだとマップや追加キャラクターなどが有料となるケースが多いですよね。
トッド 僕達はマップやゲームモードは無料でリリースするつもり。ただし、操作するキャラクターのロードアウト(クラスや兵種)のいくつかは有料となっている。でも、武器も購入する必要はない。ロードアウトと、キャラクターの見た目を変更するスキン(キャラクターの洋服などのテクスチャー)が有料で販売される予定だ。
――だとすると、有料コンテンツのマップを持っていないから一緒に遊べないといった問題をクリアーし、ユーザーフレンドリーな感じがしますね。
トッド 僕達はマップのためにお金を払わせたり、武器のためにお金を払わせるのが好きじゃないからね。
――TRIBES2ではゲーム内に掲示板機能などがあり、クランやユーザー間で活用されていましたが、本作ではどうでしょうか?
トッド うーん、残念だけど用意はしてないね。うちの会社のフォーラムを利用してもらうしかないかな? あ、そうだ! 今回の『Tribes』では、最初はクランシステムは実装してないんだ。製品がリリースされてからサポートする予定なので、クラン戦が好きなプレイヤーは安心してほしい。
――『2』ではフラッグムービーと称して、自分がスーパープレイなどを果たした様子をYouTubeなどに公開するプレイヤーが多くいました。本作では録画機能などのサポートはないのでしょうか?
トッド 今は実装してないけど、ロードマップ内には入っている。すぐにとは言えないが、開発するつもりだよ。僕もフラッグムービーやスーパープレイを見るのが好きだからね。
――いつごろのリリースを予定していますか?
トッド まだ何も言えないんだ。ただし、クローズドβテストが9月で、オープンβテストは秋の遅い時期。このベータはかなり長い期間になると思う。オープンβテストでは4つのマップをリリースし、18のロードアウトが実装される予定だ。今回の展示は9つだけしかロードアウトを出していないので、もっと内容はすごくなるよ。毎月なにかをリリースしていく予定だ。
――『Tribes』ファンとしては気になる日本での展開なのですが。小さいながらも日本にはコミュニティがあるので……。また、ユーザーがサーバーを設置したりできますか?
トッド あー、タイミングが合えば何かアクションを起こしたいね。サーバーだが、Free 2 Playという性質上、サーバーはすべて当社が管理することになっている。ユーザーがサーバーを立てるようなデディケートサーバーは用意する予定はないんだ。
――日本のTRIBESファンやFPSプレイヤーに何かメッセージをお願いします。
トッド 日本に『Tribes』のファンが居ることを聞いて本当に嬉しく思うよ。僕達は『Tribes』を愛しているし、『Tribes』がなくなったときは本当に悲しかったんだ。でも今回、こうして復活させられることにかなり興奮している。だから、今後も注目をしてほしい!
(取材、写真、文:スオミ松崎、構成:編集部)