●さすがGeek! 基調講演ではディープな開発話も

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 米時間の2011年8月4日、テキサス州にてベセスダ・ソフトワークスが主催するFPS(一人称シューティング)ファン向けのイベントQuakeconがスタートした。

 QuakeConは、『Doom』や『Quake』シリーズなどでFPS(一人称視点シューティング)ジャンルの礎を築き上げた、ベセスダ・ソフトワークス傘下のデベロッパー・id Softwareのプライベートイベント。開幕初日には、id Softwareの名クリエイターである、ジョン・カーマック氏が基調講演を行った。北米での発売も間近に迫ったid Softwareの最新作『Rage』を中心とした内容で、会場にプレイヤブル出展されていることを受けて「6年かけて作った『Rage』をプレイしてもらえるのはとてもうれしい。id Softwareが作った中でもっとも楽しめるゲームだと自負している」と語った。

 本作では、これまでid Softwareが弱かったキャラクター設定や物語性などを強化しており、「これまではステレオタイプなゲームを作ってきたが、『Rage』は野心をもって作った」と説明。「6年もかかってしまったのは野心がありすぎたかも(笑)」と自虐を交えつつも、「しかし時間をかけただけの成果はあるし、よくできたと思う」と自信を見せた。

 id Softwareのタイトルといえば、『DOOM』や『QUAKE』シリーズなど、マルチプレイ対戦を軸に大ヒットしてきた印象が強いが、「自分は継続して8時間デスマッチをプレイできるタイプではない」とするカーマック氏。緊張感ある戦闘と世界を探索する楽しみのバランスが取れており、プレイヤーなりに楽しむことができると語っていた。

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 若き日より天才的なプログラマーとして知られる同氏は、そのままディープな開発話に突入。「Blu-rayはDVD-Romよりもレイテンシー(遅れ)がある」と語る一方で「2層のBlu-rayディスクを最大まで使ってみたかったが、その場合どうなったかは不明だ」と語ったほか、「PCではメモリーが多ければオーケーということでも、コンソール(家庭用ゲーム機)では苦労した。中でも、プレイステーション3はXbox 360より使用可能なメモリが少ない」、「(ゲーミング)PCは家庭用ゲーム機に対して10倍のスピードがあるが、ゲームとハードウェアの間に関与するレイヤーが多すぎるのが問題だ」といった、技術者ならではの見解を示した。

 巨大なテクスチャーを使って、広大なスペースをリアルに描ききる“メガテクスチャー”技術を使っている本作だが、PCでの開発段階では4000ピクセル×4000ピクセルのメガテクスチャーで作業を進めていたものの、やがて密度が濃いシーンでは不足することがわかってきたという。Xbox 360では8000ピクセル×8000ピクセルをサポートするようにできたのだが、一方プレイステーション3ではメモリーが不足して難しかったため、3タイプのイメージを制作することで対応したのだとか。なお、ゲームは秒間60フレームの描画の実現を目指しており、爆発などのエフェクトの影響でまれにフレームレートが落ちてしまう点については、まだ調整していくとのこと。

 話はデバッグについても及ぶ。開発チームがプログラミングしたコードをマイクロソフトが提供しているツールで分析しており、Xbox 360向けの開発ではこのツールを必ず使うべきとのこと。自身でも間違いを記録していくことで、ミスにパターンがあることが見えてきたという。id Softwareは20周年を迎えた今年、ジョン・カーマック氏は40歳にしてプログラミング歴26年となる。これまでを振り返り、「昔が懐かしいかと聞かれることが多いが、楽しい思い出はたくさんあるものの、『Rage』はベストなゲームになったし、自分も(過去よりも)より良いプログラマーになったと思う」と述べ、今後についても「よりアグレッシブなことをより短時間にやる」ことを目標とし、『Rage』以降、2タイトルについては『Rage』同様のプロセスで開発していきたいと意欲を見せた。 (取材、写真:スオミ松崎、構成:編集部)