『美味しんぼ』といえば、雁屋哲氏、花咲アキラ氏が手掛ける、究極で至高のグルメマンガ。東西新聞社に務める主人公の山岡士郎とその同僚の栗田ゆう子が、地球上のさまざまなグルメを集めた“究極のメニュー”の完成に取り組む作品だ。
ストーリーでは、グルメを通じて人々の悩みを解決したりするヒューマンドラマも見どころ。また、士郎の父親で絶縁状態にあった海原雄山との確執や、究極のメニューに対抗して企画された“至高のメニュー”とのバトルも展開。ふだんはグータラだが、美食のこととなると真剣そのものになる士郎のギャップも魅力だ。
原作マンガ版は111巻までが発売されている。なんと今年で40周年!
『美味しんぼ』で検索 (Amazon.co.jp)なんちゅう企画を用意してくれたんや、なんちゅう企画を……
さて、読者の皆さんの「なぜいま『美味しんぼ』?」という疑問ももっともなところだと思う。なんといま、Youtubeの『美味しんぼ』公式チャンネルにて、アニメ版が一部を除き全話見放題となっているのだ。
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#美味しんぼ 公式チャンネル
#美味しんぼ再会祭 開催決定
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これまでご視聴いただいたファンのみなさまへ感謝を込めて…
7月は4週連続で特別映像やTVスペシャルのプレミア公開、さらに7月限定で『イッキ見!月刊 美味しんぼ』シリーズの全動画再公開を行います
詳しくはコメントから https://t.co/dtMtvXWIPR
— 美味しんぼ【公式】| YouTube配信中! (@oishinbo_ch)
2023-07-03 12:00:40
アニメ版『美味しんぼ』は、現在デジタルリマスター版が発売中。その販売促進の一環として、YouTubeチャンネルでは不定期にアニメのエピソードを無料公開している。
そして、2023年7月31日まで全121話がいつでも好きなだけ視聴可能! あの食いしん坊でおなじみの『ワールド』副編集長であるアーサー(究極の海苔巻きを食べた人)もお腹いっぱいになるボリュームとなっているのだ。
そこで、『美味しんぼ』はマンガ版を全巻所持するほどのフリークである筆者が、アニメ版の中でとくにおすすめしたいエピソードを、頼まれてもいないのに勝手にご紹介! 本稿では筆者がとくにおすすめしたい5話のみを紹介するが、そのほかのエピソードもどれも魅力的で、まさに“覇権”と呼ぶにふさわしい内容になっている。
作業用BGMにするもよし、大画面でじっくりと視聴するもよし。士郎とゆう子の心情を描いたテーマソング『Dang Dang 気になる』のイントロ(テッテレッテ! のところ)が頭から離れなくなるまで、ぜひ『美味しんぼ』を楽しんでいただきたい。
名作エピソードがシャッキリポンと、舌の上で踊るわ!
第1話 究極のメニュー
記念すべき第1話。東西新聞社の社主である大原太蔵は、“究極のメニュー”の企画の担当者を選ぶために社員全員にあるテストを受けさせる。そのテストとは、3つの水と豆腐を食べ分け、どこから持ってきたものなのかを当てるというとんでもないものだった。
昼食の時間に料亭まで足を運ばせておいて食べさせるのが水と豆腐だけなんて、暴動が起きても文句は言えないかもしれないが……。まあいい。
見事試験を突破した士郎とゆう子は、究極のメニューの制作者に抜擢される。その仕事の一環として名だたる美食家たちとの会食の場に招待されるが、そこでも一波乱。美食家たちがおすすめする料理に対して、「滑稽だね」と一蹴する。キレッキレの尖ったナイフのような『美味しんぼ』初期の士郎の為せる技だ。
そして、士郎は美食家たちを黙らせるため、「1週間後にまた来てください」(これも名台詞)と言ってフォアグラよりも美味いアンコウのキモを用意するといった内容になっている。(ちなみに、ファミリーコンピュータ用ソフト『美味しんぼ 究極のメニュー三本勝負』でおなじみの「アンキモ! アンキモ! アンキモ!」もこのエピソードがもとになっている)。
士郎のグータラさと食の鋭敏な感覚、自称美食家を実力で叩き潰す爽快な展開など、『美味しんぼ』の魅力のすべて詰まったエピソードになっている。これを観ずには『美味しんぼ』を語れないと言っても過言ではないので、まずはここからご覧あれ。
第2話 士郎対父・雄山
1話とともに必ず観ていただきたいエピソードがこちら。2話にして士郎の最大のライバルである海原雄山とのバトルが展開する。海原雄山は士郎の実の父親なのだが、病死してしまった母親が雄山に酷い扱いを受けていたことで心に傷を負った士郎は、母親の死後、雄山と絶縁状態となっていた。
海原雄山は、烈海王、ルイズ・フランソワーズと並び、3大ツンデレに挙げられるほどの至高のツンデレ人間。話が進むに連れ心の底では士郎を認めるようになるが素直になれない性格のため、再会後も士郎に対して冷たい態度を取ってしまう。「もう士郎は息子ではない」と言うが、そうであるならそもそも東西新聞社に確認に来ないはず。こういった一面からも雄山のツンデレさがうかがえるようだ。
士郎の元気な姿を見て雄山は発奮。天ぷら料理対決で士郎とイチャイチャすることになる。その勝負は、自分で天ぷらを揚げるのではなく、美味い天ぷらを揚げるであろう料理人を事前に選び、どちらの料理人が本当に優れた料理人なのかを決めるというもの。ハードルが高い。
士郎はその人の体調や天ぷらの衣を作る手際で料理人を選ぶ。しかし雄山は事前に持ってきた天ぷらを揚げる音が収録されたカセットテープを持ち込むというちょっとズルい手段をもちいて料理人を選び、見事士郎を下した。なんだそのテクニックは。
しかし、雄山の指示とはいえ、何十人もの天ぷら職人をその日のうちに同じ場所に集められる東西新聞社はどうなっているんだろうか。こんなことをして何もしないで帰されたら、いまならSNSで炎上必至だろう。
第20話 板前の条件
おそらく『美味しんぼ』でもっとも有名なセリフである「このあらいを作ったのは誰だ!」が飛び出すのが、この『板前の条件』のエピソードだ。
士郎のよき右上の天才料理人・岡星精一の弟である良三が初登場する話でもある。良三は精一譲りの優れた料理の腕を持っているが、気弱な性格から実力を発揮できず……という前置きはもはやどうでもよく、ただただ、雄山の「このあらいを作ったのは誰だ!」というセリフにこのエピソードの魅力は集約されている。
ここまで雄山を怒らせたのは良三のせいではあるのだが、はっきり言って怒りすぎである。食べ物を粗末にするな。
その後、雄山を怒らせた原因が判明し、雄山を唸らせる料理を良三が作るのだが、そのときも「この料理を作ったのは誰だ!」と言って調理場を訪れる。いやいや、美味くても突撃すんのかい!
さらに、料理の味付に使われている材料を必死に予想する雄山。そして、「桑の実だ!」というセリフをくわっとした表情でアンサーする雄山。いままで食べたことのない料理に、大興奮な雄山。このシーンでご飯が3杯はいける。
ちょっとした香り付けのために使われていた材料を当てる雄山すごいなと思うが、桑の実の味がまったく想像できないのが悔しいところ。味わったことがある人はどんな味なのか教えてください。
また、良三の背後で士郎が暗躍していたことがラストシーンでバレるのだが、その事実に怒るでもなく大笑いした雄山の姿も見どころ。自分を唸らせる料理を作ってきた士郎の成長を喜んでいるのだろう。ツンデレである。
ちなみに、“あらい”とは、刺し身を氷水に入れ、冷やして食べる技法のこと。余計な油などが洗い流されてさっぱりと食べられるが、刺し身をさばく腕が悪いと氷水の中に旨味が抜け出してしまうという高度な技法らしい。なお筆者は食べたことがない。
第47話 キムチの精神
『美味しんぼ』に登場するキャラクターはいずれも破天荒な性格の持ち主が多いが、なかでも群を抜いて個性的なのが、富井副部長だ。
彼は『美味しんぼ』の唯一の良心ともいえる谷村部長の部下で、彼がフィーチャーされるととにかくトラブルが発生する。それが会社に大打撃を与えることもあり、絶望した富井副部長がマジ泣きしたあと、なんやかんやあって士郎が解決してくれるというのが、富井副部長が登場する回の通例となっている。
トラブルメーカーで性格も悪いがどこか憎めない。それが富井副部長なのだが、そんな彼の魅力のフルコースを味わえるのが、この『キムチの精神』だ。
まず、初っ端からやらかす。会食の場で酒は飲むわタバコは吸うわ相手の社名は間違えるわで、接待相手はカンカン。なぜ怒らせてしまったのかもわからないほどだったが、そこは士郎が解説してくれる。それは文化の違いからくるものだったのだが、それを知っている士郎は本当に博識である。仕事に活かせ。
そして士郎の知恵を借り、美味しいキムチをごちそうする。自分の誠意を相手にわかってもらうことに成功した富井副部長は、なんとか接待を成功させることができた……というのがあらすじだ。
アニメ版では富井副部長がメインのエピソードは少ないが、マンガ版では富井副部長のやらかしエピソードが多数収録されている。何度もクビになりかけているのだが、そのたびに士郎になんとかしてもらっているのがお約束だ。富井副部長的には士郎にもっとやさしく接してあげてもバチは当たらないだろうに……命の恩人だぞ。
第65話 究極のメニューVS至高のメニュー & 第66話 究極VS至高 黄身の実力
『美味しんぼ』のストーリーのひとつの山場を迎えたエピソード。東西新聞社が始めた究極のエピソードに対抗して、海原雄山率いる帝都新聞社が至高のメニューを立ち上げ、いよいよ究極対至高のバトルがスタートする。このエピソードは2話連続の続き物になっており、見ごたえも抜群だ。
究極対至高のバトル1戦目は、なんと士郎たち究極側が敗北する。しかし、海原雄山の師であり士郎の祖父のような存在である唐山陶人の助力があり、首の皮一枚つながった状態で再戦。2戦目は見事究極側が勝利を納め、1対1の引き分けに持っていくというバトルマンガ顔負けの激アツ展開が楽しめるのがこのエピソードだ。
バトル展開に目がいきやすいが、本当の見どころは海原雄山の心境にある。そもそも海原雄山が至高のメニューを始めたのも、恐らく士郎を鍛えるためであると想像することもできる(ストーリーでは明確に表現はされていない)。
さらに、1戦目で至高のメニュー側が勝利した時点で勝負を終えられたのに、雄山は再戦を承知した。これにはじつの息子に対する愛情が見え隠れしていると筆者は考察している。
現実に、原作マンガ版では、雄山が間接的に士郎にアドバイスや手助けをするエピソードも多数描かれている。絶縁したと言ってはいるが、士郎に対する愛は失ってはいない。海原雄山が至高のツンデレだと言われるゆえんが垣間見れる貴重な回となっているのだ。
また、第65話冒頭では、士郎やゆう子は究極のメニューを完成させられなかった責任を取って会社を辞めると言った。しかし大原社主は、「責任の取りかたを教えてやる。それは至高のメニューに勝つことだ」と退職を受理しなかった。わりと小物なイメージのする大原社主だが、この器の大きさには「タイのタイで2倍おめでとうございます」と言いたくなるほどだ。
ああBlu-ray。正義の味方Blu-rayと
人生100年時代とも言われる現代。学業や仕事に追われる毎日だが、ふと「ああ、『美味しんぼ』観てぇ」となる人もいることだろう。いるよね?
最初にもお伝えしたが、今回YouTubeでの無料公開は期間限定となっている。そのため、あのエピソードが観たいと思っても、公開が終了して悲しみを背負う人も多いことと思う。そこで、いつでも好きなときに好きなエピソードを観たい! という人は 現在発売中のデジタルリマスター版Blu-ray&DVDを購入しよう。
収録されているのはデジタルリマスター版なので、大画面で士郎がヤンキーにボコボコにされるシーンをいつでも観ることが可能だ。
また、アニメ版『美味しんぼ』は全136話が制作されているが、YouTubeに公開されているのは、全121話となっている。そう、YouTubeには公開されていないエピソードが存在するのだ。
それら未公開のエピソードも、Blu-ray&DVD版にはバッチリ収録! すべてのエピソードを観なければ『美味しんぼ』フリークは語れない。気になる人は、ぜひ購入を検討してほしい。
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アニメ版では、原作の27巻目にあたる『究極の披露宴』のエピソードまでを描いているが、アニメ版を観て気に入ったという人は、ぜひ原作マンガ版も見ていただきたいと筆者は切に願う。
ストーリー序盤では犬猿を超える絶縁状態となっていた士郎と雄山だが、じつは原作マンガ版ではすでに完全に和解を果たしている。なんなら、111巻では士郎は雄山のことを「父さん」と呼んでいる。
長年に渡っていがみ合っていたふたりの関係が修復される様子には、ふたりをいちばん近くで見ていた唐山陶人や京極万太郎(京都の億万長者)のように涙を禁じえない。
ストーリーとしては、76巻で海原雄山が交通事故に遭ってしまい、雄山の代わりに士郎が美食倶楽部(雄山が運営する会員制の料亭)の陣頭指揮を取るエピソードが転機となっている。
床に伏せている雄山のことを「おやじ」と呼び、士郎のひと声が聞こえたのか、その後目を覚ますシーンには、四万十川の鮎を食べた京極万太郎のように感涙を禁じえないだろう。
そのほか、士郎とゆう子の恋愛模様や、子どもが産まれたあとの育児エピソードなど、グルメ以外にも見どころが満載の『美味しんぼ』。途中の巻だけ呼んでも十分に楽しめるので、上記で語った76巻と111巻が気になる人は、ぜひチェックしていただきたいところだ。
『美味しんぼ』で検索 (Amazon.co.jp)そして料亭に行ったら迷惑にならない程度にこう言っていただきたい。
女将を呼べッ!!