2023年6月29日に6周年を迎えた『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』(以下、『ミリシタ』)。それを記念して、『アイドルマスター ミリオンライブ!』(以下、『ミリオンライブ!』)のプロデューサーを務める狭間和歌子氏に、この1年の振り返りや今後の展開について語っていただいた。

※本インタビューは2023年5月下旬に実施しました。
※本インタビューは2023年6月15日発売の週刊ファミ通(2023年6月29日号 No.1802)に掲載したものに加筆、修正を行ったものです。

狭間 和歌子氏(はざま わかこ)

バンダイナムコエンターテインメント所属。『ミリオンライブ!』プロデューサー。

クリエイティブの力で想像を超える驚きを提供する

――『ミリシタ』6周年おめでとうございます。この1年を振り返っていかがでしたか?

狭間『ミリシタ』を6年間支えてきてくださったプロデューサーさん、本当にありがとうございます。まずはゲームの展開を振り返ると、5周年は“MILLION THEATER SEASON(MTS)プロジェクト”をまたぐ形で迎えました。ちょうど4つ目のシーズン“SHADE OF SPADE”の巡業を開始したタイミングでしたね。4つ目のシーズンだったため、いい意味でそれからの展開が予想できたのではと思います。

 一方で5周年の“個”を際立たせる楽曲や、クールな衣装のイメージもあり、皆さんに意外性や驚きを味わっていただけたと感じています。クリエイティブの力で想像を超える驚きを提供するのは、『ミリオンライブ!』らしい“つねに斜め上を行く”戦略だと考えています。

――そして(2022年)10月にはシーズンファイナルの発表がありました。

狭間じつはMTSは企画当初、首都圏を対象外としていました。しかし、プロデューサーさんたちの声や、ブランドとして『ミリオンライブ!』10周年を刻む(2023年)2月を最高に盛り上げることを考えていく中で、首都圏でファイナルを行おうという気運も高まっていきました。

 そんなある日、バンダイナムコスタジオ(以下、BNS)『ミリシタ』企画・開発プロデューサーの柿沢高弘さんと10周年で披露する新楽曲についてミーティングをした際に、シーズンファイナルの構想を語ってくれたのです。

――最初から予定されていたものではなかったのですね。

狭間「開催する」と言うだけなら簡単ですが、4つの季節を越えたファイナルはどんなテーマで開催するのがふさわしいのか、私自身イメージできていませんでした。そこで「朝~昼~夕方~夜という時間の経過をテーマにしたい」という構想を聞いて、思わず「なるほど!」と膝を打ったことを覚えています。それがあって、10周年楽曲も「プロデューサーさんとの10年や楽曲の変化を感じさせられるものにしたい」と考えるにいたったのです。

――そして11月から年明け2月にかけて4公演が行われることになりました。

狭間ゲームで武道館へと向けて盛り上がっていく中、現実でも(2023年)1月に9thライブを武道館で開催しました。こうしてつねにゲームとリアルが重なりあっていく展開は、まさに『アイドルマスター』シリーズの真骨頂だと思っています。

『ミリシタ』6周年記念! 狭間和歌子プロデューサーインタビュー。“夢”に向かって羽ばたく7年目を語る
『ミリシタ』6周年記念! 狭間和歌子プロデューサーインタビュー。“夢”に向かって羽ばたく7年目を語る
『ミリシタ』6周年記念! 狭間和歌子プロデューサーインタビュー。“夢”に向かって羽ばたく7年目を語る
『ミリシタ』6周年記念! 狭間和歌子プロデューサーインタビュー。“夢”に向かって羽ばたく7年目を語る

――さらに、続く2月には『ミリオンライブ!』プロジェクトが10周年を迎えました。

狭間これまで、ゲームの中では『ミリシタ』の周年企画に全力を注いできていたのですが、10周年という節目の年に『ミリオンライブ!』のブランドそのものをゲーム中でも盛り上げられたのは、本当にうれしかったです。その後は『ミリシタ』6周年やその後の展開に向けての仕込みをしたりして、現在にいたるという感じですね。

――MTSプロジェクトで得たものや、今後の課題があれば教えてください。

狭間ゲームとしては、柿沢さんからコメントを預かっているので紹介させてください。

柿沢 MTSは、アイドルたちが劇場を飛び出して日本各地へ、われわれ開発チームもアプリを飛び出して配信イベントと連動したりするなど、“想いを届ける”ための新しい試みにチャレンジした、思い出深いシリーズです。プロデューサーさんの心に残る楽曲やストーリー、配信ラジオ、ライブなど、想いが届いていたらうれしいです。

個々のユニットではなく、13人のチームだったり、異なるイベントテーマや形式、“ミリシタMRエンジン”の活用など、これまでのユニット制2シリーズ(MTG、MTW)(※1)を展開する中で温めていた新しいアイデアをいくつも導入しました。その結果、開発への労力が増大し、スート(※2)が代わるたびに、改善改良や調整などシーズン中にもかかわらず毎回改修を行うことになり、準備不足でご心配、ご迷惑をおかけしました。

狭間もう一方で、イベントチームや、スタジオの開発メンバーといっしょにアイデアを出し合い実施した、ゲーム内イベントの展開を軸にイベント楽曲を披露していくオンラインイベント“シーズンエアー”、各チームのアイドルがお仕事としてチャレンジするラジオ“シーズンラジオ”といったメディアミックス展開も実施しました。

 とくにシーズンエアーでは、ゲーム内の実装とほぼ並行タイミングで、その楽曲をライブで披露することに挑戦しています。「ゲームで楽しんだステージを1日でも早くリアルでも見たい」というプロデューサーの声にお応えできたのは、キャストの皆さんはもちろん、ライブチームの皆さんの協力のおかげでもあります。

 ただ、ゲームの世界観に沿った体験をリアルでも再現できた反面、ある程度セットリストが予想できてしまうという問題もありました。世界観を再現するだけでなく、その中で意外性や驚きをどう提供するかは今後の課題ですね。

――2023年1月からは、新たな投票企画“MILLION C@STING!!!”が始まりました。こちらのコンセプトについても教えていただけますか。

狭間こちらについては、BNSの柿沢さんとコンテンツディレクター、『ミリシタ』ゲームデザインディレクター(コンテンツ)の東義人さんからのコメントを紹介させてください。

柿沢 過去に開催した“THE@TER BOOST!”、“THE@TER CHALLENGE!!”の企画を通じて得たプロデューサーさんのご意見などをもとに、よりよいプロデュースができるように新たにシステムを構築しました。まだまだ至らない点もあるとは思いますが、プロデューサーさんに担当アイドルの新たな可能性を発見してもらったり、プロデュース活動を通じて知ったアイドルに魅力を感じてもらったりしていただけるとうれしいです。

 題材については、シナリオチームで30~40個ほどアイデアを出したうえで、いままでのいろいろな劇中劇テーマとの兼ね合いも踏まえつつ、プロデューサーさんが内容をイメージしやすく、アイドルが登場人物をどう演じるかの想像を膨らませてもらえそうなテーマを投票の候補に選びました。

開発スタッフ皆で吟味しながらの機能追加

――ゲームでは、技術面でもライブでの“陰の効果”やグラビアスタジオの実写背景モードのライト調整機能などの実装が行われていました。これらの機能実装で、技術的に工夫したところや苦労したところはありましたか?

狭間こちらもBNSより柿沢さんと『ミリシタ』リードエンジニアの佐々木直哉さんからコメントを預かっております。

柿沢 陰の効果の実装には、『ミリシタ』の魅力でもある“大量の衣装データ”への対応が大きな課題となりました。

佐々木 とにかく衣装の数が多いため、モデルの形状から自動的に陰になる部分を割り出し付加情報を生成する機構を作りましたが、やはり人の目でチェックしていくとそれでは足らず、けっきょく 1着1着手作業で調整し直すことになったのです。

柿沢 そのため、発表から長らくお待たせすることになってしまいました。それでも、担当スタッフのがんばりもあって、いよいよ“光と陰”を皆さまのお手元にお届けすることができてうれしく思っています。また、今後も月1回程度のデータ更新による最新衣装の対応を予定していますので、よろしくお願いします。

狭間さまざまな作業と並行して開発を進めてこられた苦労を知っているので、こうしてお披露目できたことは、とても感無量でした。

『ミリシタ』6周年記念! 狭間和歌子プロデューサーインタビュー。“夢”に向かって羽ばたく7年目を語る
『ミリシタ』6周年記念! 狭間和歌子プロデューサーインタビュー。“夢”に向かって羽ばたく7年目を語る

柿沢 もうひとつのグラビアスタジオは、もともと徐々にバージョンアップしていく計画がありました。実写背景モードの実装も、その一環ですね。プロデューサーさんの創意工夫が溢れるお写真やご意見など、いつも開発の参考にさせていただいています。

佐々木 実写背景機能ができて以来、プロデューサーの皆さまにはたくさんのすてきなアイドルの写真を撮っていただきました。夕焼けや夜の街、そして真夏の海岸などでもよりアイドルが“そこにいる”ように感じてもらうため、背景になじむようアイドルに当てるライトを調整できるようにしました。

 また、開発スタッフ皆で吟味しながら、小さなスマホでもできるだけ細かい調整が素早くできるように UI も工夫し、すぐに呼び出せるプリセットボタンも用意しました。プリセットボタンの数、大きさ、配置、そしてひとつひとつの設定が実用的な色や方向になるようになっていると思います。ぜひアイドルが引き立つライトを当てて、これからもたくさん写真を撮ってあげてください。

――入場演出時の設定機能や、ログインボーナス時のアイドル、事務員選択機能など、細かい機能も随時追加されています。こういった機能改善について、優先順位のつけかたや今後着手していきたい要素があれば教えてください。

狭間日頃からプロデューサーさんのお声を聞いて、どの機能を改善していくかなどの細かい優先付けを行っています。こちらも柿沢さんからコメントを預かっております。

柿沢 プロデューサーさんのご意見、ご要望はもちろんですが、ふだんから「こうしたらプロデューサーさんがよろこんでくれるかもしれない」など、さまざまな実装アイデアをストックしています。それらのアイデアを、タイミングを計りながら開発の隙間を縫ってスタッフが実現してくれています。

 “新しい機能を伴った劇場の新たな部屋”、“未読コミュの中から好みにあったコミュを見つける機能”、“レッスンや結果画面のオート進行”、“覚醒前カードの表示を選択できる機能”など、着手したいストックアイデアは多々あるのですが、開発リソースが足りずなかなか着手できていません。それらを気長にお待ちいただきつつ、今後もご意見、ご要望をお寄せいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。

アイドルたちの魅力をさらに広めるための新規イベントや配信

――一方、2023年に入って、9thライブ、10thライブツアーが続けて開催されています。これほどの規模のイベントを連続で開催するのは、かなりたいへんではないですか?

狭間バンダイナムコエンターテインメント(BNE)では、第3IP事業ディビジョンという事業部内に『アイドルマスター』IPを担う部署が集約されています。その中にライブイベントチームがあって、各担当を中心にライブはもちろんのこと、ライブ会場での施策やグッズ展開などすべてを考えてくれています。

 とくにライブ開催にあたってもっともたいへんなのは会場の確保です。収容人数や設備など、私たちが希望する場所(施設)を、希望するタイミングで押さえようと考えても、競争率も高くなかなか思うようにできるわけではありません。そんな中でも、ひとりでも多くのプロデューサーさんにライブを楽しんでいただけるように四苦八苦して会場を確保してくれていることを、ライブイベントチームには感謝しています。

 私自身は『ミリオンライブ!』10周年構想の中で「10周年は絶対に“ツアー”をして、ひとりでも多くのプロデューサーに会いにいきたい」という強い思いがありました。そしてその思いを『ミリオンライブ!』のライブ担当をしてくれている脇田くん(BNE)が組み込んでくれて、今回の10thライブツアーの企画をまとめてくれたというわけです。

――10thライブツアーはまだまだ続きますが、プロデューサーさんたちに伝えておきたいことはありますか?

狭間Act-1は1st~4thの振り返り公演で、続くAct-2は5th~9thに焦点を当てた公演となります。Act-2を通じて、4thと5thのあいだで『ミリオンライブ!』に起こった変化(『ミリシタ』のサービス開始、紬&歌織が加入など)を感じてもらえるとうれしいです。また『ミリオンライブ!』のナンバリングライブとしては、名古屋での公演が3rdライブツアー以来となるので、名古屋のプロデューサーさんに会いに行けるのも楽しみにしております。

――7月1日、2日には“765 MILLIONSTARS LIVE2023 Dreamin' Groove”が開催されます。こちらはどんな内容なのでしょうか?

狭間以前“MR(Mixed Reality=複合現実)”を掲げて、DMM VR THEATER で765PRO ALLSTARSのアイドルたちがライブイベントを行いました。当時とはいろいろな環境が変わってしまいましたが、またアイドルのみんなが現実の会場でライブを行える機会をなんとか作りたいと思い、今回は“765 MILLIONSTARS”として出演いただくことになりました。

 今回は、MRという表現は継承しつつも新たに発足した“MR(More Reality)プロジェクト”の一環として再構築したイベントとなっておりますので、当時の“MUSIC♪GROOVE”とはまた違ったアプローチでアイドルたちの魅力をお届けできたらなと考えております!

――さらに配信イベントでも、“ミリシタ夏祭り2022”や“5.5周年記念 ミリシタGO.GO!ホームパーティ生配信♪”など、どんどん新しい形、演出が生まれてきています。これらを生み出すために、新たなスタッフが起用されているのでしょうか?

狭間『ミリシタ』の生放送については、かつては、スタジオの開発メンバーと協力して、私が台本を書いていました。そこから代々社員が台本を書くことが文化になっていたりします(笑)。現在は、BNEの若手メンバーが、自分たちも楽しみながら生配信の台本を作成してくれています。

 じつは、アニメのスタッフが確定したときには脚本を担当していただいている加藤さんが台本を書いてくださった生配信もありました。キャストさんの雰囲気を参考にしたいと、わざわざ収録にもお越しくださっていましたね。

 また、近年は“未来研スタジオ”というBNEのオリジナルスタジオでの収録が多く、さまざまな映像演出も可能になったため、演出にもこだわりを持ってくれています。今回、実際に担当している高山(昌)と飯田が同席しているので、ふたりからのコメントも掲載させてください。

高山(昌) 配信番組を制作する際には、いつも打ち合わせの後、実際に自分たちでリハーサルをしてみて、きちんとプロデューサーさんに楽しんでもらえるものになっているかどうかを確認したり、改善や修正を行うようにしています。

 あとは配信ごとに、たとえば“ミリシタ夏祭り2022”ではプロデューサーさんが皆で参加できて、皆で楽しむというのがコンセプトなので、それを活かせるような構成にしたりだとか。議論を何時間も重ねながら、アイドルひとりひとりにフォーカスした52通りの見せかたを考えていました。

飯田 担当のプロデューサーさんたちもアピールしてほしいと思っているはずですからね。じつは、アイドルたちの出番の数などもリストアップしたりしていたんですよ。

 あとは、プロデューサーさんにとってはアイドルこそがいちばん大切な存在ですから、「これから自分たちがどういう風にプロデュースできるのだろう?」といったところを気にされていると思います。ですから私たちも、未来にもっと期待を持ってもらえるような企画や演出という形で、アイドルたちをより輝かせたい。その実現のためにはどうすればいいか、といつも考えています。

――MRもそうですし、新しい形のイベントや配信も続々と出てきていますが、既存のものだけでなくこうした新企画を積極的に進めているのには意図があるのでしょうか?

狭間アイドルの露出をもっと増やしたいな、という意図はあります。SNSを駆使したり、公式サイトをリニューアルしたのもそうですね、よく「公式がいちばん楽しんでいるのでは?」なんて声も聞こえてくるのですが、そこはおっしゃる通りだと思います(笑)。ただ、ボリュームがとんでもないので仕事としてはものすごくたいへんですね……。

 そんな中、先の高山と飯田が相談して配信の台本を作ってくれていたり、現場のスタッフががんばってくれています。

『ミリシタ』6周年記念! 狭間和歌子プロデューサーインタビュー。“夢”に向かって羽ばたく7年目を語る
『ミリシタ』6周年記念! 狭間和歌子プロデューサーインタビュー。“夢”に向かって羽ばたく7年目を語る

『ミリシタ』7年目のキーワードは“夢”

――さて、6月29日をもって『ミリシタ』もいよいよ7年目に突入するわけですが、今後の目標を表すキーワードがあれば教えてください。

狭間“夢”ですね。アイドルたちのそれぞれ好きなものがつながっていって、夢へとつながるというところを表現したいと考えています。今年は『ミリシタ』6周年であり、『ミリオンライブ!』10周年であり、さらにはアニメ公開も重なった奇跡のタイミング。ゲームの中でも、このコンテンツの盛り上がりをいっしょになって大きくしていければと考えています。それぞれの連動感を高めていきたいですね。

――劇場での先行上映、テレビでの放送開始が迫っていますが、アニメの現在の状況や期待してほしいポイントを教えてください。

狭間綿田(慎也)監督や白組さんにご協力いただき、8月公開に向けて予定通り順調に進行していますので、安心してください。

――最後に、プロデューサーさんたちへメッセージをお願いします。

狭間『ミリシタ』を6年間支えてくださって本当にありがとうございます。いつも私たちが新しいチャレンジができるのは、いつもプロデューサーさんがいっしょにいてくれるという安心感があるからです。『ミリオンライブ!』10周年はもちろんのこと、『ミリシタ』6周年は通過点です。プロデューサーさんといっしょに駆け抜けて、さらなる未来を切り拓いていきたいと思います。これからもプロデュースよろしくお願いいたします!