平成最後の12月17日は『幻想水滸伝II』20周年記念日!! オーケストラで『幻水II』が蘇った『MUSICエンジン 第六回演奏会』リポート【ファミ通コンサート】_17

 2018年8月に立ち上がった、ファミ通の音楽イベント企画“ファミ通コンサート”では、“ゲーム音楽演奏イベントの楽しさ”をお伝えするべく、開催されてきたさまざまなゲーム音楽コンサートのリポートをお届していきます! さっそくですが、今回ご紹介するのはゲーム音楽演奏団体“MUSICエンジン”による『幻想水滸伝II』の演奏会です。MUSICエンジンは、ヴァイオリン奏者の河合晃太氏が主宰を務めるゲーム音楽演奏団体で、“レトロゲームから最近のゲームまで、大好きなゲームタイトルの音楽をつきつめていく”というコンセプトで活動しています。

 今回で6回目となるMUSICエンジンの公演では、1998年にコナミ株式会社(現:株式会社コナミデジタルエンタテインメント)から発売されたプレイステーション用RPG『幻想水滸伝II』の楽曲が演奏されました。主人公の少年とその幼なじみ“ジョウイ”、主人公の義姉“ナナミ”を中心にした物語が描かれたこの作品では、総勢108人にもおよぶ個性豊かなキャラクターたちを仲間にできることが大きな特徴で、発売から20年の節目を迎える現在でも根強い人気を誇っています。先日もゲーム音楽演奏団体JAGMOなど、数々のゲーム音楽コンサートで演奏されるほど音楽も魅力的な作品です。

 ちなみに、今年4月に開催された『MUSICエンジン 第四回演奏会』でも同様に『幻想水滸伝II』の楽曲が演奏されましたが、今回は、フルオーケストラやパイプオルガン、そしてコーラスも加わったことでさらなるパワーアップを遂げた編成になり、より豪華な演奏が実現しました。

 MUSICエンジンの演奏会の大きな特徴は、“物語を追った構成”になっていることです。本演奏会では、『幻想水滸伝II』の物語を、街やフィールドの楽曲、戦争シーンや宿敵との決戦などの印象的なイベントで辿る構成で追いながら、50曲以上の楽曲が披露されました。演奏会の前半ではオープニングから、主人公が同盟軍に参加して本拠地を手に入れるまでの流れが演奏され、後半では宿敵との決戦やラストバトル、エンディングまでを演奏。……まさに『幻想水滸伝II』の物語を音楽で追体験できる内容でした。

 今回のリポートでは、本演奏会の模様を詳しくお届けいたします。なお、文中にはゲームの物語について多少触れている箇所があるので、未プレイの方はご注意ください。

―――――――――――――――――――――――――――――

『MUSICエンジン 第六回演奏会』プログラム

『幻想水滸伝II』より

M1 敵襲、疑惑、勝利への意欲、回想
M2 働かざる者食うべからず、平和山村人暮鳥声、郷愁、冒険の旅
M3 Beautiful Morning、母への祈り
M4 王者の行進、救出
M5 子供たちは野に遊び、あの丘に登ろう、不穏
M6 作戦、戦争、回想 ~ストリングスバージョン~
M7 彼方の星、過ぎた日々
M8 耳を澄ませば、静かなお部屋、ナハーラ・ヤン・クン
M9 パッサカリア合唱付き、フーガ『我があるじを讃えよ』、強敵出現
M10 彼女のため息、昔話
M11 なごみの時間、もっと遠くへ

間奏曲 Orizzonte、Dandy Richmond

M12 さざ波に運ばれて、2つの川、毎日がカーニバル
M13 囚われた街、誇り高きサラバンド、平和の賛歌
M14 光のない戦場(『幻想水滸外伝Vol.1 ハルモニアの剣士』より)、追いつめる、Mad Luka
M15 儀式、Gothic Neclord
M16 月夜のテーマ
M17 怒りの鉄拳、対決の時、銀狼
M18 回想 ~ストリングスバージョン~、Chant~あなたと出会い生をうけ、あなたを失い死を知った~、悲しみのレクイエム、なごみ BGM1、なごみ BGM2、エンディングマーチ~我らは常にいつならん(108人のその後)~Coda、La passione commuove la storia~情熱は歴史を動かす~

アンコール 回想、オープニングBGM
―――――――――――――――――――――――――――――

オープニングから物語に引き込まれてゆく構成

平成最後の12月17日は『幻想水滸伝II』20周年記念日!! オーケストラで『幻水II』が蘇った『MUSICエンジン 第六回演奏会』リポート【ファミ通コンサート】_01
ミューザ川崎シンフォニーホールは、『幻想水滸伝』シリーズファンの熱気に包まれた。

M01 敵襲~疑惑~勝利への意欲~回想

 開演時間を迎え、奏者の皆さんが登場。しん……と静まる中、まず聞こえてきたのは虫の鳴き声。穏やかな夜の時間を想起させる虫たちのざわめきがしばらく響いた後、ゲーム冒頭の敵の襲撃シーンで流れる『敵襲』がオーケストラで重々しく奏でられはじめ、場内は一気に緊迫感で包まれます。やがて金管やスネアドラムなどをメインに不穏な雰囲気で響く『疑惑』へと続き、通常戦闘曲『勝利への意欲』が勇ましく奏でられました。ここでは、オープニングイベントの駐屯地キャンプで敵が奇襲してくる流れが、演奏で再現されていました。虫の鳴き声の効果音をも巧みに使用して、開幕からほんの数分で観客を『幻想水滸伝II』の世界に引き込んでいきます。

 続いてピアノで静かに奏でられるのは、主人公がジョウイやナナミらと過ごした日々の様子とともに流れるオープニングクレジットの楽曲『回想』です。物哀しい音色が、ホール内にしっとりと響き渡り始めます。

平成最後の12月17日は『幻想水滸伝II』20周年記念日!! オーケストラで『幻水II』が蘇った『MUSICエンジン 第六回演奏会』リポート【ファミ通コンサート】_02
『回想』が、切なさに満ちたピアノで奏でられた。

 原曲のボーカルパートは、華やかな着物姿の民謡歌手・大塚千代美氏と大塚真紀子氏が登場し、情感たっぷりに歌いあげます。その後に入る繊細なピアノソロは、子どものころを想起させるような遠い郷愁を誘うもので、心をわしづかみにされるほどの美しさと切なさに満ちていました。

平成最後の12月17日は『幻想水滸伝II』20周年記念日!! オーケストラで『幻水II』が蘇った『MUSICエンジン 第六回演奏会』リポート【ファミ通コンサート】_03
大塚真紀子氏(左)と大塚千代美氏(右)が、『回想』を情感豊かに歌い上げた。

M2 働かざる者食うべからず~平和山村人暮鳥声~郷愁~冒険の旅

 つぎに演奏されたのは、前作『幻想水滸伝』にも登場した傭兵・ビクトールやフリックたちの砦の楽曲『働かざる者食うべからず』です。パーカッションやオーボエ、チェロなどで明るくリズミカルに奏でられたのち、リューベの村の楽曲『平和山村人暮鳥声』がフルートやピアノなどで穏やかに奏でられます。特に印象的だったのは、小鳥たちの元気なさえずりが、笛を使って再現されていたことです。目を閉じて聴いていると、本当に村にたたずんでいるかのような空気感が生まれていました。

 続いては、主人公たちの故郷であるキャロの街の楽曲『郷愁』が、“シャンシャン”という鈴の音色や、ピアノ、フルートなどでやさしく響いた後は、ゲーム前半のフィールドマップ楽曲『冒険の旅』が元気かつ勇壮に演奏されます。その勇ましい音色は、これからはじまる彼らの冒険を鼓舞するかのように、高らかに響いていました。

物語を丹念に紡ぐ構成が、前半から心を揺さぶる

M3 Beautiful Morning~母への祈り

 主人公とナナミが再会するシーンで流れる楽曲『Beautiful Morning』。ナナミの明るさを感じさせるようなこの曲は、やさしく明るいフルートを中心にして、ストリングスやパーカッションなどで爽やかな旋律が響き合うように演奏されていきました。つぎの『母への祈り』は、ゲーム中のとある哀しいイベントで流れる楽曲です。やさしい曲調から次第に悲しみの色を帯びたピアノとハープ、そしてか細い音で小さく鳴り響くトライアングルによる演奏へと移っていく演奏に。まるで、とある大切な人物との再会が叶わずに悲嘆に暮れるジョウイの、心が引き裂かれんばかりに痛切な心情を表すかのような音色で、聴いているこちらも思わず身体が震えたほどでした。

平成最後の12月17日は『幻想水滸伝II』20周年記念日!! オーケストラで『幻水II』が蘇った『MUSICエンジン 第六回演奏会』リポート【ファミ通コンサート】_04
爽やかで明るい音色の『Beautiful Morning』など、ゲームの物語を辿るかのような演奏が紡がれた。

M4 王者の行進~救出

 このメドレーでは、とある無実の罪で主人公とジョウイが処刑場に連行されるシーンと、捕らわれた主人公たちをビクトールとフリックが救出するシーンの演奏が披露されました。まずは『王者の行進』が、金管楽器やティンパニ、シンバルなどで不穏かつ重厚に響き、主人公たちが連行されてしまう様子を描きます。間髪入れずに奏でられた『救出』は、不穏な雰囲気から一転してアップテンポかつ勇ましい演奏に! 『救出』は前作『幻想水滸伝』のオープニングテーマ『幻想の世界へ』のフレーズが入っている楽曲です。爽快感の溢れる演奏もあいまって、ファンとしては思わずニヤリとしてしまうほど、たまらない演奏でした。

M5 子供たちは野に遊び~あの丘に登ろう~不穏

 続いてトトの村関連で流れる楽曲のメドレーに。まずはトトの村の楽曲『子供たちは野に遊び』と、シンセサイザーによるチェンバロ風の音色が優雅なミューズの楽曲『あの丘に登ろう』の2曲の後、トトの村で発生する悲劇のシーンで流れる楽曲『不穏』が演奏されます。『子供たちは野に遊び』ではヴァイオリン奏者の皆さんが楽器をギターのように持って弦をかき鳴らす明るい演奏だったのに対し、『不穏』は重々しいストリングスやティンパニなどで響き、どんよりと暗い雰囲気。巧みな表現力をもった演奏で、トトの村での悲劇が表現されていました。

平成最後の12月17日は『幻想水滸伝II』20周年記念日!! オーケストラで『幻水II』が蘇った『MUSICエンジン 第六回演奏会』リポート【ファミ通コンサート】_18
シンセサイザーによるチェンバロの音色が優雅なアクセントを加える。

M6 作戦~戦争~回想 (ストリングスバージョン)

 やがて主人公たちは、暴虐の限りを尽くす冷酷なるハイランド王国の皇子、ルカ・ブライト率いる王国軍に立ち向かうため、同盟軍に参加して戦うことになります。このメドレーでは、主人公たちがはじめて大人数の戦いに参加するイベントを再現する構成のメドレーが奏でられました。まずは戦争前の作戦会議シーンで流れる『作戦』がゆっくりと勇ましく響いたあとは、戦争シーンで流れる楽曲『戦争』が、高らかに響く金管楽器をメインに、火花を散らすかのような迫力重厚かつ迫力に満ちたオーケストラで披露されます。やがて演奏はだんだん影を帯びてゆき、感情を直接揺さぶるようなストリングスの哀愁漂う音色による『回想~ストリングスバージョン~』に。この楽曲は、とある少女がルカの残虐な行為を目のあたりにしたショックで身体に異変をきたしてしまうシーンで流れるものです。重厚かつ迫力に満ちたオーケストラで披露。激しい戦争や、それによって穏やかな日常を奪われてしまう少女の悲劇が演奏で描かれていました。

M7 彼方の星~過ぎた日々

 このメドレーでは、とあるほこらで、身体に宿すことで力を得られる“紋章”が授けられるシーンが演奏されました。まずは、主人公とジョウイに紋章を授ける人物レックナートが登場するシーンで流れる『彼方の星』です。紋章が持つ神秘性を感じさせる美しい旋律を、ストリングスが切々と歌い上げていきます。特筆すべき点として、原曲に入っていた“キューン……”という流れ星のような音もヴァイオリンで演奏されており、楽曲の持つ華麗さが豊かに表現されていました。つぎに、主人公とジョウイが過去を追憶するシーンで流れる『過ぎた日々』がピアノとヴァイオリンソロで演奏されます。ほのかに光る灯りのように繊細かつやさしい演奏は、ふたりが過ごしてきた大切な時間を表現するかのように響いていました。

平成最後の12月17日は『幻想水滸伝II』20周年記念日!! オーケストラで『幻水II』が蘇った『MUSICエンジン 第六回演奏会』リポート【ファミ通コンサート】_06
ヴァイオリンの独奏を披露する河合氏。

M8 耳を澄ませば~静かなお部屋~ナハーラ・ヤン・クン

 主人公の宿命を感じる演奏に続き、ここからはゲーム中に訪れる街の楽曲が続けて演奏されました。フルートをメインにゆったり響いた『耳を澄ませば』、シンセサイザーによるチェンバロの音色で優雅に奏でられた『静かなお部屋』に続いて演奏されたのは、サウスウインドゥの街の楽曲『ナハーラ・ヤン・クン』です。リズミカルなパーカッションが楽しげに響くこの楽曲では、コンサートマスターの河合氏が立ち上がってヴァイオリンの独奏を披露。また、ほかの奏者はリズミカルな手拍子でそれをサポートします。途中からはテンポアップして、さらに楽しげな演奏になっていきました。

M9 パッサカリア合唱付き~フーガ『我があるじを讃えよ』~強敵出現

 ここからは、ビクトールの故郷・ノースウインドゥでの戦いのメドレーです。オルガン奏者の石丸由佳氏と15名ほどのコーラス隊が登場し、パイプオルガンとコーラスによる『パッサカリア合唱付き』が演奏されます。圧倒的に荘厳な響きがもたらす迫力は、思わず息を呑むほどでした。つぎのフーガ『我があるじを讃えよ』では、パイプオルガンのソロによる神聖な音色が場内を支配。最後の『強敵出現』では、ボスとの激しい戦いがアップテンポかつ緊迫感に満ちた音色で描かれました。

平成最後の12月17日は『幻想水滸伝II』20周年記念日!! オーケストラで『幻水II』が蘇った『MUSICエンジン 第六回演奏会』リポート【ファミ通コンサート】_05
パイプオルガンとコーラスの荘厳な響きは、圧倒的な迫力。

M10 彼女のため息~昔話

 このメドレーでは、主人公とナナミの養父である人物“ゲンカク”の過去について語られる昔話イベントのシーンが演奏されました。まずはラダトの街の楽曲『彼女のため息』を、オーボエやフルート、ストリングスなどで美しく演奏。続いて『昔話』が、フルートやピアノ、ヴァイオリンソロによる柔らかな雰囲気の演奏で届けられます。『昔話』は先ほどから出てきている『回想』の旋律を含んだ美しい楽曲なのですが、それぞれの楽器から紡がれる音色がゆったり静かに織り重なるのがじつに情感豊かで、聴き惚れるほど見事でした。

M11 なごみの時間~もっと遠くへ

 ゲームでは、新たな同盟軍のリーダーとなった主人公は本拠地を作ることになります。そんな彼らの本拠地の楽曲である『なごみの時間』の演奏は、ピアノソロからストリングス、ヴァイオリンソロの流れでゆったりと穏やかな旋律が奏でられ、本拠地で過ごす彼らの穏やかなひとときが表現されました。続いて、物語後半のフィールドマップ楽曲『もっと遠くへ』が、壮大なオーケストラで勇壮に響きます。途中で入るティンパニの乱れ打ちがじつに勇ましく、さらなる冒険の旅へと向かう主人公たちを後押しするかのようで素敵でした。演奏が締めくくられると、大きな拍手が観客から贈られ、ここで前半が終了。休憩時間に入ります。

休憩中には、あの名探偵が登場!?

間奏曲 Orizzonte~Dandy Richmond

 休憩中には他楽団から贈られた祝電が紹介されたのですが、その際にはピアノとヴァイオリンで、前作『幻想水滸伝』のオープニングテーマ『幻想の世界へ』のアレンジ曲、『Orizzonte』が演奏されました。ロマンチックでやさしい音色が、休憩中のホールいっぱいに響きわたり、とても休憩どころではありません(笑)。こうした休憩中にちょっとした遊びがあるゲーム音楽演奏会は多く、楽しいところかも?

平成最後の12月17日は『幻想水滸伝II』20周年記念日!! オーケストラで『幻水II』が蘇った『MUSICエンジン 第六回演奏会』リポート【ファミ通コンサート】_07
ピアノとヴァイオリンで『Orizzonte』を披露。

 続いて、コーラス隊の皆さんが登場。リズムにのって、楽しそうに腕を振りながら指を鳴らしはじめます。「いったい何が始まるんだ……!?」と思ったつぎの瞬間、金管楽器やコントラバス奏者の皆さんらが登場し、演奏されはじめたのは、『Dandy Richmond』。“仕事をパーフェクトにこなす”ことを信条とするクールな名探偵、リッチモンドのテーマ曲です。何の楽曲なのかわかった観客からは笑いが生まれ、すぐさま手拍子が入ります。指を鳴らすコーラス隊に合わせて、コントラバス隊はゆったりと低音を響かせ、金管隊は艶やかでジャジーな音色を響かせる……。その姿はじつに格好良く、観客の目を奪います。軽妙でお洒落な演奏が締めくくられると、休憩中にもかかわらず、ホール内はひときわ大きな拍手と歓声に包まれたのでした。

平成最後の12月17日は『幻想水滸伝II』20周年記念日!! オーケストラで『幻水II』が蘇った『MUSICエンジン 第六回演奏会』リポート【ファミ通コンサート】_08
楽しそうに指を鳴らすコーラス隊。