約1年半ぶりとなる、第2回音楽祭

 2018年11月3日、神奈川県横浜みなとみらいホールにて“GAME SYMPHONY JAPAN 41st CONCERT ~PlayStation~を彩るJAPAN Studio 音楽祭2018”が行われた。

 このイベントは、ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ JAPAN Studio(以下、“Jスタ”)と、志村健一氏率いる“GAME SYMPHONY JAPAN(以下、“GSJ”)”がコラボレーションして開催する、オーケストラ演奏によるゲーム音楽コンサート。今回は2017年5月3日に続く2回目の開催となった。

 本記事では、このイベントの模様をダイジェストでお届けする。

レジェンドたちも参戦した興奮の3時間! オーケストラコンサート“Jスタ音楽祭2018”リポート_01
レジェンドたちも参戦した興奮の3時間! オーケストラコンサート“Jスタ音楽祭2018”リポート_02

豪華ゲストとの競演と新たな時代へ続く楽曲

 客席数約2000を数える(コーラス用の座席なども含む)、大規模なコンサートホールである横浜みなとみらいホールでは、17時の開場時には早くも行列が形成されていた。
 というのも、GSJのコンサートでは開演前に指揮を務める志村氏やゲストたちによる“プレトーク”が行われるのが通例となっているから。さらに物販コーナーも用意されているので、ファンは忙しい。

 この日は志村氏のほか、MCを務めるロシア人声優のジェーニャさん、Jスタ音楽祭プロデューサーである伴哲氏、『勇者のくせになまいきだ。』シリーズ作曲家の坂本英城氏、『ワイルドアームズ』シリーズ作曲家のなるけみちこ氏が登場。全3部構成のコンサートの内容について語ってくれた。

 2007年の第1作発売から約10年という月日に思いを馳せていた坂本氏。一方、なるけ氏はシリーズ最新作『ワイルドアームズ ミリオンメモリーズ』の最新情報や自身も深く関わる『Score Re;fire #1 WILDARMS Vocal Songs Concert』(2018年12月15日開催)の情報など、告知に余念がない。客席からも笑いが起きるなど、ピリッとした空気は感じさせず和やかな雰囲気でトークが弾んでいた。

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 そしていよいよコンサートがスタート。第一部は、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下“SIE”)を代表する名作RPG『アークザラッド』、『勇者のくせになまいきだ。』、『ワイルドアームズ』の各シリーズの楽曲が、豪華ゲストを招いて演奏された。

 まずは『アークザラッド』。同シリーズの音楽を手掛けた、日本を代表するインストゥルメンタル・バンド“T-SQUARE”のリーダー、安藤正容氏をゲストに迎えて演奏が行われた。サポートメンバーにはベースの田中晋吾氏ら、T-SQUAREファンにはおなじみのアーティストたちも参加。まさに、多様な音楽性が“フュージョン”した演奏となった。

 代表曲『アークザラッドのテーマ』を皮切りに、アーク、ククル、ポコ、トッシュ、ゴーゲン、チョンガラ、イーガのテーマ曲がメドレーで登場。続く『アークザラッド II』のエンディングテーマ『明日へ』では、安藤氏がエレキギターとアコースティックギターを持ち替えながら正確無比なテクニックを披露し、観客を驚嘆させていた。そして最後はシリーズ最新作『アークザラッド R』のテーマ曲『Starting~始動~』で締めくくられたが、「いきなりラスボス登場か!」と思わせるほどのパフォーマンスでコンサートがスタートすることとなった。

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 続く『勇者のくせになまいきだ。』には、楽曲担当の坂本氏が鍵盤ハーモニカで、リコーダー奏者の中村栄宏氏とともにゲスト参戦。ムスメ(声:小清水亜美)の軽妙すぎるトークとともに、シリーズ作品のストーリーを追うように演奏が展開した。

 ゲームのBGMと骨格は同じはずなのに、オーケストラ演奏となることで、なんだかゴージャスな印象に。鍵盤ハーモニカとリコーダーという素朴な音色も加わって、誰でも簡単に演奏できそうな親しみやすさもありながら、オーケストラならではの美しさも同時に感じさせてくれる、オーケストラコンサートの魅力がたっぷり詰まった演奏となった。

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 第一部最後のタイトルは『ワイルドアームズ』。前回公演、そして2018年3月の“GSJプレミアムコンサート”に引き続き、口笛師の早川章弘氏がゲストとして登場した。今回は、歴代シリーズ作品のバトル楽曲をメインに構成されており、早川氏による口笛もいつもより多め。多くの聴衆の心を震わせていた。

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 西部劇の世界観を取り入れた作品ということもあって、フィールドや街の楽曲ではアコースティックギターやパーカッションの音色が目立つ作品だが、バトルでは気分を高揚させる音色のホーンセクションが大活躍。同じタイトルでありながら、公演ごとに違った印象を抱かせるのは、さまざまな楽曲が詰め込まれたゲーム音楽ならではだろう。そしてラストは、ボーカルの暁月 凛氏が登場し、シリーズ最新作『ワイルドアームズ ミリオンメモリーズ』のオープニングテーマ『Million Memories』をフルコーラスで熱唱。美しく伸びやかな歌声を響かせていた。

 第二部までの休憩時間にはトークコーナーが設けられ、安藤氏、坂本氏、なるけ氏が登場。ファンへのメッセージを求められると、安藤氏は「映画と同じように、ゲームにおいて音楽の果たす役割は大きいと思います。その一方で、このコンサートのようにゲームと別に音楽そのものが楽しんでもらえるのもうれしいですね」。坂本氏は「10年以上も応援していただいてありがたいと思っています。(『勇者のくせになまいきだ。』シリーズは)山本(正美)プロデューサーや、(ゲーム開発担当の)アクワイヤの大橋(晴行)さん、皆で作ったものですから、皆でその喜びを分かち合えれば」。なるけ氏は「今後もSIEのすばらしいタイトルが続いていくことと思います。GSJと私たちの挑戦には、あえてきびしい目で観ていただきながら、期待してもらえたらうれしいです」とコメントしていた。

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21世紀のプレイステーションを彩ったタイトルも登場

 第二部では、Jスタが手掛けたものを中心に6タイトルの楽曲が演奏された。

 まずは『GRAVITY DAZE 2』。作中のBGMそのものがオーケストラ演奏ということもあって、このコンサートでも原曲をよりクリアーに、より豪華にしたイメージ。曲目はラストバトルからエンディングへと続くような構成となっていて、ゲームをプレイした人は作中のシーンが脳裏に浮かんできてニヤリとしたのではないだろうか。
 ストリングス(弦楽器)、ホーン(管楽器)などセクションごとに聴かせ合いながら、最後には全体がまとまって躍動する構成の楽曲が多く、ふだんオーケストラを聴かない人にも親しみやすい、楽しい演奏だった。

 続いては『フリーダムウォーズ』。バトル楽曲中心の構成だったが、原作のロックテイストから、オーケストラアレンジを施すことでより重くおごそかな雰囲気が醸成され、赤い照明による演出も相まって、こちらは聴いているだけなのに息苦しくなってしまっていた。ラストの『System End』も哀しみを誘う曲調で、会場中がすっかり重苦しい雰囲気に……。

 そのまま『SIREN』へ。混声合唱団による『奉神御詠歌』が披露された。合唱というと“美しい”というイメージがあるのだが、ここで展開したのは世にも禍々しい歌声。さらに耳障りなサイレンの音が鳴り響き、もはや空気は最悪である。音の力は恐ろしい!

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 『白騎士物語 -古の鼓動-』では、中世ヨーロッパをイメージさせるような管弦楽メインの勇壮な楽曲が続く。グランドハープなどの古楽器も加わり、よりクラシックなイメージで楽しませてくれた。そしてラストを飾る主題歌『白騎士物語 ~旅人たち~』では、原曲でもボーカルを担当したKAZCO氏が登場。オーケストラとは初共演というKAZCO氏だが、存在感たっぷりのパワフルな歌声で聴衆を魅了していた。

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 第二部のラストは『ワンダと巨像』。優勢になると曲調が変化するという、ユニークなBGMで知られる同作だが、今回はその要素を取り入れた演奏を披露。原作をプレイしていると「あ、ここで優勢になったか!」とわかる、ファンならではの楽しみが味わえた。また、パイプオルガンやコーラスなど、他のタイトルとは違うパートが活躍していたのも印象的だった。

 ここでふたたび休憩時間に。第一部に引き続き、ここでもトークコーナーが設けられた。この回は、『SOUL SACRIFICE』シリーズよりプロデューサーの鳥山晃之氏、ディレクターの下川輝宏氏、そして音楽を手掛けた光田康典氏が登壇。

「感情移入させるくらい、いい曲を書ける人」ということで指名された光田氏だが、“欲望と代償”をテーマとした『SOUL SACRIFICE』の第一印象は「これほど暗いゲームもないだろうな(笑)」。これまで手掛けてきたゲーム音楽とはまったく異なるものであるため、産みの苦しみを味わうことになったようだ。

 また、同作でアメリカの名門スタジオ“スカイウォーカー・サウンド”で収録を行ったことについて「すごい曲を録りたいから奮発しました」(鳥山氏)、「オーケストラが全員入れるほどの、アメリカならではの大きなスタジオでした」(光田氏)と、当時の経緯や印象も語ってくれた。

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 なお、収録の様子を記録した動画は公式サイトにて公開(https://www.jp.playstation.com/scej/title/soulsacrifice/ja/gallery/sound/)されている。

音楽が“殺しに来る”恐怖

『SOUL SACRIFICE』シリーズのオーケストラ演奏は、レコーディング以来初となる、記念すべきものとなった。トークコーナーで言及されたように、聴く人の不安や恐怖をあおり立てるダークな楽曲が続く。オーケストラとコーラスによる圧倒的な音圧で、ゲームで味わった以上の恐ろしさが演出されていた。

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 そんな中、5曲目の幻想的なソプラノ独唱が美しく響き渡る『異端の白い灯』で少しだけ救われた気分になるも、ここからクライマックスに向けてふたたび緊張感は高まっていく。8曲目の『永遠の戦いに終止符を』はラスボス戦のテーマだが、打楽器隊の鬼気迫る演奏は原作を知らない人にも「これがクライマックスだ!」と伝わるほどの迫力だった。そしてラストは『人が語り継ぐ限り』。ソプラノの歌声とピアノが響き合う、美しい音色で演奏を締めくくった。

 そしていよいよ最後のタイトル『Bloodborne』へ。その演奏を前に、同作の音楽を担当した齋藤 司氏と北村友香氏をステージに招き、最後のトークコーナーを行う。ディレクターの宮崎英高氏の意向で、音楽制作はアメリカの作家陣との共作という体制で行われ、同作の舞台である19世紀ヴィクトリア朝(※1837年~1901年、イギリスのヴィクトリア女王による統治期間)をイメージしたものにする予定だったという。

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 そのため、使用する楽器をあえて少なくし、少人数の編成で作っていたのだが、ゲーム中の“死闘感”を演出するために大編成のオーケストラを使ったり、より盛り上げたりする演出も加えるようになっていったのだそうだ。

 ゲームではあくまでBGMではあるものの、今回はオーケストラで演奏される“主役”であり、より直接的に“殺しに”来る緊張感を味わえるようになっているのだとか……。

 「“皆既日食を初めて経験した人々の絶望感”をイメージして作った曲」という言葉の通り、演奏では“枯れた”低音からコーラスによる高音から、聴く人を精神的に追い込んでくる。原作をプレイした人は、楽曲を通じて当時の悪夢が脳裏に浮かんだのではないだろうか……。

 楽しさ、高揚感、そして絶望感……。音楽の力をこれでもかというほど味わわせてくれたコンサートも、ついにフィナーレへ。アンコール楽曲『その一撃に命を賭して』(『SOUL SACRIFICE DELTA』より)を経て、最後のカーテンコールでは、トロやクロも壇上に登場し、万雷の拍手の中約3時間に渡るコンサートは幕を閉じた。

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GAME SYMPHONY JAPAN 41st CONCERT~PlayStationを彩るJAPAN Studio音楽祭 2018~ セットリスト

『アークザラッド』シリーズ
・アークザラッドのテーマ
・Arc
・Kukuru
・Poco
・Tosh
・Gogen
・Chongara
・Iga
・明日へ
・Starting~始動~

『勇者のくせになまいきだ。』シリーズ
・魔王のへやで悪巧み
・すべてのはじまり
・さわやかな朝のダンジョン
・なごやかな夜のダンジョン
・トカゲおとこが叫んでる
・終わりなきゆうなま
・はじまりはいつもダンジョン
・トビラが開いたら
・魔王を守れのテーマ:3D
・ファイナル・ギャザリング!
・ミラクル・ダンジョニスタ!
・来たるべきセカイ

『ワイルドアームズ』シリーズ
・荒野の果てへ
・クリティカル・ヒット!
・バトルフォース
・ガンメタルアクション
・ガンブレイズ
・胸の撃鉄起こす時
・PRINCESS ARMY
・Million Memories

『GRAVITY DAZE 2』
・電磁力の女王
・世界の半分を統べる力
・灰燼に帰す
・ア クゥ オーン トゥ ワ / 赤いリンゴ(Chant Ver.)
・GRAVITY DAZE / 重力的眩暈(Ending Ver.)

『フリーダムウォーズ』
・Panopticon
・Uninstallation
・Code Red III
・System End

『SIREN』
・奉神御詠歌

『白騎士物語 -古の鼓動-』
・ブラスタ平原
・迫り来る強敵
・白き勇者
・白騎士物語 ~旅人たち~

『ワンダと巨像』
・荒ぶる邂逅 ~巨像との戦い~
・甦る力 ~巨像との戦い~
・復活の予兆
・蘇生
・儀式の終焉 ~巨像との戦い~
・禁断の術
・戦いの終り

『SOUL SACRIFICE』シリーズ
・希望なき序奏
・終わりの始まり
・魂の旋律 -main theme-
・異形のメルヘン
・異端の白い灯
・漆黒の正義
・無神論者達の童謡
・永遠の戦いに終止符を
・人が語り継ぐ限り

『Bloodborne』
・Omen
・The Hunter
・Cleric Beast
・Ebrietas, Daughter of the Cosmos
・The First Hunter
・Bloodborne

アンコール
・その一撃に命を賭して(『SOUL SACRIFICE DELTA』)