3人のキーマンを直撃インタビュー

全4回に渡ってお届けする『ダンガンロンパ』の特集記事。ラストを飾るのは、本作の開発のキーマン3人のインタビュー! 開発秘話から本作の魅力までを、3人にアツく語っていただいたぞ。

小高和剛

シナリオ及び世界設定を担当。本作の初期の構想を、小松崎氏とともに作り上げた。

齊藤祐一郎

本作で初めてオリジナル作品の制作プロデュースに関わる。若い感性で、さまざまな方向性を決める際に、重要な役割を果たしている。

小松崎類

キャラクターデザイン担当。小高氏とともに初期構想を構築し、本作の独特な世界設定を描き出した。キャラクターデザインは本作が初。

新しいものに挑戦したかった

――本作の企画が立ち上がった経緯を教えてください。

小高和剛氏(以下、小高)シナリオ担当の僕とキャラクターデザインの小松崎のふたりで企画を立ち上げました。その後、既存のジャンルにとらわれず“新しいものを作りたい”というメンバーが有志で集まって作り出しました。

――アドベンチャーゲームを作ろうということで集まったわけではないのですか?

小高はい。ただ、最初に集まった人間がシナリオとキャラクターデザインだったので、自分たちの強みを活かしつつ新しいものに挑戦しようと考えていました。それで、アドベンチャーゲームをベースにしたものを作ろうと。

――アドベンチャーゲームをベースにした新しいジャンルに挑戦したかった?

小高はい。アドベンチャーゲームというと、ある程度システムが決まっていると思うのですが、僕はもっと新しい見せかたがあるはずだと考えていました。いままでにない新しいものを作りたかったんです。アドベンチャーゲームをベースにしつつも、そこから外れるような新しいジャンルを目指すというコンセプトで企画が進んでいきました。

――企画にはどのくらい時間を費やしたのでしょうか?

小高企画を練ったのは半年くらい、実際に開発に費やした期間は1年くらいですね。

齊藤祐一郎氏(以下、齊藤)社内で企画が通るまでがすごく時間がかかりましたね。ダークなイメージを持つ作品なので、調整を重ねないと万人に受けいれられるようにならないと思ったんです。ですが、企画段階の尖っていて斬新な部分はどうしても残したかった。そういう部分を完全に失うことなく調整する、そこの詰めがいちばんたいへんでしたね。

小高ただ、企画の段階で設定やデザインを煮詰めることができたので、結果的にはムダにならなかったと思います。

――では、最初にゲーム全体のデザインや設定を煮詰めるところから開発が進んだ?

小高はい。ゲーム全体のデザインを固めました。そして、舞台は学園、密室、そして15人というものをやりたいというのが最初ですね。ゲームシステムはストーリーや設定を煮詰めてから考えました。

デザインは“サイコポップ”をイメージ

――ゲーム全体のデザインコンセプトとは?

小高デザインのコンセプトはサイコポップです。

――すごく怪しい雰囲気が出ていますよね。

小高はい。さきほど齊藤も言ったように、企画立ち上げ当初はダークなイメージが強くて、社内の人間にサイコポップというイメージが伝わっていなかったんですよ。サイコポップというイメージが固まったのはモノクマのデザインが完成したころじゃないかな?

小松崎類氏(以下、小松崎)たしかに最初はポップなイメージがまったくありませんでしたね。途中から「ポップなイメージを加えてくれ」という指示を受けて少しずつ調整しました。

齊藤ダークなデザインだと、ゲームの設定とも相まってどうしても陰惨なイメージがついてしまいますからね。モノクマのデザインもそうですけど、ポップなイメージを入れることで柔らか味を与えようと思ったんです。

――なるほど。ゲーム全体のイメージが決まり、シナリオや設定を固めて、それに合わせて小松崎さんがキャラクターをデザインしていったという流れでしょうか?

小高はい。じつは小松崎は彫刻学科出身の人間なんです。キャラクターデザインを担当したのは今回が初めてなんですよ。アニメ出身のデザイナーとはひと味違った絵を描くので、僕自身も注目していたんです。新しいものを作り出すという意味で、これまでキャラクターデザインの経験がないことが逆によかったのかな、と思っています。

――どういった部分に注意しながらキャラクターをデザインしたのでしょうか?

小松崎パッと見の印象が奇妙というか、一見アドベンチャーゲームのキャラクターには見えないということを意識しました。主人公、ヒロイン、太いヤツ、細いヤツなど、おおまかに全体のバランスだけ決まっていましたが、基本的には自由にデザインさせてもらいました。

――超高校級の●●という肩書きは、初めから決まっていたわけではないのですか?

小高キャラクターごとに肩書きを付けたのは、途中からですね。

小松崎そうですね。最初に僕がデザインしたものをベースに、肩書きに合せて個性付けを行った、という流れですね。

――肩書きは個性的なものが多いですよね。ほかにどんなものがあったのでしょうか?

小松崎採用されなかったものでは、ロボットなんてものもありましたね(笑)

小高ほかには、ミュージシャン、ドッグトレーナー、昆虫博士なんてのもいましたよ。

――肩書きは殺人のトリック部分と絡めながら決めたのでしょうか?

小高全部ではありませんが、ストーリーの流れを考えてこういう超高校級のキャラクターがいたほうがいいな、と考えたものもあります。

――齊藤さんのほうからはキャラクターデザインについて、何か注文されたことはないのでしょうか?

齊藤僕らプロデュースサイドからは、いっさいオーダーを出していません。小高と小松崎から出される提案はとてつもなく個性的なので、それを一般的なところに落とし込むということが僕の仕事でした。個性的過ぎると、一部の人には好かれるけど一部の人には嫌気されてしまう危険がある。そういうことのないようにバランスを取りました。

――では、製作サイドからあがってきたものを大幅に直すということはなかった?

齊藤プロデュースサイトが大幅に修正するということはありませんでした。小高と小松崎の間でどうだったかはわかりませんけど(笑)。

小高僕と小松崎の間ではけっこうありましたよ。

小松崎美男美女がいない、ということでボツにされたこともありました(笑)。

――ではデザインにいちばん苦労されたキャラクターは誰ですか?

小高大神さくらかな?

齊藤大神さくらだろうね。

小松崎そうですか? 大神さくらのデザインはそんなに変更されなかったと思うのですが。

小高いや、意見が割れたでしょ?

齊藤うんうん。

小高最強の高校生というコンセプトは最初から決まっていたのですが、美少女にするのか? そもそも男にするのか? 女にするのか? といった感じで意見が分かれていました。

齊藤でも結果的には、いまのデザインでしっかりハマったと思っています。

――『ダンガンロンパ』のキャラクターといえば、モノクマを外せないと思うのですが、モノクマはかなり早い段階でデザインが固まったのでしょうか?

小高そうですね。社内で企画をプレゼンする際にはすでに完成していました。そのころはまだダークなイメージのゲームだったのですけれど、モノクマだけは人気がありましたよ(笑)

――モノクマは、初めからこのデザインだったのでしょうか?

小松崎いちばん初期のころと比べればだいぶ変わっています。いまでこそマスコットキャラになっていますが、最初は試験官という設定でしたし、人体模型をモチーフにしたようなデザインのころもありましたね。

小高内臓丸出し、みたいなね(笑)。

――そのころから、声は大山のぶ代さんをイメージされていたのですか?

小松崎いや、まったく考えていませんでした。

齊藤声優を決めたのは、ゲームの設定がすべて固まってからですね。

小高そもそも「大山のぶ代さんにしよう」と言ったのは、会議中に「のぶ代さんだったらいいねぇ」と雑談で言ったことが始まりでした。そうしたら、齊藤が動いてくれて……。本当に決まってしまいました。だから製作サイドは大慌てでしたよ。「本当に大山さんが声を担当してくれるんだ、どうしよう」って(笑)

――雑談で言ったことが通ってしまったんですね(笑)。

齊藤初めは確かに雑談だったのですが「ほかにモノクマのイメージに合う人がいるか?」と考えたとき、「のぶ代さんしかいないんじゃないか?」となったんですよ。それで、ダメもとでオファーを出してみたら、興味があるというお返事をいただきまして……「あれ?もしかして……」みたいな(笑)。

――初めからいい感触だったんですね。

齊藤はい。ゲームの企画やモノクマのセリフなど、新たなチャレンジをしようとしているところを気に入っていただけたのかな、と思います。

芝居をきっちりできる人を選びました

●モノクマメダルを集めよう!

齊藤モノクマメダルというものがマップのいたるところに隠されています。それを使ったガチャガチャでキャラクターへのプレゼントを入手したり、ギャラリーを入手したりできるんです。ふつうのアドベンチャーゲームでは、調べたらテキストが出て終わりということも多いですが、本作の場合は事件に関係ない場所を調べてもモノクマメダルが隠されている可能性があるので、学園内の探索もおもしろいと思います。

――ちなみにほかの声優はどういった基準で選ばれたのでしょうか?

小高製作サイドからはとくに希望を出していないんですよ。

齊藤声優の選定は僕らプロデュースサイドで行いました。どのキャラクターも個性が強いので、まずはコーディネーターの方に相談し、このタイプのキャラクターはこういった方が合うというリストを作成してもらいました。それからさまざまな方のサンプルボイスを聴いて「この人が合うんじゃないか?」と追求していった結果、いまのキャストになりました。

――ものすごく豪華なキャストですよね。豪華声優陣という部分をウリにしようというわけではなかったのですか?

齊藤狙って豪華にしたわけではありません。学級裁判部分がフルボイスということで、臨場感を出すために芝居がきっちりできる人を選んでいったら、必然的にこういうキャストになりました。キャストを発表したあと、思いのほか声優ファンの方の反響が大きくてビックリしたのをおぼえています。

●黒板の落書きに注目!

小高チャプターが進むごとにエリアが開放されていくのですが、黒板の落書きもどんどんすごいことになっていきますよ(笑)。ちなみに、黒板の落書きは、マップ担当の人間がいつの間にか勝手に入れてたんですよ。本当の落書きなんです。でもおもしろいから入れちゃえって。本作が、本当に自由に作ることができた作品の証拠だと思いますね。

――キャストをご覧になって製作サイドとしてはどう感じましたか?

小高じつは僕や小松崎は声優に詳しくなくて……。

齊藤そうなんですよ。リアクションがものすごく薄かったんです(笑)。

小高でも実際に仕上がったものを聴いたら「すごい!」ってビックリしましたね。みなさんキャラクター性をつかんでくれたみたいで、演技がものすごく迫力と臨場感にあふれていました。名前に驚いたというよりも演技に驚きました。

――キャラクターデザインという立場からの印象はいかがでしたか?

小松崎いやぁー、もう想像以上によかったですね。声が入ることで、キャラクターがものすごく生き生きとしていると感じました。

齊藤山田一二三や大神さくらはとくに個性が強いので、「どのように仕上がるのだろう?」 と思いながら収録に立ち会ったのですが、想像以上にいい内容に仕上げてもらえてうれしかったですね。学級裁判が臨場感ありすぎで困っちゃうくらいでした(笑)

おもしろいと思う要素はすべて詰め込んだ

――学級裁判の話が出たところで、システム面についてお伺いしたいと思います。今回、ハイスピード推理アクションというジャンルをテーマにしていますが、これはどういった経緯で生み出されたのでしょうか?

小高ジャンル名が先にポンと出てきたんですよ(笑)。

齊藤小高から上げられた企画書を見たときに、シナリオがいい、キャラクターもよくて画面デザインのイメージもいい。でも、PSPのアドベンチャーゲームという枠でくくると、市場的にどうしてもネガティブなイメージがあったんです。アドベンチャーゲームのテイストを保ちつつも、新しい要素を入れないといけない。そういった中で生まれたジャンルがハイスピード推理アクションでした。ハイスピードというと、何か新しい感じがするじゃないですか。響き的にコレだ! みたいな(笑)。

小高最初にジャンル名が決まって、後からジャンル名に見合うシステムをどんどん追加していった形ですね。

――そして学級裁判になったという流れですか?

小高はい。ただ、議論というシチュエーションを使いたいという想い最初からはありました。通常の推理アドベンチャーゲームだと、犯人と1対1で淡々と進んでいくと思うんです。そういったものと差別化を図るために、「もっと緊迫感があって多人数で議論するものを作りたい」と考えていました。そこにハイスピード推理アクションというジャンル名がついて、ハイスピードな議論を表現するためにはどうすればいいのか? とみんなでアイデアを出していき、いまの学級裁判の形になりました。

――リアルタイムで、しかもフルボイスで進行する議論は本当に緊張感ありますよね。

小高ありがとうございます。学級裁判は、議論というシチュエーション、フルボイス、アクション、この3つがうまく絡み合ったシステムができたと思っています。

齊藤本当にそうですね。どれかひとつが欠けてしまっても、もの足りないものになっていたと思います。

――ハイスピードに展開する議論は、アクション要素もあるので少し難しそうなイメージがありました。

齊藤やはり動画だけみると難しいイメージがあるかもしれません。でも誰もが楽しめるように、難易度を“推理”と“アクション”それぞれに3段階用意してあり、異なる難易度を組み合わせてのプレイもできるようにしてあります。ちなみに、体験版では推理とアクション、それぞれ2段階の難易度を用意していたのですが難しいという意見が多く寄せられたので、製品版では難易度を3段階に増やしました。

――体験版と製品版では改良されている部分があるのでしょうか?

齊藤はい。先ほどの難易度設定に加えて、マシンガントークバトルにボイスが追加されるなど体験版からかなり進化していますよ。

――難易度を調整できるようにしたのは間口を広げたかったからですか?

齊藤はい。推理やキャラクターは好きだけれどアクション要素が強いとちょっと……だとか、アクションは好きだけれど頭を使った推理は苦手……。というような人たちを切り捨てたくなかったんです。だから製作サイドにお願いして、難易度を3段階、しかもそれぞれ異なる設定が行えるように調整してもらいました。

――ノンストップ議論は制限時間内であれば、何回もやり直せるのもいいですね。

小高ええ。やり直せないバージョンもあったのですが、さすがに難度が高くなりすぎたのでボツにしました。

――ノンストップ議論のほかにも、閃きアナグラム、マシンガントークバトル、クライマックス推理といったモードがありますが、これらはシナリオに合せてシステムを作っていったのでしょうか?

小高そうですね。まずはシナリオを書いて、その後シナリオに合せてここはノンストップ議論、このあたりは閃きアナグラム、というように決めていきました。謎解きものの場合、シナリオを外部ライターに任せることも多いのですが、『ダンガンロンパ』の場合は社内開発ということで、シナリオの微調整が容易にできたことが大きかったですね。そのおかげでシナリオとシステムのマッチしたものができたと思います。

――本作の見どころのひとにおしおきがあると思うのですが、どなたが考えたのでしょうか?

齊藤おしおきの内容はムービーパートの担当者が考えたんですよ。おしおきムービーは本当に期待してほしいですね。さまざまなバリエーションを用意していますから。

――ゲーム全体のボリュームはどのくらい?

齊藤ボイスをスキップせずにしっかりと聴きながら進めると、クリアーまで20〜30時間くらいだと思います。

小高モノクマメダルというやり込み要素も入れてあるので、さらに遊べるはずですよ。

――やり込み要素のひとつにキャラクターの好感度が上げられる自由時間がありますよね? 好感度を上げるとどういったメリットがあるのでしょうか?

齊藤好感度を上げると、ゲームを有利に進められるスキルが習得できます。さらに、各キャラクターのバックボーンとなるストーリーが通信簿で確認できるようになっていきます。

小高アドベンチャーゲームはストーリーがドンドン進んでしまうので、キャラクターごとのバックボーンをゆっくり語るところがないんですよ。それに、そういったイベントを入れてしまうと、ゲームのテンポが悪くなってしまうので、おまけ要素のほうでカバーしています。

――キャラクターのバックボーンを知ることで、キャラクターに対する思い入れを深められそうですね。

小高はい。それによって学級裁判の見かたも変わってくるんじゃないかと思います。「あぁ、あいつが死んじゃった!」みたいにプレイヤーの心を揺さぶれたらうれしいですね。

――それでは最後にそれぞれの視点から本作の注目ポイントを教えていただけますか?

小松崎「なんだこれ? 変わったゲームだな?」という感じで手に取っていただけるとありがたいですね。自分たちがおもしろいと思う要素はすべて詰め込んだつもりです。体験版もありますので、新しいゲームを恐れずにプレイしてみて欲しいですね。

小高陰惨な雰囲気なので暗いと思われがちですけど、本作にはそれを吹き飛ばすくらいのエンターテインメントを詰め込んであります。あとは、15人のキャラ立ち、わかる人はわかるギリギリのところを攻めたネタに注目してほしいです。自分たちでプレイしてみて、「これはおもしろいなぁ」と言えたのでやれることはやったのかなと思います。

齊藤新規タイトルとして1年みっちり作り込んだので、手応えはすごく感じています。僕らとしては満足のいくものができたと思っています。スタッフの遊び心が満載になっているところに注目してほしいですね。たとえば、教室の黒板の落書きがどれも異なっているなど、細かいところにも遊びが入っているので気になる方は注意してみてください。

マシンガントークバトルはハードがおススメ!

小松崎体験版をプレイされた人の意見で「マシンガントークバトルはいらないんじゃないか?」というものもありました。そう思った方は、ぜひマシンガントークバトルを難易度ハードでプレイしてみてください。すばらしいサウンドを聴きながら、まるで音ゲーをプレイしているような感覚で楽しめるのでオススメです。

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