──まずは、おふたりが『ペルソナ3ポータブル』に込めた開発コンセプトを教えてください。
薄田 無門さん(以下、薄田) 本作は、シリーズファンの方はもちろん、『ペルソナ3』をプレイされたことがない方や、携帯ゲームファンの方に遊んでいただきたいという思いで作りました。ユーザーの皆さんからのご意見を踏まえ、より手軽で遊びやすくシステム面などを改善しました。
木戸 梓さん(以下、木戸) また、ユーザーの方々が大切にしてくださっている『ペルソナ3』の物語を、新たな視点を取り入れることで、もう一度楽しんでいただけないだろうか、という思いもありました。想定していた以上の作業量でしたが、とことんやらないとリメイクする意味がない、と覚悟を決めたんです。
──薄田さんが担当したグラフィックデザインと、システムレイアウト関連では、どんなこだわりや苦労がありましたか?
薄田 プレイステーション・ポータブルへ移植するために、たくさんの苦労と工夫をしました。たとえばバトルでは、画面表示がワイドになったことで、視界に入る3Dモデルの数が増えるなどの“描画負荷”が課題になりまして。3Dモデルのデータ容量をプレイステーション2版の半分以下に抑えて、なおかつ従来と遜色ないグラフィックに仕上げるのがたいへんでした。プレイステーション・ポータブルの画面で映えるように、あらゆるキャラクターやペルソナの3Dモデルに手を加えています。
──女性主人公の3Dモデルは新規ですね。
薄田 “薙刀”という新登場の武器と合わせて、かまえやアクションに女性らしさを出すことにこだわりました。モーション担当者の前で、僕が女性主人公の動きを“実演”してみせて、「こんな感じでよろしくね」と伝えるようにしたんです。絵コンテを描いて伝えるよりも効率的なのですが、周囲からは物珍しそうな目で見られましたね(笑)。
──バトルはプレイステーション2版と同じく3Dで描かれますが、日常生活の2Dグラフィック化は、本作の大きな変更点ですね。
薄田 データ容量を抑えつつ、携帯ゲーム機向けにプレイのテンポを速めるための決断でした。これに伴い、背景のビジュアルを新規で用意したり、会話時のキャラクターの表情パターンも130枚ほど追加したりと、データ容量は減りつつも相当な追加データが入りました。
──背景のビジュアルは、プレイステーション2版の雰囲気そのままですね。
薄田 じつは、まさにプレイステーション2版の3Dモデルをレンダリング(※1)して、手描きのイラスト風に見えるように加工しているんですよ。
──そうだったんですか! スタイリッシュなメニュー画面も、表示がワイドになりつつ、プレイステーション2版の操作感そのままです。
薄田 メニュー画面においても、じつは地味な苦労がありました。プレイステーション2版は、FLASH(※2)でメニュー画面を動かしているのですが、同じことをプレイステーション・ポータブルで行うと、動作がとても重くなってしまうんです。最終的に、プレイステーション2版とほとんど変わらない操作感を実現できましたが、これを動かしている仕組みは、従来とはまったく違うものなんですよ。ユーザーの皆さんにとっては知る由もないことですが、逆に言えば、気づかれていないことが苦労の成果ですね。
──メインシナリオやコミュを担当した木戸さんは、本作でどんなところにこだわりましたか?
木戸 男性主人公では男性として扱われたように、女性主人公ではきちんと女性として扱われないと、RPGとは言えません。そのため、メインシナリオだけではなく、コミュや街の人との会話にも手を加えました。また、プレイステーション2版を遊んでくださった方にもう一度プレイしていただくためにも、女性主人公という新たな視点を打ち出して、男性主人公編で絡みが少なかった天田や荒垣を始め、仲間たちと新たにコミュを築けるようにしました。キャラクターをより深く掘り下げることで、シナリオの見かたを変えられるのではないかと思ったんです。コミュの内容も、メインシナリオにできるだけリンクするように作っています。
──木戸さんが女性主人公編のセリフを書いたのですね。プレイステーション2版のシナリオスタッフの方とは、どんな話し合いをしましたか?
木戸 女性主人公編に関して言えば、セリフの語尾などをちょこっと変えるくらいではリメイクの意味がないので、物語の本筋を崩さない範囲でどこまで変えていいのか、事前に話し合いました。個々のイベント自体は、けっこう自由に書かせてもらいましたね。
──録り直したキャラクターボイスの量も膨大だったのでは?
木戸 女性主人公編の会話シーンは、男性主人公編とセリフが1ヵ所でも変わっていれば、その前後のボイスも録り直すことにしました。そうすれば、セリフの流れやテンションに不自然さが生じることはありませんから。それに、たとえ同じ内容のセリフでも、男性主人公に向かって話すときと、女性主人公に向かって話すときでは、セリフのテンションが微妙に変化して然るべきですよね。相手の性別によって態度が変わりやすい、ゆかりや順平などのセリフは、台本上では同じセリフであっても、女性主人公編で録り直しているものが多いですね。より自然に聞いていただけるように仕上がったと思います。
──声優さんには、どんな風に演じてほしいと伝えましたか?
木戸 たとえばゆかりに関しては、男性主人公編では夏以降にならないと彼女とコミュを築けませんが、女性主人公編では4月からコミュが発生して、すぐに心を開いてくれますよね。彼女にとって、女性主人公は自分の境遇を理解してくれる、初めての女友だちなんです。声優さんには、そんな心境を意識しながら演じていただきました。逆に、真田や美鶴などは、主人公が男性であろうと女性であろうと態度があまり変わらないキャラクターなので、必要な箇所以外では主人公の性別を意識しないでくださいとお願いしました。
──ボイスがついていない細かなセリフにも、アレンジを加えていますね。たとえば、放課後に仲間とのコミュを進めると……。
木戸 コミュでの出来事が、寮やタルタロスでの会話に反映されたりしますね。プレイステーション2版では、コミュではすごく仲よしなのに、寮に帰ったあとの会話が素っ気ないと感じたり、いっしょに放課後を過ごした相手が主人公に「おかえり」と言ってしまったりしていたので、ごく自然なやり取りが楽しめるように、女性主人公編はもちろん男性主人公編にも手を加えています。
──ほかにも、本作にはたくさんの追加要素がありますね。おふたりのイチオシはどれでしょう?
薄田 『ペルソナ3』や『ペルソナ3フェス』でユーザーの皆さんから寄せられていたご意見の中に、「タルタロスの探索が単調」というものがありまして。これをふまえて盛り込んだのが、ランダムで発生するハプニング(取得経験値の増加、強敵の増加、ダンジョンが暗くなる、仲間とはぐれる、など多数)や、“失踪者の救出”といった要素です。後者については、タルタロスと影人間(シャドウに心を喰われた人間)の関係性をより明確にすることにもつながりました。
木戸 『ペルソナ4』を遊んでくださった方に喜んでいただければと、同作の舞台になった“八十神高校”に出かけるイベント(※3)を小ネタで入れました。男性主人公編には、運動部の代表として“明王杯”に出場するイベントがありますが、女性主人公が入ることになる運動部(バレー部またはテニス部)はいかんせん弱いので、明王杯に代わるイベントを用意する必要があったんです。アートディレクターの副島に「中学生の雪子を描いてください!」と頼んだところ、快く描いてくれました(笑)。『ペルソナ4』を知らない人にも、興味を持ってもらうキッカケになったらいいなと思います。
──そういった面でも、本作は『ペルソナ』シリーズを始めるにはうってつけのソフトですね。それでは最後に、読者へのメッセージをお願いします。
薄田 『ペルソナ3ポータブル』は、たいへんボリュームのあるゲームでありつつ、携帯ゲーム機で手軽に遊べる仕上がりになっています。プレイステーション2版を遊んでくださった方も、未経験の方も、ぜひ手に取ってみてください。また、本作の発売から1ヵ月ほど経ちましたが、すでにクリアーしたという方には、その勢いで2周目に進んでください! くり返し遊んでも飽きないよう、盛りだくさんの要素を用意しましたので、ぜひ!
木戸 本作は、主人公の性別を選べるようになったことで、2本分のRPGが入っているようなボリュームになっています。ぜひ末永く、『ペルソナ3ポータブル』とおつき合いくださいね。皆さまに愛されるゲーム作りをこれからも心がけます!
──ありがとうございました!