2021年11月27日~28日の期間中、オンライン上で開催された“CEDEC+KYUSHU 2021 ONLINE”。本イベントは、日本最大のコンピューターエンターテインメント開発者向けのカンファレンスとしておなじみのCEDEC(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス)の九州版だ。

 2日目となる28日には、サイバーコネクトツーによる“自社初パブリッシングタイトル『戦場のフーガ』開発に学ぶ短期開発の課題と対策”が披露された。

 登壇したのは、サイバーコネクトツーの代表取締役である松山洋氏。松山氏といえば、気さくな性格で社長自ら“ぶっちゃけトーク”をされることでも知られているが、CEDECの講演でもその芸風は健在。今回もぶっちゃけすぎるレベルで赤裸々な開発秘話が語られた(「これ本当に書いていいのか……?」と思いながら書きました)。

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『戦場のフーガ』の始動

 これまでサイバーコネクトツーは、ゲーム開発のみを担当しており、自社パブリッシング(販売・流通)をしたことがなかった。『戦場のフーガ』はサイバーコネクトツー初の自社パブリッシング作品となった。ケモノなキャラクターたちが戦車に乗って、生き別れた仲間や家族を救うために戦っていくRPGだ。なお、パッケージ版の発売はなくダウンロード販売のみとなっている。

ダウンロード販売の環境が追い風に

 サイバーコネクトツーは2021年で25周年。『戦場のフーガ』の制作を決めたのは2016年の20周年のタイミングだったという。自社パブリッシングを挑戦する決断に至った理由は、パッケージ販売ではなくダウンロード販売が普及し、ゲームを取り巻く環境が大きく変わったことが大きかったと松山氏は語る。2016年の段階で「今後もダウンロード販売が加速していく」と予測した松山氏は、ダウンロード販売でのパブリッシングにチャレンジすることを決意した。

 松山氏いわく、現在では「任天堂のタイトルでも約45%の売上がダウンロード販売です」とのこと。

 また、海外でもしパッケージ販売すると、海外パブリッシャーなどが挟まったり関税がかかってしまったりと、1本あたりの利益は少なくなってしまう。けっきょくは日本で販売本数を稼がないといけなかった。しかし、ダウンロード形式ならば、サイバーコネクトツーからほぼ直接販売できる点に魅力を感じたそうだ。

 そこから、まずは企画コンペを開催。紆余曲折ありつつ企画が定まっていった。

 サイバーコネクトツーといえば、まだ社名が“サイバーコネクト”のころ、1998年にプレイステーション用ソフトとしてケモノなキャラクターが特徴的なアクションゲーム『テイルコンチェルト』を制作した(パブリッシングは旧・バンダイ/現・バンダイナムコエンターテインメント)を発売。そしてニンテンドーDS用ソフト『Solatorobo(ソラトロボ) それからCODAへ』(2010年)などの流れを汲む、共通の世界設定“リトルテイルブロンクス”構想に基づいて新たなゲームを開発しようと決めたそうだ。

小規模×短期間開発を目指したが……

 『戦場のフーガ』は、最近のゲーム開発現場に比べて小規模になるようスタッフを少人数に絞り、短期間での開発を目標にしたという。

 ほかのゲームの場合、たとえば他社のIP(知的財産)を用いてサイバーコネクトツーが開発を担当した大規模なタイトルでは、スタッフ規模は最低でも100人~200人、開発期間も最低2~3年は必要となるそうだ。かつてプレイステーション2などのゲーム(2000年ごろ)は、数10人の開発チームで1年掛ければ作ることができたそうで、「それくらいの規模感で、豪華な何でも入りはできないけど、スマッシュヒットを狙うようなタイトルを作ろうぜ!」と、最初は意気込んでいたそうだ。

 しかし、最終的に開発期間は約3年にまで伸びてしまった……といった前置きを挟みつつ、松山氏が自ら“反省会”と称するセッションが始まったのだ。

なぜ開発期間が延びたのか?

 まずは開発について。実際に企画コンペを開催したところ、社内から100本以上の企画があがってきたという。しかし、社員からあがってきたのは、どれもこれも“実現すれば何十億も掛かる”、“最低でも3~4年は掛かる”と、当初の意図から外れたものだったそうだ。そこで、松山氏が「お手本みせたるわい!」と、企画したのが“子どものケモノたちが戦車に乗り……”という、『戦場のフーガ』の原型だったという。

新人育成も目的に

 また、松山社長の抱える問題意識として新人が経験を積みスキルアップできる機会が少ないことがあり、本作の開発をスタッフ育成にもつなげたかったそうだ。

 というのは、昨今のゲーム開発現場では新人が入ってもいきなりビッグタイトルに配属され、しかも作業は細かく細分化されており、どうしても細々とした部分の開発ばかりになるという事例が多かった。そこで『戦場のフーガ』のような小規模タイトルで広い視野で開発する経験をガッツリと積ませる狙いがあったとのこと。というわけで、ベテランスタッフと若手でチームを構成。だが、実際には若手スタッフゆえの問題が多発し、スケジュールに遅れも生じる結果になったという。

 また、当初、開発チームにはプログラマーを用意できなかったそうだ。プログラムがなければ、ゲームも完成しない。そのため、一度は外部のゲーム開発会社にプログラムを委託したという。しかし、これも、若手ゆえに外部との連携がうまくいかなかったそうだ。

 なお、サイバーコネクトツーはそのとき大型の受託タイトルも稼働中だったゆえに、プログラマーが用意できなかった事情が語られた。また、スタッフも各地に分散していたので、作業遅延が生じてしまったそうだ(※サイバーコネクトツーは福岡・東京・モントリオールに開発スタジオがある)。

 その改善ができないまま1年経ち、2年経ち、ようやく3年目に改めて体制を整えたそうだ。

 松山氏は「どこが新人育成やねん! って話なんですけど」と自らツッコミを入れつつ、ベテラン制作プロデューサーをディレクターに据え、アートディレクターなど各リーダーを立て、社内のプログラマーが制作を行うという体制が定まった。

最適化の具体例

 『戦場のフーガ』は、最初からマルチプラットフォームでの発売を決めていたという。しかし、その点に関しても若手スタッフたちの経験不足に起因する無駄が多く、ハードごとの最適化がなされていなかった。そこでデータをすべて見直し最適化を図ったほか、松山氏自ら3Dモデルの取捨選択などをディレクションしていったという。

 続いて、そのあたりの具体例がスライドで紹介されていった。詳しくは画像をご参照いただきたい。

背景は3Dではあるが、節約のために……
ペラペラの木が立っているようなイメージに。
『戦場のフーガ』は基本的にサイドビューのみで進行する。
戦車もじつは、右側はしっかり描かれているが……
左側は完全にポリゴンのない3Dモデル。す、すごい……。
敵の機体も、見えないところは削られている。
開発当初は、キャラクターにはハイポリゴンモデルを使っていた。しかし、実際のゲーム画面ではキャラクターは小さく表示される。「だったらポリゴン数を減らせる」ということで、簡略化したモデルに改良していった。
ゲーム画面ではこれくらいの距離感でしかキャラクターを見ないため“高精細でも無駄”と判断したわけだ。
UI(ユーザーインターフェース)の変遷も紹介された。
調整していった結果、ゲーム冒頭のロード以外、すべてノンローディングを達成したという。

 松山氏は「まず無駄なデータ作るなって話なんですよ!」と、そもそもの問題について語り出す。昔のゲーム開発ではとにかく容量削減、ゲームをうまく走らせる工夫などが当たり前だったので、ベテランスタッフにはその感覚が染みついている。

 だが、昨今のゲームから開発に携わるスタッフにとっては容量削減の意識が薄く、膨大なデータを作りがちだという。サイバーコネクトツーには無駄データを調べる探偵的なスタッフがいるそうで、「調べてもらったら、提灯1個に15000ポリゴン使ってたりして。誰が作った~、直せ~ッ! みたいなことよくあるんです」と語っていた。

また、サイバーコネクトツーでは、製作担当のチーム以外の人間がゲームを評価する会を必ず数回挟むという。また、実際にプレイしてもらっての評価や、プレイデータのチェックなどをするそうだ。なお、そのモニターには松山氏も含まれるとのこと。

販売会社に敬意と感謝

 続いて、パブリッシングについて。これまで販売については、サイバーコネクトツーはほかの会社にお任せだったので、知らないことも多かったと、さまざまな苦労が語られた。

 『戦場のフーガ』は9言語にも対応している。それは、サイバーコネクトツーが開発を手掛けた『NARUTO -ナルト- ナルティメット』シリーズの開発経験があったからだという。

 これらはパブリッシャーのバンダイナムコエンターテインメントの戦略で『NARUTO -ナルト- ナルティメット』の言語は以前から多く、最大15言語にも対応したそうだ。その経験を活かし、『戦場のフーガ』も多言語でリリースすることを開発当初から決めていたそうだ。ちなみに「現在、9言語から12言語くらいに増やしている最中」と、ちょっとした新情報も飛び出した。

初のパブリッシングは苦労の連続

 いざパブリッシング作業に入ると、苦労の連続だったという。松山氏は「私たちはゲーム開発の半分しかやってなかったなって、正直思いました」と語り出し、「全プラットフォームに対応しよう」と掲げてきたのは、サイバーコネクトツーがこれまで全ハードの開発を体験しているからだ。しかし、対応プラットフォームが増えれば、もちろん各プラットフォーマーへの対応作業も必要となる。

 さらに海外販売もあるため、各国のレーティング審査を個別に行い、各国ストアの金額設定や、ストア用の画像・動画・テキストを各言語で用意する必要がある。そこでは何より、言葉の問題にぶつかったという。サイバーコネクトツーには多彩な通訳がおり、言葉はわかる。しかし、言葉の解釈がわからなく、“どういう意図で言っているのかわからない”、“質問への回答が理解できない”など、国やストア別での問題が多かったそうだ。最終的にはわからないことが多過ぎて、バンダイナムコエンターテインメントに相談もしたのだとか。

そのとき、松山洋は叫び声を上げた

 そんな混乱がミスにつながる。ソフトのリリース時、プレイステーションハードでの販売価格のみが高いという不備が発覚した。言うまでもなくこれは大問題で、急遽、一時的に販売停止、返金対応を取った(後に正常価格で再リリース)。

 これが発覚したときは、松山氏もさすがに悲鳴をあげたのだとか(しかもバスの中で)。さらに、国・プラットフォームによっては、ストアの説明文が英文のみという状態を認めていないところもある。それを先方の担当から発売日に言われ、一部では発売が遅れたということもあったそうだ。

パブリッシングのために、全担当者が逐一進捗を確認するミーティングをしているそうだ。そこには開発に関わらないメンバーも含まれ、宣伝チームや営業、ストア担当、翻訳チームなども参加していた。
アップデート対応では、カスタマーサポートに報告された不具合はもちろんのこと、SNSなどもすべて開発メンバーたちがエゴサーチして徹底的に調べ上げているという。ちなみにこういったユーザーの発言は、松山氏いわく「スタッフは100%見てます。何なら僕も見ています」とのこと。
結果的に、約80ヵ国でのリリースに成功。
動画施策も複数展開した。
2021年12月からはコミカライズも予定されている。

「レビュー用コードプリーズ」→配布した結果

 なお、海外インフルエンサーにレビュー用コード(製品版を無料でダウンロードできるコード。ゲームをプレイしてもらいインフルエンサーにゲームの評価や情報を広めてもらう目的)も配布した。これは、海外インフルエンサーにお願いしたのではなく、インフルエンサー側から提案されたものだったそうだ。

 コードは約600本配布したが、実際に紹介動画をあげてくれたのは10人程度で、なんとほとんどが詐欺目的かつ、最終的にはソフトが転売されていたそうで、松山氏もショックを受けたという。

 いろいろと経験した結果、パブリッシング作業というのは非常に大変だということを、松山氏はつくづく実感。

 松山氏はこれまで、自分たちのゲーム開発が終わった後、「後は売るだけなのに、まだですか?」とパブリッシャーに対して文句を言うこともあったそうだが、これからはパブリッシャーへの感謝とリスペクトを忘れないようにすると、反省したとのこと。最後はパブリッシャーへの感謝の気持ちが松山氏から語られ、セッションは終了となった。