『Fate』シリーズの生みの親である奈須きのこ氏、武内崇氏へのインタビューを敢行。新型コロナウイルス禍の影響を受けたスマートフォン向けゲーム『Fate/Grand Order』(FGO)5周年の裏側や、第2部 第5章の詳報を語っていただいた。内容にはネタバレが含まれているので、未プレイの方は注意してほしい。

  • 文:前田麟
  • 編集:ギャルソン屋城
  • 聞き手・文・編集:ごえモン

※本稿は、週刊ファミ通2020年8月13日号に掲載したインタビューに未公開分を加えたもの。インタビューは6月中旬に収録。

奈須きのこ 氏(なすきのこ)

シナリオライター、小説家。TYPE-MOON創立メンバーのひとりで、同社のタイトルで多数のシナリオを手掛けている。『FGO』ではゲーム全体の監督作業のほか、運営にも深く携わっている。(文中は奈須)

武内 崇 氏(たけうち たかし)

TYPE-MOON代表で、イラストレーター、アニメプロデューサー。キャラクターデザインなど、ビジュアル面で同社タイトルを支える。『FGO』ではイラスト発注など運営全体も手掛ける。(文中は武内)

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第2部 第5章は当初から大きな山場になる予定だった

――『FGO』が5周年を迎えたお気持ちは?

武内運営型のタイトルということもあって、「もう5周年か」という気持ちと、「まだ5年か」みたいな気持ちが混在していますね。周年を迎えるたびにそう感じています。

奈須自分の場合、周年というよりは「ここまできた」という区切りを感じます。 第2部が始まったときに、オリュンポス編までいけばゴールが見えるとわかっていたので。そこに到達したいまは「さぁ、ここからだぞ」という気持ちが強いです。

――昨年夏の4周年から1年間で、 おふたりがとくに心掛けてきたことはありますか?

奈須メインストーリーは作品全体のためにあるものですが、イベントはユーザーさんに毎月楽しい思いをしてもらうために作るものだと思っています。とくに夏イベントは、ユーザーさんが家にいながらにして、どこかに遊びに行ったように感じてもらえればと。通常のイベントよりもう一段、娯楽のギアを上げるよう心掛けているというか。メインストーリーがいちばん大切で制作も重いものですが、それとおなじくらい、夏イベントも大切にしなければいけないと心掛けていました。

武内第2部 第5章は、「ある種の決戦になる」と、 第2部の開始当初から言われていました。ですから、そこをきちんと乗り越えなければと心掛けてきました。TYPE-MOON側でイベントカットを用意するといった形での稼働も多かったですね。とくに武蔵はデザイナーもがんばって、いいシーンになったのではないかなと思います。

奈須空の境界』のセルフオマージュではあるのですが、第5章を物語上の大きなポイントにしようと思っていました。

――なるほど、『空の境界』とおなじ構成ですか。

武内第5章がいちばん長いという。

奈須いちばん長くて、思想的にもいちばん強いヤツと戦うことになるという。……いや、この後の敵も強いのだけど、そちらは常人には理解できない思想の持ち主なので(笑)。

――そうなのですか!?

奈須とにかく、ギリシャ編が上手くいかなかったら、いままでがんばってきた甲斐がないというぐらいのものでしたから。 終わってみて、ユーザーさんの評価もよくてホッとしましたね。

サーヴァントのアイデアはまだまだあります!

――おなじくこの1年間で、とくに印象に残っているサーヴァントは?

武内自分は超人オリオンですね。

奈須まさかあの絵が出てくるとは思わなかったからね。

武内オリオンは非常に『FGO』らしいキャラクターになっています。 最初はコモンキャラで、しかもバーサーカーでした。 ギラギラした感じの筋肉キャラでお願いしましたが、そのビジュアルで女好きだとさすがにエグみがあるなと思って、いまのやさしい感じにしてもらったんです。

奈須団子っ鼻の、昭和時代の古いマンガに登場する快男児というか。三枚目なんだけどこいつは好かれるという方向でいろいろと盛ってみたら、すごくいいデザインになったんですよ。もともと、グランドアーチャーを誰にするか迷っていたのですが、これはオリオンが適任でしょうと。問答無用の説得力がありましたから。

武内とにかくオリオンは、絵を見て何もかもが変わっていったキャラクターですね。それで最終的にはグランドまでいくという。

奈須ある意味、『FGO』内での成り上がりナンバーワンです(笑)。

武内こういうことがあるからキャラクター作りはおもしろい。そう思えたキャラクターです。

初期から実装されていたオリオンが、とうとう人の姿で登場。“神を撃ち落とす日” というタイトルにふさわしい活躍を見せた。

――奈須さんはいかがですか?

奈須自分はアルジュナ〔オルタ〕です。とにかく、デザインの説得力がすごい。異聞帯という“if”ではありますが、インド神話の最終輪廻、という題目にふさわしい。イラストを見て、pakoさん(※1)が『FGO』に注いでくれる熱量の総決算が来たと思いました。

武内あと印象深いのは、スペース・イシュタルとカラミティ・ジェーンです。

奈須スペース・イシュタルは、はじめに上がってきたイラストが原始宗教的な神秘さがあって説得力に溢れていたのですが、デザインがシンプル過ぎるので、SSRとしてはお出しできないだろうと。それで武内君を介してデザイナーの森井しづきさん(※2)とお話しして、派手さもあるし、当初のシンプルさも残っているいまの形に落ち着きました。

――スペース・イシュタルのイラストを最初に見たときに、『Fate/EXTRA』の凛かと思いました。

奈須『FGO』の中でも、“セイバーウォーズ”と“ぐだぐだシリーズ”は、世界が違うんです。それ以外はなんだかんだ言ってリンクしているのですが、このふたつだけは言ってしまうと、『FGO』のスピンアウト。だから“セイバーウォーズ”でイシュタルを出すのであれば、それは汎人類史のイシュタルのように『Fate/stay night』の凛ではなくて『Fate/EXTRA』の凛がいいだろうと思ったんです。

カラミティ・ジェーン(画像左)とスペース・イシュタル(画像右)

武内カラミティ・ジェーンは、初期から設定があったのですが、なかなか実装する機会に恵まれませんでした。もっとも長いあいだ、出番待ちになってしまったキャラクターだと思います。

奈須ジェーンと赤兎馬とカイニスが、実装までに時間がかかった御三家なんです。カイニスはオリュンポスで決着させる予定でしたから心配していなかったのですが、ジェーンだけは活躍の場を作ってあげられなくて。それで“セイバーウォーズ2”で自分にお鉢が回ってきたので、ジェーンとイシュタルのコンビで宇宙の賞金稼ぎにトライしました。やりたかったんです、宇宙ロードムービー。

――4周年ではデザイナーさんの自主的な提案から予定外のキャラクターが生まれた“信勝事件”のお話がありましたが、この1年間で似たような事件はありましたか?

武内さすがに“信勝事件”に匹敵するような事件はなかなか起きませんが(笑)。とはいえ、先ほどお話ししたスペース・イシュタルのように、デザイナーさんのほうから「もっとこうしたい」という提案をもらってキャラクターが膨らんでいくことはありましたね。たとえば清少納言は、デザイナーさんがすごく気合いを入れてキャラクターを膨らませて、ライターさんもそれに見合うようにがんばってくれました。個人的には清少納言の宝具演出が、すごく豪華でよかったなと思っています。

――いろいろなパロディも生まれましたね。

武内ああいう風な広がりかたをするというのは、ちょっと驚きましたね。

奈須史実の清少納言は、当時最先端の流行を創り上げた人なので、実装するならみんながドン引くぐらい新しいものにしないとダメだろうと思い、Mika Pikazoさん(※3)にお願いしました。

武内清少納言を出すかどうかには、企画会議で「まだ早い」という意見もありました。 でも、Mika Pikazoさんにお願いするなら、このデザインラインでいいキャラクターになるはずだと。

――「まだ早い」というと? 

奈須紫式部を出した1年後に清少納言を出すと、いかにも連続しているように見えてしまうので。清少納言ありきの紫式部だったのでは、と思われるのは避けたかった。紫式部はある意味、あまり前後を考えずに制作したキャラクターなので、ちょっと忘れたころに出てきたほうがいいのではと思ったのです。

武内ユーザーさんが想像がつきやすい感じで出してしまうのは避けたいけれど、このタイミングで出すならおもしろいのではないか、ということになりました。

奈須有名どころはほぼ使い切っているので、この先は「誰?」というサーヴァントが増えてくるとは思います。それでもまだまだ、みんなが好きになってくれそうなネタがたくさんありますから、大丈夫な気がします。

武内織田信長や沖田総司のように誰もが知っている英雄を扱う、ぐだぐだ系のサーヴァントのほうが、むしろ異端なんですよね。あまり有名ではない英雄に、何かをプラスして形にするというのが、『Fate』っぽいと思います。そういったキャラクターを、今後もどんどん作っていきたいと思っています。

――4周年の際のインタビューで、「アルトリア〔リリィ〕やエミヤ〔オルタ〕が登場したのは、武内さんの無茶ぶりだった」という話がありましたが、この1年間で、そういった提案で生まれたサーヴァントはいるのでしょうか? 

武内そのへんは企画会議で、みんなでいろんな提案をしているときに言っていることですから。自分がワガママを言ってキャラクターを作ってもらったというわけでは、ぜんぜんないんですよ(笑)。

奈須でもエミヤ〔オルタ〕は「イヤだ」って、3度ぐらい言ったんだけど。

武内ローンチのときはとにかく、キャラクターをたくさん用意しないといけなかったですから。最近はけっこう違っていて、まず、どういうものが求められているか、何が必要かというところから、ちゃんと組み立てています。単なる思いつきで作ってるわけではないですよ(笑)。

奈須エミヤ〔オルタ〕を嫌がった理由は、このキャラクターを成立させるためにはものすごくカロリーを使うからなんです。エミヤを否定せずにエミヤの闇堕ちバージョンを作るので、ヘタをしたらエミヤ自身を汚すことになってしまう。それでいてみんなから愛されるようなキャラクターを作るのは目に見えて難易度高かったので。『Fate/EXTRA CCC』とのコラボイベントも、もともとはBBをもらえるだけのイベントとして考えていたんですが、新宿でイマイチ活かしきれなかったエミヤ〔オルタ〕を、ここでキチンと使えれば意味ができるな、と。それもあって、あのイベントはボリュームが増えてしまったのですが。

――では、殺生院キアラはもともと出る予定がなかったのですか?

奈須キアラはボスとしてはいるけど、プレイアブルではなかったですね。でも、やるからにはプレイアブルにしたほうがうれしいですし、プレイアブルにするとバトルアクションも凝れるんです。大事なキャラクターなので、ちゃんと扱ってあげたかったという想いがありました。

新聞広告に登場したマシュとアルトリアの衣装の意味は?

――今年の5月からは、5周年記念の新聞広告企画も始まりました。

奈須あの企画に関しては、自分は「各キャラクターのセリフを監修して」と言われるまで、まったく知りませんでした。ある日突然、大量のイラストとキャッチコピーが送られてきたんです。

武内新聞広告は、アニプレックスさんが東京ドームの5周年フェスに向けて、これまでにやったことのない取り組みをしようと動かし始めた企画です。 残念ながら、5周年フェスそのものは中止になってしまいましたが……。

――残念ですね。

武内ちなみに、あの企画に対する自分の第一印象は「締切が早い!」でした(笑)。これまでの周年企画よりも、かなり早めに準備することになりました。いつもは周年に合わせて多数の絵を用意するのですが、今回は5周年に向けて盛り上がりを作ろうという形で、例年とはスケジュールがまるで違っていて。

――日本の47都道府県すべてが舞台になっているのもスゴイですね。

奈須どこかに旅行へ行くのであれば、この新聞広告が何かの指針になればいいなという意図です。 推しのサーヴァントが3騎いる人なら、その3ヵ所を回るのもいいし。それを聞いたときに、すごくいい企画だと思いました。

武内渋谷駅のジャックも、当初はもっと派手に実施する予定でしたが、コロナ禍の影響もあって、だいぶ縮小してしまいました。でも本当に、発表されてからの反響がすごく大きかったですね。

奈須各都道府県さんも新聞社さんも、「地元のいちばんいいと思う場所をご紹介します」と、好意的に対応してくださったのがうれしかったです。ただのゲーム企画ではなくて、この広告を見て観光客が遊びに来てくれると考えてくださっていました。

武内けっこうスポットごとにレギュレーションがあるんですよ。「この場所は土足厳禁なので、キャラクターにスリッパを履かせてください」とか、「この場所は風が強いので、手に物を持たせてはいけません」とか。

奈須だからこそ、説得力のあるイラストになっているんです。『FGO』側だけではなくて、各都道府県さんや新聞社さんが協力してくれたおかげで、すばらしい企画になったと思います。

――ちなみに、武内さんの描かれたマシュとアルトリアは、なぜあのデザインに?

武内いろいろありまして(笑)。いずれ「あぁ、こういうことだったのか」というのがわかると思います。

東京新聞に掲出されたアルトリア ・ ペンドラゴンの広告イラスト。東京タワーがとある宝具にも見えるが、武内氏によるとただの偶然らしい。