ある日、突如として襲い来る謎の怪獣たちによってこの世界は終焉を迎えようとしていた。これを時代を超えて集い、迎え撃つ13人の少年少女。13人それぞれの視点から断片的に描かれる物語が、あるときにはミステリーのように絡み合い、あるときには誰の心にもチクチクとした掻き傷を残すジュブナイルとなる。
そしてそれらの断片は、プレイを進めるうちにやがて大きなうねりとなり、壮大な結末に向かって突き進む……。
2019年11月28日発売のプレイステーション4用ソフト『十三機兵防衛圏』は、少女マンガに登場するような、繊細かつさまざまな背景を持ったキャラクターたちが紡ぎ出すアドベンチャーパートと、ロボット“機兵”によるタワーディフェンスを楽しむゲームパートのミスマッチが独特の世界を醸成し、それらをヴァニラウェアにしか描けない美しい──『オーディンスフィア』、『朧村正』、『ドラゴンズクラウン』からさらに発展した──ビジュアルが包み込む稀代の快作となっている。
発売にあたり、この独創的な作品の成り立ちについて、ディレクターの神谷盛治氏やコアスタッフの前納浩一氏と平井有紀子氏、アトラスの山本晃康氏に話をうかがった(神谷氏がメディアのインタビューに登場するのは非常にまれであり、今回は極めて貴重な機会となっている)。
どうしてこのような作品が生まれたのか。その発想の原点はどこにあるのか。作品が尖りすぎたために立ち塞がった課題や、数多の苦労話とともにお届けしよう。
なお、この記事は同日発売の週刊ファミ通2019年12月12日号に掲載しているインタビューのうち、およそ3割ほどの抜粋となる。同号では全48ページにわたり、『十三機兵防衛圏』(以下、『十三機兵』)およびヴァニラウェア社を特集しているので、気になる方はぜひ同誌をご覧いただきたい。
■特集: 『十三機兵防衛圏』スタートガイド&ヴァニラウェアのすべて
※本インタビューの増補改訂版となる“総括編”を公開しました。
神谷盛治氏(かみたにジョージ)
ヴァニラウェア代表。本作でもディレクションをはじめ、シナリオにメカデザインにと、大活躍を見せている。
前納浩一氏(まえのうこういち)
デザイナー。本作ではキャラクターアニメーションをはじめ、神谷氏の手の回らないところを丁寧に補佐している。
平井有紀子氏(ひらいゆきこ)
デザイナー。本作ではキャラクターのデザインとイラスト、アニメーションまで担当。繊細なタッチが活かされている。
アトラス山本晃康氏(やまもとあきやす)
本作のプロデューサー。言わばヴァニラ&神谷氏のお目付役。本記事は抜粋版のため、文中には登場しないが、週刊ファミ通12月12日号のインタビューの末尾で圧巻のアツさを見せる!
すべては2013年の年賀状から
──『十三機兵』の最初にあったものは何だったのですか?
神谷複数の視点からバラバラな時系列で描かれる物語は、昔から温めていました。ロボットというアイデアに決まるまでは、“超能力モノ”でしたが。
──いつごろから考えていたものなのでしょうか。
神谷そうですね……。これがどんな新作であるかということは明言せず、試験的に年賀状にキービジュアルを描いたのが2013年のことでした。
── すでにタイトルも決まっていますね。
神谷もともと主人公が7〜8人いるような想定でしたが、2013年ですし、13人にしようと。中二病みたいでカッコイイですしね(笑)。13人で機兵に乗ってタワーディフェンスするから、“防衛圏”です。
前納神谷さんは最初にタイトルを決めますよね。
神谷そうしないと後でコンセプトが揺らぐからね。
── “名は体を表す”ですね。
神谷もとは昔のドラマの『NIGHT HEAD』(1992年のドラマ。豊川悦司と武田真治扮する、超能力を持つ兄弟の数奇な運命を描き、カルトな人気を博した)のような超能力モノがやりたかったんですが、地味すぎて売れないだろうと(笑)。それとは別に“SF要素を全部乗せ”したいという考えもありました。
──機兵はSFからの流れなのですね。
神谷僕は『ロボ・ジョックス』(1990年の実写特撮映画。二足歩行の巨大ロボットが戦う)がやりたくて。つまり細くて速くて空を飛ぶような、いま風のスタイリッシュなロボットじゃなく、重たくて無骨で、オイルが漏れる重機のような、いかついロボットものがやりたかった。それだから世界観は真逆の、線の細い少女マンガのようにして、そのギャップを味にしたいと考えたんですね。
──だから少女マンガの要素があるのですか。
神谷僕は中学時代に、かがみあきらさんの大ファンでした。少女マンガのようなかわいいキャラクターを描かれるマンガ家さんですが、『超時空要塞マクロス』などのメカデザインにも携わられていた、“少女とメカ”の走りのような方です。
──それが『十三機兵』にも影響していると。
神谷ええ。そういうロボットと少女で、小規模ながらも、プラモ化やアニメーション化など、横に広がる可能性のある企画として温めていたんです。
──小規模な企画とは、どういうことですか?
神谷『ドラゴンズクラウン』が世界に向けたプロジェクトで苦労したので、『十三機兵』はもっと小規模なものにするつもりだったんですね。でも企画が走り出すと、「ワールドワイドでの展開で」という話になって。ずいぶん勝手が変わりましたね(笑)。
──時代背景が少し昔なのはなぜですか?
神谷じつは現代の子を描く自信がまったくなくて。だって僕はもうオッサンですよ? そんな僕が学生の会話を書いても、嘘臭くなるだろうと。だから軸となる舞台を1984〜85年に設定しました。要は自分がわかる学校生活を描き、ノスタルジックな雰囲気を出そうと思ったんです。僕が青春時代に見たキラキラしたもの、懐かしいものは全部入れて。
──なるほど、納得がいきました。
神谷ロボットアニメがいちばん盛況だったのも、そのあたりなんです。それで『十三機兵』の世界観のベースは『メガゾーン23』(『マクロス』のスタッフが手掛けた1985年のオリジナルビデオアニメ。メカとアイドル歌手、宇宙船内の都市といったモチーフが共通する)にあって。ヒロインが劇中でつぶやく「この時代、いい時代よね」を、まさに『十三機兵』でやろうと思ったんですよね。
──前納さんと平井さんは、企画の原型について神谷さんからそう説明されていたのですか?
前納僕が初めてコンセプトを聞いたのは、2015年くらいでした。「アドベンチャーゲームとシミュレーションバトルをどう組み合わせるか?」と、神谷さんから相談されたのを覚えています。その時点でストーリーの大筋はあったと思いますが、軽く聞いただけではまったく理解できないほど非常に複雑で(笑)。
平井私もだいたい同じですね。設定についてはあまり理解できませんでしたが、“ロボットと少女マンガ”だということはしつこく言われていました(笑)。
──その設定ありきで広がった企画なのですね。
神谷いえ、ラストシーンありきでした。結果に至るまでの神様視点の年表があって、さまざまな事件が起きているという。それを13人の視点で描き分けるのが本当にたいへんで、死ぬかと思いました(笑)。
設定が絵を生み、絵が物語を創る
──13人の主人公について聞かせてください。
神谷制作初期では、『十五少年漂流記』(ジュール・ヴェルヌ著の小説。無人島に漂着した少年たちの生活を描く)をベースにしようとしていたころもありました。郷登はゴードン、黒州(薬師寺の前身)はクロッスから。
前納もじっているんですよね。ほかに名前に数字を入れようと言っていたころもありました。
平井……主人公を100人くらいにすると言っていた時期もありませんでしたっけ?(笑)
神谷ええ? そんなこと言ってた? もういろいろ言いすぎて、自分では忘れてしまった(笑)。
──(笑)。平井さんは、神谷さんからどのようにキャラクターデザインを依頼されたのですか?
平井『十五少年漂流記』と言われていた段階で、いちおうテキストで書かれたプロフィールをいただきました。でも、その後はとくにありませんね。
神谷「なんか描いてくれ」みたいな感じ(笑)。
平井「昭和何年のキャラクターで、真面目な奴」程度の、フワッとした指示を口頭で(笑)。そこからイメージしたものを描いて提出すると、神谷さんからより具体的に指示があるので……。
──明確なイメージが頭の中にあるのですね。
神谷いえ、絵から決まるものもありましたから、そういうわけでもないですよ。たとえば保健室にいる森村先生は、平井さんから上がってきたものを見て、「このキャストに話をつなげる構造を作ったら成立するな」と思いましたし。猫(しっぽ)なども、「ヴァニラウェアと言えば猫だから」と言って、薬師寺が抱いている立ち絵を描いてくれたので、そこからキャスト化しました。
平井じつは、薬師寺は制作途中で東雲のデザインと入れ換わったんですよ。当初の東雲はいまのか弱そうな感じじゃなくて、元気というか、気が強そうな子でした。一度決定していたのに、ひと晩明けたら「やっぱり髪はストレートのほうが、冬坂のウェーブと対比になっていい。白と黒というのもいい」と、神谷さんが(笑)。
神谷『魔女っ子メグちゃん』(1974年のアニメ。主人公はウェービーな赤毛。ライバルは青いストレートヘア)みたいな対比(笑)。あのアニメも、ライバルはストレートヘアなので。
平井キャラクターは対になるようなデザインがけっこう多いですよね。沖野と比治山とか……。キャラクターは木田さん(ヴァニラウェアのデザイナー、木田恵美可氏。『ドラゴンズクラウン』の各種アートワークなどを担当)がデザインしたものもあります。「とりあえず描いてみて」と言われて描いたものの中から、「これはいいね」と神谷さんが選んだものが、いまの鷹宮になったりもして。
前納その時点の鷹宮はまだ、いまみたいな『スケバン刑事』(同名のマンガの1985年の実写化ドラマ。主人公の麻宮サキを斉藤由貴が演じた)でもなかったんですよね?
神谷おとなしい、寺の娘とかだったような。でも、寺の背景を用意するのがたいへんなのでやめました。
前納こんな感じでコロコロと設定が変わるんです。
神谷南と緒方は幼なじみで、家が隣りどうしで。パジャマ姿の南が隣りの家の窓を見ると、緒方が覗いている、みたいなシーンもありましたけど。こうして言葉にするのは簡単ですが、グラフィックにしようとするとすべて専用素材になりますから。
──2013年の年賀状に描かれていた3人の女の子のデザインは、ほぼ継承されていますね。
平井あれが『十三機兵防衛圏』のコンセプトアートなので、ここから大きく外してはいけないと思い、要素を引き継いで13人の中に入れ込んでいます。いまは左から薬師寺、冬坂、南になっていますね。
──その女の子のチャームポイントというのも、神谷さん好みのフィルターがかかっているのですか?
神谷設定はそうですが、 デザインに関しては平井さんに任せています。…… まあ、僕が妄想で言うことを、がんばって形にしてくれたんですね。
平井たとえば南の部室のシーンでは、「着替えシーンがあればいいなあ」とか、ありましたね(笑)。
神谷“健康少女”だとは言っていたよね(笑)。
──少女マンガというコンセプトもありますし、やはり女の子がメインなのでしょうか。
神谷そうですねえ。冬坂などはアートワークの印象に反しておっちょこちょいなんですが、滑稽なシーンは、やはり女の子より男の子のほうが、おもしろくしやすかったですよ。
何をやってもうまくいかなかった
神谷話の構成は、『中学生日記』のようにしようと決めていました。生徒ひとりひとりにスポットを当てる長寿番組で、討論形式だったりしておもしろかったんですよ。あの人数でドラマが成立しているのだから、主人公が増えても大丈夫だと思いましたが……甘かった(笑)。
前納たいへんでしたね。
神谷「アメリカのドラマっぽく展開したら、絶対にウケる! なぜ誰もやらないの?」と言っていましたが、そりゃ、やらないワケです。
前納僕がプレイステーション Vita版の『朧村正』のダウンロードコンテンツを担当していたときは、神谷さんがシナリオを書いて、僕がスクリプトを組んでいたんですね。だから今回も同じくイケると思ったのですが……。
神谷やってもやってもうまくいかなくて、原因がわからないまま1年が過ぎました。そうしている途中にも『ドラゴンズクラウン・プロ』などを制作しましたが、そちらでもパッケージを描かなければならなかったりして、なんやかんやと僕の手が止まってしまうんです(笑)。それで「構想から何年も経っているのに、作りかたさえわからないのはアカン」と、僕がスクリプトを触ることになりました。
──それで原因は判明したのでしょうか?
神谷“成立しない問題”があることがわかりました。キャラクターのアニメパーツは、“歩く”や“待機”といった基本動作用のものを活用していました。つまり、シナリオをもとに作ったわけではなかったために、組み合わせたときに違和感が出ていたんです。たとえば真面目な三浦が謝るシーンがあったとして、セリフでは心から謝っているんですが、動作は腰に手を当てているんですね。それで渋い表情をしているから、どうも反省していないように見えるという。
──基本動作では十分な演技に対応できないと。
神谷これを解決するには、手を下したポーズを作ってもらうか、シナリオを変えるしかないんですよ。その判断ができるのは、けっきょくシナリオ担当の僕だけです。だから僕がスクリプトで試して、うまくいかなかったらシチュエーションやセリフを変える。それでもダメだったらグラフィックを発注する、ということを、工数を見つつ判断していきました。ぶつかりながら掘る、という感じですね。
── それは…… ものすごい決断でしたね。
インタビュー全編は週刊ファミ通2019年12月12月号にて!
本記事でお届けするのはここまで。このほかにも着想の経緯や、イメージを形にするうえでの苦労、そして作品に惚れ抜いたプロデューサーが語る圧巻のトークなど、ゲームがより深く楽しめるようになるインタビューの全体は、週刊ファミ通2019年12月12日号(2019年11月28日発売)でぜひお楽しみください。
※本インタビューの増補改訂版となる“総括編”を公開しました。