リアルタイムな感動をユーザーに味わってほしい

――運営型タイトルにはサーバーの接続不良などの不安要素もありますが、その一方で独自の強みも多いですよね。

奈須週刊連載のようなイメージで、カードを切るタイミングをこちらで制御できるのが利点ですね。たとえば、買い切り型のタイトルだと、人によっては1、2日でクリアーできますが、運営型タイトルなら作り手の好きなタイミングでストーリーを配信できるので、1週間、1ヵ月、1年と、時間をかけて冒険を味わってもらうことができます。それがいちばんの強みかなと。実際、『FGO』の第1部は、リアルタイムでストーリーを追って1年半かけてクリアーした人と、最近遊び始めてすぐに終わらせた人とでは、クリアーしたときの感情も違うと思うんです。

――追い続けてきた人のほうがクリアーしたときの感慨は大きいでしょうね。

奈須スマートフォン向けアプリである以上、過去のストーリーはまとめて遊ぶこともできるけど、それでは新たな感動は味わえない。いま遊んでいる人にしか感じることのできない熱があって、それを大切にしないとスマートフォンでゲームを作る意味がないと思うんです。

――リアルタイムでの展開を重視すると、サービス開始時から遊び続けているユーザーと新規ユーザーのあいだに隔たりができてしまうのではないでしょうか。

奈須そこで、第1部でやったことを第2部でもう1回やることにしました。第1部完結後に遊び始めたユーザーさんにも「第1部が終わったときはこんな感じだったのか」とわかってもらえるようなことをしようと思っています。

――第1部完結のときのSNSの盛り上がりを見て『FGO』を始めたユーザーも多いでしょうし、第2部が完結したときには第1部以上に話題になりそうですね。ちなみに、奈須さんはSNSでの反響はチェックされるのですか?

奈須もちろんしています。「この人とは感性が合うな」というユーザーさんの意見を見ると、自分と近い感性で感想を言ってくれるので、参考になります。きびしい意見をくださるユーザーさんの意見もチェックして、問題視されているところや、気をつける必要があるポイントを認識するようにしています。ときにはその意見が心に突き刺さることもありますけど、見ないとマズいですし、それも『FGO』を遊んでいるから出る意見なので必ず意味がある。

――それもユーザーの期待に応えるためですね。SNSでは、第2部 第3章でニトロプラスの虚淵玄さんがシナリオを担当されたことも大きな反響を呼びましたが、これはどのような経緯で?

奈須彼には期間限定イベントの“Fate/Accel Zero Order”のシナリオも担当してもらいましたが、彼自身も『FGO』をずっと遊んでくれているんです。そんなに遊んでくれているなら、ということで、ゲームでは第1部の後半を描いているくらいの時期に「第2部ではこういう話を考えているんだけど、メインストーリーの伏線は回収しなくてもいいから、自由に書いてみる?」とお願いしました。原稿の執筆は1.5部を展開しているあいだに、と伝えていたんですけど、すぐに書いてくれて昨年の1月あたりにはもう書き終わっていました。そのシナリオが、ちょうど自分が“サーヴァント・サマー・フェスティバル!”の取材でハワイに滞在しているときに届いて。「何? この始皇帝」とか言いながら、海辺でゲラゲラ笑っていました。

第2部 第3章“Lostbelt No.3 人智統合真国 シン 紅の月下美人”で登場した星5ルーラー“始皇帝”。

――以前、奈須さんは虚淵さんのことを“皆殺しの傭兵”と称されていましたが、第2部 第3章でも“虚淵さんらしい”シナリオを期待されていたのでしょうか?

奈須あのころは『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』(※3)の第1期の脚本も書き終わっていたときで、“光の虚淵”になっていたので、シナリオも凄惨なものにはならないだろうと思っていました(笑)。始皇帝はビッグネームですし、中国史はすごく人気がありますから、舞台として扱うこともすごく気を使うので、外国でも認められているライターさんに書いてもらったほうが絶対にいいだろうと。それで、彼が適任だろうなと判断しました。

――各シナリオはライターさんに自由に書いてもらうというスタイルなのでしょうか?

奈須自分がその部の全体のプロットを作り、各章でやるべきこと、回収すべき伏線を資料にしてライターさんに渡しています。その後で、ライターさんに担当の異聞帯のプロットを練ってもらい、奈須判断で問題がなければあとはお任せです。最後に、書き終わったシナリオをこちらで監修しつつ、ストーリー全体の伏線を追加します。その作業の中で、舞台の異聞帯だけでなく第2部全体を通して登場するキャラクターたちの言動も違和感がないように整えます。

――そもそも、奈須さんは『FGO』全体で、どのくらいの作業を担当されているのですか?

奈須ライターとしての業務なら、自分担当のシナリオは当然自分が書くのですが、ほかには、全体の統括、全シナリオ・テキストの監修、サーヴァントの設定管理などでしょうか。

――サーヴァントの設定管理とは、具体的にはどういった作業なのでしょう。

奈須ライターさんから上がってきた設定テキストを読んで、理想とするゴールと照らし合わせ、『FGO』の空気感や重力から浮くようなものがあれば指摘し、ライターさんに設定を調整してもらう、といったものです。イベントのシナリオは、担当ライターさんが得意なものを任せているので基本的にはプロットの部分以外には口出しをしないのですが、例外もあります。

――その例外とは、どのような場合ですか?

奈須たとえば、ライターのAさんは、20騎のサーヴァントを管理していると。でも、担当してもらうイベントに彼の担当ではないサーヴァントも登場するという場合、どうしてもその部分のクオリティーが落ちてしまう。そういうときは、全サーヴァントを管理している奈須がシナリオを補強することになります。また、マシュやゴルドルフといったカルデアチームのセリフは、章ごとではなく部を通しての管理となるので、必然的に統括を担当している自分の受け持ちになってしまいます。『FGO』内のシナリオ監修に限定して言うと、メインストーリーは奈須が3割、担当ライターさんが7割くらいのテキスト作業。イベントは担当ライターさんが8割、奈須が2割ぐらいです。概算すると、毎月500キロバイト(全角入力で25万文字)ぶんくらい書かないと『FGO』本編は回らないのです。

――シナリオ監修だけでその作業量……。

奈須これだけに専念できればふつうの作業量だと思うんですけど、ほかにもやらなければいけないことがあるので……。3周年のときのインタビューでも言いましたが、こんなに働かされることになるとは思わなかった。ちょっと休ませてほしい……(笑)。

――(笑)。世界観部分のディレクターのようなものを増やそうと考えたことは?

奈須増やしたい。ただ、実験的に奈須がやっている総括を半年間ほかの方にお願いするというのを去年やったんだけど、結局1ヵ月で瓦解しちゃって。これが開始1年だったら違った結果になったかもしれませんが、年々やることが増えているし、責任も増えているので……。

――3周年のインタビューでも健康が大事だって仰ってましたけど、お身体は大丈夫そうですか?

奈須いまは頼れる健康の友、Nintendo Switch用ソフト『FitBoxing』に毎月鍛えてもらっているので、身体は大丈夫です。筋肉はすべてを解決します。

――今年の夏イベントは昨年のように現地取材には行かれなかったのですか? 骨休めにもなりそうですが。

奈須今年はラスベガスに行ってきました! でも、チーム全員で行った昨年とは違い、自分ひとりでした。だから、ラスベガスの雰囲気を伝えようとしても、なかなかチーム全体に伝わらなくて。現地で感じた雰囲気を出したい部分は、できるだけフォローしましたが、全員取材には及ばなかった……。行かないとわからないものですね、リゾート地の空気というのは。

――夏イベントでは毎回、水着姿のサーヴァントが登場しますが、これはどのように選別を?

奈須メインシナリオで印象に残ったサーヴァント、いいことをしたサーヴァントがすぐに水着を着ることになるのはよくないので、基本的には初めて登場してから1年が経ったら水着になってもオーケーというルールを設けています。逆に、そのルールがあるので、どんなに水着姿が見たいサーヴァントがいても1年は我慢しなくてはいけない。それよりも先に、最近スポットライトが当たっていなかったり、オルタを作りづらいサーヴァントが水着になりますね。ただ、水着にできるサーヴァントの数は毎年限られているので、その選抜はたいへんです。

毎年夏に実装される水着姿のサーヴァント。「今年は誰が、どんな水着を着るのか」と楽しみにしているユーザーも多い。

サービスを続ける中で意識することは進化を続けること

――期間限定イベントでは毎回、ユーザーに新たな形の遊びを提供しているように思いますが、何か意識されていることはあるのでしょうか。

奈須運営型のタイトルは、ずっと同じことをやっていたら遊んでもらえなくなってしまうんですよね。かと言って、いちばん最初に作った土台のシステムは壊せないので、それまでと同じ方法論でクオリティーを上げながらも、前年よりすごいものを用意しなくちゃいけない。そのことは『FGO』でも当然意識していて、アクセルはゆるめないようにしています。その点、『グランブルーファンタジー』(以下、グラブル)はすごいですよ。年を重ねるほどに、3年、4年、5年とサービスを続けていくのがどれだけたいへんなことかわかってきたのですが、『グラブル』は5年もサービスが続いているのに、アクセルを踏みっぱなしで、攻め続けている。

――スマートフォン向けアプリは手軽に始められるぶん、ユーザーの移動も激しいですから。

奈須『グラブル』はあんなにはっちゃけているのに、自分たちはまだまだお行儀がいいままで冒険できていないな、と思わされます。ジャンルは違えど、スマートフォン向けアプリの先輩として見習っていきたいです。

――『グラブル』は多彩なコラボも人気の理由だと思うのですが、『FGO』でTYPE-MOON作品以外のタイトルとのコラボすることは考えているのでしょうか?

奈須ここまでストーリーが強くなってくると、どうしても難しいんですよ。1回でも特例を許すと、「ほかの作品から来られちゃう世界なんだ」と思われてしまうので。そりゃあ、コラボしてほしい作品はいっぱいあるけど。『DARKSOULS(ダークソウル)』とか『Bloodborne(ブラッドボーン)』とか『SEKIRO: SHADOWSDIE TWICE』(以下、SEKIRO)とか。★5狩人が欲しい。宝具のコンテも頭に浮かぶンだ! いや、そもそもフロム・ソフトウェア様とのコラボを夢見るなぞおこがましい、恥を知れきのこ……! と、コラボしたい作品のことを考えると面倒くさいゲーマー論が始まります(笑)。とはいえ、第2部完結までは決まった話なので、そのあいだは他作品とのコラボは難しいかなと。完結後に、新しい世界が広がるならベルトをゆるめてもいいはずだ、とも思いますが。

――TYPE-MOON作品内での展開はいかがでしょう。第2部では『MELTY BLOOD』からシオンが登場したので、『月姫』との合流にも期待したいのですが。

奈須俺が一番やりたいわ!(笑)

――(笑)。質問を変えて、シオン以外の『月姫』系キャラはいま何をしているのでしょう?

奈須第2部では世界が漂白されて、シオン以外のキャラクターはいないんですけど、『Fate』世界における『月姫』キャラクターというのは、仮に存在していても、その半分以上はまったく違うキャラクターになっていると思います。アルクェイドは共通ですけど、秋葉や志貴がカルデアにくることはないだろうなと。ただ、シエルやアルクェイドは、設定が変わっていても戦闘能力はそのままなので、ストーリー上で戦力化もしやすい。それでも、『Fate』と『月姫』の世界が絡むことはめったにないと思います。

――では、つぎにTYPE-MOON作品とのスペシャルイベントがあるとしたら?

奈須毎年ゴールデンウィークでコラボを行っているので、その時期を楽しみにしてください。

――『FGO』と関連してアニメのこともお聞かせください。『Fate/EXTRA Last Encore』などはアニメという媒体に合わせて大胆にストーリーを変えていましたが、6章と7章はどのようになるのでしょう?

奈須6章と7章に関しては極力ゲームのままアニメ化します。2つともロードムービーとしてやりやすいですし、まだ発表して数年のものだからアレンジする必要がないと思っています。『Last Encore』はもうゲームが10年前のものでしたし、ゲームのシステムそのものがダンジョンを回りながら話が進んでいくというアニメでは成立しないフォーマットなので、変えるしかありませんでした。『FGO』はその要素が一切ないので、素直にアニメ化しようと思っています。

――『FGO』でもコラボが盛り上がったので、ぜひ『Fate/EXTRA』を現行機でリメイクしてほしいです。

奈須“奈須きのこが生きているうちにやらなくちゃいけないリスト”のひとつに、『EXTRA』シリーズのリメイクがあり、前向きに検討しています。

※3 …… 2016年に放送された、虚淵氏が原案・脚本を手掛けるテレビ人形劇。2018年には第2期が放送された。