イラストを描く際のスタンス

――キムさんはイラストを描く際、どういったことに気をつけていますか?

キム 先ほど野村さんがおっしゃっていたのと同じで、私も見る人がどう思うかを重視しています。最近はとくに、そういうことをより強く意識していますね。昔は、とにかくただ綺麗な絵を描こうとしていたように思います。『デスティニーチャイルド』は、キャラクターの過去などもゲームで描かれるので、そうした部分までイラストから感じられるようにしたいと思っています。暗い過去があるから、暗いキャラクターというわけではなく、表面ではわからなくともそれが奥底に感じられるような仕上がりにできたと自負しています。

野村 同じと言っていただくのはうれしいんですが、キムさんは自分よりぜんぜんマジメです。世に出るイラストの正しいありかたですよね。自分の絵はゲームを作る過程でできた副産物的なもので、それを後から表に出すために仕上げているだけですから。プロモーションで絵を描き下ろすこともありますが、じつはかなりしんどい思いをしています。自分としては、これは本業じゃないという思いがあるので。

――でも、パッケージイラストなどを描かなくてはいけないこともありますよね。

野村 半ばしょうがなく(苦笑)。すべてが“自分の作品”として完結できる絵を描かれている方は、本当にすごいと思っています。だからこそ、絵を単体で見ていても深みがあって、楽しいのだろうなと。

キム そうありたいです。あと余談ですが、最近私が絵を描く際に気を付けているのは、年を取ったのがバレないように、ということです。近ごろは若くて絵のうまい人があまりにも多くて、私は韓国で、“昔絵を描いていた人”みたいな扱いをされたりもするので(笑)。『デスティニーチャイルド』を日本で出すのも、『マグナカルタ』は10年以上前の作品ですし、ユーザーの皆さんにどう受け止められるかドキドキしています。

野村 ぜんぜん違和感はないですよ。『マグナカルタ』のデザインも、いまでも通用するくらいだと思いますし。

キム 個人的には当時より、いまのほうが絵が下手になったと思っています(笑)。そのぶん、キャラクターの数はたくさん描いているのですが。

野村 本当に、たくさん描かれていますよね。自分は『ブレイドアンドソウル』のときに、キムさんを真似して描くイラストレーターが出てきたのかなと思っていました。あまりのキャラクターの多さに、そういう人が関わっているのかと。

キム 『ブレイドアンドソウル』は8年間かけていますから。でも、『デスティニーチャイルド』は2年で、それ以上のイラストを手掛けています。決して手は早いほうではないし、集中力もないのですが(笑)。

野村 『デスティニーチャイルド』では何体くらい描かれたのですか?

キム 私が描いたのは150体くらいですね。

野村 え!? ゾッとしますよ……。その10分の1でもゾッとするのに。

キム 自分で会社を立ち上げてしまったので……絶対にやらなきゃいけないんです(笑)。

(キムさんがスマホを取り出し、『デスティニーチャイルド』の韓国版を立ち上げてLive2Dで動くイラストを野村さんに見せる)

野村 キャラクターが本当に多いし、ここまで滑らかに動くものは見たことがないです。

キム これは私が描いたもので、これは……妻の絵です(笑)。

野村 そうなんですね(笑)。精細で陰影のつけかたがすばらしいですね。

キム 妻は韓国では有名なイラストレーター(KKUEM氏)で、私よりうまいんですよ。彼女は『FFVIII』のスコールがすごく好きで、5回くらいクリアーしたそうです(笑)。

――ご夫婦で『FF』ファンなのですね(笑)。では、ディレクターとして気を付けていることについてもお聞きできれば。

野村 何より作品をおもしろいものに仕上げることが、第一だと思います。ですが、おもしろいかおもしろくないかは、やらないとわからないですよね。まずは遊ぼう、やってみようと思ってもらうこと。作っているものに関しては触ってもらえばおもしろいことが伝わる自信があるので、最近は、“どうやったら触ってもらえるか”を考えることが多いです。

キム 確かに、私も『デスティニーチャイルド』のディレクターをやるうえで、自分がディレクションしたゲームが日本で出るのは初めてですから、初めてゲームを見た人が少しでもゲームに興味を持ってもらうために、何をしたらいいかを考えています。

野村 けっきょくは、絵の力だとは思うんです。たとえば雑誌でもネットでも、ゲーム画面が1枚出たときに、遊んでみたいと思ってもらえるかどうか。それは画面の絵作り次第なところが大きいなと感じています。

お互いへの質問、会ってみての印象は?

――せっかくの機会ですので、お互い聞いてみたいことはありますか?

キム 自分はある程度、韓国で名前を知られているので、ゲーム内で何かよくないことがあった場合、それが自分が関係のないところだったとしても「キム・ヒョンテが悪い」といった言われかたをする場合があります。野村さんはそういった経験したことはありますか?

野村 それはなくならないので、慣れるしかないです(苦笑)。ディレクターを続けるうちに、それよりもたいへんなことがたくさん起こるので、そんなことを気にする暇がないくらい忙しくなっていきますよ。自分の仕事に自信を持ってやっていくしかない。他者の意見に左右されて自分を曲げてしまっては、事態はより悪くなります。

キム 気にしないと思っても、つい気にしてしまうんですよね。突然、体調が悪くなったりも……。

野村 やはりマジメなんですね。もう、そういった意見が目に入ることで気を病むなら、そうした情報は入れないほうがいいと思います(笑)。

――野村さんから聞いてみたいことはありますか?

野村 『マグナカルタ』は、キムさんが世に出てこられた初期のころの作品ですよね。あのときは、どういう経緯で日本でやってみようということになったのかなと。

キム 『マグナカルタ』のころは、韓国でPCオンラインゲームが流行り始めた時期で、パッケージゲームの市場はほとんどありませんでした。PCオンラインゲームもスマホゲームも、サービスが終わってはいけないですから、エンディングがないですよね。それらのエンディングというのは、ユーザーが引退するときを意味していて、引退する理由の最たるものは、ゲームが楽しくなくなったとき。それは、ユーザーにとっていい経験ではないわけです。当時『マグナカルタ』を作ったスタッフたちは、しっかりとエンディングのあるものを作りたかった。ですが、韓国ではパッケージゲームを作る環境も、売る環境もなかった。それができる場所を求めて、日本を選んだという背景がありました。

野村 なるほど。『デスティニーチャイルド』は北米などで展開する予定は?

キム いまは日本のみですね。機会があれば全世界でやってみたいです。

野村 見ていると、北米もありなんじゃないかなと思いますね。市場も大きいですし。

キム ホントですか!?

野村 北米にもないタイプだと思うので。ちなみに、ストーリーはどういうものに?

キム 主人公は悪魔なのですが、その中でも地位はかなり下のほうで、コンビニでバイトをしていたりします。そんな彼が、ヒロインである3人のサキュバスにサポートされて、次期魔王を決める戦いに巻き込まれていくというストーリーです。キャラクターは300体くらいいて、みんな主人公と何かしらの絡みがあります。

野村 オンラインゲームには終わりがないというお話がありましたが、『デスティニーチャイルド』はどうなるのか気になりますね。最近はストーリーをシーズンで区切って、いったんのエンディングを迎えるという手法も出てきていますが。

キム 『デスティニーチャイルド』もその手法を取っています。最近、韓国で第1章が終わったところです。

――日本でのサービス開始の日程の目途はついているのでしょうか。

キム まずは東京ゲームショウ2017でプレイアブルをようやくお披露目できましたので、情報出しを継続しつつ、スマートフォン版については年内にサービス開始できるよう準備を進めています。……生意気かもしれませんが、尊敬する野村さんと、いずれ何かいっしょにできたらいいなと思っています。

野村 全部のイラストがうますぎて、この中に自分のキャラクターを置くのは気が引けます。先ほどゲームを拝見したときに見かけた、キューブみたいなキャラだったらいけますけど(笑)。

キム それでもいいです!

――野村さんの絵がLive2Dで動くところを見てみたいですね。ちなみにキムさんが、とくに気になっている野村さんのタイトルはありますか?

キム 『キングダム ハーツIII』も気になっていますが、もっとも注目しているのは『FFVII リメイク』です。いろいろな意見があるとは思いますが、制作する側が納得できるもの、いちばん作りたいものをしっかりと作りきってほしいです。あとは、いま発表されているタイトル以外で、野村さんが手掛けるつぎの作品がどんなものになるのかを早く知りたいですね。

――野村さん、進捗は……?

野村 言えないです。言うと怒られます(笑)。両作品とも注目度が高いタイトルですし、情報をお出しするにあたっては関係各所でルールがきびしく決まっていますので。いまはずっと重いものを背負って山を登っている感覚なので、少し落ち着いたら身軽に作れる作品をやりたいですね。

――今回初めてお会いして、お互いの印象はいかがでしたか?

キム 今日お会いして、野村さんはやはりゲームディレクターとしての側面が強いのだと思いました。クリエイターからのメッセージというものはゲームを通じて伝えるものだと思うので、野村さんのつぎの作品が早く世に出るよう、期待して待っています。

野村 がんばります。キムさんは……イラストと同じく、シュッとしてるなと思いました(笑)。何かこう、汚れていないような、綺麗な人だなと。自分のやさぐれ具合を痛感しました(笑)。

キム いえいえ、初めてお会いしたので、まずはいい印象を与えないとなって(笑)。時間があるときに、もっとお話したいです。

――最後に、おふたりの作品を楽しみにしているユーザーの皆さんにメッセージをお願いします。

キム いままで作品を日本で紹介する際は、直接携われず歯がゆい思いもしていたのですが、今回は初めて自分の手で直接皆さんにお見せできるので、日本デビューのような気持ちもあります。新人のように、一生懸命やっていきます。『デスティニーチャイルド』では、いままでのスマホゲームにはないほどダイナミックで、クオリティーの高いものをお見せしますので、ぜひ注目してください。

野村 静止画だけでは『デスティニーチャイルド』の真のすごさが伝わりにくいので、やはりもっと動いているところを見せる機会を増やしてほしいですね。動きも個性があって、日本のユーザーも見れば絶対に驚くはずです。自分の関係しているタイトルとしては、東京ゲームショウ2017では『ディシディアFF NT』以外とくに新しい発表はありませんでしたが、仕込んでいるものは多々ありますので、アナウンスの順番をお待ちいただければと思います。