“ガチャ”システムはレベル格差を解消する目的で考案された

──個人的にですが、いまのオンラインゲームがこれほど駆け足になってしまっている状況は、プレイ自体を基本無料にして、アイテムに課金するという仕組みを持ち込んだネクソンさんに比較的大きな責任があると思っています。それについてどうお考えですか?

山崎 アイテム課金の仕組みを日本で初めて取り入れたのは『メイプルストーリー』ですが、じつはこの試みは韓国でも当時初でした。開発はWizet社、ネクソンが日本のパブリッシングを受け持つ形で公開したのですが、ゲームに大幅な改修を加えて月額課金に転換するよりも、日本で新しい課金形態に挑戦したほうがいだろうということでアイテム課金を選択したのです

──なるほど。

山崎 ところが、かつてユーザーさんに揶揄されてきたことでもあるのですが、(アイテム課金が発足する前に)Wizet社のプロデューサーの方が「アイテム課金の商品はアバターが中心で、キャラクターの能力に関わるものは一切売り出しません」と、インタビューで答えていたのです。

──そうだったんですか。

山崎 たしかに最初はその方針で進んでいたんです。実際にゲーム公開当初は、プレイそのものは最後まで無料で、「より楽しみたいならアバターや拡声器(チャットの発言をサーバー全体に届けるアイテム)などを購入してください」というスタンスでスタートしました。この頃は、新しい課金方法をテストする狙いもあったので、「ユーザーさんに新しいゲームの選択肢を提供できるかも」と期待していました。ご存じかとは思いますが、当時はネクソンも含めて、レベル10くらいまでの育成が無料でそこから先をプレイするには月額課金が必要になるタイトルが大半でしたので。

──たしかに当時はそういうタイプが多かったですね。体験版みたいな感じでしょうか。

山崎 問題はその後で……(苦笑)。

──プロデューサーさんの発言にも関わらず、課金アイテムがキャラクターの成長に影響を及ぼすようになってきたわけですね。

山崎 それにもじつは理由があります。最初に入った機能系の有料アイテムは、取得経験値が2倍に増えるサクサクチケットです。当時、『メイプルストーリー』が無料で遊べたこともあり、社会人や学生だけでなく、小さなお子さんから主婦の方まで幅広くプレイされていました。そうすると当然ですが、週末を迎えたときに(プレイ時間が限定されがちな)社会人の方のレベルがほかよりも低い状況が生じ始めます。我々は本気でその問題の解決を考えた結果、“土曜と日曜”と“1日のうち4時間のあいだ”、経験値を2倍にするチケットの発売を決めたのです。

──レベル格差を解消するために導入されたのですね。

山崎 社会人の方は資金力に恵まれていると思うので、サクサクチケットを介して、ほかのプレイヤーとレベル面で足並みを揃えてもらおうと考えたのです。

──プレイ時間が原因で制約を受ける方を救済しようという精神は、ネクソンさんを含めたいろんなメーカーさんに受け継がれています。

山崎 はい。ですが実際にそれを売り出してみたところ、何しろ1ヵ月につき1000円程度と手ごろな価格設定だったため、多くの学生や主婦の方も購入されました。その結果、当初想定していたレベル格差の解消につながらなかったのです。

──たしかにそうだったかもしれません。

山崎 とはいえ、一度売り出したものを引っ込めるわけにもいかず……というのが、サクサクチケットがたどってきた経緯です。
 『メイプルストーリー』はビッグバンアップデート(2010年12月から2011年1月にかけて実施された大型アップデート)のときに、他国と状況を合わせるという理由もあり、サクサクチケットの販売が終了になりました。ビッグバンのタイミングでレベルアップの速度が大きく上がったということもあります。その後は5次転職アップデートのタイミングなど、イベント的に販売をするようになりました。
 大きな経験値取得のブーストが恒常的に入らないと、やはり販売を終了することはできなかったと思いますし、ある意味ではいまは望み通りの形になったと思います。

──では、サクサクチケットの後に登場したガチャのシステムについてはいかがですか?

山崎 現在の課金のありかたにも大きな影響を与えているガチャシステムですが、当時、私自身も企画に参加していました。
 そもそもの話をすると、ビデオゲームのおもしろさは、ボードゲームのサイコロを振る部分をコンピューターが肩代わりしてくれるところに本質があります。ゲーム内にはすでにそういった部分があるので、そこからさらに上乗せできる何らかのシステムを考えたい……というのがきっかけです。

──なるほど。

山崎 現実世界に存在するランダム性の強い要素をいくつかピックアップし、それらを精査した結果、ガシャポンの仕組みに行き着きました。
 そこで『メイプルストーリー』のマップ内にキノコ型のガチャベンダーを設置。現実世界と同様に100円で1回挑戦できる形にしたうえで、ユーザーの方々がより楽しめるよう、装備レベルを無視したアイテムを景品として用意しました。自分の使えない武器や防具が出ることもありますが、他者との取引が可能なので、通常のモンスターからドロップする武具よりも(性能の)振り幅が大きいアイテムを入れることにしました。この場合、ガチャを利用されない方とのあいだで不公平感が出てしまうという問題が生じます。
 そこで、一般的な武器や防具の振り幅がプラス/マイナス5であるところを、ガシャポンの景品についてはプラス/マイナス10に(抑えるつもりで)設定しました。ただ、予想以上で……。

──振り幅が大きかったと。

山崎 やはり既存の品物よりも性能がプラスに作用するので、「モンスターを狩るよりも強い武具が出るよね」という話になってしまって……。もちろんマイナス性能が付与されたアイテムも出るので一概には言えませんが、結果的にガチャの景品がたくさん使われるようになりました。初期の販売数はそれほどでもなかったんですが、ユーザーの方の利便性を考慮して“ガチャを職業別に用意する”といった施策を追加していくにつれて、売り上げが増加していきました。

──ガチャが、ひとりでに走り始めてしまったのですね。

山崎 アイデア自体はすでに現実世界に存在したものなので、さほど目新しいものではありません。ですが、当時はここまでオンラインゲームと相性がいいものだとは予測できませんでした。

──お話を伺っていると、当時はPay to Win(課金するほど有利になる状況)寄りの状況になってしまった印象もあります。やはり忸怩たる思いはおありなのでしょうか?

山崎 そうですね。ただ、PCオンラインゲームは最初からたくさんのコンテンツが入っていて、かつレベル帯も幅広いため、それに向けた武器や防具も膨大に存在します。『メイプルストーリー』も同様の作りなので、さほど大きな影響は及ぼさないと判断しました。……正直に申し上げると、最近のモバイルゲームなどで採用されているガチャの仕組みは、(当時の我々が考案したものとは)別物だと思います。

──たしかに設計思想の違いは感じます。とすると、たとえば新聞などでガチャの問題が取り沙汰されてもショックは……?

山崎 私たちが考えたものとは違うと思っていますので、まったくショックを受けません。いわゆるコンプガチャ(※)問題が発生した当時は、あまりソーシャルゲーム業界のブームの恩恵を受けていませんので。『メイプルストーリー』のガチャは、先ほどお話しした初期のコンセプトをいまでも大切に守り続けています。

(※コンプガチャ:ランダムで入手できる複数のアイテムを揃えることで有利になったり別のレアアイテムが手に入ったりするシステム)

──少し意地悪な質問になってしまいますが、業界全体に与えた影響についてはどうお考えですか?

山崎 業界に対する影響に関して言えば、よくも悪くもかなり大きなものがあったと思います。変化が大きければ、やはりいい面も悪い面も大きくなるのは致し方ないことだとも思います。
 Free to Playやガチャのシステムが使えるものだと分かれば、同業他社が参入するのは企業として当然の流れでもあり、後はいかに悪い面を出さないようにするのかは、各企業に委ねられるものなのだと思います。
 かけ足になったか否かについては、PCオンラインを見てきた私からすると、PC市場ではそれほどかけ足になったという印象はなく、モバイル市場でこそ急速にしかも激しく変化していったと感じています。それがよかったのか悪かったのかはプレイをする皆さんが判断することだとは思いますが、やはりFree to Playという形を提供できたこと自体には悔いはありません。

基本プレイ無料の発明はユーザーに新たな選択肢を提案できた

──基本プレイ無料/アイテム課金の仕組みを初めて導入されたことで、日本におけるオンラインゲームの市場は劇的と言っていいほど変わったと思います。この部分について山崎さんはどうお考えですか?

山崎 Free to Play(基本プレイ無料)に関して言えば、月額ではない支払い方法という新しい形をご提供できたことは、ユーザーの皆さんにもプラスだったのではと思っています。ゲームを最後まで無料で遊ぶ方もいらっしゃいますし、実際にそういう楽しみかたができるというのは、ひとつの可能性を提示できたのではないかなと。

──基本プレイ無料を前提としたゲームにおける運営のやりやすさは、どのへんにあるのでしょうか?

山崎 やりやすさで言えば、ゲームに触れる際の最初のハードルを低く抑えられるのは大きなメリットだと思います。課金を行わなければならないタイミングが訪れないので、ゲームデータをダウンロードしてプレイをはじめるだけで、手続きなしでどこまでもレベルが上げられます。

──間口が広く取れるわけですか?

山崎 そうですね。そこはすごく重要だと思います。

──少額決済やアイテム課金の仕組みを考える際に、いちばん気を付けていること、あるいは大切にしていることは何でしょうか?

山崎 ゲームにもよりますが、PvPが存在するタイトルや、FPSなど対戦がメインになる作品に関しては、絶対にPay to Winになってはいけないという思いがあります。いまでもそのことをチームメンバーに話していますので、絶対的なことだと考えています。

──Pay to Winかそうでないかの境界線は、人によって判断が分かれるような気もします。そうした線引きについて、山崎さんはどうお考えですか?

山崎 たとえばFPSであれば、課金アイテムも含めて、ゲーム内のマネーですべてが手に入ることが重要でしょう。それが対戦で使える武器であれば、なおさらです。

──そのラインを踏み越える要素は、基本的に売り出さないと。

山崎 はい。ですがPvEのような対人と無関係の部分であれば、課金で手に入る武器のほうがある程度強くても、プレイヤースキルの差を縮める救済策という意味ではありだと思います。

──さきほどお話になられた、“下の層のプレイヤーが上の層に近づける手助けになる”という思想が基本にあるわけですね。

山崎 強い人がさらに強くなってしまったら、そもそもの意味がなくなってしまいますので。……予期せずに、そうなることもありますが。

──なかなか「あなたは強いので使わないでください」とはならないですよね(苦笑)。

山崎 (特定の人は)使えない、というふうにはできません。

ネクソン日本法人が今後取り組むべき課題とは

──仮にプレイステーション4へのマルチプラットフォーム化が行われる場合、現在のFree to Playの仕組みは適切であるとお考えですか?

山崎 プレイステーション4向けのタイトルの多くは、どちらかといえばダウンロード販売などの形態のほうが浸透していると思います。タイトルの性質やゲームシステムなどを考慮しながら、作品ごとに判断すべき事柄だと考えています。

──プレイステーション4で遊んでいる人とPCオンラインゲームをプレイしている人のあいだで、課金の概念みたいなものが違うのかなと思う部分があります。プレイステーション4のユーザーに、Free to Playの考えかたは馴染むのでしょうか?

山崎 他社さんがそうした課金モデルの取り組みを少しずつ進めているのは承知しています。ネクソンがプレイステーション4で出すとしたら、これは仮定の話ですが、たぶんマルチプラットフォームのタイトルが多くなるかなと思っています。その場合は、(複数のプラットフォームに)同時に出すのか、あるいはPC版を先に発売してからプレイステーション4版をリリースするのか……といった、順番によっても変わってくるだろうという感触です。ですが、いずれにしても、やはりゲームシステムにマッチしたものを選択すべきだと思います。

──そもそも、設定された課金形態にふさわしいゲームとして開発されているわけですからね。

山崎 ですので、仮に現在サービス中のFree to Playのタイトルをプレイステーション4でリリースするとしたら、そのままFree to Playで行くことになるのかなと。

──今後プレイステーション4に軸足を移すことがあるとしたら、Free to Playではない課金システムを採用した新たなゲームが登場する可能性が出てくるわけですか?

山崎 その可能性もあると思います。

──ところで、昨年のネクソンさんはオフラインイベントをたくさん開催されてきましたが、2017年はいかがでしょうか?

山崎 オフラインイベントは、大型アップデートの中身を発表する場という意味合いだけでなく、長く遊んでいただいているユーザーの皆さんへの感謝の気持ちを伝える機会でもあるので、何かが大きく変わることはありません。おそらく例年通りでしょう。個人的には、新しいタイトルのオフラインイベントが開催できたらいいなと思っています。

──ネクソンさんにとって2017年は、どのような年になりそうですか?

山崎 くり返しになりますが、「PCを買ってでもプレイしたい」と思えるようなタイトルをうまく日本市場に出せるよう努力してまいります。口に出すのは簡単ですが、実際にはなかなか難しいという現実も重々認識しているところです。「PC向けゲームの市場が縮小している」と言われ続けないよう、2017年だけでなくそれ以降も、継続的にがんばっていきます。

──「PCゲーム市場は冬の時代」という言葉を耳にすることが多いのですが、こちらについて山崎さんの認識をお聞かせください。

山崎 冬の時代は、たっぷり経験してきた気がします。当社に関して言うと、2016年に入ってから好調なタイトルが出始めてきましたので、PCゲーム市場は終わったわけではないと思っています。本当に、PCを買ってでもプレイしたいタイトル(の発掘および提案)に尽きるのではないかと感じているところです。
 もちろんタイトルをスタートさせるだけではなく、ユーザーの皆さんを継続的に惹き付けていくことも大切です。それこそが、ネクソン日本法人の私の部署が取り組まねばならないことだと思っています。

──本日はありがとうございました。

 山崎氏はネクソン日本法人の黎明期を知るだけでなく、オンラインゲームが歩んできた歴史そのものをリアルタイムで体験されてきた方。技術の進化などに伴い、システムの洗練・細分化が進んだ現在にあって、同氏のような“オンラインゲームが持つ根源的な魅力”を熟知している運用責任者は本当に貴重だと思う。初期のMMORPGのような楽しみを秘めた作品がいまの時代に再び世に送り出され、かつそれが若者に受け入れられる日が訪れることを、おやじプレイヤーのひとりでもある筆者は願ってやまない。