──なるほど。この機会に、ロゼについても詳しく教えてください。

馬場 ロゼは、スレイたちの心理的、内面的なカウンターを担うキャラクターとして、彼らと対になるような形で描きました。スレイ、アリーシャ、ミクリオ、ライラは、それぞれに個性がありつつ、同じような生真面目さと情動傾向を持っています。スレイの悩みを自分のことのように共有し、いっしょに苦悩する優しさを持っていますが、それは同時に、スレイと同じ視点で“挫折”という袋小路に陥ってしまうということでもあります。アリーシャとの別れを経て、立ちはだかる現実の壁を思い知ったスレイたちの前に、ロゼは、これまでとは別のアプローチを提示する役割をもって登場します。現実という壁の厚さと高さに悩むスレイたちに対し、ロゼは持ち前の明るさで、「脇に廻れば、壁の後ろに出られるかもよ?」、「どっかにドアがついてたりして!」、「そもそも、この壁って越えないといけないものなの?」といった、スレイたちが思いもよらなかったアプローチや視点があることを提示し、気付かせてくれます。スレイたちは、そんなロゼからの新しい刺激を受けて、それぞれが再び自分らしく前に踏み出していくのです。

──ロゼには、ヒロインとして異質な“暗殺者”という裏の顔があり、その描写もユーザーのあいだで話題になりました。

馬場 彼女の明るさや人懐こさ、前向きな思考といった善なる性質は、スレイとよく似た生来の“才能”です。その一方で、“仕事人”として、殺人という異常な行為を受け入れるという、スレイにはない特別な面を持っています。ロゼが現実にとらわれないのは、半ば天性の性質なのですが、さらには、一般の感覚からかけ離れた裏社会で生きてきた人間だからこそ、とも言えるわけです。もちろん、たとえ仕事人であっても、“殺人”はけっして肯定されるべき行為ではありません。しかしそれは、きびしい現実の中で「人を生かそう」とする導師が、必然的にぶつかってしまう大きな壁でもあります。導師は純粋さを保たねばならない、けれど、さまざまな人の思惑とぶつかる導師の使命は、純粋な“善なる者”では果たせないという矛盾をはらんでいるのです。そして、スレイの純真さだけでは越えられない壁を打ち破るための鍵が、「仕事人として殺す」ことに強い覚悟を持っているロゼの存在なんですね。でも、それは同時に、ロゼというキャラクターが異端者であり、ずっと変わることのない日陰の存在であることを意味します。世界の影で孤独に戦う導師の、さらなる影。導師の純粋さを補う、負の半身というわけです。これは、スレイと同じ善なる存在であるミクリオたち天族や、アリーシャにはけっして担えない性質の役割でした。

──ロゼがスレイたちの冒険に加わってからは、きびしい現実を思い知ったうえで最善の答えを探し求めるストーリーになっていきますね。

馬場 導師とは、伝承で語られているような単純な正義のヒーロー、単なる救世の英雄ではありません。ストーリーのエンディングでスレイがみずからを封印した後、ロゼは導師の使命を受け継ぎますが、それはまさに、人知れず孤独に憑魔や悪と戦い続ける人生を選ぶということ。それからの彼女の生きざまは、けっして人々から讃えられるような日の当たるものではなかったでしょう。もちろん、彼女に後悔はなかったと思いますし、彼女を理解するミクリオたちや、風の骨(ロゼが頭領を務める暗殺者ギルド)の仲間たちが、最後まで彼女のそばにいたと思います。こういった役割と、本作のストーリーを構築するうえでの思いをもって、ロゼをヒロインとして作り上げていきました。

──なるほど……。本作は、遊んだ人がさまざまに解釈できるストーリーになっていただけに、“その後”をアリーシャの視点で描く『アフターエピソード』にも注目が集まりました。その受け止めかたも人それぞれかと思いますが、ひとつだけ教えてほしいことがあります。『アフターエピソード』は、そこはかとなく“続き”がありそうな終わりかたでしたが、あれはどういう意図なのでしょうか?

馬場 本作の公式コンプリートガイドのインタビューで申し上げたことと重なりますが、『アフターエピソード』の“続き”をダウンロードコンテンツで出す予定は当初からありません。さらに明かしますと、『アフターエピソード』の最後に“To be continued.”という表示が出ますが、あれは、『ゼスティリア』本編のエンディングへ続くという意味なんです。

──ええっ!? そうだったんですか! そう説明してもらえれば理解はできますが、『アフターエピソード』の中で理解するのは難しいですよね……?

馬場 これについては、ユーザーの皆さまからご意見をいただきまして、ダウンロードコンテンツのさらなる続きがあるように受け止められても仕方のない、わかりにくい表現だったことを我々も理解させていただきました。ではなぜ、あえて“To be continued.”にしたのか、その経緯をご説明します。『アリーシャ アフターエピソード -瞳にうつるもの-』の制作が決まった際、その内容を検討する会議において、「『ゼスティリア』の“その後”ではスレイがパーティーにいない中で、アフターエピソードの最後に“Fin.”のような表示が出ると、スレイが不在のまま『ゼスティリア』の物語が終わることを念押しされた気分になりかねず、アフターエピソード自体の読後感もよくないのでは」という懸念が出てきました。そこで、“Fin.”ではなく、「本編エンディングの最後、成長したミクリオが登場する遥か先の時代まで、世界は続いていく」という意味の文言にしてはどうか、という意見が出たんです。それはよいかもしれないと、“The world will continue.”など、英語や日本語でいくつかの別案を考えました。しかし、それはそれで意味がわかりにくかったので、検討を重ねた結果、わかりやすい文言で、なおかつ本編エンディングで描いた『ゼスティリア』の世界に則し、「世界はこれからも続いていく」という意味の“To be continued.”に決めたのが、ここに込めた思いの経緯になります。いま振り返ると、僕たちはいろいろなことを小難しくナイーブに考えすぎてしまったのかもしれませんが、やるからには描き伝えたいと試行錯誤した結果でした。

▲『アリーシャ アフターエピソード -瞳にうつるもの-』より。

──アリーシャの離脱や、ロゼの覚悟、本編のエンディングなどは、「プレイして初めて知ってほしい」という思いがありつつ、「プレイした方なりに解釈してほしい」要素として描写したわけですよね。今回、そのような思いも強かったことは、発売前のインタビューでうかがっていました。それでも、とりわけ各キャラクターの心理描写に関しては、そこをあえて明確にしていなかったのは、ある意味ではとても勿体なかったように思います。

馬場 “答え”をどこまで描写するか、どの情報を、どのタイミングで、どこまでお出しするべきか、発売前に検討を重ねるのは毎々のことなのですが、本作ほど悩ましかったタイトルはこれまでにありませんでした。僕たちとしても、今回のことを事前に予測できていたら、情報公開について違う判断をしたかもしれません。

──もうひとつだけ、あえて聞かせてください。一部のユーザーの方からは、特定の声優さんに肩入れするような理由でシナリオを改変したのではないか、という声も上がっているようですが……?

馬場 そのようなことは、断じてありません。『テイルズ オブ』シリーズのストーリー、ゲーム性は、開発チーム内で幾度となく協議を重ね、全員で作り上げているものです。もしも、僕や一部のスタッフが私情を挟んだり、圧力をかけるようなことがあったとしたら、チームそのものが崩壊し、『テイルズ オブ』シリーズを今日まで続けることは到底できなかったはずです。これまでも、これからも、チームが一丸となって開発していくことに変わりはありません。

──わかりました。願わくば、今回のインタビューがひとりでも多くのユーザーにとって、『ゼスティリア』を改めて解釈したり、『テイルズ オブ』シリーズのこれからに期待するひとつのキッカケになってほしいです。

馬場 作り手の思いや、作中で伝えたいテーマについて、これからはよりストレートに描写することを志向していきます。重ねて申し上げますが、いまの僕たちにできるのは、次回作に向けて全力を挙げることに尽きると思っています。どうか引き続き、『テイルズ オブ』シリーズを見守っていただけると幸いです。

──僕もユーザーのひとりとして、『テイルズ オブ』シリーズがつぎのアニバーサリーに向けてさらに進化してくれることを望みます。

馬場 ありがとうございます。僕たちがこれまでの20年間を歩んでこれたのは、シリーズを遊んでくださるユーザーの方々がいらっしゃるからこそです。昨今、『テイルズ オブ』シリーズを開発する環境は、数タイトル前から大きく変わってきておりますが、どんな限られた環境にあっても我々はチームとして、自分たちにできることに全力を尽くしていきます。これからも、どうぞ宜しくお願いいたします。

(C)いのまたむつみ (C)藤島康介 (C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

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