『Nour』操作に反応して麺やタピオカが宙を舞い、ドーナツたちが踊りだす。PS5/PC対応のフードでアートなインタラクティブ作品を紹介。日本発売も予定

　一人称視点アドベンチャーゲーム『Firewatch』や、ガチョウになっていたずらしまくるゲーム『Untitled Goose Game』などを配信したインディーパブリッシャー、パニック。同社が新たにパブリッシングを手掛けるのが、Terrifying Jellyfishによる『Nour: Play With Your Food』だ。

　海外で先月末にPS5タイトルとして映像が公開され、なにやら食材がスタイリッシュに動き回る様子に「なんだコレは？」と思った人も少なくないだろう本作を、幸運にも数年前に本作を遊んでリポートしている本誌記者が紹介しよう。

食材がコントローラーに合わせて動く、飛ぶ、増える

　さて本作、ゲームというよりどちらかと言えばゲームコントローラーなどを使った（ちょっとバカゲーっぽいノリも感じられる）インタラクティブアート作品というのが近い。

　本作には、タピオカティーやラーメン、ハンバーガー、ドーナッツ、弁当などの料理をテーマとしたステージが20以上収録される。だがそこに、目標スコアやら倒すべき悪やら目指すべき完成図なんてものは存在しない。

　じゃあ具体的に何をするのか？　スタイリッシュなグラフィックとサウンドにノリつつプレイヤーがさまざまな入力を行うことで、そのステージに対応した麺やタピオカなどの食材が物理演算でスタイリッシュに宙を舞ったり、ボタンの組み合わせで思わぬハプニングが起こったりするシュールな光景をひたすら愛でるのだ。

　というわけで、感性が合うか合わないかによって人を選びまくる内容なのは間違いないだろう。ボタンを押すたびにむやみに増えていくパンケーキや、かわいくバスタブに入ったアイスにチョコスプレーがかかるのを見て「で？」と思う人がいても仕方ない。それが面白い人向けの作品なのである（もちろん記者はそれが面白い側だ）。

　個人的には、次世代の振動や入力の手応えが感じられるというプレイステーション5のDualSenseコントローラーで遊ぶと食材の感触までムニュムニュ味わえたりするのか気になりまくりだ。

　発売時期は今後発表予定なものの、これまでのパニックタイトル同様、日本でもパニックジャパンから配信予定。なおプレイステーション5以外にもPC/Macに対応し、PC/MacではDJやクラブ系のアーティストが使うUSB接続などのMIDIコントローラーでもプレイ可能だという（記者が2017年に試遊した際もヒップホップ系のアーティストが使うMIDIコントローラーでプレイした）。

フードとアートとビートが好きな人のためのインタビュー

　ここまで読んでいる人は相当のスキモノだと思うので、本作の首謀者であるインタラクティブアーティスト・TJ Hughes氏へのディープなメールインタビューもお届けしよう。

――「食べ物という大体みんな興味があるものがなにか自分の操作に反応して面白い動きをする」というインタラクティブアートに近い作品ですが、このプロジェクトはどのように始まったんでしょうか？

TJ　『Nour』は個人的なアートの実験でしかない、ゲームですらないものとして始まったんだ。開発を始めた当時、どうやってシェーダー（※）を作るかわかってきたので、何か自分の能力を試せるものを作れないか模索しているところだった。（※グラフィック用プロセッサでさまざまな画作りやアニメーションなどを行うための処理）

　それで自分はカラフルなものが好きなんだけど、その頃ちょうどタピオカティーを初めて飲んで、「コレ何かやってみるのに丁度いい題材じゃない？」となった。それでタピオカをテーマに画像を作ってTwitterにアップしてみたら、みんなから「タピオカティー飲みたくなった」とか、見ただけで味が思い浮かんだといった反応が返ってきて、そこから“ビジュアルだけで味が思い浮かぶもの”というコンセプトに惹き込まれていったんだ。

TJ　当時はまだインタラクティブ性はなかったけど、友達がこれを地元のアート展に出そうと言ってきたので、そのショーのために新たにコントロールを足してみたら、反応はものすごくポジティブで、みんなのリアクションも見られてとても良かった。

　後はもうそこから進めてきたという感じだね！　もっとたくさんの人のリアクションを見るためにどんどん制作を進めて、Twitterでの反応からゲーム的な動きも出てきた。でも、自分の部屋で午前2時にダラっとしながら作り始めた時は、まさかゲーム機での発売が決まるなんて思わなかったよ。

――どのように今回のパブリッシング契約が決まったんですか？　非ゲーム的な作品と契約するのはチャレンジだったのでは？

（この項目のみ、パニック担当者）　私達はまず自分たちが個人的に興奮できるゲーム、そしてパニックがビジネスやマーケティング面で関わることで開発者がそのゲームにとって最高の形へ仕上げることができ、より広い人々に届けられることを助けられるようなゲームを探しています。

　私達はKickStarterでのクラウドファンディングのバッカー（支援者）でもありましたし、『Nour』を期待して待ってきました。それで『Untitled Goose Game』をリリースできたあと新たなプロジェクトを探すにあたって、『Nour』は非常にユニークなゲームで伝統的なゲーマーにその魅力を伝えるのはチャレンジになりうるものの、食べ物が好きな人やアートが好きな人、そしてTJの作り出す美しいシーンで楽しみたいという、より幅広い皆さんにアピールできるかもしれない点が決め手になりました。

――2017年に一度取材していますが、そこからどのようにパワーアップしてきたんでしょうか？　シェーダー？　ステージやそこで起こる事のバリエーション？　あるいはアニメーションでしょうか？

TJそりゃもう、このゲームのすべてがパワーアップしてるって言えるね！　今はパブリッシャーと働けているので、自分の夢のゲームにするために必要な助けも得られる。新しい機能やモード、インタラクティブなサウンド、それに食材が楽しい動きをするための洗練されたプラグインなどが、このパートナーシップによって可能になったんだ。

――サウンドも気になりますが、音楽は全ステージにそれぞれあるんでしょうか？　フューチャーベース（※）とか似合いそうですが、 どんなサウンドなのでしょう？

TJフューチャーベースは間違いなく影響を受けたジャンルだね。でも『Nour』のサウンドはもっと多岐にわたったものと感じるんじゃないかと思う。Fluke NukesとMaximilian Muellerのふたりのプロデューサーが、複雑でありながらノリやすいメロディーを、ハードなビートやディープなサブベース、楽しいシンセなどと組み合わせて、プレイ体験を常にエネルギッシュでエキサイティングなものにしてくれている。

　音はインタラクティブな設計になっていて、あなたがそれぞれのシーンで食材でどう操作して遊んでいるかに合わせて、メロディやエフェクトがそれぞれ反応するようになっている。めちゃくちゃに遊んでるんでも、きれいにまとまった職人的な一皿を作り上げてるんでもね。（※キラキラしたシンセや細かく刻まれたボイスなどが特徴的なダンスミュージックの新興ジャンル）

――PC版はMIDIコントローラーなどに対応するという話でしたが、その仕様はまだ変わっていませんか？

TJPC版は依然としてMIDIコントローラーで動くようにする予定で、特にMIDI Fighter 3Dは対応します。ぜひあれで遊んでみてほしいな！　でもMIDIコントローラーが周囲に転がっているようなDTMファンばかりではないから、USBゲームコントローラーやキーボードでもちゃんと動くようにする。

――一番気に入っているステージと、一番好きなフードは？（ゲームに入っていないもの含む）

TJ　気にいっているのはハンバーガーのシーンだね！　全部の食材ごとに写真で取り込んでいくのはすごく楽しかったし（その後おいしくいただきました）。もちろんレストランでいきなりやるんじゃなくて、家に帰ってから撮ったんだ。

　いつも頼んでるフードはチキンティッカマサラのマンゴーラッシーつき。インド料理が好きなんだ！

――ローカルやオンラインのマルチプレイの対応の予定は？

TJ　マルチプレイの予定はないな！　もう一個コントローラーを繋げて一緒に食材で遊べたらクールだけどね。

――ゲーム的なゴールやトロフィーはありますか？

TJ『Nour』はあなたがプレイを通じて小さなシークレットや変わったインタラクションを見つけると、それに反応して祝福するようになっている。でもそれを見つけなければ先に進めないということじゃなくて、すでにプレイした面をまた遊んで新たな発見をした人へのご褒美という感じだね。

――それでは最後に、ゲームの固定観念にとらわれないオープンマインドなゲーマーやインタラクティブアート好きにシャウトを。

TJヘイ！　ビデオゲームはアートだ。ずっとそうだったし、これからもそうだ。美術館はゲームにとってもいい感じの場所だし、雰囲気重視のものを作るのは何も間違っちゃいない。洗練されたギャラリーのワイドスクリーンに君の作品が映し出されてるのを見よう！

　ゲームとはなんなのかってみんなの固定観念を変えてやるんだ。このメディアは新しいから、まだ誰もやってないことはいっぱいある。最初にカマす奴になろう！