四半世紀(=25年)ものあいだ、数え切れないほどのプレイヤーを大空へと駆り立てたシリーズがある。その名は『エースコンバット』。フライトシューティングゲームのジャンルを確立し、その金字塔として世界中のファンに愛される人気シリーズだ。

 この『エースコンバット』シリーズは、2020年6月30日に25周年を迎えた。それを記念して、ブランドディレクターの河野一聡氏とプロデューサーの下元学氏、そしてバンダイナムコスタジオの小柳匡史氏、菅野昌人氏、糸見功輔氏の5名のクリエイターが集結。

 長年、『エースコンバット』シリーズに関わり続けているこのメンバーに、座談会形式で思い出を語り合っていただいた(座談会は6月11日にリモートで実施)。ここでしか聞けない話題が満載なので、最後までチェックしてほしい。

※本記事では、シリーズ作品の名を以下のように表記する場合があります。
エースコンバット…… ACE1、エースコンバット2 …… ACE2、エースコンバット3 エレクトロスフィア…… ACE3、エースコンバット04 シャッタードスカイ…… AC04、エースコンバット5 ジ・アンサング・ウォー…… ACE5、エースコンバット・ゼロ ザ・ベルカン・ウォー…… ACE ZERO、エースコンバット6 解放への戦火……ACE6、エースコンバット7 スカイズ・アンノウン…… ACE7、エースコンバット アサルト・ホライゾン…… ACAH、エースコンバット インフィニティ…… ACE INF、エースコンバットX スカイズ・オブ・デセプション…… ACEX、エースコンバットX2 ジョイントアサルト…… ACEX2、エースコンバット3D クロスランブル……ACE3D

河野一聡氏

『エースコンバット』シリーズ ブランドディレクター
最新作の『ACE7』では全体を統括。これまでのシリーズ作では、『AC04』のアートディレクター、『ACE5』のディレクターなどを務めている。

下元 学氏

『エースコンバット7』プロデューサー
座談会メンバーの中ではいちばんの若手クリエイター。『ACE HD』で初めて『エースコンバット』シリーズの作品に携わる。『ACE7』では、プロデューサーとして河野氏を支えた。

小柳匡史氏

バンダイナムコスタジオ 開発ディレクター
『スカイ・クロラ』や『ACEX2』、『ACE3D』、『ACE INF』を経て、『ACE7』では開発ディレクターとして、初のナンバリング開発に携わる。

菅野昌人氏

バンダイナムコスタジオ アートディレクター
初代『エースコンバット』から開発に携わってきた最古参のクリエイター。ストレンジリアルの世界設定や背景製作、多数のオリジナル兵器のデザインを担当。『ACE7』ではアートディレクターを務める。

糸見功輔氏

バンダイナムコスタジオ ナラティブディレクター
シリーズ作品には『ACE3』から参加。『ACE ZERO』ではアートディレクターとして開発を主導し、『ACE7』ではナラティブディレクターを務める。シリーズのトレイラー制作も担当。

『エースコンバット』25周年記念座談会。5人のクリエイター陣が語る『ACE』シリーズのこれまでとこれから_01

25周年の記念イラストは見れば見るほど発見が!

――25周年おめでとうございます!

全員 ありがとうございます。

――25周年イラストにはいろいろなネタが詰め込まれていて、思わず見入ってしまいました。戦闘機がズラーッと配置された並びにも、何か意味がありそうですが……。

河野戦闘機の並びに意味はあるの?

菅野もちろんありますが、ファンの方に想像していただきたいので、言わないようにします。

――25周年イラストは、どのようなテーマで描かれたのですか?

菅野ストレンジリアル(『エースコンバット』の架空世界)の要素を凝縮した、25周年に相応しい、豪華な内容にしたいと思いました。あと、2020年は『エースコンバット』シリーズにおいて特別な意味のある年になります。オーシア連邦の元大統領がこの世界に残した何かを感じられるようなイラストを目指しました。

下元2020年は、(作中で)真の情報が公開されるので。

――あ! ラーズグリーズ隊(『ACE5』に登場した、オーシア連邦大統領直属の非公式戦闘機部隊。主人公が隊長を務めるウォードック隊が、敵の策略から逃れて影として活動するために編成された)の存在が公開されるのが、作中の世界で2020年の予定でしたね。

河野でも、ラーズグリーズ隊がいないよ。

小柳4つの影がそうなんじゃないですか。

菅野そうかもしれませんね。

――25周年イラストで描かれた基地を、VRで歩いてみたいです。

菅野3Dで描いているので、やろうと思えばVRで歩けると思います。たくさん戦闘機が並んでいるので、壮観でしょうね。このイラストの解像度は8Kあるので、けっこう拡大しても大丈夫なのですが、河野に「あまりはっきり見えすぎると写真っぽく見えないから、歪ませてくれ」と言われていて。それで画面の奥が少しぼやけるように作っています。ちなみに現在、公式Twitterにてスマートフォン用に縦長サイズの壁紙も公開しておりますので、こちらもぜひ使ってください。

――さっそく活用しています! そういえば、自粛期間中に、公式Twitterでリモート会議用の背景画像が配布されていました。これらはどのように選んで用意したのでしょうか?

河野ACE7』の背景やコックピットなど、「テレワーク中にすぐに活用できるもの」を優先しました。また、『ACE ZERO』のインタビュー背景や、『ACE3』のデータースワローは、世界観的に合っていたのですぐに採用が決まりました。

菅野当時のデータをそのまま出したわけではなく、高解像度化やワイド化などもちゃんと行っています。

――こちらも個人的に活用させていただいています(笑)。それでは、25周年を迎えた感想から教えてください。

小柳じゃあ僕から。ファンの皆様は根強いな、というのが正直な感想です。戦闘機や『エースコンバット』の世界が好きで、25年ものあいだ応援してくれているので。25年間、ロックオンして撃つというゲーム性は変わらないのに、毎回楽しんでもらえるのは、作り手としてありがたいですね。

河野つぎは25年選手の菅野で。

菅野四半世紀という長いあいだ支持してくださった方々、新しく遊び初めてくださっている方々に感謝しています。また、シリーズの開発に携わってきた開発者たちも同様ですね。歴代のベテラン開発者、協力会社様をはじめ、プロダクションI.G様やSTUDIO 4℃様、佐藤大さん、片渕須直さん、河森正治さん、吉崎響さん、鈴木陽太さんなど、本シリーズは多彩なコラボレーションの機会に恵まれました。

河野菅野や僕のつぎに長い、糸見はどう?

糸見僕は、入社して初めてフルで関わったタイトルが『ACE3』でした。当時は『エースコンバット』シリーズが、25周年を迎える息の長いタイトルになるとは思っていなくて。

河野ここにいる全員がそうだよ(笑)。

糸見そうですよね(笑)。ファンの方たちの支持のおかげで、ここまで長く続けてこれたのはすごいな、というのが率直な感想です。あと、TwitterなどのSNSで、昔のタイトルのファンアートを公開してくれたり、プラモデルを作ってくれたりする方たちがいて。彼らの作品を見ると、めちゃくちゃうれしくなりますね。

河野じゃあ、いちばん若手の下元、どうぞ。

下元菅野さんたちが『ACE 2』を作っているとき、僕は中学生でしたからね。当時夢中で遊んでいましたが、25周年の節目に、開発スタッフの一員として関わることになるとは夢にも思いませんでした。周年なので、今後は30周年、35周年と、5年ごとに刻んでお祝いをしていくと思いますが、倍の50周年を迎えられるのは、年齢的に僕だけかもしれません(苦笑)。

糸見30周年も無理じゃないの?(笑)。

下元30周年はいてくれないと困ります!

一同 (笑)。

河野25周年の時点で、人生の半分を『エースコンバット』といっしょに過ごしています。それもこれも、四半世紀ものあいだ、皆さんが支え続けてくれたおかげです。

ひとりのクリエイターの独断でシリーズに架空兵器が登場!?

――ナンバリングタイトルを中心に、各作品の思い出をお聞きしていきます。まずは、記念すべき1作目の『ACE1』からお願いします。

菅野『ACE1』は、開発人員は少ないながらも、個性あふれる先輩方にしごかれました。社員4名、アルバイト4名でメカ、背景、デザインなど、なんでもやるような感じで。フェニックスマークもデザインコンペをして選びました。プレイステーション(以下、PS)での開発が始まるので、先輩方は環境の刷新に大わらわだったのも覚えています。それまでナムコの家庭用部門はSFCなどのドット絵専門だったので、シリコングラフィックス(ワークステーション)やアミーガ、マッキントッシュなどの本格的なCG機材の導入を行いました。

河野懐かしいなあ。基本は実機(デバステという開発機)での確認だから、大量のCD-ROMが焼かれていたよね。当時、菅野は学生だったっけ?

菅野そう。卒業制作と開発が並行してたいへんだった(苦笑)。PSはすばらしいハードウェアでしたが、当時の表示ポリゴン数とメモリの制限は、開発者にとってつねに「何が最善か」と自問自答させる環境でした。いまとは異なった頭の使いかたをしていたと記憶しています。

下元そんな時代があったんですね。

菅野いまにして思うと、『ACE1』は人間の想像力を刺激する作品でした。表示ポリゴン数の制約で地面表示がなくて、ところどころに波の様なキラメキっぽいポリゴンがあるだけ。雲もシンプルなテクスチャのみでしたが、それでも空を飛んでいる感覚が味わえたので。

河野僕は空中要塞が記憶に残っていて。“提督”が『ACE1』に空中要塞を出したから、『エースコンバット』シリーズはトンデモ兵器を登場させてもよくなったんだよね。

『エースコンバット』25周年記念座談会。5人のクリエイター陣が語る『ACE』シリーズのこれまでとこれから_02

――ちなみに、提督というのは……。

菅野偉大な先輩です。当時のアートディレクターが提督を自称していて、周囲も提督と呼んでいました。その提督が空中要塞を出してしまったんです。あの空中要塞がなければ、アーセナルバードは生まれなかったかもしれませんね。

――『エースコンバット』シリーズにトンデモ兵器が生まれたのは、提督のおかげだったと。

菅野河野は“提督の独断”と言っていたよね。

河野提督の決断』(※)とかけていたんだよ。

※当時、光栄(現・コーエーテクモゲームス)が手掛けたシミュレーションゲーム

菅野そうそう。ただ、設定画もちゃんとあって、緻密な書き込みに驚きました。当時はほとんどのアーティストがその存在を知らなかったので、みんなびっくりしていましたが、「こういう思い切ったことやっていいプロジェクトなんだ」という気付きのきっかけになりましたね。

河野つぎの『ACE2』は、菅野のせいでひどかった(苦笑)。彼は、『ACE2』のときから何も変わってないんですよ。データがFIXしていると伝えているのに、データをいじるんです。『ACE7』でも同じことをやっていたよね。

菅野それは性なのでしょうがないです。でも、河野も変わらないので人のことを言えないよ。

――おふたりの関係性も当時から変わっていないのですね(笑)。今回、記事を作るにあたって『ACE2』もプレイしましたが、いま遊んでも楽しめる、すばらしい作品だと実感しました。

河野『ACE2』はその後のシリーズタイトルの基点になったと思います。

菅野先ほどお話しした通り、初代プレイステーションはすばらしいハードウェアでしたが、スペックはまだ低かった。限られた容量とスペックで広い空間を生み出し、質を高めていくのは苦労しましたが、若いなりにもたどり着いたひとつの正解が『ACE2』だったと思います。

河野1作目と2作目の流れがあって、続編の『ACE3』の開発はどうだったの?

糸見僕が入社したとき、『ACE3』は動いていたので詳しくは知らないのですが、最初は『エースコンバット』じゃなかったんですよね。確か『ACSF』というタイトルでリリースしようとしていたんですが、プロモーション側から反対されて急遽『ACE3』になったと聞いています。

――それで『エースコンバット』シリーズの中でも、SFチックな異色の作品になったのですね。

河野開発当時は、テレビアニメの『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年放送)が流行っていましたね。

糸見そうなんですよ。開発スタッフの中にも『エヴァ』にドハマリした人がたくさんいて。

河野アニメーションによる演出は賛否両論あったけど、『ACE3』に影響を受けた人は多いと聞いているし、25年の中で評価されたよね。

糸見とくにアニメ業界の方は、『ACE3』の影響を受けた方が多いみたいですね。吉崎さん(カラー所属の吉崎響氏。『ACE7』ではシネマティクスディレクターを務める)も影響を受けたとおしゃっていました。ただ、海外版はアニメーション部分が全部カットされてリリースされたんですよね。アニメーションがないと、ストーリーがわからないのに(苦笑)。

河野そうだったそうだった。デバッグを少ししたんだけど、アニメーションのない、ゲーム部分だけをプレイしたのを覚えている。

――日本版と海外版にそんな違いがあったとは。技術的にはどうでしたか?

菅野『ACE3』もPSのタイトルですが、同じハードでも初期から後期で『エースコンバット』は大進化を遂げました。モデリングやシェーディング、アニメーションといった部分は専門性が高まり、『ACE3』のころになると開発人員も増えていたので。家庭用部門全員が『エースコンバット』に携わっていたときもありました。いまだと開発だけでピーク時は100人規模にもなるので驚くようなものではありませんが、当時は一大事業でしたね。

下元あと『ACE3』といえば、『エースコンバット』の基本的なシステムが完成しましたよね。

糸見戦闘機の兵装選択ができるようになって、周囲を360度回せるカメラを実装して……。システム的には、『ACE3』でいまのベースがある程度できあがった感じがありますね。

河野『ACE3』のときに、『エースコンバット』シリーズは本当に何をやってもいいんだと実感した。ただ、当時の開発者がやりたい放題したので、続編の『AC04』を作るときに本当に困ったんだけど(苦笑)。

『AC04』で映画的なトレイラーが誕生!

――続いて『AC04』ですが、先ほど河野さんから「困った」という発言が飛び出しました。

河野『ACE3』は、SF路線で作り手がものすごい情熱を込めたぶん、『AC04』はどういった路線にするのがいいのか悩みました。

菅野河野と「もう少しリアル路線に戻すべきだよね」と、相談したのを覚えています。ストレンジリアルという言葉が生まれたのも『AC04 』のときでしたね。

河野そうだったね。

菅野もともとはAC04の背景コンセプトであり、「見たことは無いが実際にはそうなのだ」と感じえることを指す言葉でした。それをファンの方々が世界観の総称として呼んでくれたのがきっかけで、現実の世界での出来事、例えば「もし冷戦がそのまま発展していたら」、「もし無人機が十分に自律戦闘できる時代になったら」という“IF”が実際に起きてしまった世界に発展して。

下元現実の国や地形をモチーフにしていますが、決してそのままではないというのも注目してほしい部分ですよね。いまは我々PROJECT ACESだけでなく、ファンの方々とともに築いているユニバースだと思っています。

――確かに。その後、『AC04』の開発はどのように進んだのですか?

河野いろいろ悩んで、片渕監督と初めてシナリオでタッグを組んで、アニメーションの制作をSTUDIO 4℃に依頼しました。ただ、『ACE3』のアニメーションに否定的な意見もあったので、片渕監督やSTUDIO 4℃が関わっていることは最後まで伏せてプロモーションをしました。

糸見『AC04』のトレイラーには、ゲーム画面しか入れてなかったんですよね。

河野途中まではゲーム画面だけで作って、最後に片渕監督の名前を出したんだよ。正直、ファンの反応は心配でしたが、多くの方が肯定的に受け入れてくれたので、安心しましたね。

糸見トレイラーと言えば、映画的なトレイラーを作ったのは『AC04』が初めてでしたよね。映画館で流すからって、最後にワイドのトレイラーを作ったのをいまでも覚えています。

河野トレイラーの作りかたは、手探りでいろいろ挑戦した『AC04』が機転になって、
『ACE5』で路線が決まって完成形に持っていって。それから『ACE ZERO』で大ブレイクしたんだよね。

――そうでしたね。『ACE ZERO』のトレイラーは、音楽も相まって鳥肌が立ちました。

河野『ACE ZERO』は何がすごいって、シリーズの中で唯一、スケジュール通りにできたタイトルなんです(苦笑)。

糸見企画の立ち上げから発売まで1年しかなかったのに、ちゃんと完成しましたからね。

河野『ACE5』のときなんて、マスターアップの会議のときに、なぜか腕立て伏せをしている人間がいたもんな。忙しすぎて混乱したのか、なぜか会議室で腕立て伏せをしているっていう。

一同 (笑)。

河野『ACE ZERO』あたりから拡大路線になって、携帯ゲーム機の作品も作っていたよね。

小柳『ACE ZERO』、『ACEX』、『ACE6』がほぼ並行して開発され、『スカイ・クロラ』が続きました。

菅野『スカイ・クロラ』は、『イノセン・テイセス』という副題が、ものすごく前のめりでいいなと思ったのを覚えている。青いなって。

小柳『スカイ・クロラ』自体が思春期の話なので、青い雰囲気は作品にピッタリでした。ただ、思春期と死生観がテーマの作品だったので、なかなかたいへんでしたよ。『エースコンバット』シリーズには、思春期のキャラクターがいないじゃないですか(苦笑)。ゲームそのものを振り返ると、Wiiリモコンをスロットル、ヌンチャクを操縦桿に見立てて戦闘機を操作する操縦方法も、調整に苦労しました。

河野小柳が『スカイ・クロラ』をやっていたときに、僕らは何を担当していたんだっけ?

菅野『ACE6』のDLC開発だったと思う。

河野あ、『ACE6』か。この作品にガッツリ関わったのは、この中だと菅野だけだったよね?

糸見そうでしたね。『ACE6』は、僕もトレイラーしか作っていないので。

菅野河野や糸見が参加していなかったので、『ACE6』は比較的若い世代が主導したプロジェクトでした。開発規模も大きかったですし、『エースコンバット』の開発に携わることを目的に入社してくれる人もいました。人手が足りないパートに彼らを適宜投入して。

河野戦力の逐次投入ね……。

小柳戦術的には間違っていますけど(苦笑)。

一同 (笑)。

河野これだけシリーズの話をしたのに、下元がまだほとんどしゃべっていない……。

下元僕は『ACAH』からチームに加わったので、そろそろ出番ですね。

――当時、若手社員だった下元さんから見て、PROJECT ACESのチームの印象は?

下元怖いチームだと噂されていて、ビビっていましたね(苦笑)。いま考えると、なぜそんなに萎縮していたのかわからないんですけど、当時は菅野さんがめちゃくちゃ怖くて……。

菅野よく言われるんだよなぁ(苦笑)。

河野下元は、「PROJECT ACESにだけは入りたくないです」と言っていたよね(笑)。

下元配属面談での発言ですね。裏では配属が決定していたことを後で知りました(苦笑)。

――下元さんにもドラマがあったんですね。

河野こうして振り返ってみて改めて思ったけど、『エースコンバット』と言えば菅野なんだな。

小柳『エースコンバット』の象徴は誰かと言われると、やはり菅野さんになると思いますよ。

糸見菅野さんですよね。

小柳ミスターエースコンバットは菅野さん。

菅野偉大な先輩方と優秀な同僚たち、情熱的な後輩たちに恵まれて、『エースコンバット』シリーズの開発は成されたと思っています。

シリーズ最新作『ACE7』でチームが挑戦したこと

――せっかくなので、最新作『ACE7』について、印象に残っている出来事もお聞きしたいです。

菅野『ACE7』の開発初期、片渕監督とのやり取りで印象に残っている出来事があって。片渕監督とはストレンジリアル世界で取り扱う要素を話し合って、それからシナリオを組み立てていただいているのですが、その要素を出し合う際に、「ストレンジリアルの世界では、時代の流れの中で国家に代わって企業が台頭してきて、国家の力が危うくなる。兵器が無人化されていき、パイロットが少なくなっていく。こういう状況の中で、『ACE7』に登場するキャラクターはどの様なものだろう」と考えたときに、片渕監督が「ライバルは無人機にとっての教師となる、年齢を経た人間がいいんじゃないか」と提案してくださいました。過去の設定と時代性をうまくまとめる設定だったので、鳥肌が立ちました。

糸見片渕監督のアイデアはよかったですよね。

河野『ACE7』というか、『エースコンバット』シリーズ全体に関わることなんだけど、『ACE7』のときに下元が設定をややこしくしたよね。

糸見『ACE7』と『ACE3』をつなげた話?

下元『ACE7』の時代背景は2019年で、だんだん『ACE3』の時代に近付きつつあると考えたので。でも、つなげるのは満場一致のはずでしたよ。

糸見当時は「どうしようか」って考えている段階で、各シリーズの出来事を年代順に並べて話し合っているときに、下元が『ACE3』が持つパラレルストーリー要素に着目した。「これならいけそうかも」と、思い切って公式につなげることにしました。

下元公開する前に確認はしましたよ。

『エースコンバット』25周年記念座談会。5人のクリエイター陣が語る『ACE』シリーズのこれまでとこれから_03

糸見でも、結果的につなげてよかったと思う。『ACE3』は民間企業が躍進している世界ですが、現実世界も民間企業の躍進がすごくて、有人宇宙船の打ち上げなどにも成功しているので。時代が『ACE3』の世界に追いついてきたなって。

――確かにそうかもしれませんね。『ACE7』と『ACE3』のつながりといえば、ダウンロードコンテンツ(以下、DLC)でも感じることができました。

下元それは僕からの要望ですね。とはいえ、やりすぎると『ACE3』を遊んでいない方たちが楽しめないので、バランスに気を配りました。

菅野DLCは設定面の要望が多かったですね。下元からの要望のほかに、河野からは「暗殺部隊を出してほしい」、夛湖(久治氏。本作のVR・DLCディレクター)からは「敵は潜水艦ではなく、“可潜巡洋空母”であることにこだわってほしい」というお題も出て。これらをすべてクリアーすべく、糸見と頭をひねりました。

糸見「暗殺部隊って何?」と愚痴りながら(笑)。

一同 (笑)。

小柳殺人部隊のレイジとスクリームは、キャラクターもキレッキレでよかったですよね。

下元DLCだからこそ誕生したキャラクターでしたよね。ふたりとも本編には入れられない。

糸見本編に登場させるのは難しいよね。

小柳ミッション1から登場して、最後まで出てくるようなキャラクターではないですからね。

菅野強烈な印象を残して去っていく、バイプレイヤー(脇役)として優れていたと思います。

河野スクリームでいまだに覚えているのが、開発中、死んだはずのスクリームの声が無線でうっすら流れるようになっていたんですよ。バグだと思って担当スタッフに確認したら、「わざと入れているんです」と言われて。『エースコンバット』がホラーになったぞと驚きました(笑)。

糸見あれはおもしろかった(笑)。思わず、「どういうこと?」って無線担当の鬼頭(雅英氏)に聞き返したもんな。

小柳でも、いまだに担当者は、無線に声を入れたほうがよかったって言っていますよ(笑)。

――(笑)。DLCの反響はどうでしたか?

小柳おかげさまで大好評でした! DLCのミッションは、それぞれ新しいことにチャレンジしていたので、正直、不安な面もありましたが(苦笑)。

下元本編を遊んでくれた方たちからいただいた意見を、DLCのミッションに反映できたのもよかったですね。具体的な数は言えないのですが、Steam版はふたりにひとりの方がDLCを購入してくれています。今後もコンテンツの配信を予定していますので、ご期待いただけるとうれしいですね。

糸見シリーズ25周年を記念して、『ACE7 コレクターズエディション』のブックレットに収録された片渕監督の短編小説を、朗読劇として楽しめる動画を配信していますので、こちらもぜひ聴いてください。

菅野25周年の記念イラストから、想像をふくらませてもらえるとうれしいですね。また、『エースコンバット』の世界を深めているのはファンのおかげでもあり、快く取材に応じてくださる自衛隊各基地や航空機メーカー様のおかげでもあります。コロナ禍が収束したら、ぜひいろいろなところへまた取材に出かけたいです!

河野こういったメンバーで50周年を目指しますので、今後も変わらぬ応援をお願いします!