スクウェア・エニックス・ホールディングス代表取締役社長 松田洋祐氏&スタジオイストリア代表取締役 馬場英雄氏インタビュー完全版

週刊ファミ通2017年3月9日号(2017年2月23日発売)で掲載した、スクウェア・エニックス・ホールディングス代表取締役社長 松田洋祐氏&スタジオイストリア代表取締役 馬場英雄氏インタビューの完全版をお届けする。

●スタジオイストリアのキーマンふたりにインタビュー

 スクウェア・エニックス・ホールディングスが2017年2月21日に発表した、同社の100%子会社となる新しい開発スタジオ“株式会社スタジオイストリア”(記事はこちら)。 週刊ファミ通2017年3月9日号(2017年2月23日発売)では、巻頭特集として、スクウェア・エニックス・ホールディングス代表取締役社長松田洋祐氏&スタジオイストリア代表取締役馬場英雄氏のインタビューならびに、スタジオイストリアが手掛ける新規IP(知的財産)“Project Prelude Rune”のコンセプトアートを掲載。今回は、誌面の都合ですべてを掲載できなかったインタビューの完全版をお届けする。(聞き手:週刊ファミ通編集長 林克彦)


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▲スクウェア・エニックス・ホールディングス代表取締役社長 松田洋祐氏(写真左)/スタジオイストリア代表取締役 馬場英雄氏(写真右)

●スクウェア・エニックスで、新しいチャレンジをしてみたかった

--とても新鮮なツーショットですね。

松田 そうですか?(笑)

--そもそも、ここに馬場さんがいること自体がとても新鮮です(笑)。

馬場 皆さんからしたら、そうですよね。

--今日はいろいろとお話をおうかがいしますが、まずは、馬場さんがスクウェア・エニックスに入られた経緯をお聞かせください。

馬場 私のクリエイター人生の中で、いろいろなターニングポイントがありました。前職では大きなIPを任されてきましたが、自分の中では、ゲーム以外でもお客様にIPを楽しんでいただく環境をご提供するというミッションを掲げていました。たとえば、フェスティバルやオーケストラコンサートを開催したり、ファンどうしの交流の場を設けるために、当時としてはかなり斬新だったカフェの展開案だったり……。そうして、ひとつのIPを使ったゲーム以外のビジネス展開と、お客様に楽しんでいただくための地盤作りをすることができました。そこで、私の中での区切りといいますか、こうした地盤作りをする中で、そろそろ後輩のスタッフたちにバトンタッチして、彼らにIPを託すのもアリではないかと考えていたのは、正直、ありましたので、節目のタイミングで退職という道を選びました。

--なるほど。

馬場 一方で、外から見たスクウェア・エニックスは、RPG……つまりは物語を大切にしている会社というイメージを持っていたんですね。切磋琢磨しながらゲームを作るという環境がありそうだ、と外から見ていました。そして、自分がこの先あと何本ゲームを作れるのかと考えたときに、いままでの環境ではなく、RPGのつわものがゴロゴロといるような中でもう一度チャレンジしたいと思ったわけです。そこで、スクウェア・エニックスという会社でまったく何もない、ゼロからのスタートを切るべく、門を叩きました。それが昨年10月の話で、いまは社長の松田を始め、多くの方々のサポートをもらいながら、新しいIP作りを着々と進めているところです。

--前職をお辞めになってからは、「スクウェア・エニックスでゲームを作りたい」という思いが強かったのですか?

馬場 RPG、とくにJRPGで考えると、スクウェア・エニックスはプロ意識を持った集団ですよね。もともと前職のころから、多くのクリエイターと交流がありましたし、いろいろとお話しする機会はありましたが、実際に仕事になったときはまた違います。まったく違う環境に自分の身を投じたときに、どんな新しいゲームを生み出せるのか、チャレンジしたいという想いは強くありました。

--いろいろなメーカーからお誘いがあったと思いますが……。

馬場 やりたいことが明確にありましたので、よりチャレンジできる環境を考えたときに、より多くの猛者がいる中に身を投じてみたいなと。もちろん、前職の環境ではそれができないというわけではありませんけどね。

--わりと正面から、スクウェア・エニックスに入社したいと門を叩かれた感じですか?

馬場 そうですね。以前からつながりのある方から「うちでやってみない?」とお誘いもいただいていましたが、外から見ていた松田のイメージが、とにかくクリエイターを大事にする方だなと感じていましたので、この人の下で働きたいと思いました。

--松田さんは、最初に馬場さんから「入りたい」と言われたときは、どう思われましたか?

松田 弊社にもいろいろな部署やチームがありますけど、新作RPGというのは、そりゃもちろん欲しいですよ。欲張りですから(笑)。

--新しい柱となる作品は、欲しいですよね。

松田 そんな中、馬場のような実績のあるベテランがうちでやりたいというのであれば、断る理由はないですよ。彼には、新規IPを作ってもらうのと同時に、新規IPに向けて新しいチーム作りをする過程で、新しいタレント(人材)を発掘してもらいたいんです。

--それは大事なことですね。社内にも新しい風が吹くことにもなります。

松田 ですから、彼にはうちに入る条件を話した際に、人材の育成や活用の面でもいろいろとお願いしましたが、ぜひやりたいということだったので、じゃあいっしょに、と。

--そのお話をされる以前から、松田さんと馬場さんは面識があったのですか?

松田 ほとんどなかったですよ。ただ、もちろん彼は有名人ですから、うちの開発陣はよく知っていて、「ぜひ会ってみてください」というので、じゃあ会いましょうとなって、いろいろ話をしました。

--あえてご本人の目の前で聞いちゃいますが(笑)、会われてみた印象は?

松田 それはもちろん、ナイスガイですよ!

馬場 恐縮です(笑)。

-- (笑)。

馬場 松田から、ゲーム作りに関しては、私がイメージしているものをそのまま作ってもらってかまわない、任せると言われています。ただ、いくつかミッションがあって、組織作りや人材育成ですね。若いタレントを育成して、スクウェア・エニックスの新しい看板クリエイターにしてほしいと。そういったミッションを踏まえながら、組織作りやチーム作り、スタッフィングを、社内の各方面に協力してもらいながら進めています。

--素朴な疑問なんですけど、社内の皆さんには、どのようにお披露目されたのですか?

松田 ふつうに入社日に会社に来て、「席はここだから」と言って座ってもらっていたら、来る人がみんな「なんでいるの!?」って(笑)。

一同 (爆笑)

松田 みんな、かなり動揺していましたよ。

--そりゃ動揺しますって(笑)。

馬場 いまは場所が変わっていますが、入社当時は社長室の目の前に席があったんですよ。私は各ディビジョンのトップの方たちを知っていましたし、皆さん松田とのミーティングがありますので、打ち合わせに来るたびに私の目の前を通って、「なんで馬場さんがいるの!?」、「ここは入ってきちゃいけないエリアですよ」と(笑)。

--思わず二度見しますよ(笑)。でも、それだと確実に社内には広まりますね。

馬場 挨拶する手間は省けましたね(笑)。


●スタジオイストリアは“物語”を作り出す職人集団

--今回、新しくスタジオを立ち上げた経緯をお聞かせください。

松田 ご存じだと思いますが、うちの会社にはビジネス・ディビジョンが複数あって、その中で各チームが運営されています。馬場の場合は、どこかのビジネス・ディビジョンに所属するのではなく、もっと違う形でやってもらいたいなと。彼レベルになると、ひとつの部署を任せるくらいの話になるわけですが、そうではなく、新しいスタジオを作って、一任してもいいのではと思ったわけです。2014年にTokyo RPG Factory(※1)を立ち上げましたが、それと同じように、スクウェア・エニックスのグループ内ではあるけれど、独立したスタジオとして、しっかりした理念・テーマを定め、それを大事にしながら独自のIPを生み出してほしいと思っています。
 ※1 Tokyo RPG Factory……2014年8月に、スクウェア・エニックス・ホールディングスの100%子会社として発足した開発会社。『いけにえと雪のセツナ』を手掛けている。

--つまり、新しいディビジョンを増やすのではなく、新しい会社の設立を選択されたと。

松田 そうです。ひとつのグループ内ベンチャーのようなものですね。Tokyo RPG Factoryもそうですが、スタジオとしてある程度名前の立つプロデューサーやディレクターがいるのであれば、スタジオとして独立した形にすることで、また個性が出るのではないかなと。

--スタジオからブランディングしていこうという意図もあったのですか?

松田 どちらにせよ、ゲームのブランディングが先ですけどね。ただ、いろいろなクリエイターを集める際にスタジオという形のほうがやりやすいのであれば、そうしたほうがいいということです。

--スクウェア・エニックスにとっても、新しいチャレンジになりますよね。

松田 そうですね。組織図の見かたというのは、つねに変わってきますので、そのときに最適な形でやればいいと思います。ですが、今回は彼がタレントの発掘や外部との交渉など、いろいろ柔軟に考えていると思うので、よりやりやすい形にしました。

--馬場さんは、新しいスタジオの代表を務められるわけですよね。

松田 そうなります。

--スタジオの名前は?

馬場 STUDIO ISTOLIA(スタジオイストリア)です。


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▲スタジオイストリアのロゴデザイン

--どういった意味なんですか?

馬場 スクウェア・エニックス・グループでは、“最高の「物語」を提供することで、世界中の人々の幸福に貢献する。”という企業理念を掲げています。私もこれまで、これと同じく“物語”をとても大事にゲームを作ってきましたので、“物語”を社名にも入れたいという想いがありました。イストリアは、ギリシャ語で物語を表す言葉で、あとは“物語を作り出していく職人集団の会社”という意味のスタジオとつなげた造語にして、スタジオイストリア(STUDIO ISTOLIA)と命名しました。松田からは、私の想いを込めた会社名だったら何でもいいと言ってもらえましたので。

--ロゴを見ると、マスコットキャラクターのようなものが目に入りますね。これは?

馬場 じつは、今回アート面を協力していただいている板鼻さん(板鼻利幸氏。『チョコボ』シリーズなどのキャラクターデザインを担当)に、「こういう想いでこの会社を作りたい」、「この会社で、スクウェア・エニックスを代表するような新しいIPを作りたい」といった、スタジオイストリアという社名に込めた想いを話したところ、「だったらファンタジーを象徴する子どもドラゴンをデザインとしてあしらいましょう」と、描いてくれたんです。スタジオイストリアは、スクウェア・エニックスのさまざまなスタッフの方に協力をしてもらい、一歩ずつ前進しているところです。そうした協力や融合のバックアップが、いま、本当にありがたいんです。ちなみに、このドラゴンにはいろいろな仕掛けがあって、たとえば元となっているイラストがあるんですけど、額のところをよく見ると、紋章のようなものがあるんですよ。

--(イラストを見て)ありますねぇ。

馬場 もしかしたら、彼が成長したときに額から角が生えてきて……とか。

--ああ、なるほど。

馬場 あとは、角の部分がクルクルっとたたんでいますが、それが大きくなって、空を切り裂いたりとか、いまは小さな翼が大きくなって、スタジオイストリアという組織が、世界にはばたいていく、その予兆という意味も含めて、こういう小さいドラゴンにしました。

--なるほど! いろいろ考えていますね。

馬場 色も、これから無限に広がっていける組織の可能性をイメージして、空のような広大な空間に飛び出していくチームとして、青を取り入れてもらいました。そのデザインををロゴ化したのが、このドラゴンです。

--このドラゴンには名前はあるのですか?

馬場 名前は、いまスタッフたちと考えているところです(笑)。

--ゲームにも登場したりとか……?

馬場 まだわかりませんが、じつはあまりにもしっくりきてしまったので、スタッフとは「マスコットキャラクターとして登場できないか?」という話はしています。ただ、企業ロゴに入っているキャラクターだけに、あまり出しすぎてしまうと、タイトルの世界観が崩れてしまう可能性があるので、そのへんのさじ加減は必要です。でも個人的には出したいなと思っています。IPにとってマスコットは大事なんですよね。

--そうですね。確かに。

馬場 奇しくも、このロゴを作っている段階で、マスコットとしても使えそうなキャラクターができてしまったので、私の中ではいろいろな展開が膨らんできていますね(笑)。

--ここから物語が紡がれていくという象徴として、このマスコットがいると。

馬場 そういうことですね。

--板鼻さんが描かれているからかもしれませんが、どこかスクウェア・エニックスさんらしいところもちゃんとある感じがしますよね。

馬場 板鼻さん独特のやさしさが、絵から出ているなと感じますよね。じつは、いま私が手掛けている新作では、“やさしさ”や“温かさ”を世界観として表現したいなと思っていまして。決して殺伐とした雰囲気ではない、家に帰ったときに「早くあの、温かい世界に入りたい」と思ってもらえるようなゲームを作りたいという話もしていますので、そのあたりも汲んでもらいました。