東京ゲームショウ 2014のインディーゲームコーナーで出展した『群馬県から来た少女・改』が来場者の注目を集めた新鋭ゲーム会社、ヒューガ。レトロテイスト丸出しの2Dグラフィックを採用するなど、特異なゲーム開発の真相・意図を探るべく、ゲーム開発に長年携わっていた同社代表・岡野哲氏に話を伺ってみた。

●となりのゲームは、もう見ない──新会社に託した思い

 東京ゲームショウ 2014のインディーゲームコーナーで出展した『群馬県から来た少女・改』が来場者の注目を集めた新鋭ゲーム会社、ヒューガ。レトロテイスト丸出しの2Dグラフィックを採用するなど、特異なゲーム開発の真相・意図を探るべく、ゲーム開発に長年携わっていた同社代表・岡野哲氏に話を伺ってみた。

※『群馬県から来た少女・改』群馬のチカラ、さらに大暴走!!【とっておきインディー Vol.002】


──まずはヒューガという会社について教えてください。
岡野 今年の1月にできたばかりです。この会社の主旨はひとつしかないです。「自分が作りたいゲームを作りたいように作る」。そのための会社です。

──先月"ニコニコ静画"で連載が始まったネット漫画『ファイナルリクエスト』(作・日下一郎。毎月第2第、4水曜日配信)の制作協力もされているとのことですが、本業はあくまでもゲーム制作ですよね?
岡野 そうです。『ファイナルリクエスト』はファミコン風画面のドット絵漫画なんですけど、制作が思った以上に大変で、現在はそれにスタッフが忙殺されている状況です。

※『ファイナルリクエスト』は、講談社の漫画雑誌『月刊少年シリウス』とニコニコ静画によるWEB漫画ページ“水曜日のシリウス”にて連載中。RPGのエンディング後の世界を舞台にした、メタなストーリーが展開する。「ヒューガとしてはファミコンのスペックに準拠した絵作りを心がけているので、気にしてみていただければと思います」(岡野氏)

※『ファイナルリクエスト』の公式サイトはこちら

──社名のヒューガの由来は?
岡野 まず私が宮崎県、日向国(ひゅうがのくに)出身ということ。もうひとつがHUMANIC GAMES。もうちょっと"人間っぽいゲーム"を作ろうよ、という意味を込めています。

──そのネーミングにはSERVICE GAMES(※セガの社名の由来となる語句)の面影が感じられますが……。
岡野 それもちょっとあります(笑)。

──スタッフの規模は。
岡野 私を含めて5人です。とはいえ全員をフルタイムで抱え込む余裕はないでので、実際は「できるところを手伝っておくれよという感じですね。

──自分が作りたいゲーム、とは具体的にどのようなものでしょうか。
岡野 おもしろいから遊びたくなるゲームです。そこにさらにお金を払いたくなる要素をとくに設けない。「おもしろいでしょ、どう?」で完結しちゃうゲームをちゃんとやりたいっていうのが根底にあります。ひとことでいうとまあ、レトロゲームですね。

──レトロゲームの中でもとくにこのジャンルが、という方向性はあるのでしょうか。
岡野 私はゲーム開発者としてはもともとアーケード出身で、コンシューマ畑にだんだん入っていった人間なので、小難しいゲームは苦手です。パズルやシミュレーションよりもダダダ! ボボボ! みたいなのが好きですね。ゲームってそんなもんだろう、と。

──1980年代当時、ゲーム大好き少年として過ごしていた者のひとりとして、その感覚はよくわかります。しかし、そういったスタイルの作品は明らかに当世風ではないですよね?
岡野 世間を気にするのはやめました(笑)。それを考えると手段と目的がひっくり返っちゃうんです。私も長年ゲーム開発に携わってきましたが、やっぱりビジネスありきなんですよ。ひとつのビジネスモデルの上に何らかのクリエイティビティーを発揮することでゲームが成り立っていて、その枠組みが徐々に変わってきているんですね。とくにソーシャルゲームの登場によって、自分がこれまで慣れ親しんできた枠組みが根底から崩されてしまった。あれはあれで素晴らしいんですけど、果たして私が作りたいゲームがそっちの方向にあるのか? となると、そうではないなと。

──自分が理想とするスタイルのゲーム開発に殉じる覚悟の上での会社設立、ということでしょうか。
岡野 必ずしもそうでもないです。これに関してはちょうど"インディーゲーム"っていうくくりができて助かっている面もあるんですけど、近年はゲーム開発のハードルがどんどん下がっています。それこそ何十人規模のスタッフが何年かけて、預かった数億を何億にする……というビジネスモデルに乗らなくても好きなようにゲームを作れるんじゃないかなという算段があります。

──時代がひと回りして、少数精鋭でゲーム開発するのにいい時代になったと。
岡野 私の場合、幸いにして、資金を集めて大掛かりにしなければならないところをこれまでのノウハウとスキルで何とかできる面もあるのですが、会社を作る時に大規模な出資を募ったりすると、その瞬間マネタイズを考えざるを得なくなります。これまでのゲームの歴史は、金儲けのためという前提のもと成り立っていた面があると思うんですけど、ゲーム開発者のモチベーションが「◎◎が作りたい」というところにしか注げないのだったら(その構造を)変えようよっていう思いもあります。

■東京ゲームショウでもらった元気をゲームのおもしろさに変える

──東京ゲームショウ 2014のインディーゲームコーナーでは『群馬県から来た少女・改』と『神話少女ヒューガ』を出展されていました。前者はライトノベルが原作の無料配信アプリの続編、後者はまったくの新規タイトルとのことでしたが、感触はいかがでしたか?

岡野 「会社作っていまさらこんなゲーム作ってどうなんだ」っていうのが正直あったんですけど、ごくまれにハイテンションに喜んでくれる方がいて「あいつらのためにがんばろうかなぁ」と思えるようになりました。(出展費用を全面負担するなどインディーゲームコーナーに協賛した)ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジアさんにお声をかけていただき、お披露目としてこれ以上ない舞台をいただけてとっても助かりました。

──『群馬』は比較的オーソドックスなタイプのシューティングゲームでしたが、『ヒューガ』はダッシュを延々と繋いでフィールドを自由自在に移動できたり、ボスキャラのサイズの思いきりがよかったりと、従来のゲームの"お約束"をことごとく外している点に魅力を感じました。

岡野 『ヒューガ』はゲームショウでは散々な評価でしたね。

──え、そうなんですか!?
岡野 遊んでもらった人々の多くのダッシュ移動の挙動が、私たちが想定していたのとは全然違っていたんです。これは勉強になりました。今後はアクションゲームの基本的なシステムとして弱い部分を調整していくことになります。

──とはいっても基本的な路線は崩さずにいく、と。
岡野 もちろんです。『魂斗羅』(KONAMIが1987年にリリースしたアクションゲーム)をいま遊ぶと地味に感じると思うんですけど、リリース当時は超派手で楽しいゲームだった。そのプレイ感覚を後年になってゲームで再現する際、本来なら必要がない表現力の枷をみずからはめて再現してしまいがちです。

──ああ、たしかに。
岡野 私は印象派の絵画のように「実際はどうだったかはさておき、俺にとってはこうだった」というゲームを作っていきたいですね。『ヒューガ』はある意味作りはいい加減で、クリアーまでの総プレイ時間も15分くらいしかない。でも、自分にとって一番楽しいゲーム体験がそれくらいなんです。もしこれを、出資を募って作るとなると「マルチプレイは入れないのか」とか「HD対応させてみては」という話になってしまいます。でも、言うほどやりませんよね? マルチプレイとか。

──それはまあ、人それぞれですけど……。
岡野 もともとこの会社は『ヒューガ』を作るために作った会社なんです。これは絶対に外せないだろうという意味で、社名とゲームタイトルをいっしょにしています。現在は他のラインに圧迫されていますけど、ものすごく爽快感のあるアーケードライクなゲームとしてちゃんと作りたいので、今後もあせらず開発を進めます。

──完成を楽しみにしています。

▲主人公ヒューガのキャラクターデザインを手掛けたのは、『カルドセプト』などでおなじみのイラストレーター、かねこしんや氏。

岡野 デメリットなしに敵弾を全部弾き返せるゲームなんて、たぶんほかにないと思います。なぜならバランスが崩壊するから。でもそれが気持ちいいから、やっちゃうんです。

──とはいえ、プレイヤーキャラの背後は弱点なんですよね?
岡野 武器を振りかぶったときのモーションにも当たり判定があるので、ずっと振っていれば敵弾ではまず死にません(笑)。私は『魂斗羅』のファミコン版が大好きなんですけど、何がいいって(隠しコマンドを入力すると遊べる)残機30モードがあるからです。これだけ残機があれば何をやってもなかなか終わらない。コンシューマゲームは建前上「残機3でクリアーしなさい」と言ってはいるものの、実際はほぼ無制限に遊べるこういう抜け道もあるからおもしろいんです。

──それは身もふたもないというか……割りきった考えですね。
岡野 私にとってゲームは、極論するとガジェットなんです。たとえばこの(アイスコーヒーの入ったコップを手に取って)ヒヤッとする感じとか、(アイスコーヒーをひと口含んで)ゴクっとするのどごしが大事なように。まずなにより、そうした感触を楽しむためのガジェットなんです。喫茶店のアイスコーヒーで何がわかる。そもそもコーヒーというものは…みたいなウンチクはいくらでも語れますけど、それは今ここで実際コーヒーを飲んでいる体験の本質とは違う。コンシューマーゲームも一応リスクとリターンで構成されていますけど、実はそこに本質はない。なんといっても最初に全部お金払ってるわけですから。リスクもリターンもモチベーションの導入口として設定されているものでしかなく、そういった要素で装飾された、ガジェットとしての感触こそがコンシューマゲームの本質と考えます。だったら本質と直接関係のない本末転倒な部分で初めて触れるお客さんを煩わせたくないんです。昔のアーケードゲームだったら「このゲームは1プレイ100円なので、三分たったここらでひとまずやられてもらいます」みたいな形でお金を回収していて、要するにコンシューマも無意識にそれを踏襲していたんですけど、いまはそういう時代でもない。そもそもアーケードライクなキツめのチューニングがゲームとして一番気持ちいいベストってわけでもない。だったらやめようよと。

──単にレトロゲームを再現、というのではなく、いまのスタイルに合ったアレンジをしてこそ、なんですね。たとえばスマートフォンでプレイすることを想定した操作面の独自チューニングというのもあるのでしょうか?
岡野 『群馬県から来た少女』でいうと、残機は見た目上5機ですが、1回ぶんの攻撃を防げるバリアがあるので、実際には残機が10あるのと同じ状態なんです。「超イージーな仕様にしているから多少の操作のしにくさは勘弁してね」という、昔のゲームでもありえない調整を行っています。

──いまの若者にも楽しめる作りは、ある程度意識しているのでしょうか。
岡野 それはどうでもいいというか、本当におもしろければ2歳の子どもも80歳のおばあちゃんも遊びます。いつの間にか私たちはビビっていたんです。以前は、ちょっと飾ってイマ風にしないとお客さんが来ないかなと思っていろいろやったんですけど、やってもこない(笑)。ある程度コケないことはできるけど「間違っていないこと」と「合っていること」は違うんです。いつの間にか「間違っていないこと」ばかりやっていたんですよね。

──少し気が早い話ですが、『群馬県から来た少女・改』『ヒューガ』はどのような形態・価格で販売することになりそうでしょうか。
岡野 ゲームが完成してそれがおもしろかったら、いろいろとやりようはあるんですけど、その前段階でビジネスを考えると、私の場合大抵ろくなことにならないので(笑)、まずはおもしろいものを作ることに専念します。作ったものは裏切らないですよ。いいものを作ってお客さんを裏切らないようにすれば、たぶんうまく回っていくんじゃないかなという、そういう危うい会社です(笑)。