RPGらしさを追求した楽曲とミュージックビデオに

 声優、アーティストとして活躍する喜多村英梨の4枚目のシングル『Destiny』が2012年11月7日にリリースされる。これまでシングル3枚、すべてがアニメ作品のタイアップだった喜多村。作品のタイアップを任されるということで、その作品世界を曲に、そしてミュージックビデオに落とし込むということを信条に、これまでの作品を作り上げてきた彼女が今回挑むのは、PSP用ソフト『円卓の生徒 ジ・エターナル・レジェンド』(以下、『円卓の生徒』)のオープニング曲だ。今度はどんな意気込みで楽曲制作に臨んだのか。そして、先日11月3日(土)よりスタートとなった喜多村の1stライブツアーについても話を伺った。

喜多村英梨が4thシングル『Destiny』を語る――5thシングルも発表!_05
■喜多村英梨
『偽物語』や『魔法少女まどか☆マギカ』など、さまざまな作品で活躍する声優。さらに、アーティストとしても1stアルバム『RE;STORY』がオリコンウィークリー初登場5位を記録するなど、多くのファンから支持されている。
喜多村英梨が4thシングル『Destiny』を語る――5thシングルも発表!_04

――今回いままでと違ってアニメ以外のタイアップになりましたね。
喜多村英梨(以下、喜多村) そうですね。でも、これまで通り喜多村英梨の楽曲でありつつ、世界観を原作に寄せていくというやりかたは変わっていません。今回のタイアップはPSP用ソフト『円卓の生徒 ジ・エターナル・レジェンド』という作品になるのですが、私もルーミ役として出演させていただいている作品なんです。そこで、ルーミというキャラクターの視点から『円卓の生徒』全体の世界観を描き出すような楽曲作りをしました。そのため、よりRPGっぽいというか、少し神秘的でありながら異世界風な、私は“オリエンタルロック”と呼んでいるんですけれど、そんな楽曲になっています。『円卓の生徒』はすでに発売されていて、ティザーサイトではゲームの映像のPVが流れているんですけれど、PVの中で『Destiny』が聴けるんです。実際にPVを見たときに、しっかりと作品の楽曲に聴こえると感じたので、タイアップとして作品世界に歩み寄れた達成感と手応えを感じていますね。

――「作品世界に歩み寄れた」ということで、確かに歌詞を見ると、RPGっぽい内容になっていますし、“円卓の城”、“絆”といった『円卓の生徒』らしいキーワードも盛り込まれていますよね。
喜多村 もちろん喜多村英梨の楽曲として制作はしているんですけれど、『円卓の生徒』の制作チームの方々からのディレクションも伺っています。歌詞の世界観はとくに影響を受けていますね。じつは『Destiny』のプロトタイプの詞と完成版の詞を見比べると、すごく変わったわけではないんですけれど、後に修正が入ったものは“円卓”とか“絆”とか、ゲーム中のキーワードが散りばめられています。かなり意識をして制作しているので、間違いのない歌詞になっていると思います。

――なるほど。曲調は、喜多村さんのアルバム『RE;STORY』からの流れを汲んだものになっているように感じました。
喜多村 じつは、もし『Destiny』を制作しないで、いままでの喜多村の楽曲から、どの曲がタイアップとして当て嵌るかといったら、『re;story』がいけるんじゃないかって、みんなで話していたぐらいだったんですよ(笑)。アルバム『RE;STORY』の楽曲は、自分の好きな世界観を詰め込んだものになっているので、そういう意味では自分の嗜好にあった楽曲をタイアップとして制作することになったのは、やりやすかったですね。しかも、自分が出演している作品なので世界観が理解できていたこともあって、迷うことなく楽曲制作を行えました。ただ、『re;story』と同じものを作ってもしかたがないですし、せっかくのチャンスをいただいたので、色分けをしっかりとしようと思いました。アルバムのときの楽曲は、男性ボーカリストが歌ってもハマるような強い節や音色というのを意識していました。ボーカルのニュアンスや歌詞の世界観も男性寄りの“メタル”を目指していたんですけれど、『Destiny』の場合は、自身が演じているキャラクターが女性であり、凛とした騎士であるということで、女性らしい、“クリーンなメタル”にできたらいいなと思いまして、しなやかに切ないボーカルRecを努めましたね。

――アルバム『RE;STORY』以降で、あえて崩して歌うというか、力強く歌う部分をCDに乗せるからといってキレイに歌うんではなくて、感情のままに歌うというところが目立つようになった気がするんですけれど。
喜多村 そうですね。音符通りに歌って狭い領域でニュアンスを出すよりも、まずは自分の味をテストの段階で出して、そこからオーケーテイクなのか否かを詰めていくというボーカルRecをしています。キタエリ節と言われるものが、キャラクターソングなどを歌うこともある声優としての武器だったり、喜多村らしいと言ってもらえるものになればいいなという思いでやっていますね。

――そこまでこだわられて収録をされているんですね。今回の『Destiny』でも、そのこだわりは貫かれている?
喜多村 もちろんです。ボーカルRecもそうですが、音作りに関しても非常にいろんな意見を出させていただきました。『Destiny』は音色が『re;story』と基本は同じなんですけれど、前に出す音色をハープとフルートとヴァイオリンにしているんです。どちらかというとハープ推しで、オリエンタルな女性らしい楽器を前に出したような音作りをしています。『re;story』が男なら、『Destiny』は女の曲という感じですね。ビジュアル面もより女性らしさのある衣装を選んだりとか。ミュージックビデオも、『円卓の生徒』のルーミからインスピレーションを受けて、RPG感を意識しつつ、ハープ、フルート、ヴァイオリンの女性楽器隊を引き連れたものになっています。

喜多村英梨が4thシングル『Destiny』を語る――5thシングルも発表!_02

――そんなミュージックビデオの見どころがあれば。
喜多村 自分の中でルーミが亡国してからの苦悩と、亡国の姫としての凛とした雰囲気をそれぞれ楽しめる内容になっています。しっかりとしたストーリーラインがあるわけではないんですけれど、自分がルーミになったつもりで撮影をしました。リップシンクのところは姫として凛とした表情をしたりとか、『re;story』のときは、激しい、衝動的な動きをよくしていたんですけれど、そこにプラスして“女性らしさ”や“落ち着きながらも人の気持ちを揺さぶるような強い眼差し”、“手振り”といった部分を気をつけているので、そういった喜多村の動きを観てほしいですね。

――ミュージックビデオを拝見させていただいて、これまで以上にドラマチックだな、と思いました。
喜多村 今回はよりリアルな映像になっていると思います。というのも、いくつかエピソードがありまして(笑)。ミュージックビデオの撮影は1日で行っているんですけれど、最初にボロッボロの衣装で森の中を移動しているシーンを撮ったんですね。野外の撮影なので、日が落ちる前に撮り終わらないといけないですから、朝早くから準備して撮影したんです。そうして撮影したミュージックビデオを観てもらうとわかるのですが、転んでいるシーンがあるんですよ。じつは、そのシーンは疲れてしまってガチで転んでいるところをを使っているんです(笑)。

――えっ! そんな状態のシーンだったんですね(笑)。
喜多村 そうなんですよ。そのあとも深夜0時を回ってもまだ屋内のシーンを撮影していたりとか、すごい1日でした。でも、そういった作業もほかのアーティストさんや、声優アーティストさん……、それこそミンゴス(※声優・今井麻美の愛称)からも撮影のたいへんさを話で聞いていて、自分も過酷な撮影だろうとそれを乗り越えて、ほかのミュージックビデオと競り合っていけるものを作りたいと思っていたので、ぜんぜん苦ではなかったです。ほかに、もうひとつ小ネタなんですけれど、なんとか建物にたどり着いたボロボロの喜多村が、室内で倒れ込むシーンがあるんです。喜多村が倒れ込むと、女中の人たちが喜多村を囲んで着飾ってくれるというシーンになっているんですが、このシーンで倒れこんでいるときはガチで寝オチしていました(笑)。素で寝ているシーンが使われているんですよ。なので、リアルなカットが豊富なPVになっています。

――そういう意味でのリアル(笑)。
喜多村 気づいたら撮り終えていて(笑)。

――おそろしい(笑)。
喜多村 ヒヤッとした床が冷たくて気持ちよかったんですよ(笑)。別に雑に撮っているわけではないんですけどね。本当に自分が会議の段階で提案させていただいた通りのビジョンに仕上がったと思います。すごく明確に意見を出していたんですよ。サビはこういう風にしたいとか、鏡の前で対峙したいとか。はっきり自分でレールができていた状態だったので、自分が立ち回るのもやりやすかったですし、出来上がったものも私からの修正はぜんぜんなかったです。迷走なしのPVです!(笑)

――そして、もう1曲の『SHINE』。始まりがすごく静かなメロディーだったので、バラード曲なのかと思ったんですが、ぜんぜん違う内容だったのでビックリしました。
喜多村 そうなんですよ(笑)。「バラードが始まると思った?」っていう感じですよね。じつは裏テーマとして、ルーミのイメージソング的にできたらいいなと思って作ったんです。だから、歌詞の世界観もルーミを意識した内容になっています。私はすごく好きなカップリングになりました。ある意味予測不可能な曲に仕上がったと思います。

――ホントに、イントロ、Aメロ、Bメロ、サビが全部違う曲に聴こえるんですよね。
喜多村 とてもアーティスティックな曲になったなと思っています。ボーカルRecのときには、少し迷いがあったんです。各セクションをどういう風に味付けしようかなと悩んでいて。当初は、出来上がったものよりキーを低く設定していたんですけれど、実際に収録のときに歌ってみたらキーが高いほうがいいんじゃないかと気づかされることもあったりして、ルーミのように、自分にとっての試練が多かった曲ですね。

――こだわり抜いて制作した『Destiny』、いろいろ試練のあった『SHINE』が収録された4枚目のシングルですが、出来栄えには満足されていますか。
喜多村 オススメですね。『Destiny』という1枚のシングルで、喜多村個人としては『円卓の生徒』の世界観を楽しんで欲しいなという気持ちがありましたし、声優アーティスト・喜多村英梨の趣味嗜好の高みを目指す証にできたらいいなと思っていて。ふたつとも1枚でつながりがすごくいいなと思います。鉄板な展開でみんなの気持ちをグッと引き上げる『Destiny』と、単調にならない味付けがクセになる『SHINE』が収録されているという、素晴らしい4枚目になったと自負しています。

東名阪ライブツアーがいよいよスタート

喜多村英梨が4thシングル『Destiny』を語る――5thシングルも発表!_01

――4thシングルの発売に続いて、いよいよライブツアーがスタートですね(※このインタビューはライブ開催前に実施されたものです)。
喜多村 今回うれしいことにツアーという形でやらせていただくことになりました。全会場もちろん全力でやらせていただくんですけれども、自分のパフォーマンスを含めた、声優・喜多村英梨の造形みたいなものが、このライブを通して築けるんじゃないかなと期待しています。いまは、家で姿見の前で真っ裸で練習したりしています(笑)

――毎回、練習は裸ですね(笑)。
喜多村 無駄なものを脱ぎ捨ててね(笑)。すぐにびしょびしょになっちゃうんで(笑)。ライブ自体は、会場がライブハウスだったり、キャパがどこも違ったりするので、『RE;STORY』の世界観を見せつつも、お客さんとの距離の近さを意識して、あまり小道具やセットに頼らないようなステージにできたらいいなと思っています。皆さんの声をちゃんと聞いたり、皆さんの表情を汲み取りながら歌うことが自分なりの目標です。ライブでは『RE;STORY』の世界観である黒と白をうまく織り交ぜた内容にしたいと思っています。衣装のほうもモノトーンな喜多村を楽しんでいただけるんじゃないかな、と思っております。

――セットリストでサプライズ的なものはあったりするんでしょうか?
喜多村 うーん……、そんな余裕あるのかっていうぐらい、いまたいへんな状況になってますね(笑)。ベースとなるのは『RE;STORY』で、あとは「『Destiny』を歌うのか!?」みたいなところですかね。それと、(2013年)1月13日に新木場のスタジオコーストで追加公演が決まりましたので、ぜひこちらも来てもらえればと思いますね。スタジオコーストでの追加公演が終わったら、“リスアニLIVE”で武道館! みたいな(笑)。どんどん箱が大きくなっているんで、胃が痛いです。

――でも、“アニメロサマーライブ2012”で、さいたまスーパーアリーナも経験されていますよね。あのときは、いかがでした?
喜多村 イヤモニをしていたんですけれど、「ピガー……ハッピーハッピガー!」みたいな感じで皆さんの声が漏れ聴こえてきて。「すげー! イヤモニ負けてるじゃん!」って思いましたね(笑)。

――出てきた瞬間から、すごい大歓声でしたからね(笑)。
喜多村 ホントですか!? よかった。じつはステージにせり出した瞬間は、あまりに緊張しすぎていて人の反応まで見られていなかったんですよ(笑)。とりあえず緊張していないフリをしなきゃって。堂々としていなきゃってことばかり考えていました(笑)。すごく楽しかったので、また喜多村英梨として呼んでもらえるようにがんばりたいですし、何かの形で携わることができたらいいなって思っています。新たにできた自分の課題でもありますね。

喜多村英梨が4thシングル『Destiny』を語る――5thシングルも発表!_04

――ちなみにゲーム好きで知られる喜多村さんですが、この作品のようなダンジョンRPGはプレイされるんですか?
喜多村 超苦手なんですよ、じつは(笑)。私、“先に進みたがり症候群”なので、コツコツ同じ階に行けないというか。長いこと同じマップ上にいられないんです(笑)。だから、なかなか集中力が続かないジャンルのゲームではあるんですけれど、『円卓の生徒』にはキャラクターの好感度といった要素もあるので、シミュレーションとして楽しむこともできるんじゃないかな、と。ルーミという女の子はセリフ回しがおもしろくて、好感度が上がってくるとそういった部分をより楽しめるようになるので、彼女のセリフ見たさにもうちょっとがんばろうと思える気がしますね(笑)。

――それでは、最後にひと言メッセージをお願いします。
喜多村 どんなタイアップにも出来る限り擦り寄っていこうという喜多村精神を、今回の『Destiny』でも非常にいい形で残すことができました。ぜひお手にとっていただいて、作品の世界観と喜多村の世界観の融合をお楽しみください。初回盤のほうはミュージックビデオが付きますので、ぜひ初回盤を買っていただければ(笑)。そして、なんと早くも5枚目のシングルを2013年1月9日にリリースすることが決定しました!

――おお! ホントですか。毎回、喜多村さんのインタビューをしに来ると、つぎのシングルが決まりましたって感じになりますね(笑)。
喜多村 たしかに(笑)。PSP用ソフト『水平線まで何マイル? -ORIGINAL FLIGHT-』のオープニング曲になっています。また、これまでとはぜんぜん違った喜多村を楽しんでいただける予定です。来年のライブツアー追加公演と合わせて、今後の喜多村英梨にもご注目ください! よろしくお願いします!!

■Destiny
発売日:2012年11月7日発売予定
価格:【初回限定盤】1890円[税込]/【通常盤】1200円[税込]
【収録内容】
01. Destiny
02. SHINE
03. Destiny off vocal ver.
04. SHINE off vocal ver.