ただただ美しい世界に吸い寄せられるゲーム

 アメリカ・サンフランシスコのモスコーニセンターで開催中のGDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス) 2012。このGDC 2012において、thechineseroomのクリエイティブ・ディレクター、ダン・ピンチベック氏が、自身が手掛けたインディゲーム『Dear Esther』について講演を行った。

刺激をしないことでゲームへの没入感を高める――『Dear Esther』が試みたこと【GDC 2012】_01
刺激をしないことでゲームへの没入感を高める――『Dear Esther』が試みたこと【GDC 2012】_02

 『Dear Esther』は、もともとはポーツマス大学の学生たちが実験で作っていたもの。ただひたすら孤島を歩き続けるだけという、明確な目的のない一人称視点のPC用ゲームだ。先日発表されたインディーゲーム賞“IGFアワード”ではExcellence In Visual Art(美術面で優れた作品)を受賞している。

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 このゲームには戦闘や謎解きはないが、「刺激がないこと=経験がない、とは言えない」とピンチベック氏は語る。刺激がなければ、ほかの経験ができるのだと。

 ピンチベック氏は、プレイヤーにこの世界への没入感を味わってもらうため、非常に美しく、ゴージャスな環境を作り上げた。この夢のようにも思える環境にいるということは、何か情報を与えるよりも、プレイヤーに強いインパクトを与えるものなのだ。

 また、この世界の中にシンボルを追加すると、プレイヤーにさらなる感情を引き起こす。何かに納得できないと、プレイヤーはおのずと理由を探す。不思議なシーンや景色を設定し、それを説明せずにいると、プレイヤーは自分でそのギャップを埋める作業を行うのだ。その作業をすればするほど、ゲームの中に深く入っていく。

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 ピンチベック氏は総括する。スペースを用意し、刺激を与えないでいると、プレイヤーの感情が引き起こされる。刺激しすぎてしまうと、雰囲気が壊れてしまうのだ、と。ジャクソン・ポロックの絵を理解する必要がないように、プレイヤーは何かを理解する必要はない。感じてもらえればよい――と。

 正直に言うと、記者は『Dear Esther』をプレイしたことがなかった。しかし、ピンチベック氏の話を聞いて、その世界に没入してみたいという思いに駆られた。本作は約10ドルで購入することができるので、興味が湧いたという人はぜひプレイしてみてほしい。

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