ローコスト、ローリスク、ハイリターン――カプコン『謎惑館』で行われたミドルウェアの部分導入というカタチの有効性【CEDEC 2011】

カプコンのニンテンドー3DS用ソフト『謎惑館』では、自社のミドルウェアの足りない部分を、他者のミドルウェアで部分的に補うという手法が取られた。この開発のカタチ、いざやってみるとかなりアリだったようです。

●最短距離で武器を手に入れる

 2011年9月6日〜8日の3日間、神奈川県のパシフィコ横浜・国際会議センターにて、ゲーム開発者の技術交流などを目的としたCEDEC(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス) 2011が開催されている。

 会期2日目に行われた“最短距離でほしい武器を手に入れろ!カプコン、自社エンジンへのミドルウェア融合事例 〜 ニンテンドー3DS新作「謎惑館」で臨場感あふれるサウンドを実現 〜”では、セッション名にもある通りカプコンから発売中のニンテンドー3DS用ソフト『謎惑館 〜音の間に間に〜』が題材となった。

 『謎惑館』は、ニンテンドー3DSならではの機能を複数駆使して作られており、立体視はもちろん、ジャイロセンサーを使った操作でボタン入力を必要としないなど、新規タイトルらしい意欲作となっている。そして、忘れてはいけないのが立体音響。本作では特殊な録音技術を使い、立体感のあるサウンドを実現。視覚だけでなく、聴覚でも立体感を楽しむことができるのだ。今回のセッションではおもに、この立体音響をいかにして実現したかが語られることになった。

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 カプコン 大阪制作部 サウンド制作室 サウンドマネージャーの岡田信弥氏はまず、『謎惑館』の開発環境について紹介した。音素材は、試作に5ヵ月、本制作に9ヵ月と約1年がかりで制作。立体音響という試みなので、当然研究および調査に多くの時間が費やされることになったのだが、収録に関しても特殊な環境が必要ということで、最初から最後までフルスロットルで動く、過酷な制作だったと岡田氏は振り返った。ちなみに、特殊な環境の収録で使われたツールは“オトフォニックス”というもので、これはそこにあるすべての音を録音するというもの。現場の空気感も収められるということで、立体音響を実現するためにはなくてはならないものなのだが、その分かなり手間がかかるという。収録スタジオ、ボイスを収録する位置に気を配るのはもちろん、すべてを収めるということはスタジオの空調の音も入ってしまうので、それをすべて止める必要もあった。夏場の収録は恐らくかなりの暑さだったのだろう。

 使われたツールはオトフォニックスだけではない。同ツールは現場の空気感までも収録するわけだから、ゲーム内で使う場面はおのずと限られてくる。変化が起きる可能性のない、たとえばデモシーンなどだ。しかしゲームはインタラクティメディアであるから、プレイヤーの操作に合わせた音というのが必要になる。その方面で使用されたのが“リアルタイムバイノーラル”というツール。こちらはデジタル信号処理で作れた音を立体音響化するもので、動的な場面にも対応が可能というわけだ。

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 音の素材はふたつのツールを駆使して作れた。だが、いずれも高品質な音なのでどうしても容量を食ってしまう。圧縮をしてコンパクトにするという方法はあるのだが、そうした場合音質は当然下がってしまうので、音のクオリティーがキーとなる『謎惑館』では死活問題だ。どうすればいいのか? そこでカプコンが目をつけたのは、CRI・ミドルウェアが提供する最新ツール“ADX2”……に搭載されている高圧縮の独自コーデック“HCA”だ。岡田氏に続いて登壇したカプコン 大阪制作部 サウンド制作室 サウンドプログラマーの小島健二氏からは、それが採用されるにいたった経緯などが語られた。

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 ご存知の方も多いと思うが、ほとんどのカプコンタイトルは“MT FRAMEWORK”および“MT FRAMEWORK Mobile”と言う自社開発のミドルウェアを使用して作られている。『謎惑館』も当然そうだったのだが、サウンドの圧縮という部分に関してはMT FRAMEWORKは開発スタッフの期待に応えられるものではなかったという。そこで小島氏は、以前プレゼンを受けたADX2のコーデックの優秀性を思い出した。しかしADX2は複合ツールであり、サウンドのためだけにあるものではない。一部分だけ使わせてくれと言うのは非常に気まずい話だったが……いざ持ちかけてみるとCRI・ミドルウェアはこれを快く了承。こうして、MT FRAMEWORK×ADX2(HCA)という最強タッグ(?)は実現することになった。導入の結果は、ひとことで言えば大成功。“ローコスト・ローリスク・ハイリターン”というイイこと尽くしで、しかもCRI・ミドルウェアの献身的な協力もあって開発は予定より短期間で済み、音以外の部分のクオリティーアップに割く時間が得られたという。

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 小島氏は、昨今のゲームは作業のボリュームが圧倒的に増えてきているが、専門性の高いビジネスパートナーを得ることで効率は飛躍的に上がると力説。“ミドルウェアを部分導入する”スタイルを推奨した。「カプコンではゲームエンジンを自社開発しているが、最短距離で武器を手に入れるため、結果にこだわるためならば部分導入するのも手ではないか」(小島)。

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▲とは言え、部分導入にはデメリットもある。カプコン大阪制作部 プログラム第一制作室 プログラマーの野中大輔氏は具体的なメリット、デメリットが語られた。

 ちなみに講演では、冒頭と最後にCRI・ミドルウェアの研究開発部でリードエンジニアを担当する郷原亮氏も登壇。ADX2の全体的な性能を説明するとともに、今回の事例のように部分的な導入も歓迎すると、訪れた開発者たちに呼び掛けていた。

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