山岡晃氏発――日本に世界から祈りのサウンドメッセージを! チャリティーアルバム『Play For Japan』で著名コンポーザーが共演
ゲーム●Play For Japanはチャリティーだけで終わらない
「誰かが手を挙げると思ったんです。でも誰も上げない。これでもし海外の人に先にやられてしまうと、日本人としてはツライ……だから自分が手を挙げました」。
2011年3月11日に発生した東日本大震災。国内外のゲームメーカーも被災地の支援、復興のためにさまざまな取り組みを行う中、ひとりのクリエイターが、企業ではなく個人として、冒頭に挙げた決意とともに“Play For Japan”と題したチャリティー活動をスタートさせた。
Play For Japanは、世界中の有名ゲームコンポーザーによる“祈りのサウンドメッセージ”をアルバムに収録して届けようという試み。すでに作品自体は完成しており、6月中にiTunesおよびAmazonでダウンロード販売される予定だ。制作を主導した“あるクリエイター”とは、『サイレント ヒル』シリーズの楽曲を手掛けたことなどで知られる、グラスホッパー・マニファクチュア所属のサウンドデザイナー山岡晃氏。5月下旬、アルバム発売前のタイミングで行ったインタビューで、同氏は本作の制作経緯、込められたメッセージ、そして今後の展開について語ってくれた。
――今回の企画は、国内外に顔の広い山岡さんならではのものですね。
山岡 最初は本当に何も決まっていなかったんですよ。手を挙げたはいいけど、どうしよう……みたいな(笑)。そんな状態からスタートして、とりあえず日本に限らず交友がある人たちに声をかけてみました。こういった企画をやるんであれば、やっぱり世界中のクリエイターが応援していることを伝えたかったんです。
――集まった人たちの顔ぶれが……すごいです。
山岡 とんでもないですよね! 僕自身とんでもない顔ぶれだと思っています(笑)。任天堂の近藤さんなんかは、「僕がやるんだったら、やっぱり『スーパーマリオ』がいい」と仰ってくださって、自分から会社に許可を取ってくれました。それ以外の人についても、スケジュール的にきびしくて参加できないといった理由を除けば、声かけたすべての人がふたつ返事で“いいよ”と言ってくれたのがありがたかったですね。
――そもそも、今回の企画を思い立った経緯を教えてください。
山岡 震災があった日、GhMの社内向けに音楽を作ったんです。そしたらいろいろな反響があって、その中に“曲を聴いて不安がやわらいだ”という声もあった。それがきっかけで「こういった形のものをもう少し広くやろうかな」と考え、手を挙げたわけです。
――これほどのビッグネームの参加が決定するまでは、どれくらいかかりましたか?
山岡 僕が手を挙げて、すぐでしたね。いま名前がある人以外にも数多くの方が参加を表明してくれて……全部で38組くらいだったかな。とても1枚には収まりきらないので、すでに第2弾の計画もしています。
――アルバム制作に当たって、各作曲者に注文を出したりはしましたか?
山岡 何もないです。チャリティーであることと、震災に関するものであることだけを伝えて、あとはクリエイターの自由にしてもらいました。だから人によっては歌物もあるし、インストもある。本当に自由な内容ですし、自分で言うのもなんですがクオリティーがすんごい高い。我々は基本、最初にゲームがあってそれに合わせて音楽を作るわけですが、コレを聴いていて僕が抱いたのは“彼らの世界観が逆にゲームの世界観をも作っているんじゃないか”という思い。だから、実際に聴くとゲームタイトルは関係ないのに、ゲームの世界が想像できるアルバムになっていますよ。
――各アーティスの剥き出しの音が聴けるわけですね。
山岡 そう、超剥き出しですよ! 我々の音楽はふだん、ゲームというオブラートに包まれているわけですが、それを取ったものが聴ける貴重な機会とも言えるでしょう。指示されて曲を作るというのはある意味で簡単。でも、今回はそれがない。指示がないところでそれぞれのクリエイターさんが自分を出し、表現するわけで、とにかくすごいエネルギーに満ちています。
――山岡さんの『EX:Animo』はどんなメッセージを込めた曲なのでしょうか?
山岡 僕は何も考えないでやろうと思いました。チャリティーと言うとヒーリング的なサウンドを狙いがちですが、それすらも考えずにやった。だからヒーリングでもなんでもない曲になっていて、しかも1発録りです(笑)。そういったチャレンジができたのも、今回の活動でおもしろかった点ですね。
――お話を聴いていると、すごくスムーズに制作が進んでいるようですが、苦労などはなかったんですか?
山岡 クリエイティブの面で苦労らしい苦労はなかったんですけど……やっぱり権利関係とかそういったビジネス的な調整はたいへんでした。でも、そこに関しても内外のさまざまな人が裏方として協力してくれたので、彼らには本当に感謝しています。今回僕はひとりで手を挙げたわけですが、すぐにいろいろな方がそれに賛同して、動いてくれた。もしひとりだったらツラかったですよ。
――ゲーム音楽のオムニバス盤はいままでにもありましたが、ゲーム作曲者を、しかもこれだけのビッグネームを集めた例はいままでにないものですね。
山岡 ええ、恐らくないでしょう。また、これがきっかけでそれぞれの人どうしでつながりができたと思う。今後は実際のクリエイティブの部分で、新しいチャレンジがやれたらいいな、と考えています。海外と日本でいっしょにモノを作るという形はもちろん、さらに言えば音楽以外のものでもおもしろいかもしれない。
――チャリティーから始まったPlay For Japanだが、チャリティーだけで終わるわけではないということですね。
山岡 今回参加した人たちは、E3など海外のイベントで実際にお会いしたことがある人たちなんですけど、多くは挨拶程度でそれほどじっくり話し合うことがありませんでした。だから、Play For Japanをきっかけにもうちょっと具体的な行動、形をいっしょに残していければいいなと思っていますよ。もちろん、皆さん基本は会社に属しているわけで、いろいろな権利とか乗り越える壁は少なくない……。でも、やれないことはないと思う。本人のクリエイティブ精神、モノを作る者どうしとして何かやろう、という気持ちさえあれば、物事が進むでしょう。
――ちなみに今回の震災によって、山岡さんのクリエイティブに対する考えかたなどに変化はありましたか?
山岡 それはもちろんありますね。音楽にしろゲームにしろ、モノを作るときってどこかに“自分のため”と考える部分があると思う。自分がカッコイイと感じるもの、自分がヨシとするものを作り上げて、それをユーザーの皆さんに届けておもしろがってもらうといった具合に。でも、震災以降そういった考えかたはほとんどなくなりました。それがいまだけなのか、今後も続くのかわかりませんが、“誰かのため”、“何かのタメ”など目的が明確になったんですよ。もちろん、いままでもいろいろと考えてモノを作ってきたわけですが、より大きな視点で……社会貢献と言うほどではないかもしれませんが、自分ができること、自分がこの業界でやってきたことを省みたうえで、今後何をすべきなのか? というのは震災をきっかけにより深く考えるようになりました。あとは、若い人を育てなければいけないという思い。とにかく、“何かのために”という考えについて、大きく変わったことは間違いありません。
――それは今後形としても現れてくるのでしょうか?
山岡 意識はせずとも、自然と出てくるでしょう。でも、僕に限らず、モノを作る人たちは震災によって考えかたは大きく変わっていると思いますよ。
――確かに、エンターテインメントは生活に必須なものではないですし……「これは必要なのか?」と考えてしまうことがあるかもしれません。
山岡 それは誰もが考えることですよね。でも、エンターテインメントが不必要なものであるとは思いません。たとえば僕の場合、震災直後に被災地の方から現地の写真が送られてきたんです。もう家の中とかメチャクチャになっているんですけど、そこに「山岡さんの音楽を聴いて僕は救われた」というメッセージが添えられていた。それを見たときに、僕は自分の仕事に価値や意味を見い出すことができたんです。エンターテインメントは食べたり飲んだりすることができないので、生命を維持するうえで必要ではない。でも、人間はただ生きていればいいわけじゃないんです。心の充実が必要なんです。僕らの仕事は、それを手助けすることでしょう。
――今回のチャリティーには、震災は忘れないという意味もあると思います。
山岡 そうなんですよ。さっきも言いましたが、この活動はアルバムを出して終わりじゃない、ここで生まれた日本と世界の絆を大事にして、我々だからできることやり続けていく。だから長く続けて、それこそ10年後に“あの震災がきっかけだったな”と思えるようにしたいです。まず考えられるのはライブなんですけど、“できるのかなあ“という思いが……。でも、これだけのメンバーが集まったら逆にたいへんかもしれませんね(笑)。
――最後にお聞きしたいのですが、今回のアルバム制作を通じて山岡さんが得たものとは何でしょうか?
山岡 モノ作りをするうえで、僕らのあいだには権利や会社といった壁があります。でも今回の企画をやったことで、実際はみんな、いっしょに業界を盛り上げて楽しいことをやろうという気持ちを持っていることに気付きました。手を挙げたときは「誰も付いてこなかったらどうしよう」という不安はありましたが、結果として40組近い人が賛同してくれた。それはやっぱりみんな、最初からそういう思いがあったってことですよね。それがわかっただけでも、Play For Japanをやった意味があると思う。あと、僕はたまたま音楽をやっていたから今回こういう形になったけど、今後は形にこだわらずやっていきたいですね。たとえば、日本人のクリエイターにしかできないことを、世界に向けて見せる。あくまでまだ考えている段階なので具体的なことは言えないのですが、ユーザーはいままでとは違うおもしろさ、違う感動を要求していると思う。だから、僕らは新しい価値を提示しなければいけないんです。どういったモノになるのか僕もまだわかりませんが、ユーザーの皆様は期待して待っていてください。
Play For Japan VOL.1
発売予定:2011年6月 ※iTunesおよびAmazonでのダウンロード販売のみ
【収録曲 ※カッコ内はサウンドコンポーザーの代表作】
01. Reminiscence / Nobuko Toda 戸田信子 (Metal Gear Solid Series)
02. Jump / Laura Shigihara ローラ・シギハラ (Plants vs. Zombies)
03. White Cloud / Penka Kouneva ペンカ・コウネヴァ (Prince of Persia Series)
04. Greater Lights / Tommy Tallarico トミー・タラリコ (Advent Rising)
05. Play For You / Mitsuto Suzuki 鈴木光人 (The 3rd Birthday)
06. Necromancer / Jason Graves ジェイソン・グレイブス
( Dead Space, Command & Conquer, Prey)
07. Moshi Moshi / Woody Jackson ウッディ・ジャクソン (Red Dead Redemption)
08. Ex Animo / Akira Yamaoka 山岡晃 (Silent Hill Series)
09. The Temple Stone / Sean Murrayショーン・マーレイ (Call of Duty Series)
10. Pine Wind Sound / Laura Karpman ローラ・カープマン (Everquest II)
11. Every New Morning / Nobuo Uematsu 植松伸夫 (Final Fantasy Series)
12. Maverick Regeneration / Bear McCrearyベア・マクレリ (SOCOM 4)
13. HVC-1384 / Hip Tanaka.β ヒップ・タナカβ (Mother Series)
14. Rise Up / Chance Thomas チャンス・トーマス (Avatar, Lord of the Rings Online)
15. We Are One / Arthur Inasi アーサー・イナシ (Harmonix)
16. Remember / Inon Zurイノン・ザー (Dragon Age, Crysis, Prince of Persia)
17. Super Mario Medley On Two Pianos / Koji Kondo 近藤浩冶 (Super Mario Bros.)
18. Dimension Break / Yasunori Mitsuda 光田康典 (Chrono Trigger)
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