小島監督、伊藤計劃を語る――『伊藤計劃記録:第弐位相』トークショー

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KONAMIの小島秀夫監督が、SF小説家の故・伊藤計劃氏の『伊藤計劃記録:第弐位相』発売に合わせて行われたトークショーに出演し、思い出などを語った。

●あるファンとクリエイターの関係

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 2011年4月23日、KONAMIの小島秀夫監督が、SF小説家の故・伊藤計劃氏の『伊藤計劃記録:第弐位相』発売に合わせて行われたトークショーに出演し、思い出などを語った。

 冒頭、早川書房の塩澤快浩氏から、伊藤氏の長編第2作『ハーモニー』の英訳版が、フィリップ・K・ディック賞の特別賞を受賞したことが発表された。その早逝が惜しまれながらも、日本を超え、世界へと影響を拡大していく伊藤計畫氏と小島監督との関係とは。小島監督と伊藤計劃氏の関係は、単に『メタルギア ソリッド 4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』のノベライズを担当したという以上のものがある。

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 小島監督と伊藤氏が最初に出会ったのは、1998年ごろの春の東京ゲームショウ。伊藤氏が作家デビューするはるか以前、MGS4のノベライズが発売される10年近く前のことだ。ゲームショウで『メタルギア ソリッド』のプロモーションを行っているなか、ムービーに感激して語りかけてきたファン、それが伊藤氏だったと小島監督は振り返った。しかし、それから伊藤氏が開設したブログの映画評などを個人的に読みながらも、その関係は“ファンとクリエイターという距離”を取った限定的なものだったようだ。では、なぜ『メタルギア ソリッド ピースウォーカー』のエンディングで、同作を伊藤計劃氏へ捧げるに至ったのか?

 異変は突然起こる。2000年ごろ、伊藤氏がガンにより入院。このとき小島監督は、まだ発売前の『メタルギアソリッド2 サンズ オブ リバティー』の映像を持って見舞いに行き、まだどこにも出していないそれを見せたのだという。そして回復後、2001年の発売の際に発表会に招待。以降、小島監督は伊藤氏にパンフレットやソフトの同梱ブックレット、公式サイトなどのコラムを依頼するようになるのだ。

 そのいくつかは『伊藤計劃記録』(早川書房)などに収録されており、依然作家デビュー前ではありながら、思慮深く鋭い分析の論考となっている。内容が気になる人はチェックしてみてもらうとして、ファンとして単にゲームの設定やセリフとしてありのまま受け入れるわけではなく、物語として解体し、そこに込められた思想や問題意識を、正しく批評性を持って暴きだす。小島監督の、そんな伊藤氏への“よき理解者”としての信頼は並々ならぬものが伺えた。いわく、『MGS2』のリリース時には、伊藤氏を「ユーザーの指標」として見ており、ブログで絶賛し、なかでもスネークがNGOを率いていることを「新しい」と評価しているのがうれしかったのだとか。『MGS4』ノベライズの担当編集者である矢野健二氏も、『MGS2』のエンディングは「よくわからない」もので、伊藤氏が書いた『制御された現実』を読んで初めて理解できたという。

 『MGS2』と言えば、文化を連ねていく模倣子(ミーム)をテーマとしているのは、プレイした人ならご存知のとおり。となれば、未公開の映像を見た伊藤計劃氏が“小島秀夫的”な作家となるのは自明かもしれない。『伊藤計劃記録:第弐位相』には、習作の『Heavenscape』と『フォックスの葬送』が収録されており、前者は、『スナッチャー』に影響を受けた『虐殺器官』の原型。SF翻訳・批評家の大森望氏いわく、伊藤氏は過去に『スナッチャー』でSFを刷り込まれたと語っていたとのこと。

 ここで『スナッチャー』に多大な影響を与えたと思われる『ブレードランナー』を引き合いに出して「パチものが本物になったような……」とおどける小島監督だが、「人間とは何か?」を問いかけるフィリップ・K・ディックの小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』が(作家としては多少不本意でも)が、アンドロイドが生に執着する映画『ブレードランナー』を生み出し、それに影響されたゲーム『スナッチャー』を作った小島監督が『MGS』で描いたのは、遺伝子に縛られた運命から“本物”になろうとしたリキッド・スネークの逆襲だ。そして、それらのゲームに影響された伊藤計劃氏が、人間のありようを強烈に問いかけた小説『ハーモニー』でフィリップ・K・ディック賞から表彰されたのは、多分偶然ではない。文化の連続というのはそういうものだ。少なくとも、伊藤氏はそれに自覚的だったように思える。

 「これから多くの作り手が出てくるだろう。そう、小島監督の「恐るべき子供たち(アンファンテリブル)」が。
 そして、僕もまた小島監督のアンファンテリブルだ。いや、そう見られたらいいな、そう在りたいなと思っている。だから、あなたたちも物怖じせずに語ろうじゃないか。ぼくらの時代の神のディテールを。ぼくらを呪縛するものが、ぼくらをどこへ連れて行こうとしているのかを。」(伊藤計劃『小島秀夫――我ら神亡き時代の神の語り手として』、早川書房刊『伊藤計劃記録』より抜粋)

 これは、2007年の東京ゲームショウ用の『MGS4』のパンフレットに収められた文章。伊藤氏はこの年の前半、まさに長編第1作『虐殺器官』でデビューを果たしている。似たようなモチーフは出てきても、「ファンが作ったもの」(大森氏)の域を出ない『Heavenscape』と『虐殺器官』には大きな隔たりがある。ゲームの評については信頼していた小島監督であっても、伊藤氏が『虐殺器官』以前に原作を担当したコミック『A.T.D』については「ピンと来なかった」と語っていた。それが矢野氏によると、『MGS4』を小説にするとなったときは、これは伊藤氏しかいないのではないかとすぐに決まったらしい。ここで「なぜ急に虐殺器官が書けたのか?」(大森氏)について議論が行われた。

 塩澤氏は、2004年の『Heavenscape』から2006年に執筆された『虐殺器官』への変化を、2005年公開の『宇宙戦争』と2006年2月公開の『ミュンヘン』というスティーブン・スピルバーグ監督の映画2作を見たことが大きかったのではないかと推測。小島監督は、自分と同じく「彼は映画を作りたかったはず」として、自分ひとりで作れる小説を、映像を思い浮かべながらテキスト化したのではないかとの考えを示した。これは自身が、「ゲームにはキューブリックやスピルバーグの蓄積がなかったから」、ゲームで自分の作品を作った経験を下敷きにしたものだ。一方、大森氏は「映画を作ろうとして書ける小説ではない」として、翻訳家の故・黒丸尚氏の訳文を研究するなどといった文章修行を要因のひとつとして挙げていた。また、小島監督は「ネットで10年ぐらい“作家”をやっていた」と、ネットやブログの執筆活動を評価していた。

 ちなみに『MGS4』のこぼれ話として、『虐殺器官』にPMC(民間軍事会社)やプラハといった共通する要素が出てくるのは「焦った」らしい。『ミュンヘン』は『MGS4』にも影響を与えているそうで、おなじような映像の質感を得るために専用の“ミュンヘンフィルター”を制作したのだという。ノベライズにあたっては矢野氏から「若い子が読めるようにしてほしい。かつ、分量は薄くして欲しい」という注文を行ったところ、「オタコンの一人称にしましょう」というアイデアが伊藤氏から出され、矢野氏はそこで成功を確信したとのこと。

 だが、小島監督によると、伊藤氏が一番感情移入していたのはオタコンではなく、雷電だったという。それはサイボーグ技術で生かされている雷電と、医療技術によって生きている自身を重ね合わせてのことだった。前述の『制御された現実』では、自身を“テクノロジーの子供たち”とも表現している。『ハーモニー』は、そんな何度目かの入院の際に書かれた、健康が徹底的に管理された超健康社会を描いた小説だ。塩澤氏によるとプロットは以前からあったものの決定打がなく、感情を表記するマークアップ言語“ETML”というアイデアで一気に完成に進んだという。大森氏は、電子書籍としても売れている海外で、本作の地の文の周囲にETMLタグが書いてある本作に面食らい「これはマスタリングに失敗している不良品なのではないか」と言う読者がいるというエピソードを明かしていた。

 未完の長編『屍者の帝国』では、死者を蘇らせるフランケンシュタイン技術が発達した世界が描かれる予定だったが、完成を見ずに病没。小島監督は見舞いに行き、映画の話をしてもほとんど反応しない伊藤氏に、今度は『メタルギア ソリッド ピースウォーカー』のプロットを話したところ、『屍者の帝国』のプロットを教えてもらい、それは非常におもしろいものだったそうだ。

 伊藤氏が存命であればどういう影響があるか? と問われると、小島監督は現在新作を考えていることに触れ、クリエイターとしては「誰かに分かって欲しい」、なかでも「伊藤さんだったらどう思うか?」を考えていると心中を明かした。そして「もうファンとクリエイターの関係じゃないですからね」と言い、伊藤氏との関係を「自分の分身のようでもあり、弟子のようでもあり、師匠のようでもあり……」と表現。だからこそ、その死に『MGS PW』は捧げられたのだ。

 最後に塩澤氏から、5月末売りの『SFマガジン』で、“伊藤計劃以降”を扱った特集を行うことが明かされた。次に続く作家を発掘すべく、コンテストなども行っていくようだ。

 後進の育成という点では、小島監督より興味深い発言もあったので書いておこう。小島監督の持論“35才最高傑作説”(キャリアを代表する作品はだいたい35才で出てくるという説)に対して、大森氏が、映画や文学でデビューが遅くなってきていることを指摘し、ゲームではどうかと聞くと、ゲーム業界ならではの問題があることを明かした。つまり、ゲーム開発が大人数のチームで構成される開発ラインで行われるようになったことで、かつての少人数で開発していたころよりも自分のゲームを作りづらく、主導する位置にあがってくるのも難しいということ。この現状はクリエイターとして「かわいそう」であり、考えていかなければいけない問題だと認識しているとのこと。小島監督といえば、先日KONAMIの執行役員副社長に就任したばかり。すぐに何が変わるということではないだろうが、長期的にどんな対処が行われるのか気になるところだ。

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