「情報」と「お金」の相性が生む既存ゲームとソーシャルゲーム違い(下)

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広告主と読者の両方から利益を作った最強のリクルート

 

今回も前回に引き続き、「情報」と「お金」が生む新しいゲーム関係について考えてみたいと思う。


 斎藤由多加さんは、現在のゲーム開発の仕事を専業にする前、80年代のバブル期にリクルートで働いていた。

当時のリクルートの勢いは、それは今からでは想像が付かないほどすごい物勢いを持った会社だった。1988年には、多額の現金に換えることが出来る未公開株情報を当時の有力な政治家に提供した「リクルート事件」を引き起こすほどのパワーがあったのだ。


 リクルートの強さは、「情報」をうまく「お金」に変える仕組みを生み出したところにある。住宅情報誌、就職情報誌を毎週出版することで、急激に大きくなったのだが、これらはとんでもない利益を生み出した。

 なぜなら、その雑誌に情報を掲載することを希望する人からも広告費としてお金を取ることができ、また、紙に印刷した雑誌という形で、情報を必要とする読者からもお金を取ることができたためだ。


 雑誌に掲載されたサービスを利用するすべての人からお金を取れるということで、途方もない利益をリクルートにもたらした。



少ないパラメータを定義し相場を生み出した住宅情報誌


 斉藤さんも著書の中で、住宅情報誌の無味乾燥に見えるチャートを示しながら、これがどれだけ大きな影響力を持つのかを書いている。

「住宅情報誌。ここには無機質な物件情報が帯状に並べられています。ひとつひとつは広告というよりも味気ないデータ形式で並べられているだけですから、強い魅力や引力を持っているわけではありません。
 ところが、ひとつひとつは味気なくても、それらが一定量以上にずらっと並んだ瞬間、何か大きな力が生じ始める。それがこの雑誌のマジックでした。
 おそらくそれは『相場』ではないかと思いますが、ある統一されたフォーマットがたくさんのデータで埋められると、次元の異なる引力を持ち始める」(P.138)

 この雑誌が登場する以前には、不動産業界では、本当の金額が見えにくかったために高い価格で物件を売りつけられるようなトラブルが頻発していたのだという。

「ところがあらゆる物件が『沿線』『間取り』『築年数』『価格』といった項目で統一されてずらりと並んだおかげで、そこにおのずと相場が形成され、不当に高い物件は自然に排除されていったそうです。(中略)『沿線』『間取り』『築年数』『価格』という項目は、しかしその物件の魅力をすべて語っているか、というと必ずしもそうではありません。(中略)業者には扱いやすい都合が良い情報は、あたかもゲームのように市場を飛び交うことになり、いつしか不動産は投機物件としての色合いを強め、やがては不動産バブルの時代へと突入していったのです」(P.138-9)

 

 

          

 

 

偏差値ビジネスもまた同じく場を作る「胴元ビジネス」


 斉藤さんは、リクルートが提供いていたのはコンテンツではなく、今のオークションサイトや、株式情報のような「場」であり、ポータル的な役割を雑誌が担っていたと述べている。
 住宅情報誌のような雑誌では、読者は希望する案件を探す際に、様々なページをめくり、だんだんと相場を学習していく。自分の希望と、実際とのギャップとの間を、雑誌を繰ることで、自然に身につけていく。


 こうした画一的な情報を集めることで、「場」を作りだし、しかも繰り返す。
 確実な収益を上げている別のビジネスの例として、予備校の「偏差値」と模擬試験ビジネスを上げている。同じテスト毎年繰り返すことができ、全国の受験生の情報を画一的に集めることで、「場」としての引力が生まれていると述べている。それを斉藤さんは「胴元ビジネス」と呼び、情報をお金に換える有力な手段になりうると、考えているようだ。


 一方で、ゲームはインタラクションの仕組みでは、ゲームそのもののスコアやレベルといった概念は、まさにこうした「場」を生み出しているので、面白さを生み出していると考えているようだ。しかし、既存のゲームの場合、一つの完結したパッケージゲーム単体の販売はできても、継続的に「場」を作り続け胴元化することの難しさを斉藤さんは感じ取っている。


ソーシャルゲームは相場情報をゲームに変えた


 斉藤さんの見方から現在のソーシャルゲームの急激な人気がなぜ生み出すことができたのかを考えると一つのヒントが見えてくる。
 例えば、ディー・エヌ・エーの「怪盗ロワイヤル」が提供しているのは、まさに「相場情報」の何物でもない。ゲーム全体が、他のユーザーとの相対的な相場情報で構成されている。


 対戦する別のユーザーの情報は、「レベル」、「攻撃力」、「隠された防御力」、「防具」、「仲間の数」、「持っているお宝の種類」といった情報がずらりと並んでいるだけだ。それらのたくさんのユーザーの中から、プレイヤーは自分の能力を比べながら、お宝を奪う相手を決めて、対戦を進めていく。最初のうちは、その数字の意味が読みとれなくとも、対戦をくり返しているうちに、相場観をつかんでいくのだ。

 

 

 つまり、「場」としての引力と、パラメーターが絞られた「相場情報」によって、ゲームは誰にもで簡単に学習することができ、過去のゲームにはなかった「引力」を持つようになったのだ。ユーザーはゲームをすることで、「相場」を学習していくことで、どうすれば勝てるのかを考え、その一つが効果的に課金をすることだと、考えが及んでいくのだ。


 「情報」と「お金」との相性は悪いが、ゲームに「場」としての引力を生み出したことで、過去のゲームにはなかった魅力をソーシャルゲームは作りだした。その論理が、住宅情報誌やアルバイト募集雑誌などと共通していることは意識していいだろう。だからこそ、一方では既存の家庭用ゲーム機を作っていた開発者にはわかりにくいということも、斉藤さんの著書からは見えてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2011年8月2日 16:48