NHKスペシャル「世界ゲーム革命」から考えさせられること(下)

■番組に入れる事をこだわった「キネクトハック」
 チーフ・プロデューサーの小川徹氏は、書籍版『世界ゲーム革命』(NHK出版)には収録されていないことを残念かられているのだが、未来を感じるものとして、印象的な取材があったことを「あとがき」に書いていた。「ゲームレボリューション?王国ジパングの逆襲」の最後に登場するサンフランシスコで行われた「キネクトハッカー」たちのイベントだ。
 

 これは、昨年マイクロソフトがリリースした、モーションセンサー「Kinect」を利用したハッキングコミュニティの集まりだ。公開されている環境を利用してキネクトのプログラムや自作ゲームを作っているプログラマーや学生たちの集まりだ。
 

 後日お話を伺った際、それぞれのハッカーたちは「マイキネクト」に、とてつもない愛情を注いでいるのだそうだ。丁重にケースの中にしまい込んだ自分のキネクトをまるでペットといった意識のある存在であるかのように、愛情を注いでいる姿と、その場のあまりの楽しい雰囲気に、驚かされたという。
 「あれは取材している方も楽しかった」とのことだった。番組の中でも、ウルトラセブンになったり、カメハメ波を出したりするYouTubeの動画が紹介されている。

 

 

 「極めつけは、バーチャルアイドルと人気の初音ミクの動画だ。この投稿者は、キネクトとゴーグル型のディスプレイを組み合わせた。ゴーグルをかけると視界は100パーセント仮想空間のなかに包まれ、自分の身体は、画面のなかのキャラクターと同化する。初音ミクとなった投稿者は、CGのなかの街を自由に散歩する」(P.263)
 

 これらの映像は、どうしてもBS版を新たにアップデートして作る際には入れたいと望まれていたと伺っている。

■日本への憧れが残っているうちに
 小川氏は、こうしたゲームなどの仮想空間に入っていくユーザーに対して、一般的に社会で見られてきたような悪者とする流れに疑問を呈している。
「今回の取材を通じて、新しいテクノロジーを使いこなし、それを自分なりに発展させていくこうした若者たちを単なる『オタク』といって切り捨ててはならないと思った。メーカーやクリエイターの思惑を超え、ユーザーの側が勝手に使いこなすことによって新たなおもしろいことが生まれるかもしれない」(P.265)
 

 ゲームの世界では、日本ではこうしたことが起こりにくいかもしれないが、ストリートファッションが起きたものが、実際に日本初のファッションとして世界の流行を生み出しているようなものに近いのではないかとも述べている。
 

 そして、小川氏は言う。「日本製のゲームのシェアが減っていても、彼らにとっては日本は『憧れのゲーム王国』なのだ。(番組の取材スタッフは)『日本製のゲームが嫌われているというわけではなく、ジャパンには指定席があって、空けて待ってくれている』という。そして『はやく体制を整えて、飛び込んでいけばいいのに、と思った』というのである。そうした期待は、本書に収められた様々な人の言葉のなかにも感じ取ることができるはずだ」(P.267)

■ゲームの光と影、しかし、起きている革命
 『世界ゲーム革命』は、クリエイターの苦闘と共に、日本のゲーム産業が置かれている問題点を浮き彫りにしている。しかし、読み終えても、暗い気分にならない。むしろ、心地よい気分になる。世界が変わろうとしている実感を感じるのだ。
 

 「ゲームは麻薬だ」というロシアの研究者もいれば、一方で、人工知能研究の父マービン・ミンスキーは「これからのサイエンスで重要なのは、ゲームだと思うよ」と言い放つ。ゲームそのものの持つ光と影が指摘されながら、現実には、とっくに仮想と現実の区別の意味がなくなろうとしている時代。
 

 ゲーム産業の形が全世界で大きく変化しつつあり、今引き起こされている「革命」が、引き起こす新しい技術的な変化は、ユーザーまでを巻き込んだ、エキサイティングな時代になろうとしている姿がよく描かれている。

 ところで、番組の中でフィーチャーされていた水口哲也さんの新作「Child of Eden」の発売が本当に楽しみにしている。ゲームの中の世界と、自分自身が一体化する感覚をどこまで味わえるのだろうか。ただ、欧米では6月にリリースがすでに発表されているが、日本での発売日がまだなのが残念なところ。

 

    
※残念ながら今日現在番組は「NHKアーカイブス」に登録されておらず視聴できない。再放送があると期待したい。

2011年5月31日 14:42