「ハコビジョン」で楽しむ初音ミクのライブ

 「ニコニコ超会議3」に展示されていた「ポリッドスクリーン」には驚かされた。ユーザーのDIYは単なるボーカロイドのコンピュータ映像を作成するだけでなく、現実の世界でライブをおもしろく見せるための方向へと技術開発が広がっていることを知ったためだ。ただ、筆者も楽しんでみたいと思ったのだが、それなりに機材環境を整えるのは楽ではない。

 しかし、安価な環境は、バンダイの食玩「ハコビジョン」ならば実現できる。その映像も、すでにユーザーが開発を始めていることに、さらに驚かされた。

 DIYは、「Do It Yourself(ドゥ イット ユアセルフ)」の略で、専門業者に任せずに、自分で自分の求めるもの作るという意味だ。住宅の改修などの日曜大工的なハードウェアを利用する意味で使われてきたが、その意味する範囲が広がってきており、企業の製品などで満たされないニーズを自分たちで、製品からサービスまで開発して埋めていくというニュアンスになり、ソフトウェアやコンテンツといったものまで含まれるようになってきている。


■ポリッドスクリーンを自分でも試してみたいと思ったが……

 ハンドル名「あおめ」さんが、開発しているポリッドスクリーンは、ボーカロイドのコンサートで、実物サイズでダンスする初音ミクを表示するために使われる透過スクリーンを、何とか安価に自前で作れないかというものだ。

 ステージの上に半透明に浮き上がるボーカロイドの姿は、ただのモニターに表示するコンピュータ映像よりも、「現実に存在している」ような印象を与える。

 

 コンサートで利用されているものは、数十万円もするような高価なものだが、ポリッドスクリーンは、農業用のビニールハウスの素材を利用することで、同じような効果を1メートル100円以下で実現できるという秀逸なアイデアだ。

 13年1月から、ニコニコ技術部で続けられている研究開発は、現在では、より自然に3Dが見える高さ2m、幅2.5mの曲面スクリーンの開発にまで進んでおり、コンサートで利用されているモニターが備えていない機能を持つ段階にまで入りつつある。

 ポリッドスクリーンの作り方は、ブログ「ポリッドスクリーン研究記」で公開されている。ホームセンターで売られている材料を購入してくれば、1万円以内の価格で自作ができるので、私自身も作ってみたいと考えた。表示に使えるボーカロイドのダンス映像は、ニコニコ動画に無料で公開されている3Dアニメーションツールの「MMD(MikuMikuDance)」を使って、ユーザーが作成したものが多数アップロードされている。

 

▲あおめさんの「ポリッドスクリーン研究記」。最新の投稿では、

ニコニコ超会議3で発表した曲面スクリーンの展示の模様が紹介されている

 

 

 ただ、ネックは、数万円するプロジェクターだ。それなりのスペックを求めると5万円は超える。果たして何回利用するのかわからないポリッドスクリーンの映像を表示したいという好奇心のために、そこまでの機材は必要だろうかと躊躇してしまった。


 ポリッドスクリーンは、ニコニコ動画やYouTubeで、バンドのライブや高校の文化祭の出し物として使われていることが確認できるが、まだ、爆発的に利用者が増えているという印象まではしない。

 これは作る作業はそれなりに大変で、また、プロジェクターといった最初の機材費の高さが、気軽に参加する上では壁となっているからだろうと考えている。


■食玩「ハコビジョン」で楽しむ初音ミク

 透過型スクリーンのおもしろさを理解したいという好奇心を満たすには十分な方法があった。バンダイの食玩「ハコビジョン」を利用する方法だ。

 この食玩では、クリアプレートに反射させた映像をフィギュアに重ねて、用意されているスマホの映像を表示させることで擬似的に3Dプロジェクションマッピング風の映像を楽しむことができる。

 

 

▲「ハコビジョン」公式ページ

 

 

 今年1月に「東京駅/TOKYO HIKARI VISION」、4月に「MOBILE SUIT GUNDAM」など、全部で4種類が発売になっている。8月には「初音ミク」の発売が予定されている。1個500円で販売されているので、非常にリーズナブルだ。アマゾンなどの通販で購入可能だ。


 ハコビジョンが行っている映像を鏡などに反射させて、クリアプレートに表示することで、本来は2Dの映像を、あたかも3Dのように見せるという方法は、アーケード用ゲーム機で使われてきた一般的な方法だ。正確には同じことを行っているわけではないが、ポリッドスクリーンを通じて得られる映像の印象と変わらない立体感を楽しむことができる。

 まだ、件数は少ないもののニコニコ動画の「ハコビジョン」のタグには、ユーザーがハコビジョンに投影することを想定した映像を投稿している人が出ている。


 特に、ハンドル名「nkcraft」さんが、ニコニコ技術部に投稿している『【投影ソース】 XS式デスクトップLive 8 【MMD】』は秀逸で、ミクなど4人のボーカロイドが18分にわたってライブを行う。

 ライティングも空間設計もうまく設計されており、ハコビジョンにセットして映像を表示すると、小さな箱の中で、フィギュアが動き回っている印象になるので、とても不思議な映像体験になる。

 

 

▲nkcraftさんがニコニコ動画に投稿した「XS式デスクトップLive8」を

実際にハコビジョンに投影している様子を撮影した動画

 

 

 ハコビジョンの映像は、左右が反転してしまうため、正しく映像を表示するには、専用の映像を用意する必要があるが、そこを気にしなければ、すでに多数作られているボーカロイドの背景が黒いライブ用素材であれば、十分に楽しめる。


■イノベーションはユーザーが牽引する

 デジタルコンテンツの分野で、DIYが増えているのは、

 

(1)コンピュータのハードウェアが高性能なものでも安価になったこと、

 

(2)ソフトウェアの利用が安価になったこと(MMDは無料だ)、

 

(3)インターネットを通じて情報の交換が容易になったこと(ニコ動、データ配布が簡単になった)といった、情報環境の発展が背景にある。


 特にボーカロイドは、音楽、キャラクターモデル、プロモーションビデオなど、特定の誰かがすべてを行うのではなく、お互いにデータをシェアし合うことで、コンテンツを盛り上げる深いユーザー間の「ソーシャル性」が存在しているところに、特徴がある。

 多くのイノベーション(技術革新)は、企業が開発できない新しい製品のアイデアは、ユーザーが先行して手作りのDIYを通じて開発をするケースが多い。それを企業が取り込み、製品として一般化して具体化するパターンが多いことを、マサチューセッツ工科大学のエリック・フォン・ヒッペル教授が『民主化するイノベーションの時代』(ファーストプレス)で明らかにしている。「ユーザーイノベーション」と呼ぶ。

 ちなみに、英語の原題は「イノベーションの民主化」で、ゲームエンジンの「Unity」はスローガンとして「ゲーム開発の民主化」を掲げている。自分たちのゲームエンジンの発達はユーザーのDIYとの協同作業であることを強く意識している。


■楽しみな今後登場してくるまだ見ない映像

 ハコビジョン「初音ミク」も、バンダイは一般クリエイターから投影できる動画作品を募集する参加型企画の開催を予定している。これはユーザーイノベーションを、企業が自社の製品にサービスとして取り込んでいこうという動きの例でもある。

 8月に発売されるころには、非公式でも多数の映像や、演出を工夫したものが作られていくと思われる。そこでは、まだ発見されていない効果的な表現方法などが、次々に登場してくるのではと思う。先行するユーザーコミュニティとの関係を的確に築けるかどうかは、製品のヒットを左右することにもなるので注意深く取り組まなければならないだろうが、公式で動画を作成するユーザーとの適切なすみ分けができ、お互いに発展していってほしいと思っている。

 そして、ハコビジョン向けに作られた映像は、ポリッドスクリーンなどの大型サイズのスクリーンで行われる映像表現にも影響を与えるだろう。


 どういう表現が登場してくるのかは、現時点では、わからない。しかし、見たことのない映像で楽しめるのではないかという予測できないという楽しみが、DIYによって生み出されるデジタルコンテンツにはある。

2014年5月13日 21:59