開発途中のゲームを販売する:インディゲームの新しい開発手法

 3月17日から21日まで、米サンフランシスコで、Game Developers Conference (GDC)が開催中だ。ゲーム開発に関する400以上の講演やパネルディスカッションや、ビジネスミーティングなど、ゲーム業界に関係している人にとっては、重要な国際カンファレンスだ。参加者は年々増加傾向で、昨年は2万3000人の参加者があった。

 

 GDCは前半の2日間は、専門的な内容の講演に分かれて議論が行われる。その中で、今年も大きな注目を受けているのが、「インディペンデントゲームサミット」だ。今年の講演で興味深いのが、開発途中のゲームを販売することが一般化しつつあることだ。そのインディ開発者が牽引する新しい開発手法を紹介する。

 

■インディゲーム開発者が抱える課題

 

 GDCが、欧米圏でのインディゲームの発展に与えた影響は大きい。特に、3日目に行われる「Independent Games Festival(IGF)」は、世界中からインディ開発者の数百タイトルものゲームの応募がある、その激戦を生き抜いたゲームが、各部門のノミネートを受けた後、3日目夕方(今年は現地時間19日)に行われるセレモニーでその年の受賞者が決まる。

 

 狭き門だが、そこでノミネートや賞を受けたゲームは高い注目を受け、家庭用ゲーム機など移植の可能性が開かれたり、大ヒットする可能性への道が開かれる。

 


 インディ開発者は数人の小規模チームで開発していることが多く、常に、開発費とマーケティング費用に限界を抱えている。

 

 アメリカでは、10月のロサンゼルスのIndie Cadeや、8月のシアトルのPaxといった類似するインディゲームの発展を支えるイベントが増えてきている。それぞれのイベントには、アワード(賞)がある。その受賞を獲得できれば、数多くのインディ開発者が競い合う中で、自分のゲームに高い注目を集める優れた機会だ。

 

 とはいっても、それなりの規模のゲームを開発するためには1~2年の開発期間がかかるのは当たり前だ。また、アワードの受賞も容易ではない。結局、製品版がリリースされるまでは資金面では苦労することになり、同時に、発売してしまうと思ったよりも売れないといったリスクは常につきまとう。


 

 今回、GDCでインディゲームにとって、興味深い戦略が一般化してきていることがわかった。開発途中のゲームであっても、ユーザーに積極的に情報を提供し、さらに先行販売を行い、完成途中のゲームを遊べるようにするということだ。

 

 2010年創業のオランダVlembeerのRami Ismael氏とJan Willem Nijman氏はこのアプローチを行い成功させている例だ。2Dシューティングゲーム「Nuclear Throne」の開発を続けているが、それをこの手法を使って開発を続けている。

 

Rami Ismael氏とJan Willem Nijman氏

 

  開発開始の早い時期から、動画ストリーミングサービスの「Twitch」を利用して積極的に開発プロセスを公開して、ユーザーの興味をあつめる努力を行っている。そして、ゲームが未完成の状態から、開発途中のβ版をPC向けのコンテンツ流通システムのSteamで、昨年10月より、12.99ドルで販売を開始した。

 

■インディ開発者が最初に重視するSteam

 

 米Valveが運用するSteamは、全世界で2500万人が利用しているPC向けのダウンロードを前提としたゲームプラットフォームだ。Steamはクレジットカードでの購入が必須で、ドル建てで購入が前提な上に、PCゲームを遊ぶ文化が、日本では一般的ではないため、あまりメジャーな存在ではないが、欧米圏では独占的なシェアを持っている。

 

Steamで販売されている 「Nuclear Throne」

 

 iOSのApp StoreやアンドロイドのGoogle Play向けのゲームの場合、販売価格が数ドルにしか設定できないため、ヒットしても収益を出すことが極めて難しい。それに対して、Steamでは、インディ開発者が、自由に価格設定をすることができるが、10~30ドルといった価格設定でもユーザーが購入してくれるために、インディ開発者でもビジネスが成立しやすい。

 

 Valve自身もゲームビジネスを成立させることに関心が強く、スマホゲームのように、極端な各ゲームの競争によって、安易に販売価格を下落させることを推し進めようとしていない。

 

 Steamが、インディ開発者が利用する上で提供している機能も、多機能で、開発途中のゲームを販売するだけではなく、アップデート情報や動画を容易に掲載でき、ユーザーとのコミュニケーションを取る上で、利用しやすい環境を整えている。

 

 現在は、インディゲームはPCから始まることが多く、Steamはインディ開発者が、最初に意識するプラットフォームとして使われている。この数年で「Nuclear Throne」のように、Steamで先行販売をするインディ開発者のケースが増えてきている。

 

■開発中のゲームをドキュメンタリーのように見せる

 

 講演の中で、Ismael氏とNijman氏は、ゲーム開発を自らドキュメンタリーのように見せて、エンターテインメント化していく、新しいプロモーションの重要性を上げていた。

 

 開発を開始して、38週間が経過するが、毎週のアップデートするたびに、Twitchでゲームについての番組を放送、内容の説明をしてきている。

 

 Twitchは、元々、ユーザー間の対戦ゲームなどのゲームプレイを見せるために出来たサービスだが、インディ開発者たちがユーザーとのコミュニケーションのために使い始めている。また、YouTubeにも、ゲームの紹介を行う81の動画をアップロードしている。

 

 「Nuclear Throne」の番組をTwitchで見た視聴者数は延べ500万人を突破、売上げも20万ドル(約2000万円)で、購入ユーザー数は約1500人に達している。また、開発途中のゲームを遊んでくれるユーザーのうち50時間以上遊ぶユーザーも2%を越えている。

 

 そして、購入してくれたユーザーの意見を取り入れ協同に近い形でゲームを開発する。ユーザーテストに参加してもらったりと、ゲームの開発プロセスにも参加してもらう。ユーザーが「本当に仕事をしているかどうかをチェックできる」といったことを言って、笑いをとっていた。

 

■新しいゲーム開発手法が登場する時代

 

 二人はこの新しい手法について、結論として下記のようにまとめていた。

 

・完成することが約束されているゲームがすべてではない


・開発とマーケティングは同時にすることができる

 

・ユーザーを自分たちの開発プロセスを見せながらどんなゲームなのかを学んでもらうことは重要

 

 こうした方法は、ゲームの開発手法のイノベーションであることは間違いない。近年、インディゲームへの注目が集まるのは、過去になかったゲーム内容や開発の方法が、次々に登場してきていることが大きい。


 日本では、まだ、Steamに当たる存在がないため、インディゲーム開発者は同様の開発方法をとることは難しいのだが、こうした方法は日本でも遠からず一般化してくると思っている。

 

 今は、ソニー・コンピュータエンタテインメントの「プレイステーション4」は、厳選し完成したインディゲームをリリースする、過去の家庭用ゲーム開発と同様の戦略をとっている。

 

 それを、思い切って、Steamに認められているような、開発途中のものでもリリースができる環境を組み込むことが出来れば、まったく違ったインディゲームの動きを登場させることが出来るような気もしている。


 インディゲームの時代はますます広がってくるだろう。GDCに来ると、この分野は、毎年新しいことが登場するので、とても楽しくて仕方ない。

2014年3月18日 22:38