「パズドラ」にはなぜ「運」が必要だったのか:認知バイアス(2)

 先週、ゲームがヒットするためには「運」の要素が強まっていると述べた。「運」を加速化させているのは、インターネットに接続できるスマートフォンの劇的な増加だ。それが、今までよりも、ゲーム産業の変化を加速化させており、これが今後のゲーム市場がどのように推移するのかの予測を極めて難しくしている。

 

 それは市場の不確定要素を劇的に増加させ、ヒットを引き起こすための「勝利の方程式」を確立することを極めて難しくしている。

 

■ スマートフォンのゲームユーザーはすでに国内5000万人

 

 これまで、携帯ゲーム端末として最もヒットしたハードは、04年に発売された任天堂の「ニンテンドーDS」だ。ワールドワイドで1億6000万台を売り上げた。日本の販売台数も約4000万台前後とみられている。「ニンテンドー3DS」も善戦しており、日本で1000万台以上の販売に成功している。

 

 しかし、2008年に「iPhone 3G」の登場によって始まったスマートフォン市場の形成は、さらに早かった。米調査会社IDCが4月に発表した調査によると今年4月までのスマートフォンの出荷台数は2億1620万台にまで増加している。1—3月期の出荷台数は、初めてフィーチャーフォンを超え販売台数に占める割合は51.6%と初めて過半数を超えた。

 

 日本国内でも、MM総研の予測では、2012年以降、毎年約3000万台ものスマートフォンの販売が行われると予測されており、ピーク時の2016年には3500万台に達すると見られている。現在でも、日本だけで、1億台に迫る勢いだ。うち個人ユーザーの利用者数は、12年度で約4600万台とみられている。

 

 さらに、5月に発表されたジャストシステムのスマートフォンの利用状況の調査では、毎日ゲームをプレイする人は53.4%と過半数を超えている。つまり、すでに「2300億台のゲームプラットフォーム」ができあがりつつある。スマートフォンでゲームを遊んでいるユーザーは爆発的に増加しつつあり、過去のゲーム機の普及台数のペースを、現在でさえ超えている。少なくとも、「ニンテンドー3DS」よりスマートフォンのゲームユーザーの方が多い計算になる。

 

 今後もそのペースは持続すると考えられるため、家庭用ゲーム機の普及はそのペースに、容易には追いつけないだろう。

 

■供給過剰市場でヒットするためには「運」が関わり始める

 

 一方で、iPhoneのネット流通システム「App Store」のゲームの登録本数は15万本を超え、容易に埋もれてしまうことも当たり前になった。単純にスマートフォンの普及台数に対して、1台あたりの平均を考えると、日本では約233本ということになる。とても、ビジネスになる本数ではない。

 

 市場が極端までに、供給過剰になった場合には、ヒットする重要な要因として「運」の要素が大きく関わってくる。後から見た時に、そのゲームがなぜヒットしたのかを分析することは簡単だが、その成功事例をそのまま真似て成功することは難しい。

 

 そして、インターネットの供給過剰の世界では「ネットワーク外部性」が起こりやすくなる。これは利用者が増大することで、ますます、利用者が増大するという「正のフィードバック」がかかり続け、より大きく成長が起きるという傾向だ。一度、人気を確立したゲームはさらに人気を増加させる。

 

 そのタイミングにうまくはまったのが「パズル&ドラゴンズ」(ガンホー・オンライン・エンターテインメント)だと思っている。

 

 App Storeで、ネットワーク外部性が起こりやすい原因は、ユーザーの目に触れるチャネルが極めて限定されているところにある。これまでの家庭用ゲーム機の場合には、ゲーム雑誌やテレビCMを大きく投入して、ゲーム発売日までユーザーを盛り上げ、パッケージを購入してもらうというモデルだった。

 

 ところが、App Storeの場合には、大半のユーザーはApp Storeで表示される「ランキング」を参考にアプリをダウンロードしていると考えられる。これはアンドロイド端末向けの「Google Play」でも大きく変わらないだろう。

 

■「勝者総取りの法則」も起こりやすいインターネット時代

 

 そのため、ランキング上位になることに成功したゲームは、さらにダウンロードされる確率が高くなる正のフィードバックがかかりやすい。逆に、いくら優れたゲームが開発されていても、ランキング内に入ることができなければ、多くのユーザーにとっては存在しないも同じだ。15万タイトルの中から、優れたタイトルを探して回るユーザーは限られており、その開発企業が、ヒットを引き起こすことは難しい。

 

 書籍の場合のように、本屋で販売したい本を目立つところに平積みにして、多様な宣伝をおこなう手法がアプリの場合は難しい。

 

 今では、多くの企業がゲーム以上にネット上のバナー広告などを通じて、宣伝広告費に開発費以上のコストを掛けることが珍しくないのは、そういう理由がある。

 
 ネットワークの外部性は、「勝者総取りの法則」も引き起こしやすい傾向も生みだす。特に、インターネットのようなソフトウェアの普及ペースが進んだ現在では、この傾向は短い時間にますます起こりやすくなっている。

 

 例えば、検索エンジンでは、グーグル以外のツールを使っている人は現在では限られるだろう。スマートフォン時代のソーシャルネットワークも「フェイスブック」、「ツイッター」、それから新興勢力としての「LINE」といったものに集約化されつつある。ディファクトスタンダードが生まれると、他の企業の参入障壁が高まり、成功は極めて難しくなる。

 

 ゲームコンテンツの場合には、インフラ系のサービスに比べて、ユーザーの好みが反映されるため、ここまでの極端な集中は起こりにくい。特定のゲームが好きだけど、だからといって、そのゲームだけを遊び続けることはない。

 

 しかし、それでも他のゲームが生きられる領域を狭めるようにはなる。例えばレースゲームのPS3向け「グランツーリスモ」(ソニー・コンピュータエンタテインメント)はカテゴリーキラーの代表格だ。しかし、ディファクトスタンダードではないのは「ニード・フォー・スピード」(EA)、「フォルツァ」(マイクロソフト)や、「Dirt」(Codemasters)など、様々なレースゲームは、まだ残っている。ゲームは検索エンジンのようにはならない。

 

 いくら、「パズドラ」が恐ろしいほどの大ヒットを引き起こしているとはいえ、今までのコンテンツの常識では、ブームは永遠に続くことはない。それでも、ブームが起きている間は、勝者総取り状態を一時的には生みだしやすい。それが、極端なまでの収益の高さをガンホーにもたらしている。

 

■「パズドラ」がヒットした理由を強引に考える

 

 「パズドラ」が、この膨大なゲームの海の中で、突出して人気を得るようになったのは、次のような理由が考えられるだろう。

 

 「ゲームの質がスマホ向けに高く、簡単操作だったこと」、「リリース時期がスマートフォンが急激に浸透する時期と重なったこと」、そして、「ネットワークの外部性の好循環にはまり口コミの広がりが早かったこと」、「女性ユーザーの支持があったこと」等だ。

 

 しかし、「運」や「まぐれ」の要素は無視できない。

 

 もちろん、成功するためには、そのゲームの「質が高く」、「適切なタイミング」で投入され、「適切なポジション」を獲得しなければ不可能だ。しかし、それを言うことは簡単だが、実際に行うことは容易ではない。

 

 「アングリーバード」(Rovio Entertainment)がなぜヒットしたのかを説明することは難しい。また、今後、いつまでブームが続くのかも予測することは難しい。「アングリーバード」を模倣したゲームは次々に登場したが、同じようなパターンでヒットを生みだせたゲームは存在しない。

 

 また、「パズドラ」をコピーしたようなゲーム、例えば、「ぷよぷよ!!クエスト」(セガ)のようなゲームも、次々に登場している。しかし、現状、「パズドラ」ほど、成功を収めていないのも、なぜなのかを説明することは簡単ではない。それでも、理由は思いつく人はいるだろう。ただ、その仮説は本当に正しいだろうか?

 

 繰り返すが、我々の認知にはバイアスがかかっている。私が「パズドラ」がヒットした要因を、今、まとめたが、これは後付けだから、説明することができることだ。リリース時にはこうした理由付けは決してできなかった。

 

 そのため、「パズドラ」のケースは不確定要素の多い、スマートフォン市場で、ゲームをヒットさせるための「必勝法」にはなり得ない。それでも、ただ眼をつむってゲームをリリースするよりはマシではるとは言えると思えるのだが。

 


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2013年7月11日 21:21