人気ゲームの理解のために意識が必要な認知バイアス(1)

 今、ソーシャルゲーム、特に、HTMLベースのカードバトルゲームの人気が急激に落ちてきたと言われ始めている。しかし、この風景は、過去に何度見てきたことだろうか。ただ、ソーシャルゲーム市場の変化について、美しいストーリーを私なりに書いてみる。

 

■美しい説明1:なぜ、ソーシャルゲームは急激に成長できたのか

 

 DeNAは09年の「怪盗ロワイヤル」で成功した後、ロワイヤルのゲームシステムを戦国時代やガンダムなどの様々なコンテンツに展開することによって、これまで以上に幅広いユーザーを獲得することに成功した。これは同社の成功の必勝法になった。

 

 また、ガラパゴス携帯は、家庭用ゲーム機のようにハードウェアの普及に時間のかかるものと違い、すでに多くのユーザーが所有していた。さらに最初は無料でゲームを遊ぶことができるフリーミアムモデルは画期的で、ユーザーはお金をかけることなくゲームを始めることができたので、大量のユーザーを抱えることができるようになった。

 

 また、ワンボタンで気軽に遊ぶことができる携帯ゲームは、これまでの複雑化した家庭用ゲーム機向けゲームと比較して、ユーザーにとってわかりやすかった。電車などの移動中といった5分から10分のユーザーの隙間時間に入り込みやすかったことも、過去のゲーム機と大きく違う点だった。

 

 そして、ユーザーの行動の結果を、統計的に分析することが容易になったため、ユーザーの活動を見て、すぐにゲームシステムに反映できるようになった。ゲームのおもしろさをユーザーの好みに合わせて最適化できるようになった。それが更なる成功と長期間のヒットを引き起こせるようになった。ゲームは「科学」によって、より正確におもしろさを生み出せると考えられるようにもなった。

 

 これは、その後に、生みだされたカードバトルゲームへと広がり「ガチャ」という日本から発達した課金システムの広がりで、さらに新しい遊びが作られた。多くの企業が「ガチャ」を採用して、さらにユーザーの満足度を生みだすことに成功し、市場の成長を押し進めることにもなった。

 


■美しい説明2:ネイティブアプリの登場で陳腐化したHTMLソシャゲ

 

 また、DeNAだけでなく、グリーも、Facebookの戦略を参考にしつつ、09年頃には他社も参入を可能にするオープンプラットフォーム戦略を採った。それにより、多くのサードパーティも獲得できたために、さらにソーシャルゲームの市場拡大を引き起こすことにもなった。そのため、競合他社も含め、ついに昨年の市場規模は約3200億円と、家庭用ソフトウェアの市場規模の約2800億円を大きく越えるまでに成長した。

 

 ブームに沸くため、プログラマとグラフィッカーは常に不足する状態になっていた。各社とも高収益は今後も続くと考えられたので、高い人件費を払ってでもスタッフを集めた方がいいという判断が行われ、10?11年前後には、激しい人材獲得競争が繰り広げられた。

 


 しかし、カードバトルゲームは1000タイトル以上のひしめく状態が生みだされており、ユーザーの間には飽きが広がっていた。

 

 一方で、昨年には、ユーザーのスマートフォンへのシフトが潜在的に進んでいた。そのため、パズルをテーマにしたガンホー・オンライン・エンターテイメントの「パズル&ドラゴンズ」といったHTMLベースのゲームでは表現できない、本格的なネイティブアプリの市場が昨年末から急成長した。

 

 それによって、ガラパゴス携帯向けに展開されていたHTMLベースのゲームが急激に陳腐化した。求められている技術水準が上昇したのだ。より家庭用ゲーム機会社が持っているゲーム開発ノウハウを持つ企業が有利になり始めた。

 

 そのため、多くのHTMLベースのカードバトルゲームを主体に開発していた企業には、より技術力が求められるネイティブアプリの開発力が不足し、大きく差をつけられようとしている。

 

 そのため、今求められているようなゲームは、より家庭用ゲーム機向けソフトの要素を組み合わせたソーシャルゲームに変わってきている。

 

 

■「後知恵バイアス」と過小評価される「運」

 

 多分、これは多くの人が納得するような、現状の説明だろうと思う。私自身は、こうしたようにヒットした理由を分析し、説明する立場でもある。

 

 ただ、私自身、行動経済学者のダニエル・カーネマンの言う「後知恵バイアス」がかかっていることを率直に認めなければならない。「パズドラ」が昨年の今頃ここまでのヒットになるとは、まったく思ってなかった。では、なぜ先に積極的に展開していたセガの「キングダムコンクエスト」はこれほどの成功ができなかったのか?(もちろん、後付けで説明できるだろう)

 

 こうしたきれいに見える説明は、後からであればなんとでも言える。このストーリーは、今だからこそ書けることであり、「結果を左右した運の役割を過小評価するようになる。重大な決定はどれも正しかった」(※1)ということになる。なぜなら、それぞれの経営者や開発者(特に今はガンホー)の意思決定は見事だったと言えるのだから。一方で、成功におごったHTMLソシャゲを作っている企業の人たちの意思決定は、今では間違いなのだから。

 

 同じストーリーは何度も見てきた。ほんの数年前、「ニンテンドーDS」と「Wii」で大成功していた任天堂にも言える。成功している間、08年前後には、任天堂には「勝利の方程式」があるとさえ言われた。しかし、誰が今の任天堂の苦戦を予測できただろうか。

 

 最近、ゲームのヒットには、ますます「運」の要素が強まっていると思っている。もちろん、「運」が強まっているのにも、理由はある。

 

 

(※1)ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』(早川書房)、P.292

2013年7月3日 14:30