今度こそ「モバマス」をやめるんだっ(3)?愛情はやがて傾斜し始める

 「アイドルマスターシンデレラガールズ(モバマス)」(バンダイナムコゲームズ・DeNA)の世界は、男性にとっての一つの理想郷だ。

 

 デッキに組んだ5人の女の子はつねに自分を褒めちぎってくれる。ただし、男性諸氏には思考実験をしてほしいが(女性の方で不愉快に感じられたら、ごめん)、想像がつくのが、そういうハーレム世界の女性から、人間的な厚みを感じ続けるのは結構大変だ。

 

■現実には5人の女性と関係を持つのは不可能

 

 5人の女性と関係を持つことを、イメージすることは不可能ではない。

 

 ただ、それぞれの女性と子供を同時に5人作り、子供を産むまでの10ヶ月の間一緒にいる。さらにはその後も5人の子供を育て続けるというのは、現実には成立するだろうか? 一方的に作って逃げるということは、戦略としてあり得るかもしれないが、そのハーレム状態は、かなり一時的である可能性が高い。

 

 20世紀に入って、爆発的な食料の生産性の向上によって、多くの人が生きられる豊かな時代になる以前、200万年という長い人間の進化の歴史では、常に食料は不足していた。そのため、複数の女性と子供を作ることは、生存のリスクが高く、そういう行動を取った人は、自然淘汰されてきたと考えられる。

 

 ハーレム状態と、子供を作る(自分の遺伝子を残す)という状態はかなり違う。

 

 自分の遺伝子を残すためには、特定の女性に、子供が成長するように集中する方が、成功する可能性が高い。世界中共通している現象として知られることだが、離婚が起きる確率は4年目が一番高い。先史時代には、男女によって子育てをしていた時期が終了し、父親の手を子供が離れ始めるころだからだ。そのため、男性は別の遺伝子を残すために、浮気性のムズムズが生まれ始め、別の女性との関係を得られないかと考えはじめる。

 

■やがて特定の女性へと恋愛感情は傾斜する

 

 恋愛感情が生まれた一定の期間は(12?17ヶ月……ただし、個人差や環境の違いによって変化する)、特定の女性と深い精神的な繋がりを求めるようになる。愛の炎が燃え上がるのだ。そのため、当初は複数の女性によるハーレム状態を夢想していても、だんだんと男性は一人の女性に高い関心をよせるように傾斜していく。

 

 実在しないバーチャルな存在に過ぎないとしても、人間の本能的に刻み込まれた遺伝的特性によって、同じようなことが引き起こされているのではないかと、考えるようになっている。

 

 例えば、AKBに囲まれているような夢想をする人はたくさんいるだろう。しかし、CDをバカスカ買う総選挙のようなイベントに、複数の女性(例えば5人)に、同じ枚数のCDを購入するような行動をする人は、あまりイメージできない。

 

 スタートがそういう状態でも、やがて非効率なことに気がつき、特定の好みな人のCDを買うように変わっていくだろう。その方が、自分がその女性を応援することに、貢献していると感じられる満足度は高いはずだ。

 

 「モバマス」の場合も同様の心理が発生しているのだろう。

 

 当初は100人以上のキャラクターが登場し、それらの無限に感じられる選択肢の中から、好みの女の子を探し、育てていく楽しさがある。しかし、やがて特定のキャラクターに傾斜が始まり、最後には誰か一人に集約化されていく。そうすると、可能性空間は急激に狭くなっていく。その人にとって、そのゲームの世界で成熟が起きる。

 

 もちろん、運営会社側は、できるだけ多くのユーザーに満足して貰うようにしなければならないが、一方で、収益を確保するために、できるだけ人気のあるキャラクターから、CDデビューなどの展開を始めるようになることは容易に想像がつく。

 

 ゲーム会社側では、どのキャラクターのカードが、何人のユーザーに保有されているのかどれくらいそのキャラクターが保持されているかを示すログデータがあるため、人気度は一目瞭然だろう。

 

 そのため、そのCDといったメディア展開では、人気のある最大公約数のキャラクターに絞っていく必要がある。まさに今がそのタイミングで、TV CMを打っているのは、CDに登場するキャラクターの声を、一般のユーザーの人にも浸透させるためだろう。

 

 しかし、困ったことに、CDデビューをするキャラクターには関心が薄い、私にとっては、あまり大きな事件ではない。

 

 現状、私にとっては、アガリになってしまったのだ。

 

■必ず現れる「収穫逓減の法則」

 

 ゲーム会社側の対策としては、ここに5000円程度で手に入るような値頃なキャラクターカードを作ることを始めなければならないだろう。

 

 しかし、毎月、作り出すことできるキャラクターカードの量には、おのずと限界が存在し、価格の安いカードを出すことは、トップクラスの月に数万円を払っている課金ユーザーの月あたりの利用金額を減らすリスクも生まれる。そのため、なかなか踏み出すには勇気のいる選択だろう。

 

 よくも悪くも、緩やかに、それはゲーム内の有料課金ユーザーと無課金ユーザーとの格差を広げていく。オンラインゲームで過去に起きた「コミュニティの固化」という現象が起こり始める。これは格差が大きくなったために、断トツでトップクラスを進む一部の有力なユーザーが中心となり、新規参入者が簡単に入りにくい環境ができていることを意味する。

 

 ソーシャルゲームでは比較的その現象が起こりにくいのだが、それでも起きていく。

 

 私が陥ったように、多くのユーザーが、特定のキャラクターに思い入れする状態が生まれたとすると、次の自分のお気に入りキャラクターカードが出てくるまでの待ち状態になってしまう。それは「生産性(収益性)の低下」と言い換えることができる。 大量に存在する可能性空間をユーザーは探索することを止めてしまう。

 

 結局、カード一枚当たりで、得られる企業側の収益は減る方向に進み始める。これは、どんな分野でも現れる「収穫逓減の法則」だ。同じ畑で耕し続けると、やがて畑の土壌が同じであるために、土地が痩せていき、収穫量が減る。この現象は、経済活動では普遍的に見られる。

 

 そのため、ソーシャルゲームのカードバトルゲームの売上も収益も、永遠に伸び続けたり、維持できたりすることはできない。いつまで、続けることはできるのかは、予測は難しいものの、ただ、他のゲームで同じ心理が起きているのかは、ちょっと自信がない。

 

■結局モバマスを私は止めるのか

 

 じゃあ、結論として、私はモバマスを止めるのだろうか……。今はまだ止めないだろう。それは一人の観察者として、ユーザーがどんなことを掲示板に書き込み、どんなカードで一喜一憂をしているのかを、見続けたいからだ。また、自分が好きなキャラクターが登場すれば、心理的には変わるかもしれない。

 

 ただ、そのキャラクターの台詞が。5人も並べて、その台詞を聞き続けていると……「メガネ、メガネって!」、くどいんだよ。もっと、メガネへの愛情をうまく表現してください! えーと、偉そうに書いてるものの、最後はただの自分の好きなキャラカードを出してくれと熱望するユーザーと何一つ変わらんことは、恥ずかしながら最後に書いておきます。

2013年3月5日 18:08