1年遊び続けたのに釈然としないソーシャルゲーム?ゲームと心理学(1)

 今年1年間は、特に日本のゲーム市場は、ソーシャルゲーム全盛時代になったと考えていいだろう。世界でもソーシャルゲームは家庭用ゲームへの売り上げを押さえるほどの猛威をふるっているが、日本の市場規模の成長は、恐ろしいと感じられるほどのペースでの成長が続いている。スマホ上でのユーザー1人あたりが1ダウンロードする際の支払いの金額は、米調査会社では5月にアメリカユーザーが0.67ドルに対して、日本のユーザーは1.9ドルと実に3倍以上支払うという結果が出ている。

 

 しかし、市場規模としては、米スマートフォン向けソーシャルゲーム市場は、急激にPCから移行が始まっているものの、まだ240億円(3億ドル)程度で、極端な急成長が続く日本の3000?4000億円と比べて、10倍近く差があると考えられている。

 

 2月のRMT(リアルマネートレード)問題や、5月に起きたコンプガチャ問題が起きたが、それはソーシャルゲーム市場の成長を押しとどめるほどの打撃にはならなかった。まだまだ、社会的な風当たりは強いが、業界は業界団体の設立などを通じて、最初の危機を乗り越えたとは言えると思う。

 

■「モバマス」から推測するアクティブユーザー

 

 私自身、この一年、かなりの種類のソーシャルゲームを遊んできたと思う。ただ、実際には、遊びはじめて、すぐに止めてしまったタイトルが大半だ。全部を継続的に遊ぶには、とても時間が足りない。数ヵ月遊んでいるタイトルも複数あるが、そうしたタイトルは2?3が限界という感じだ。

 

 その中で、モバゲー向けにリリースされており、このブログでも一度話題にしたサイゲームズと共同開発されている『アイドルマスターシンデレラガールズ(モバマス)』(バンダイナムコゲームズ)は、半年以上にわたって、いまだにしつこく遊んでいるゲームだ。

 

 途中で、断続的に止めたりしながらも、まだ遊んでいる。お気に入りのキャラを育てるのは、別段、何か報酬があるわけでもないのに何となく楽しい。

 

 結局、使ったのは数千円程度で、ほとんど無課金に近く、運営側にとっては、あまりありがたくないユーザーかもしれない。ただ、こんなに長い期間遊び続けたゲームは、自分の経験でもほとんどない。過去、MMORPG(大規模マルチプレイヤーオンラインゲーム)はとても時間がかかるために、何ヵ月にもわたって、ものすごくのめり込むほどには遊んでいない。

 

 アイテムを使わないで、ライフを全回復するためには、すでに5時間を越えるようになっている。毎日3?5回アクセスして、10分あまり遊ぶので、一日最大でも1時間程度のプレイ時間というところだろう。先月行われた2週間のイベントでは12万位あたりの結果だった。今行われている12月12日?25日のクリスマスイベントで18日の中間発表でも10万位あたりにいる。イベントの終盤に、回復アイテムを積極的に使う人が現れるので、やはり、12万位あたりに落ちると思われる。

 

 自分の前後のユーザーをみると、ある程度、ガチャを行わないと手に入らないようなレアカードを所有している人がちらほらと見当たるが、それでも、私のようにほとんど課金しないで遊んでいると推定できるユーザーも少なくない。ただ、10?12万位までがイベントの報酬を得られるので(キャラを育てるためのレベルの低いトレーナー2枚)、少額でも課金をして、イベントに参加することが期待されているラインは、このあたりに置かれているのだろう。


■課金ユーザーの1人あたりの平均月売り上げは4000円?

 

 そのため、この数ヵ月、イベントに参加し続けている感覚からすると、イベントをアクティブに遊んでいるユーザーは、20万人前後ではなかろうかと感じている。ほとんど課金しないで遊んでいる私でもたどり着けてしまうため、ちょっと課金すれば、12万位にまでたどり着くことは、それほど難しいことではないように思われる。

 

 「アイドルマスター」は250万人の登録ユーザーを獲得していることが発表されているが、その10分の1程度が実際のアクティブユーザーではないだろうか、という肌感覚がする。

 

 私が所属するプロダクションは継続的に遊んでいるユーザーが大半だが、ゲームを止めてしまったユーザーはレベルが低いユーザーが多い。ゲームを開始しての初期の離脱率をどうやって抑えるのかというのが、ソーシャルゲームの最初の重要なポイントであることはよく知られているが、初期に離脱していくユーザーが、入れ替わり立ち替わりしているというのが実情なのだろう。

 

 現在、モバマスの売上は月に5?10億円と、人気のあるソーシャルゲームの中でもトップクラスの売上を出していると言われている。単純に売上が10億円と仮定し、アクティブユーザーを25万人と仮定すると、1人当たりの売上は4000円になる(あくまで仮定であり、この数字が正しいという具体的な根拠は乏しいことには注意をしてほしい)。

 

 私が、現在のイベントで集められる中間発表の勝利ポイントは1万1000点だが、現在、首位の人は、1167万点と気が遠くなるほどの高い勝利ポイントを得ている。その人がどれくらいの金額を使っているのかは、正確な想像が難しいが、10万円単位を平気で使っているかなりの重課金ユーザーであることは、ほぼ間違いないだろう。

 

■釈然としない「データ様」

 

 1年にわたってソーシャルゲームを遊び続けてきて、ほとんど無課金で遊べて、その楽しさを十分に享受させてもらっているのに、いまだに、どうしても釈然としない感覚が残っている。

 

 ソーシャルゲームの世界では専門用語が飛び交う。KPI(key performance indicator、重要業績評価指標)、ARPU(Average Revenue Per User、1人あたり平均売り上げ)、DAU(Daily Active Users、1日当りアクティブユーザー数)、MAU(Monthly Active Users、月間のアクティブなユーザー数)、LTV(Life Time Value、顧客生涯価値)など、三文字単語がずらずらと並ぶ。

 

 ソーシャルゲーム会社の人たちに取材するなかで、こうした数字を重視して、それらの数字を高めていくことこそ、ユーザーの満足度と同じと語られる姿にはどうにも違和感が残る。ある企業は「データ様」とまで呼んでいた。

 

 本当にその数字の向こう側に存在するユーザーが見えているのだろうかという違和感が強くある。

 

 こういう感覚は、ソーシャルゲームに重課金で遊んでいるユーザーが、なんらかの中毒といった問題を引き起こしているのではないか、という社会的な疑念を生みだしやすい土壌でもあるのだろう。

 

 ところが、私自身の取材の範囲では、精神科の医師たちは「ソーシャルゲーム依存症はいない」と指摘する。MMORPGは昼夜逆転といった生活上の問題を引き起こすが、ソーシャルゲームはそうしたことを引き起こさない。薬物やアルコール、タバコなどは話にならないほど依存症が強い。さらに、現金を取得できる競馬、競輪、そして、宝くじなどの法律で規定された公益ギャンブル、遊戯という曖昧な位置づけのパチンコに比べても、RMT問題を切り離し、賭博性がはっきりと否定し、自主規制やゲームシステムの工夫によって乗り越えた現在では、比較にならないほど安全なものになっている。

 

 それでも、釈然としない感覚は、なぜ、生まれるのだろうか?

 

 どうも、そこには最新の心理学の成果からは、人間特有の認知バイアスが存在すると考えていいようだ。我々はディフォルトで勘違いする生き物なのだ。どうしてもどこか認めたくないのだが、「データ様」が正しいのだ。

2012年12月17日 20:56