仮想空間アバターの姿に心はいつに間にか影響を受ける

 さらに、スタンフォード大学のNick Yee氏の研究を通じて、アバターの姿が与える影響を紹介したい。

 

 

■魅力的なアバターを使う人は魅力的に行動する

 

 Yee氏の研究では、仮想の魅力性が変化した場合にも、相手への評価が変わることが起きるとしている。研究では、仮想世界のなかで、参加者が自分の個人的な生活について、他のアバターに20分間話すことが行われる。何人かの参加者のアバターには、平均よりも少しだけ身長を高めるといったより魅力的に見えるようにしておく。一方で、別の何人かには少しだけ魅力を失わせておく。その結果を観察すると、「魅力的なアバターを使っている参加者は、魅力的でないアバターを使っている人よりも、言葉では言えない行動の部分で、より自信を持っていることを示していた。一方で、魅力的なアバターをまとっている人は、他の参加者に、3フィート(約90センチ)近づき、パーソナル空間に入っていた。そのうえ、彼らはより自信をもって話していた」(※1)。

 

 これらの会話記録を分析すると、参加者は魅力的なアバターを使っている人により個人的な情報を話しているという。驚くべき事として、ほんのわずかしか、アバターを魅力的にするかどうかを変えていないにもかかわらず、それが影響を与えていることを上げている。もちろん、そうした判断を無意識的に行っていることを、参加者は気がついていない。

 

 さらにYee氏は、この研究の追試として、仮想世界のアバターが、どの程度、現実世界に戻ったときに影響を与えるのかという研究も行っている。仮想世界で25分間活動を行った後、現実世界で25分間、仮想世界での活動にまったく関係ない活動を行わせた結果を見たものだ。魅力的なアバターを利用した参加者は、現実世界に戻っても、自分自身の魅力を感じられるという結果が出ている。

 

 

 心理学研究は特定の条件を整えて、その実験を行って結果を見るという形を取るので、Yee氏の研究だけで、それがすべてにおいて人間の活動において普遍的だと判断するのには若干の危険性がある。

 

 ただ、ソーシャルネットワークサービス(SNS)内のゲームを遊んでいるユーザーにも何となくピンと来る部分はあるのではないだろうか。モバゲーやグリーにしても、登録時に提供されるのは、シャツと短パンで、極めて貧相に見えるアバターのモデルだ。無料でいくつかのアバターのアイテムを得ることができるにしても、有料でアバターを購入しなければ、魅力的なアバターに姿を変えることができない。SNSのアバターサービスが登場したのは2000年頃に韓国からだが、登場した当初は単なるキャラクターの着せ替えに過ぎないものにお金を払うユーザーなどいないだろうと考えられた。

 

 ところが、実際には、それは主力の収益源となる企業が多く出た。NHNの「ハンゲーム」のアバターは日本で最も成功したものといえるし、サイバーエージェントの「アメーバピグ」も同様だろう。服だけでなく、部屋の模様替えなどに、なぜ、仮想空間のアバターなどにお金を払ってでも、自分の姿を豪華に見せたいのかという理由には、仮想空間での自分のアバターイメージが、現実空間の自分とリンクしているからこそ起きるからと考えることができる。SNS内のアバターは2次元で表現されるために、身長といった高さには影響を与えない。その分、アバターに着せている服装などが相手を判断する材料になっているのだろう。

 

 もちろん、仮想世界内で身長といったわかりやすい魅力が不足している場合には、かわいらしさや能力の高さとか、別の魅力によってカバーされる可能性がある。アイテム課金型の場合、仮想空間でのアイデンティティを満たすために、課金をしている可能性は高い。

 

■仮想空間ではほとんどの人が嘘をつく

 

 コーネル大学のJeffery Hancock氏の研究チームは、デートサイトを使ってどれくらいの人がサイトに登録している情報に対してウソをついているのかという研究を行っている。ウェブサイトに登録している多数の人に、現金を支払って研究室に来てもらい正確なデータとの比較を行ったのだ。そのため、かなりお金の掛かった研究のようだ。

 

 デートサイトを使った研究が有利なのは、それぞれの人が数字を入力しているために統計データとして扱いやすいためだ。よく知られている現象だが、こうしたサイトでは大量の情報の中から選択が行われるため、極端な数値が登場する傾向が高い(前回紹介したデートサイトの数字も同様だろう)。その結果、現実から乖離する傾向がある。結婚情報センターが調べた「女性が男性に希望する年収」が、682.6万円と、現実の507.4万円とありえない乖離が起きているのは、自由に選択できるという状況に置かれているためだ。そういう状態でデートサイトが存在しているとすると、何が起きるだろうか。

 

 研究結果では、ほとんどの男性が登録情報にウソをついている結果が出ている。身長が平均値の人は、1.5センチ程度高く登録しており、平均から低い人は6センチ?10センチ程度高めに登録をしている。

 

 さらに、Yee氏はこの研究結果を受けて、仮想世界が現実世界と同じサイズに設定されるタイプのアバターの身体のサイズに与える影響を調査している。その結果、「第一に、男性と女性の両方で、身長を誇張している。第二に、より重要なことに、参加者が仮想世界で自分の似姿として魅力があると感じているときには、あとから嘘をつかない」

 


 これらの研究では、仮想空間を利用することで、アイデンティティをポジティブに伸ばすこともできるし、元々、満足度の高い人をそのまま仮想空間に自分の代わりとして持っていっても変わらないということも示されている。しかし、どのような仮想空間を使うのかでその条件は違ってくると思われるので、まだまだ追加の研究が求められる分野だろう。

 

 ただ、なぜ、ゲーム(アニメなども含めてもいいのかもしれない)の世界では、身長の高いキャラクターが主人公のことが多いのだろうか。また、そうしたキャラクターが一般的に好まれるのだろうか。ただし、そのサイズにも一定の許される幅があり、極端に小さすぎたり、大きすぎたりするキャラクターは、多くの支持を得られないのだろうか。また、仮想の世界にもかかわらず、その格好の魅力的かどうかを、なぜ判断を行っているのだろうか。

 

 それは、仮想世界のことであっても、我々の脳の認知から大きな影響を受けていると考えられる。もちろん、仮想世界の心理学研究が始まったのは、21世紀に入ってからがほとんどで、紹介したYee氏が所属するスタンフォード大学の仮想空間での心理学研究を中心に行っているバーチャルヒューマンインタラクション研究所(Virtual Human Interaction Lab)も、2003年に設立されたばかりの新しい研究所だ。

 

 この分野の研究は新しい。今後も、奇妙なことがわかってくるだろう。

 

 ちなみに、リアルな結婚の話。デートサイト等に振り回されたくなかったら、数値登録によって多数の人から選ぶところではなく、数人の相手に絞った状態から選ぶ方(例えば合コン)の方が、まとまる可能性は高いです、多分(※2)。

 

 

 

(※1)"Infinite Reality: Avatars, Eternal Life, New Worlds, and the Dawn of the Virtual Revolution" P.106-8の研究の要約を参考にしている。訳はいずれも筆者による。

 

(※2)シーナ・アイエンガー「選択の科学」のジャム選択理論の勝手な拡大解釈。合コンの科学は聞いたことないので、あしからず。

2012年9月3日 14:46