相手は存在するのに存在しないと感じる時代?Alone Together(3)

 マサチューセッツ工科大学の心理学者シェリー・タークル教授の『Alone Together(一緒でも孤独)』のトピックをもう少し続ける。

 

 タークル氏の未来のイメージは、二つに分かれている。今直面しているソーシャルメディアなど、日常な非接触な友人たちと暮らすのが普通になってきている世界が広がっていくこと。その次に来るのが、相手をしている友人がロボット(コンピュータ)によって置き換えられていく世界。

 

 間違えてはいけないのは、彼女が考えているロボットは、高度な人間のように振る舞う人工知能(AI)で作られた人間そっくりの高度な知性を持ったロボットというイメージではない点だ。人間が、実用的な観点から、感情的に満足できる存在であれば十分なのだ。

 

■ながら電話の相手は存在するのに存在しない気持ち

 

 タークル氏は、著書のなかで、今の時代で起きている「Alone Together」の状況を、様々な人へのインタビューを通じて明らかにしていくが、その一例を紹介する。(※1)

 

 エレンというパリで広告の仕事をしている女性が、フィラデルフィアに住むお祖母さんとSkypeを通じてのコミュニケーションを頻繁にするようになった。

 

 Skypeが登場する前は、国際電話料金のかかる電話が必要であったために、たまに電話をするだけだった。ところが、Skypeはそうしたことをまったく気にすることなく、ビデオチャットをすることができる。そのため、週に二度は家にいる間、1時間はSkypeをするようになった。

 

 ところが、久しぶりにお祖母さんに直接会ってみると、なんだか居心地が悪く、幸せな気分になれない。「Skypeをしている間に、メールを書いたりしていた。私は会話にちゃんと注意を払っていなかった」と認めたという。

 

 「エレンは、お祖母さんのことを、そこには本当にはいない、誰かと話していると感じていた」

 

 つまり、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)と話しているのと大して変わらない心境だったことを発見するのだ。

 

 テレビを見ている間に、同時にスマートフォンでツイッターを見たりするといったようなことは、この10年で当たり前になった、我々にも身近な習慣だ。日本ではこうした行動は「ながら」と呼ばれるが、アメリカではここ数年「マルチタスキング・マインド」という同様の意味を指す単語が使われ始めている。


 「エレンは以前よりもお祖母さんと頻繁につながることができた。しかし、同時にお互いは孤独になっている。たとえ、この親密さが、エレンにとっての、マルチタスクのなかの一つに過ぎないとしても、お祖母さんは幸せであると知っている。そのために、エレンは罪の意識を感じて混乱している」

 


 この最近のコンピュータ技術の発達によって生みだされている「オンラインであろうがなかろうが関係なく、親しく一緒にいようが、遠くに離れていようが、簡単に人間関係の終わりがどこまでなのかを区分できなくなっている。このような混乱が頻繁に観察されるようになっている」。

 

 これをタークル氏は「Alone Together」だと、ここでも指摘する。

 

 我々のところに、四六時中、膨大なコミュニケーションが押し寄せてくる。ツィッターの果てしなく続く更新、フェイスブックの数百人の友人から、誰が本当のフレンドであるのかを区分けすることも不可能に近い。だから、どうしても「ながら」でいろいろな物事を同時に行わなければならなくなる。

 

 それは、誰かとつながっているようで、本当にはつながっていないのかもしれない。

 

■一緒に遊ぶプレイヤーがいいのはAIかリアルな人か

 

 もし、フェイスブックのフレンドのなかに、適度に言葉を話す人工知能(AI)が紛れているとしたら区分けできるだろうか。そのAIが自分にとって気持ちのいいことをずっと話してくれて、関係が成り立つとしたらどうだろう。

 

 たとえ、相手がAIであると理解し、一定の限界があるとわかっていたとしても、そのAIは自分を傷つけることなく、安全な形での感情的な満足度を与えてくれる存在になってくれるとしたら、どうだろう。

 

 我々は現実の混乱した孤独の中で、そのAIと付き合うこととの方が、スクリーンの向こう側にいる、曖昧な存在でもある人間と付き合うことよりも、望ましいと感じるのではないか……。

 

 タークル氏の予想では、その時代にロボットの時代がやって来る。

 

 ただ、わざわざそこまで大げさなことを言わなくとも、すでに我々の生活の世界では、ロボット化は進んでいる。ゲーム内のAI技術でさえ、プレイヤーにとってより楽しめる気持ちの良い環境を整えるように発展しており、それはリアルとバーチャルの区別をすでに無意味化している。

 

 タークル氏が例として上げているのが、MMORPGの「World of War Craft(Wow)」のケースだ。もちろん、このゲームは他のプレイヤーと一緒にクエストをクリアしていくことが楽しみと重要な部分だ。だが、ゲームを進める上で、パーティを組めるできるほどの人数を集められなかった場合には、NPCで代用できる。その「NPCとリアルな人間」と、どちらが気楽に遊びやすいだろうかと、タークル氏は問うてくる。

 

 案外と他の人に束縛されない分、「楽」と考える人は、少なからずいるだろう。

 


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(※1)「Alone Together」のKindle版7%のあたり。訳は筆者による。

2012年7月30日 17:21