「PlayStation Vita」から見えるソニーグループの混乱(上)

「PlayStation Vita」から見えるソニーグループの混乱(上)

?PS Vitaをよりよいハードにするための提案?

 

 「PlayStation Vita」は、有機ELの美しさ、コントローラーの使いやすさなど、様々な意味で優れた面をもつゲーム機の面がある。しかし、ソニー・コンピュータエンタテインメント単体というよりも、ソニーグループ全体の混乱が体現されている製品のように、私には思えてならない。

 

 PS Vitaは、個別の現場の人の努力が行われている製品で個々の要素には、エッジが効いている面があるにもかかわらず、トータルで考えたときには、何か不釣り合いな部分が感じられるのだ。

 

 これはソニー製品だけに見られる話ではなく、日本の組織が、一度不利な状況に落ち込んだときに引き起こされやすい状態が姿を現している。少しこの問題を、3回に分けて、踏み込んで紹介していきたい。

 

 これらのことは、実現性はとても難しいだろうと思うが、一つの理想的な状態として、PS Vitaの状況を改善するための方法を提案したい。

 

 

(c)2012 Sony Computer Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 

【そもそものPS Vitaの戦略】

・PS Vitaのソニーグループ内でのミッションの再定義。

 

 昨年9月に発表が行われた「究極のエンタテインメント体験」という定義は、日本の組織が生み出しやすい組織内のチームに多義性の解釈を可能にする。

 

 その混乱を解消するべき。ゲームなのか、ネットワークなのか、ビデオなのか、ゴールが多様に解釈可能であるために、この定義自体が意味をなしていない。そのため、個別チームは自らに有利になるように働き、組織全体は混乱しやすくなる。それを解消しなければならない。

 

 

【ハードウェア・ソフトウェア】

・ハードとゲームの販売価格を下げる施策をすべき

 

 ハードウェアについて。「PS Vitaカード」の「専用メモリーカード」廃止 ダウンロード販売だけに統一。ゲームを値下げし、中間コストを減らし、ユーザーに取って魅力的な価格帯に持ってくるべき。少しでも、部品点数を減らし販売価格を下げる。こうすることで、ユーザーのエントリーコストを下げる。

 

・OSを一つに絞り込みコストを下げるべき

 

 Vita OSか、Android OSのどちらかに統一し、Vita OSを守る場合は、PS3やソニーの他の家電製品でも採用する首尾一貫性を持たせることで、OSの保守コストを下げる。

 

・こうしたことを利用して、伝統的なムーアの法則よりも速いペースで新ハードを投入すべき。

 

 

【サービス】

・サービスはエコシステムの開発者に任せるべき

 

 Vita OSもしくは、Vita搭載のAndroid OSを早期に開発者に解放し、SkypeやTwitter、Facebookといった多様なSNSサービスアプリは、SCEが開発しなくても済むエコシステムの体制を速くに整え、自社でのサポートコストを減らす。

 

・3G回線の価格体系を変えるか、やめるべき

 

 現状は、3G回線の恩恵がほとんどない。ゲームだけの目的で遊ぶユーザーに向けての安価な料金プランを提案するか、思い切って、Wi-Fiモデルに特化すべきである。

 

 

【広報】

・ホームページの情報の整理・作り直し

 

 現状のサイトは、とにかく意味がわからない。Vitaのハードの魅力を探そうと思ったら何クリックも必要であり、しかし、その情報は不完全なことが多い。網羅的なソフトガイドを見つけようとしても最低3クリックは必要で、たどり着いた先もわかりにくい。

 

・SCEの日米欧で、発表する情報の統合

 

 SCEの日本から発信される情報と、アメリカ、欧州で発表される情報が食い違うということが頻繁に起きている(昨年5月の「プレイステーションネットワーク」ハッキング事件など)。インターネットでその違いは検証が可能であるため、間違ったメッセージになることが起きている。

(これらは、アップルのホームページと比較してみると、その完成度の低さがわかる)

 

 こんなことは、無理だよという声が聞こえてきそうだが、製品に組織の混乱した現状は反映される。

 

 一橋大学の野中郁次郎氏を中心に1984年に執筆された『失敗の本質—日本軍の組織論的研究』(中公文庫)という著作がある。太平洋戦争時に、なぜ日本軍が敗戦へと向かっていったのかということを検証していった「組織論」の名著だ。

 

 

 戦争とビジネスというものは、人が死んだり生きたりするという点で違いがあるのだが、争いという部分で共通項を抱えている部分があるため、ビジネス書としての反響を得た部分がある。重要なのは、日本の組織には、日本的な元型があるという点だ。特に、後退戦に入ったときには、日本の組織は脆弱になる。

 

 その抱えている問題に、今のソニーグループは重なって見えるのだ。

 

 

 ※初出時 文中に『液晶モニター』と記載がありましたが、

   『有機EL』の間違いでした。
   ご迷惑おかけしたことをお詫び申し上げます。

2012年2月21日 13:15