ソーシャルゲームは個人の嗜好性の分析にたどり着く(下)
ゲームが新しいコンピュータ技術が登場したときに、応用分野として採用されやすいケースを紹介する。
今、ソーシャルゲームはサービスの発展として、「個人の嗜好性」までが分析対象となろうとしている。いつのタイミングでユーザーが課金するのか、いつの段階でユーザーがゲームをやめてしまうのか。
それらの個人に紐付いたデータを獲得できるかどうかは、今後、ゲームなど様々なサービスを展開する企業にとって、鍵となってくる考え方になってくるだろう。現在、一般的に提供されている顧客管理のソフトウェアの技術は中途半端で、ゲームといったサービスに応用できるものになっていないと言われている。
そのため、それらのサービスを展開している企業は、独自に開発している企業が多い。そして、現時点では、その完成度がゲームの持つ魅力と、同じぐらい重要な企業ノウハウになっている。
昨年、日本で開催されたゲーム開発者向けカンファレスのCEDECでは、DeNAが、自社で展開するソーシャルゲームで、そうした企業内ノウハウを蓄積している一端を示していた。ゲームの特定の難易度で、ユーザーの離脱率が高いかどうかを週間ごとに分析し、特異な離脱率が出ているような結果が出ているような場合には、ゲームの難易度の調整を行うというものだ。それによって、ユーザーの離脱率を平準化することによって、ゲームそのものの寿命を長くするというものだ。
ただし、現状では、個人の嗜好性にまで入り込んではいないように感じられた。
オンラインゲームやソーシャルゲームを展開する企業は、毎日、莫大な量のログデータを蓄積していく。実際には、そのデータは大量でありすぎるため、ユーザーとの間にトラブルが起きた場合に確認ができるように、何ヶ月分を保持しながら、処分していくことが多い。また、ユーザーがサーバに対して行った活動は、すべてサーバに記録されるものの、それらの大量のログから「意味のあるデータ」を抽出することは容易ではない。
マイクロソフトの「Xbox 360」で生み出された「実績システム」はユーザーが実際にどのような遊び方をしているのかを調べるための、簡易的な調査システムになっている。ゲーム会社にとっても、ユーザーにとっても、この価値は高く、うまくポイントを付与することができたゲームは、販売本数も上昇する傾向があるということも知られている。
ソニー・コンピュータエンタテインメントが、「PS3」向けに類似の「トロフィーシステム」を採用したのは、そうした背景があったからだ。
これらの情報は、断片的なものに過ぎないが、それぞれのユーザーの「個人の嗜好性」を含んでいる重要な個人情報である。
しかし、これらのものでも、ユーザーという群れを対象とした断片的な情報に過ぎないことが多い。
一方で、ゲームが、アイテム課金がベースとなるものが強くなり、フリーミアムモデルが前提となるものが主流になろうとしている。基本料金が無料で、10%以下の数少ないユーザーにゲームの収入を依存するという形だ。90%以上のユーザーのコストを、10%のユーザーに負っているため、それはビジネスとしては、いびつであるという考え方もある。
しかし、実際に支持するユーザーが存在している以上、この流れは今後も強くなっていくだろう。(ただし、パッケージモデルが、すべて置き換えられるというわけではない。一定の規模で両方が成立するという状態が続くだろう)
フリーミアムモデルは、さらに多くの個人情報の嗜好性を収集することを、ゲーム会社に求めることになる。なぜなら、課金するユーザーの活動こそが、ビジネスの根本を作り上げているからだ。
次の数年間の競争は、ゲーム会社が、ゲームを作る最初の段階から、ログデータを解析しやすいデータ構成を作成して、同時にゲームとしてもおもしろい物を作るということになっていく。
どのようなゲームであっても、この解析技術の発展からは逃げることができない。ゲームを遊ぶということは、自らの嗜好性の分析を受けるという時代を意味している。
これはゲームの側から見た、将来へと続く「強力な監視社会」の台頭を予感させるものだ。
今はそれぞれの企業にとっての最大のノウハウになっているが、10年経たないうちに、それらの技術はコモディティ化して、1ユーザーであっても手に入れるレベルまで、簡単になるだろう。
それはジャック・アタリの「21世紀の歴史――未来の人類から見た世界」が予言する「超帝国」といった権力へと結びついていく、新しい流れを生み出していくものだ。
そのプロセスのなか、社会はどう変わっているだろうか。
2012年1月16日 18:18