誤って理解してほしくない日本的「デバッグ」と欧米の「ユーザーテスト」の違い(下)

「デバッグ」と「ユーザーテスト」は違う

 

 アメリカのエンジンを使ったゲーム開発のプロセスと日本との決定的な違いを上げるならば、この弊害を徹底的にデータ的に調べ上げることによって、迅速に質を上げる方法を作り上げたところだ。各ゲーム会社によって多少の差異はあるが基本は同じことだ。

 

 多くのゲームは、それぞれの面ができあがるごとに、1?2週間ごとに、QA(品質保証)チームにまわされ、「ユーザーテスト」を受ける。間違えて理解してはいけない。決して、単なる「デバッグ」ではない。日本で言われるデバッグは、ゲーム内のバグを取ることを目的としており、デバッカーが上げてくるゲームバランスの提案や、調整の提案はほとんどの場合、開発現場にフィードバックが来ても無視されることが多い。

 

 ところが、北米で一般的なユーザーテストは、そのゲームについて詳しい情報を伝えられていないユーザーが集められ、そのゲームを突然遊ぶことが行われるのだ。ユーザーの操作はすべて画像として録画され、どこの部分で、どのような感情表現を伴い、ユーザーが面白いと思ったのかどうか、インターフェイスで迷ったりしていないか、マップ内でも混乱していないか、といったことが心理学修士号や博士号を持った専門家の立ち会いの元にチェックされ、分析される。それは、ゲーム開発者にとっては、地獄のような経験である。例え、ゲームの質を引き上げることがわかっているとしても。

 

 

「ユーザーテスト」の有効性が広まったのはここ5?7年

 

 この様子が2007年の「Halo 2」限定版に付いているDVDに収録されたメイキングドキュメンタリーに収録されている。マイクロソフトのユーザーテスティングラボで、行われているユーザーテストの様子が克明に描かれているのだが、開発者は一切アドバイスをしてはいけないというルールになっている。マップで迷っているユーザーに、「頼むから右を向いてくれ」と、祈るようにつぶやく開発スタッフの姿が描かれていたりしている。

 

 現在でも、このメイキングDVDは見る価値があるが、見たという日本の開発者をほとんど知らない。

 

 マイクロソフトは、ユーザーテスティングラボに力を入れている企業で、キネクトの開発や、対応ゲームでも相当力を入れて、テストラボを作っている。

 

 こうしたテストを頻繁に行うことで、大型ゲームであるほどユーザー目線で完成度を引き上げることが出来る。逆に、完成度の高い状態でリリースされるために、発売後のゲームの評価が高いのは当たり前なのだ。

 

 この考え方は、2004年頃に、米Valveが「Half-Life2」の開発の際に積極的に取り込み、それを、Game Developers Conference で発表し、それを聞いたEpic Gamesが「Gears of War」で積極的に採用し。さらに、「Gears of War」のメイキングの発表を聞いた、SCEAの「アンチャーテッド」のチームが積極的に取り込み、自社のテスティングラボまで用意して、徹底的に利用している。そのため、この考え方の有効性についての認識が広がったのも、この5?6年だ。これは、日本のゲームが押される時期とも重なる。

 

 最新の方式では、Valveの2010年の「Left 4 Dead 2」では、心拍系を利用してユーザーの興奮度をチェックすることを行い、今年の「Portal 2」では、ユーザーの目線をトラッキングして、迷いやすいマップで迷子にならないようにマップの完成度を引き上げるように利用している。

 

 

 こうした際、問題点が明らかになった際に、そのマップなりゲームシステムを、短時間で修正し、テストを繰り返して質を高めるために、ゲームエンジンのようなオーサリングの統合環境を整備しておくことが有利なのだ。作業を部分的に、小さなチームに分業化でき、作業も独立して行い、個々のパーツの質を引き上げることが出来るからだ。

 

正しい理解の上に、開発手法を見直すべき

 

 一方で、こうした、ユーザーテストをしっかりさせた日本の会社は、この5年現れていない。そのため、実際にリリースしてみて、ゲームの完成度がイマイチだったり、とんでもない出来のものであったり、大味だったりということが相変わらず起きている。

 

 こうしたことは、私自身は折に触れて、何度も記事を通じても、たまにお願いされる企業向けのセミナーでも紹介してきたつもりだが、日本のゲームクリエイター文化が持つ限界のようなものに何度も直面した。できれば、「ゲームクリエイター」は、ユーザーの声など聞きたくなく、自分が良いと思い込んでいるものを、押しつけたいのが本音だからだ。

 また、「それらのユーザーテストの費用を誰が持つのかが問題」、という話も何度も聞いた。日本のパブリッシャーと契約して下請けとして開発している企業は、それらの費用はパブリッシャーが持つべきだと主張するが、パブリッシャーはそのつもりがない。

 大手の企業でも同様で、パブリッシャーはこうした作業に費用をかけることで、販売本数が伸びることが確実に見えないという理由から、積極的に踏み出さない。ゲームのユーザー目線でのクオリティは二の次になりがちだ。私が、不思議なのは、SCEは、アメリカもヨーロッパの法人も、こうした仕組みを作ることに積極的なのに、日本の法人だけは、本気でユーザーテスト工程をやっているのだろうかと思えるほど、お金がかかっている割に、完成度の低いタイトルを平気でリリースすることだ。文化の違いで片付けられるものではなく、もっと別の企業文化の問題点を抱えているのだろうと思っている。

 

 欧米圏の開発では、QA(Quality Assurance/品質保証)の立場はもっと高く、そこがゲームのキモであるとの考え方が浸透している。間違えてほしくないのは、「デバッグ」と「ユーザーテスト」は言葉は同じようでも意味する内容は、まるで違うということだ。見直さなければならないのは、ゲーム開発プロセス全体なのだ。その中に「ユーザーテスト」を位置づけ直さなければならない。

 

 日本でも、欧米の手法の本当の意味が少しずつ知られつつあるが、同時に誤解も起き始めているのが、今は心配だ。

2011年10月5日 12:29