プロフィール
佐野正弘

東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では携帯電話業界事情から、スマートフォン、モバイルマーケティング、若者のケータイ文化に至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。著書にXperia入門ガイド(翔泳社)、SEO対策のウソ・ホント(毎日コミュニケーションズ)など。

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高速通信を実現する「LTE」と「モバイルWiMAX」、一体何が違うのか?(1)

 以前、携帯電話の通信速度について取り上げた。現在は「W-CDMA」「CDMA2000」といった、俗に第3世代携帯電話(3G)と呼ばれる通信方式、そして「HSDPA」「EV-DO Rev.A」といった、3G方式を拡張した3.5世代(3.5G)と呼ばれる通信方式が主流となっている。

 だが現在では、本連載でも過去に何度か紹介している通り、従来の3G、3.5Gの方式より高速な通信速度を実現する、「3.9G」と呼ばれる通信方式を採用したサービスが登場している。UQコミュニケーションズの「UQ WiMAX」や、NTTドコモの「Xi」などがそれに当たり、下り(ダウンロード時)の最大通信速度を見ると、UQ WiMAXが40Mbps、Xiは72Mbps(屋内の一部のみ)と、大幅な高速化を実現している。

 

▲国内初のLTEサービスである「Xi」。環境によるが下り最大72Mpbsという高速性が特徴

 

 UQ WiMAXは「モバイルWiMAX」(IEEE 802.16e)、Xiは「LTE」(Long Term Evolution)という、異なる通信方式を用いている。だが両方式に採用されている技術は、「OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)」という変調方式や、複数のアンテナを用いてデータの送受信をする無線通信技術「MIMO(Multi Input Multi Output)」など、現在の無線通信のトレンドといえるもので、仕組みや特徴などは似た部分も多い。また両者とも、国際電気通信連合(ITU)によって3G携帯電話規格(IMT-2000)の1つとして認められている。

 ちなみに理論値での下り最大通信速度を比べると、モバイルWiMAXが最大75Mbps、LTEが326.4Mbps(いずれも20MHzの帯域幅を使用した場合)と開きがある。だが規格の標準化が完了したのもそれぞれ2005年、2009年と時期的に差があり、サービス面ではモバイルWiMAXの方が先行している。またモバイルWiMAX陣営は次世代規格である「WiMAX2」(IEEE 802.16m)の標準化を完了させており、こちらは理論値で300Mbps以上の通信速度を実現するという。こうした状況を見るに、現時点で両者に技術的な優劣を付けるのは難しい。

 では一体、両者の決定的な違いは何だろうか?その1つとして上げられるのが「生い立ち」だ。

 モバイルWiMAX、ひいてはWiMAXは“無線LAN”の延長線上に生まれた規格であり、元々は光やADSLなどの敷設が難しい地域に向け、無線による固定ブロードバンド通信網を提供するための技術としてスタートしたもの。それを移動体通信に対応させるなどしたものがモバイルWiMAXになる。また規格策定には、パソコン向けのCPUで知られるインテルが大きく関わっていることから、現在多くのノートパソコンに、モバイルWiMAXによる通信機能が内蔵されるようになってきている。

 

▲国内でも多くのノートパソコンにモバイルWiMAXが内蔵されている

 

 一方のLTEは、3G携帯電話方式の延長として生まれたもの。W-CDMA方式を標準化した「3GPP」という団体によって標準化された規格であり、携帯電話キャリアが導入しやすいよう、従来の携帯電話の規格と共通化、あるいは互換性を持たせる仕組みを用意しているのが特徴といえる。こうしたことから、既にLTEによるサービスを開始しているNTTドコモをはじめとして、世界中の多くの携帯電話キャリアが、将来的にLTEを採用することを表明している。

 両者は無線LANと携帯電話という、異なる環境から生まれた規格であることから、それを採用する事業者や端末も異なってきている訳だ。この違いが、両者にどのような影響を与えているのかについては、次回説明しよう。

2011年5月9日 12:52