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佐野正弘

東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では携帯電話業界事情から、スマートフォン、モバイルマーケティング、若者のケータイ文化に至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。著書にXperia入門ガイド(翔泳社)、SEO対策のウソ・ホント(毎日コミュニケーションズ)など。

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どう変化した? 携帯電話のコミュニケーションスタイル(5)

 前回は、携帯電話におけるコミュニケーションの要でもある、音声通話が現在に至るまでどのように変化してきたかについて説明してきた。今回は、その音声通話がデータ通信によって大きく変化してきていること、そしてそうした変化が、我々に何をもたらそうとしているのかを、解説したい。

 携帯電話は固定電話から派生したものであることから、携帯電話の音声通話も、仕組み的には固定電話と同じ仕組みが用いられている。だが最近では、「VoIP」(Voice over Internet Protocol)という技術を用い、インターネット経由で音声通話を可能にするアプリケーションやサービスが徐々に人気を高めており、新しいコミュニケーション手段として広まりつつある。

 その代表例が、現在は米Microsoftに買収された「Skype」や、NHN Japanの「LINE」などだ。特にSkypeは、auがAndroid搭載スマートフォン「IS03」を発売する際、Skype社(当時)と提携し、携帯電話の音声通話の仕組みを用いた「Skype au」を提供、KDDI代表取締役社長の田中孝司氏が、これを“禁断のアプリ”と呼んだことで話題となった。

 モバイルでSkypeなどのVoIPサービスが利用されるようになったのには、さまざまな条件が揃ったことが挙げられる。1つ目は、3GやLTE、WiMAXなど高速回線の普及により、高速なデータ通信が場所を問わず安定して利用できるようになったこと。2つ目は、同じサービス利用者間であれば料金がかからない上、パケット定額制、あるいは準定額制で回線使用料も実質かからないので、キャリアを問うことなく音声通話が無料でできることだ。

 そしてもう1つ、大きな理由は、キャリアがVoIPの利用を許可したということである。我々が毎月支払う携帯電話料金は、キャリアの大きな収益源となっているため、インターネット経由で無料の音声通話が際限なく利用されてしまったら、キャリアにとっては大損害だ(田中氏がSkypeを“禁断のアプリ”と呼んだのも、そうした理由による所が大きい)。それゆえNTTドコモが、パソコン向けの定額データ通信サービスでVoIPの使用を許可しなかったなど、かつてキャリアはVoIPサービスの利用に厳しい措置をとってきたのだ。

 だが、多種多様なアプリケーションが扱えるスマートフォンが人気となったことで、キャリアがユーザーのデータ通信量を制御することが難しくなった。そこでキャリア各社は、音声通話は減るものと割り切り、大容量データ通信が必要なサービスを積極提供することでデータ通信量を向上させ、収益を上げるよう方針を転換してきたのである。その一環としてVoIPの使用も許可されるようになり、VoIPサービスがが急速に広まったといえよう。

 VoIPサービスの広まりは、単に“無料で電話ができる”というだけではない、さまざまな価値と変化をもたらしつつある。1つは、複数の相手と同時通話ができるということ。従来の音声通話は、基本的に1人の相手としか会話ができなかったが、同時に複数の相手と会話ができることで、“おしゃべり”から“会議”まで、より幅広い用途に活用できるようになる。

 もう1つは、音声以外の付加価値を与えるのが容易だということ。その代表例が、iPhoneなどに搭載されている「FaceTime」だ。FaceTimeは音声だけでなく、iPhoneやiPadの本体に用意されたカメラを用いることで、いわゆる“テレビ電話”も可能となっている。テレビ電話は携帯電話でも提供されているサービスだが、料金が高いなどの理由からあまり使われてこなかった。だがこれが無料で利用できるとなると、敷居は大幅に低くなり、活用範囲も大きく広がることとなる。FaceTimeは現在、無線LAN接続時のみ利用可能だが、これが携帯電話回線でも利用できるようになれば、コミュニケーションのあり方に多くの変化が起きてくるかもしれない。

 VoIPの人気や注目度が高まる一方で、懸念もある。それは、モバイルでは高速通信が可能になったとはいえ、環境によって通話品質が落ちたり、遅延(自分が話した言葉が相手に伝わるまでの時間が遅くなること。テレビの衛星中継で話がずれる光景を思い出してもらえればわかりやすいだろう)が起きたりしやすいので、現在の音声通話並みに快適な通話が実現できるかというと、それはまだ難しい。

 だが将来的には、音声通話が全てVoIPに置き換わる可能性も高い。というのも、現在キャリア各社が導入を進めているLTEは、従来の音声通話の仕組みを備えていないのだ(それゆえ、現在のLTE対応スマートフォンは3Gで音声通話をしている)。そのためLTEが3Gに入れ替わって普及した場合、LTE上でVoIPを実装し、現在の音声通話並み、あるいはそれ以上のクオリティで音声通話を実現する「VoLTE」が導入される予定なのだ。

 VoIPがアプリケーションとしてだけでなく、キャリア標準のサービスとして提供されるようになれば、料金やサービス面でも、より一層大きな変化が起きてくると考えられよう。

 

▲通信機器メーカー、エリクソンのVoLTEに関する記者説明会より。

LTEでは音声通話もVoIPで実装される仕組みとなっている

2012年7月31日 16:55