プロフィール
佐野正弘

東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では携帯電話業界事情から、スマートフォン、モバイルマーケティング、若者のケータイ文化に至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。著書にXperia入門ガイド(翔泳社)、SEO対策のウソ・ホント(毎日コミュニケーションズ)など。

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どう変化した? 携帯電話のコミュニケーションスタイル(2)

 前回、日本と海外とでショートメッセージサービスの利用動向が全く異なっていること、その要因の1つとして、2G時代に日本のキャリアのほとんどが、日本独自の通信方式を採用した影響が大きいと説明した。だがショートメッセージが日本で積極的に利用されなかったのには、他により大きな要素が挙げられる。それが“表現力”だ。

 日本でショートメッセージが提供されるようになったのには、それまで文字による通信コミュニケーションの主役であった“ポケットベル”の影響が大きい。ポケットベルによる文字や数字を用いた独特の文字コミュニケーションを携帯電話に取り込むことで、ユーザー獲得につなげる狙いがあったといえる。

 それゆえショートメッセージのターゲットも、ポケットベルから携帯電話・PHSへの移行が進んだ、女子高生など女性を中心とした若年層であった。そして当初、この分野に積極的に取り組んでいたのも、価格面で割安感があり、若年層に人気を博したPHSキャリアだったのだ。ショートメッセージのサービス提供を日本で最初に開始したのはDDIセルラーグループ(現・KDDI)だが、1996年11月にDDIポケット(現在のウィルコム)が提供した「Pメール」は、ポケットベルでも人気があった“絵文字”を多く組み込むことで、若年層に高い人気を博すこととなった。

 その後1997?1998年にかけ、PHS・携帯電話キャリア各社が相次いでショートメッセージサービスを提供開始し、ショートメッセージがテキストメッセージの主流になるとみられていた。だが1997年末、NTTドコモが「ポケットボード」を投入することで、流れが大きく変わることとなる。

 ポケットボードとは、ディスプレイとキーボードが付いた手のひらサイズの端末で、携帯電話を接続することにより、1通10円でEメールを送信できるというもの。この頃は丁度パソコンが普及期にあり、インターネット関連のサービスが大きな注目を集めていたことから、手のひらでEメールをやり取りできる端末として提供されたものと考えられる。だがこれが、従来のショートメッセージにはない、ある大きな変化をもたらしているのだ。

 それはメールの“長文化”だ。ポケットボードには、1通送信するのに数円程度かかるショートメッセージと比べ、料金的には高めだ。だがその分、およそ1000文字という、ショートメッセージと比べ圧倒的に長い文章をやり取りできる付加価値を備えていた。加えて多くの絵文字が利用できることから、ショートメッセージと比べ格段に表現力の高いコミュニケーションが可能だったのだ。加えて人気キャラクターの起用、薄く可愛いらしい本体デザイン、OL3人組が登場するユニークなCMなどといったマーケティング要素も功を奏し、コミュニケーション需要の高い女性を中心としてポケットボードは大きなヒットとなった。

 さらにそのおよそ1年後となる1999年2月には、やはりNTTドコモが、携帯電話上でインターネットが利用できるサービス「iモード」の提供を開始。iモードは携帯電話本体だけで全角250文字ものメールが可能なほか、多数の絵文字が扱えるEメールサービスを用意するなど、長文で表現力の高いコミュニケーションという、ポケットボードで人気を博した要素を取り入れていた。それゆえiモードも爆発的ヒットを遂げ、他社がこの流れに追従したことで、日本ではショートメッセージよりEメールが普及することとなったのである。

 つまり、日本の携帯電話でショートメッセージが普及せずにEメールが広まったのは、他キャリアとのメールの互換性があったことよりむしろ、文字数が多く絵文字がふんだんに扱えるという、表現力の高いコミュニケーションが可能だったことが、マス層に人気を集めた結果とも言えるのだ。

 ちなみに、日本でメールの表現力向上に欠かせない存在となった“絵文字”だが、キャリア毎に互換性がない、正式な文字ではないなどの理由から、パソコン利用者、特に絵文字の利用に積極的でない男性からは長い間“厄介者”とされてきた。しかし現在では、絵文字がパソコンなどに用いられている文字コードの1つ「Unicode」に組み込まれ、国際的にも正式な“文字”として扱われるようになっている。また絵文字のデザインに関しても、auとイー・モバイルがNTTドコモの絵文字に合わせるなど、統一化に向けた動きが進みつつあるようだ。

 次回は、表現力の追及によって、日本の携帯電話によるコミュニケーションがどう変化してきているかを説明しよう。

▲かつては“ポケットボード”から派生したさまざまなメール端末が存在していた。

写真は2000年に発売された「ポケットポストペット」

2012年7月11日 16:53