桜井政博
1970年8月3日生まれ。有限会社ソラ代表。独立したゲームディレクター。代表作は『星のカービィ』シリーズ、『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズ。最新作はニンテンドー3DSの『新・光神話パルテナの鏡』。さまざまなジャンルのゲームを日々研究しつつ、ユーザーに新たな楽しさをもたらすゲーム開発に注力している。

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01 孤高の塔、『ICO』

週刊ファミ通2003年6月20日発売号掲載

VOL.011

収録巻はこちら!

桜井政博のゲームについて思うこと


 

01 孤高の塔、『ICO』

 

 とあるきっかけで、『ICO』を制作された上田文人さんといっしょにお話する機会を持つことができました。こういうチャンスがあるのはありがたいことです。
 上田さんは、「ひとつの作品において、ゲームの肝となる部分をひたすら磨き込みたい」とおっしゃられていました。なーるほど。『ICO』には、一点に集中するレーザーポインターの光のような鋭さがあります。それでやっと、ニブいわたしにも『ICO』という作品のポジションが頭の中で見えてきたような気がしたのです。
 『ICO』は、いけにえの運命を持つ、角が生えた男の子"イコ"が、正体不明の女の子"ヨルダ"の手を取り、彼女が闇の者にさらわれないように護衛しながら城から脱出するゲーム……。と要約すると、「もっと深いものがあるのに!」とファンから石を投げられそうですがカンベンしてくだせぇ。とにかく世界観、グラフィックが独特で美しく、哲学的な雰囲気さえ漂います。
 ゲーム自体はわりとシンプル。『ザ・キャッスル』とか、『プリンス・オブ・ペルシャ』みたいな、仕掛けや地形を乗り越えて先に進むタイプのゲームです。操作はカンタンで、主人公には体力がなく、高すぎる場所から落ちるか、ヨルダが闇の者にさらわれるとゲームオーバー。
 さきの上田さんの言葉から考えるに、高めるところは極端に高め、ほかの一切を見切った結果、『ICO』という、施設は少ないし飾りもないけれど、ひたすら高い塔ができたのだろうと感じました。
 その塔は、孤高を保ちながらとにかく高い塔だったため、同じ価値観に乗じることができる人は、そこからさらにひたすら高い位置に持ち上げて、このうえなくいいゲームだと感じるのだろうと思います。また、価値観の外にいる人も、高い塔は遠くから見ても存在が明らかで目立つので、ただただ見上げるだけでもその高さを思わせるという。一点を集中して貫く強さ、頼もしさを感じます。
 で、それに対してわたしのゲームデザインのスタイルはというと、上田さんとはまったく逆だったりします。はっきり言って、わたしは節操がない! 根本となるところで守るべきものにはとことんこだわりますが、ユーザーに喜んでもらうためなら、なりふり構わずなんでもやっちゃうほうです!
 わたしが大切にしている考えかたのひとつに、"誰かがキライな要素は、別の誰かは好きかもしれない"というものがあります。技術が発達し、より高い表現力を持ったゲームは、同時に人の嗜好を分けました。人の嗜好はもっと専門的に、ジャンルなどに特化されたものになったと思います。その多くの嗜好に少しでも広く応えたいがために、いろいろな要素を潜ませようとするのです。
 上田さんが手掛けた『ICO』を、ひたすら高い塔にたとえて言うなら、わたしの『スマブラ』や『カービィ』は、高さは低いがすそ野が広い丘、というところでしょうか。
 たぶん、塔は丘をうらやまないし、丘は塔の高さが欲しいわけではありません。ただ、互いの価値観を認めつつ、信じた道を行くだけです。
 いろいろな意図が込められたソフトが出て、ユーザーがいろいろな価値観で選ぶ自由があるというのは、本当にいいことですね!

 

※転載にあたり、コラム本文に付随していた写真や解説、スーパーヘルプ、ふり返って思うことは割愛しております。あらかじめご了承ください。

 

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2012年3月26日 11:53