桜井政博
1970年8月3日生まれ。有限会社ソラ代表。独立したゲームディレクター。代表作は『星のカービィ』シリーズ、『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズ。最新作はニンテンドー3DSの『新・光神話パルテナの鏡』。さまざまなジャンルのゲームを日々研究しつつ、ユーザーに新たな楽しさをもたらすゲーム開発に注力している。

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06 信頼値

週刊ファミ通2005年9月16日発売号掲載
VOL.121

収録巻はこちら!

桜井政博のゲームについて思うことDX


 

06 信頼値

 

 ゲームを作るチーム内では、意見が割れることがホントによくあります。困るほど。本来そんなときには、迷わずディレクター、企画者、そのゲームを考えた人の意図に合わせるべき。ディレクターはそういう役割を持っているのだし、全体のコンセプトを握っているのですから。しかし意外と多いパターンは、「コレおかしいよな、ヘンだよな、な」みたいに、スタッフがほかのスタッフに根回しを始めること。自分の考えに賛同してくれる味方をつけることで安心できるのでしょう。直接こんな感じでないにせよ、似たような例は山ほどあるハズ。
 ハッキリ言えば、これほど不毛なことはありませんよね。そのようなことがあったとき、チームが得られるメリットは何なのか。根回しを始めたスタッフの小さい自尊心が守れること以外に、トクなことがあるのか。どうして企画者と納得いくまで話せないのか。コンセプトをブレさせてチームの頓挫を狙うつもりなのか。……とは言え、そうするキモチもよくわかります。自分もグチをこぼすことぐらいはありますもの。
 1992年のこと。まだ若輩でぴちぴち(?)のわたしが、ファミコン版『星のカービィ?夢の泉の物語?』をディレクションしていたときのこと。この作品の完成が近づいた段階で、メインプログラマーであった当時の上司は言いました。
 「桜井くんの言うことは、最初はぜんぜんわからなかった。どうしてこんなことするんだろう、とさえ思った。だけど言われたままに作っていって、みんなが作ったものが組み合わさっていったとき、やっと桜井くんがやりたいことや言いたいことがわかった」と。
 ネジやタイヤやエンジンの一部品を作っていても、それが最終的にクルマに仕上がる、ということはわからないものです。とくに、いままでになかったものであれば。設計図を見せることはできても、実際に組み上がって人が乗り、道路を走ってみないとピンとこない。
 スタッフに伝わらないのは、自身のプレゼンテーション、伝える力の不足です。クルマの部品を作っていても、最後にクルマになることをまんべんなくわからせてあげればよいのでしょう? そうするために努力すべきなのは確か。しかし極論を言えば、完全に伝え切るということは、単独でゲームを完成させて遊ばせてみること。こりゃぁいわゆる夢物語ですよね。それができるなら、作ったゲームをそのまま売ってしまいます。
 そんな疑念にガツンと効くのは、人に対する"信頼"だと思います。つまり、「あいつなら任せられる」というキモチ。信頼できる人の言うことであれば、「いまはよくわかんないけど、とにかくやってみようか」ということにもなりやすいようで。逆もまたしかりですが。
 当時まだまだ若輩だったわたしは、信頼値が低かった。だから、"わかってもらえない"ことにしょげていたときもありました。でも、それは当然のことだといまは思うのでした。信頼がある人とない人では、まったく同じことをクチにしても、その価値はハッキリ違います。そしてそれは、相手に責任があるわけではありません。
 仕事をうまくやれれば、成果をあげることができれば、ずっと遅れて味方が増えていくような気がします。フリーのわたしは、信頼値は毎回ゼロから積み上げ直し。おかげで、外部の人とつながる瞬間はいろんな意味で刺激的です。

 

※転載にあたり、コラム本文に付随していた写真や解説、スーパーヘルプ、ふり返って思うことは割愛しております。あらかじめご了承ください。

 

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2012年4月2日 11:59