大河原克行

1965年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーラ ンスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、20年以上にわたって、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。現在、 ビジネス 誌、パソコン誌、Web媒体などで活躍。PCWatchの「大河原克行のパソコン業界東奔西走」、日経パソコン PCオンラインの「マイクロ ソフト・ウォッチング」、日経トレンディネットの「大河原克行のデジタル業界事情」などを連載。著書に、「松下からパナソニックへ 世界で戦うブランド 戦略」(アスキー新書)、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)、「パソコンウォーズ最前線」(オーム社)などがある。

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NEC VS Lenovo 第4回

第4回

NECは海外市場へと飛び出すことができるのか?


 NECは、過去に米パッカードベルを買収した経緯があった。

 

 この買収を足がかりに欧米市場へと進出。一時的に、全世界のPC市場において、トップシェアを獲得したこともあったのだ。

 

 だが、事業統合で成果を生むことができず、主力となる北米市場でも事業拡大に失敗。海外市場からの撤退を余儀なくされたという苦い経験がある。

 

 また、NEC本体が構造改革を進めるなかで、ノンコア事業と位置づけられたPC事業においては、長年に渡って、国内に限定した形でビジネスを展開することになり、東芝、ソニー、富士通が、海外でPC事業を拡大するのとは対照的に「井の中の蛙」ともいえる事業体制となっていた。

 

 そして、海外に展開しない体制は、国内のPC事業にもマイナスに働いていた部分が見逃せない。

 

 例えば、海外に進出している日系企業は、日本の本社で利用しているのと同じPCを利用したいと考えているが、海外における販売、サポート体制がないことを理由に、国内で導入しているPCを、NECから他社へと乗り換えるという例も出ていた。

 

 これが、今回のレノボとの合弁により、レノボのグローバルの販売網、サポート網を利用して、海外展開できることになるのだ。

 

 現時点では、NECが海外向けに専用PCを開発、発売する予定はない。日本向けに製品化しているものを、ビジネスPCに限定して海外展開することになる。しかし、その体制ができるだけでも、NECパーソナルコンピュータには大きなビジネスチャンスが生まれることになる。

 

 NECパーソナルコンピュータの試算によると、同社が対象とする日系企業の数は海外に約2万2,000社もあるという。海外のレノボの拠点を活用するだけで、これほどのビジネスチャンスが生まれるのだ。

 

 さらに、NECパーソナルコンピュータが持つ技術が、レノボが海外で展開する製品へと生かされる点も見逃せない。

 

 例えば、NECパーソナルコンピュータでは、スクラッチリペアという技術を持つ。

 

 これは、傷がついてもすぐに修復する塗装技術。5年前に実用化されて以来、持ち運びが多いモバイルPCの表面塗装には最適なものとして注目されていたものだ。

 

 だが、かつては、スプレー方式での塗装としていたため、表面に異物が混入しやすく、塗装面に歪みが出やすいために、歩留まりが悪化。コストが高くなるという課題があった。

 

 しかし、新たにIMF(フィルム)成形を採用したことで、コストは従来の50分の1にまで削減。加えて、滑らかで透明感を持ち、上質な塗装ができるようになったことで、プレミアムモデルにしか採用できなかった同技術を、ネットブックなどの普及モデルにも採用できるようになったという。

 

 

スクラッチリペアはIMF(フィルム)成形を採用したことで、
コストは従来の50分の1にまで削減した

 

 レノボ・ジャパンのロードリック・ラピン社長も、「スクラッチリペアは、ThinkPadにも採用したい技術」と注目しており、NECパーソナルコンピュータが開発した独自技術が、グローバルに展開するレノボブランドのPCで採用される可能性は極めて高い。

 

 NECパーソナルコンピュータの研究開発部門は、山形県米沢市の米沢事業場に集約されている。ここでは、薄型・軽量・小型のモバイルPCに関する各種ノウハウが蓄積されているほか、視線を動かすだけでハンズフリーでPCの操作を行える視線操作技術、画面をタッチするたびに振動を起こす大画面ハプティクス技術、人感センサーを活用した省電力技術などのノウハウも蓄積されている。これらはまさに日本だからこそ生まれた先進技術ともいえ、今後、NECブランドのPCだけでなく、世界展開するレノボブランドのPCにもどんな形で採用されるかが注目される。

 

 

数々の技術が開発されているNECパーソナルコンピュータの米沢事業場

 

 

米沢事業場では、薄型、軽量化のモバイルPCのノウハウを蓄積。
写真はMGXの開発コードネームのAndoid端末。残念ながら発売はされない

 

 「NECは、日本市場に特化した製品を展開してきたが、ここに搭載されている技術は世界的にみても最先端のもの。日本は技術に対する評価が最も厳しい市場であり、その市場で高い人気を誇るNECのPCに搭載されている技術は、世界で通用するものと考えている。NECは、日本のコンシューマ市場を大変詳しく理解しており、それをもとにした製品を海外に持っていけば、グローバルでも通用するという確信がある」と、ラピン社長は語る。

 

 2011年7月4日に行なわれた、両社の合弁会社スタートに関する会見では、ゲストとして、インテル・宗像義恵副社長、日本マイクロソフトの樋口泰行社長がコメント。「今回の新会社によって、グローバルに新たなPC市場が創出されることを期待している」(インテル・宗像義恵副社長)、「日本のPC市場の活性化とともに、日本の技術が世界に展開されることを期待している」(日本マイクロソフトの樋口泰行社長)というように、製品面、技術面から、NECパーソナルコンピュータの世界展開を期待する声があがる。

 

 NECならではの独自技術が、年間3,000万台規模を誇るレノボのPCに採用されるという点での期待は高まるばかりだ。

 

 そして、NECパーソナルコンピュータと関係がある数多くの日本のサプライヤーの技術を、レノボが採用することも考えられるだろう。実はラピン社長は、そのあたりまでを含めて、NECパーソナルコンピュータの技術を活用する考えだ。

 

 NECとレノボの合弁は、NECパーソナルコンピュータが持つ技術の世界展開という点でも注目しておきたい動きだといえる。    

 

(終わり)

2011年10月28日 14:01