プロフィール
中村彰憲

立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。

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UNREAL FEST WEST、京都で開催。700人が見た、UE4の最前線とは!(その2)

『電車でGO!!』がUE4で実現した

「地味」ながら「丁寧」な街づくりで実現する圧倒的な没入感

 

 

左から

Visual Works

リードエンジニア

小野 豊氏

リードテクニカルアーティスト

尾崎 義規氏

テクノロジー&プロダクションマネージャー

河合 裕文氏

ジェネラル マネージャー/チーフクリエイティブディレクター

生守 一行氏

 

 業務用筐体での開発事例についても紹介された。Visual Works(以下、VW)による『電車でGO!!』の開発に関する講演だ。同社はもともとスクウェア・エニックスグループにおいて主にCG制作をおこなってきたが、『電車でGO!』新ブランドとして進化させるという目標のもと、グループ会社の株式会社タイトーから、VWにも参加要請が下ったのだ。当初、グラフィック監修が主な業務だったが、201611月に実施したロケテストの結果、ゲーム体験の価値を向上させるためVWも開発に参画することを決定。VWは人員を増員して取り組み、最終的に同プロジェクトは、2017117日、大型の3画面モニターにタッチパネルを採用した業務用筐体『電車でGO!!』として見事に生まれ変わった。同筐体は全国各地に配置され、ブランドとして進化させるという目標を達成した。現在は、VWがこのプロジェクトに主体的な立場で開発と運営に携わっている。

 

『電車でGO !』リーズを新ブランドとして立ち上げるうえで、改めて検討したのがコンセプトだ。

「電車運転士になり切る」という前作での目標を達成するうえで、さらなる没入感やアーケード独自の体験価値をグラフィック、表示デバイス、現代的ゲームデザイン、立体音響及びそれに伴う座席振動などそれぞれの視点から追求していった。そのような中、グラフィックデザインの方針は、リアルよりも魅力的な「リアルっぽい」表現を追求することとなった。例えば、東京の空はかなりどんよりとしている場合が多いが、昼のシーンには鮮やかな青に白雲が映える、沖縄で撮影した空を取り入れている。

 

 また、筐体設計は、VRの活用も含め検討を進め、画面モニターの配置も2面、コの字に配置した3面と検討し、現在のハの字型を採用した。モニターサイズなどもいくつかのバージョンを検証しつつ、最終的にメインモニターを55インチ、左右モニターを双方43インチとした。

 

一方、その他のシーンをどう表現するかは、ゲームデザインのコンセプトと関連している。「電車運転士になり切る」ために駅の停止位置にぴったりと電車を停めるという「地味」でシンプルなゲームの目標を達成するのが本シリーズのコアであり、それを実現するためにもグラフィックは誰もが日々過ごしている日常世界を描く必要があると結論づけた。これは、プレイ中に、景色を「当たり前」として認識してもらわなければならないため、ごまかしがきかないことを意味する。従って、グラフィックデザインにおいても丁寧につくりこむ必要がある。

 

そのためには、背景シーンを大量に制作しなければならない。そこで、山手線76区間を1レベル内とし、区間を基準に、総数にして189にも及ぶサブレベルへと細分化している。 駅到着時に演出が入るが、その間にレベルをストリーミングしin/outをおこなった。朝、昼、夕方といったライティングシナリオも分割して、区間ごとにビルドしている。

 

なお、背景制作のルール化も進めた。例えばテクスチャの解像度については、レールを走行する場所から近景、中景、遠景で統一するなどだ。

 

 また、建物もコンピューターに負荷をかけずに大量に配置しなければならない。そこで、搭乗する沿線のモックアップを作成し、レールを走行する場所を基点に、街の特徴を示すユニークな特徴の建物、既存データを加工し、シルエットや大きさなどで独自性を表現する建物、使いまわすために汎用性を持たせる建物とで分類した。この中で、街の特徴を示すユニークな特徴の建物は1区間で20程度とした。これらの建物については、対象区間の建物を実際に撮影して仕様書をつくるなどして指示内容を明確化した。この他に、駅のつくりなども状況にあわせて改変している。例えば駅の近くに見通しのいい道路がある場合、遠景のビルまで見えてしまうことから、道路の方向を変えるなどして遠景まで見えないように加工するなどだ。とりわけ、本作は、3画面仕様であるため、正面画面が問題なくても、左右に配置される画面で問題が発生する場合もあるため、その点も注意しながら背景制作の指示をしたとのこと。このような努力によって、街の雰囲気はそのままながら、コンピュータに負荷がかかりすぎないように対応している。なお、既存データを加工し、シルエットや大きさなどで独自性を表現する建物の配置も1区間40程度と定めた。さらに自然な風景としての演出として、駅の群衆、行き交う車を配置しつつ空には群をなす鳥や、ジェット機など配置するなどをしていた。

 

 エンジニア的な工夫としては如何に「違和感がなく、没入感の高い地味な状態」を実現したかについての解説がなされた。ロケーションテスト版の段階ではプレイヤーからの視点から複数画面における投影画像の不一致、遠方の建物や路線のちらつき、処理落ちなどの問題が確認され、ゲームデザイン自体が地味なことから、これらが逆に目立ってしまうこともあり、徹底的に対応するべくいくつかの施策が講じられた。まずは、メイン及びサブモニターと、操作補助用モニターといった画面構成でグラフィックを同時に描画することをふまえひとつのゲームウィンドウを Split Screen 機能で仮想的に4分割し、各モニター画面に対応付けることで、PC1台だけでも画面の整合性をチェックできるように工夫している。その際、モニター間で、オブジェクトがつながって見えるように筐体の設計図からプレイヤー視野角を想定し、カメラ画角と一致させ没入感を向上させた。

 

また、普通列車のシミュレーションということもあり、速度感はそもそもあまりないが、それが違和感に繋がっているという状況を確認した。速度感を向上させる演出としては広角表現が有効だが、もしそのまま実装すると見える範囲が広くなってしまい、新たに建物などを追加しなければならないことになる。そこで、3画面全体の画角は常に一定としつつ、プレイヤーの視線が集中する中央近くの画角のみ広くしながら、画面のつながりは違和感ないように調整した。これを可変画角として実装している。この他にもエイリアシング(画面のチラつき)に対応するために路線の枕木をひとまとめにして処理するようにしたり、画面上に描画されるフォントやUI、駅間で配置したりするおよそ1000体にも及ぶ群衆などの処理の効率化など様々な手法が試みられている旨が語られた。このように、本講演では『電車でGO!!』における「さりげない日常」を生み出すために、グラフィックアーティストからエンジニアと実に様々な人の力によって実現している状況がつまびらかとなった。

 

 

それぞれ培ったノウハウを限りなく共有していく

精神の先にみいだす、日本ゲーム開発の次世代

 

 このように講演時は、それぞれが自らおこなってきた、テクニックやノウハウが惜しげもなく披露された。そしてその多くは大規模プロジェクトのみならず、インディーズ・スタジオや個人クリエイターも活用できるものばかりだ。このようなコミュニティ・ビルディングに対する姿勢が昨今、急速に広がりつつあるUE4クリエイターコミュニティの背景となっているのだろう。そして利害対立が生まれない限り、その知見を共有しあう姿勢の中に日本の次世代が存在する。

 

2018年5月11日 11:10