プロフィール
中村彰憲

立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。

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UNREAL FEST WEST、京都で開催。700人が見た、UE4の最前線とは!(その1)

 

UNREAL FEST WEST、京都で開催。

700人が見た、UE4の最前線とは!(その1) 

   

今回は、エピック・ゲームズCEOのティム・スウィーニー氏も登壇!

 京都コンピュータ学院 京都駅前校にて2018年4月21日、ゲーム開発用ミドルウェアUnreal Engine(以下、UE)に関する国内最大規模のカンファレンス、“UNREAL FEST WEST 2018が開催された。京都で開催されたのは昨年に続き、今回で二回目。なんと、今回はエピック・ゲームズCEOティム・スウィーニー氏が登壇し話題となった。本誌では、同氏に対してインタビューを敢行したが、筆者もそのセッションに参加し、古屋記者とともにいくつか質問をさせていただいた。そのセッションについてこちらから確認いただきたい

 一方、当日のカンファレンスには700人にも来場し、多くの人々が、終日にわたっておこなわれた全7セッションにもわたる講演に対し、熱心に耳を傾けた。京都、関西でここまで大きなカンファレンスは、この他には一般社団法人デジタルエンターテインメントクリエイター協会 (DECA)主催によるゲームクリエイターズカンファレンスくらいだろう。そのよう意味からも開発者コミュニティのムーブメントが熱くなりつつあるのが関西エリアということが出来る。

 そこで本稿から数回にわたり、大規模プロジェクトから個人クリエイターによるUE4を用いた開発事例など総勢7つのセッションから、筆者が注目したセッションを紹介していく。

『フォートナイト』で培った技術は惜しむことなく、

UE4コミュニティへ解放される 


エピック・ゲームズ・ジャパンの澤田祐太朗氏
 

 

 最初に紹介されたのが現在話題でエピック・ゲームズ開発によるバトルロイヤル型シューティングゲーム、『フォートナイト』の開発事例だ。エピック・ゲームズ・ジャパンエンジン・サポート・テクニシャンの澤田祐太朗氏が解説した。 

 

まず、100人対戦の「バトルロイヤル」モードにおいて、如何にPCから、iOS、ならびにAndroid(現在開発中)まで、といった幅広いスペックの端末同士で2.5km×2.5kmの広大なマップ上で100人対戦のリアルタイム描画を実現したかについて解説がなされた。これは、グラフィックのクオリティ(外観)を保ちつつ、処理数を減らすということが必要となるが、そのために、開発工程において、UE4に既に実装されている陰影、アセット描画ならびにキャラクター動作における処理数の削減のための手法を活用したとのこと。 

 

 陰影の処理数削減の方法として、カスケードシャドウマップとレイトレース ディスタンス フィールド ソフト シャドウを組み合わせて使われていることが紹介された。カスケードシャドウマップは静的、動的モデルに関わらず、リアルタイムにオブジェクトの陰影を生成できる。だが、この機能のみを使うと陰影の長さに応じて画像処理の負荷が上昇してしまう。そこで、事前計算した3Dテクスチャを使用するレイトレース ディスタンス フィールド ソフト シャドウを活用することで処理の負荷を下げることが出来るからだ。 

 

 また、『フォートナイト』では、広いフィールド内に数多くのオブジェクトが描画される状況が多いが、それについては、LODならびにHLOD+ Impostorという技術を活用したと澤田氏。LODとは、Level of Detailの略称で、これはプレイヤーの視点から見て、オブジェクトが近距離か遠距離かを計算し、それに応じて描画モデルのポリゴン数を切り替える技術で、UE4では、外部ミドルウェア並びにUE4の内製ツールの双方で実現できる。もう一方の手法はHLODImpostorの組み合わせだ。HLODとは、Hierarchical Level of Detailの略称で建物や木といった複数モデルのメッシュやマテリアルをマージしたうえでLODを実装する技術だ。だが、複数のモデルを塊として描画してしまうとさすがに描画時のクオリティが下がってしまう。そこで、アセットを各方向からあらかじめレンダリングしたテクスチャを用意し、ビルボードに張り付けることでマージ前のモデルが描画されたように見せかけることが出来る。あくまでもテクスチャなのでリアルタイムで陰影を描画することは不可能なため、陰影の変化が顕著となる近景オブジェクトの描写には向かないが遠景描画においては「自然な見た目」を再現しやすく且つコンピュータ負荷低減のために重要な役割を果たす。

 

この他に実装されたのが、描画されるキャラクターの重要度に応じてアニメーションの更新頻度を抑えるUpdate Rate Optimizationだ。プレイヤーにとって見えにくい遠方のキャラクターのフレームレートを意図的に下げる機能で、これもCPUの負荷削減に貢献する。このように、UE4では、様々な手法を用いてグラフィック処理速度を低減させることで幅広いスペックながら高品質な見栄えの良いグラフィック描画を実現している。なお、この他に100人対戦したサーバーシステムについても今回は重要な役割を果たしているがこれらの知見も次期バージョンのUE4に反映されるとのことだ。つまり、『フォートナイト』の知見を活かしたサード・パーティによるゲームがリリースされるようになるのだ。このようにエピック・ゲームズが常にUE4コミュニティを意識しながら自社コンテンツの開発にも取り組んでいることが明らかとなった。