プロフィール
中村彰憲

立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。

最新エントリー

話題にしたゲーム

タグ

月別アーカイブ

最近のコメント

NHN PlayArt が魅せる!ゲーム開発とスマートコミックの世界

NHN PlayArt が魅せる!ゲーム開発とスマートコミックの世界
 ~NHN PlayArt 立命館大学講義録~


 NHN PlayArtは、6月6日、京都の立命館大学映像学部にて、同社のゲーム開発並びに現在200万以上のダウンロードを誇るスマートコミックサービス「comico」の開発経緯などの講演を行った。今回同社のゲーム開発について語ったのは、これまでコンシューマーゲームやスマートフォンゲームの開発で長くディレクターを務めてきた経営支援室 プロジェクトデザイナーの溝口達洋氏。一方、comicoについては、同サービスの立ち上げ当時から携わってきたcomico事業部 編集兼営業マネージャーの春木博史氏が登壇した。

 また、本講演は、映像学部企業連携プログラムの一環として行われ、後半では、立命館大学映像学部がNHN PlayArtと推進するcomicoのプロモーションプランについての発表が行われた。


『イナズマイレブン オンライン』ではレベルファイブとタッグを組んで開発! 長年培ってきた、オンラインゲーム開発のノウハウを惜しみなくつぎ込む

 

 NHN PlayArtは、最重要パートナーであるLINEに対して数多くのゲームを提供しているが、もともとはその前身であるNHN Japanの時代から、累計登録数約5500万IDを誇る日本最大級のオンラインゲームポータル「ハンゲーム」で日本のPCオンラインゲーム市場を牽引してきたことでも知られる。

 現在の「ハンゲーム」におけるラインナップは、『チョコットランド』などのカジュアルゲーム、『ドラゴンネスト』などの大型MMORPGを中心としたコアゲーム、そして『イナズマイレブン オンライン』などに代表される共同開発ゲームなど、大小あわせて146タイトルだ。また、日本で最初にアバタービジネス展開をしたことでも知られており、まさに人と人とをつなぐサービスを同社のコアコンピタンスとしてきた事実をここからも垣間見ることが出来る。そして、この「人と人とを様々なサービスによってつなぐ」という同社の企業理念を、企業ロゴのNHNのHをオレンジのサイドラインで示すことであらわしているとのことだ。

 同社が開発したスマートフォン用ゲームはどれも快調で、11年にリリースした麻雀ゲーム『麻雀 天極牌』はアクティブユーザーが60万人を達成。12年11月にリリースした『LINE 勇者 コレクター』も既に170万ダウンロードを突破(14年4月3日現在)。カードゲームでありながらデッキを組み、前衛と後衛を戦略的に編成するという本格的なゲームデザインに多くのユーザーが魅了されているとのことだ。

 そんなNHN PlayArtでは、どのようにゲーム制作に取り組んでいるのか。溝口氏ははじめに、「ゲーム制作とはどんな仕事か?」という投げかけに対して「"これだ!"というたったひとつの答えがあるわけではない」と述べた。というのも、一口にゲーム会社といっても、その立場がデベロッパーなのか、パブリッシャーなのかによって、ゲームに携わるうえでの目的が変わってくる。例えば、パブリッシャーはゲームを如何に多くの顧客に届けるのかが重要となり、デベロッパーはコンテンツを開発することが主要業務になると言った具合だ。また、ユーザーがゲームの何に価値を見いだすかによっても違ってくる。これはユーザー層が実に多様且つ多彩であるからだ。そこで溝口氏は、そういったモノづくりを進めるにあたり「ゲーム制作そのもの」を目的とするのではなくその先にあるものを考えるべきと訴え、その先にあることを意識して成功した好例として「LINE GAME」を挙げた。初期のLINE GAMEで提供されていたゲームはどちらかと言うとシンプルなゲームデザインのものが多かったと振り返りつつ、「そういったゲームがLINEと連動することで、身近な人たちとゲームを通じてつながり、気軽に競い合ったり出来るようになる」ことがユーザーにとっての「新しい価値」だったのだという。

 つまり、NHN PlayArtにとっての「ゲーム制作」とは「新しい価値や体験を生み出し、お客様に届けること」なのだ。価値の創出や新しいユーザー体験を実現したその先に、結果として「売れる」ということがついてくると溝口氏。これをふまえつつゲーム開発は実に様々な人の力を借りてコンテンツをつくりあげるが、「何のためにそれをやっているのか?」、「人を喜ばせるには?」を常にチーム全体で意識して企画を進めるべきであると述べた。

 そのために溝口氏が提案したのが、「見つける→設計する→カタチにする→届ける」というプロセスだ。ゲーム開発というと往々にして「設計する&カタチにする」に目が向きがちと溝口氏。これまでも企画者が自分の理想とするゲームを提案してくるときがあったが、そういうときには彼らに「自分以外にどれくらいの人が、この企画を面白がってくれると思う?」という問いかけをしてきたという。ここから見えてくるのは、ゲーム業界においても一般的なビジネスで使われている「PDCA」サイクルが重要であるということだ。つまり、ゲームを開発するにあたり、「Plan→Do→Check→Action」といった持続的な検証と改善が不可欠であるということ。ただし、溝口氏はこの「Action」を「A-ha!」、すなわち「気付き」という行為に置き換えた。計画、実施、その効果を検証し、そこで新たな「なるほど!」を発見することがゲームデザインにおいて重要であると語った。この「なるほど!」という要素は、一度気付けば簡単なことでも気付かない限りはまったく分からないものなので、この継続的な試みがゲーム自体を良いものにしていくと溝口氏。そして「一度でもつまらないものをつかまされてしまうと、離れたユーザーは絶対に戻ってこない」と、ゲームデザインについて安易に考えることに警鐘を促した。


NHN PlayArtにおける新人研修

 では、実際に、NHN PlayArtでは新入社員に対し如何にして「ゲーム制作」を教えるのだろうか?その点についても溝口氏は言及した。それが4月9日~5月2日に実施した「ものづくり研修」。ここでは、グラフィックデザインやプログラムといった実務的な事でなく、「モノづくり」に関する考え方を教える研修だという。研修の中で段階的にアナログゲームからデジタルゲームを制作するもので、第一段階は実在のゲームを紙ベースのゲームに落とし込み、第二段階はアナログゲームの企画から制作までをたった2日でおこなう「Rookies' Game Jam」を実施。

 これ経て最終段階であるゲーム制作実習では、22人を3チームに分け、1日8時間を10日間、つまり80時間相当の時間を費やしてスマートフォンでプレイするゲームを開発し、最後はクリエイティブ発表会という場で、社員の前で自分たちの作品を披露するとのこと。

 「自分の頭の中ではいくらでもゲームは面白くなるが、実際につくってみると、面白くない場合もある。だから形にして、フィードバックをもらうことが重要」と、研修におけるクリエイティブ発表会の重要性を指摘した。また、通常1年程度はかかるゲーム開発を短期間で企画から作品リリースまでの全ての工程を疑似体験が出来ることも、新入社員にとって大切であることを示した。

 これらを総活する形で溝口氏は、ゲーム制作を志すうえで重要な3つのポイントを示した。まずは「全てはプロジェクトである」ということ。プロジェクトとは、「目的があり、ルーチンワークではなく、はじまりとおわりがあるもの」であると簡潔にまとめたうえで、例えば受験すらもプロジェクトであると持論を展開。このように様々な事をプロジェクトという視点で見直すことで、モノを生み出すことへのヒントが生まれてくるとした。

 次にポイントとしてあげたのは「全てはデザインである」ということ。この「デザイン」とは絵を描くといったことではなく、「ある対象にとって良い構成を工夫すること」であると示したうえで、交通標識や、様々なアイコン、そしてピクトグラムなどのような洗練されたデザインの中に、自身が伝えたいことの「最適な表現方法や魅せ方」を常に追求すべきとした。

 また、最後のポイントとしてあげていたのが「全てはおもてなし」であると言う点。語源には諸説があるものの、「お客様に接したときに裏表がない」様をあげた。また、ディズニーリゾートが示しているSCSE - Safety(安全)、Courtesy(礼儀正しさ)、Show(ショー)、Efficiency(効率)の原則についても言及。キャストと呼ばれるスタッフが正社員、アルバイトに関わらず前述の原則に基づいてみずから考えて行動する姿勢を評価し、ゲームづくりにおいても自分たちのゲームにおける達成要件と優先度を定めたうえで取り組むことが重要であると述べ、溝口氏は自身の講演をまとめた。


200万ダウンロード、毎日10作品以上更新の
スマートコミックcomicoは、如何に生まれたか


 引き続き、登壇したのが、comico事業部 編集兼営業マネージャーの春木博史氏。春木氏は、ハンゲームの立ち上げ時から参画しその成長を牽引したひとり。同サービスが国内最大規模のオンラインゲームサービスになったところで一旦別会社に移ったが、スマートコミックサービス「comico」事業の立ち上げにあたり、再度NHNグループに復帰したと、同サービスの展開に意欲を見せる。春木氏は、comicoの特徴を「マンガ」、「スマホ」、「毎日更新」、「新時代」、「カラー」、そして「縦スクロール」というキーワードでまとめたうえで、その独自性を説明した。その中でも極めて特徴的だったのが、「毎日更新」しているという点。これは、「毎日週刊誌が出ているという感覚」に近いという。また、「スマホ」に最適化させるためにマンガのコマ割りという概念をなくし、「縦スクロール」にしたという点と全編「カラー」にした点。画面をスクロールしながら眺めることに最適化した結果、生まれた形式だ。この大胆な変更について「手塚治虫や藤子不二雄の作品から『ONE PIECE』、『NARUTO』、そして『進撃の巨人』までマンガ業界が成立してから50年は続いているひとつのフォーマットに変化が表れても良い時期だ」と春木氏。

 たとえば、従来は毎週決まったページ数で話に区切りをつけていくというスタイル。これによって、通常1コマで充分なセリフをいくつかに分けたり、その逆をすることで話が収まるようにページ数の調整を図るという技術が必要だ。このような既存メディアの編集スタイルをリスペクトしつつも、comicoにおいては、作家に任せるスタイルをとっている。作家が望むだけの長さを描くのだ。つまりページ数という制限から解放されたことになる。 

 また、1冊の雑誌に収録できる作品数には限りがある。これがcomicoだと何本でも可能だ。また、comicoでは、仕組みとして漫画を描いて世の中に発表したいという人向けに作品投稿機能を提供している。投稿された作品はチャレンジ作品としてラインアップされ、読者も気軽にコメント・評価出来るしくみとなっている。作家もそれに反応できるので、読者の意見をマンガに活かすことも出来るのだ。これによって読者は作家を育てているという疑似体験が出来る。これはAKB48のシステムに近いと春木氏は分析する。作家を身近に感じて応援し、ファンみずからあらたなファンを獲得して作家を育てるという状況を目の当たりにし、comicoコミュニティの力強さを改めて実感した春木氏は言う。

 また「多くの人にスマホでマンガを読んでいただきたい」という想いから必然的に行き着いたのが、利用料の完全無料化。敷居を下げることでユーザーが気軽に人気作品に触れる機会を増やし、それらが映画化、ドラマ化、アニメ化、ゲーム化などへとつながり、さらに海外へとグローバルな展開が出来ればと春木氏は目を輝かせた。また、このようなサービスを展開することでより多くのマンガ家志望者に夢を与えられるとも。

 そして日本の誇るべきコンテンツである漫画をインターネットで後押しすることがマンガ業界の活性化にもつながると春木氏は意気込みを語った。


6月21日 22時~0時までニコ生でオールナイト企画実施決定

 今回立命館大学映像学部とNHN PlayArtは、企業連携プログラムを推進しており、同社の展開するオンラインコミックアプリ「comico」のプロモーション・プランを学生側が企画し、同社の承認に基づいてそのプランを実施することとなっていた。そこで、本講演の後半では、そのプロモーションプランの全容が明らかとなった。

 その中でも注目を浴びたのが、ニコ生でのオールナイト企画だ。立命館大学映像学部の学生たちが、6月21日(土)22時~0時の間、comicoについてニコニコ生放送で特別番組を放送する。さらに、当日は『咲くは江戸にもその素質』の沙嶋カタナ氏と、『なりきりの化学』のサクラギンガ氏の参加も決定し、会場を沸かした。具体的な企画内容はまだ明らかとされていないが、学生目線の爆裂トークは期待してもいいだろう。

 その模様についてはまた改めてお伝えしたい。

URL
NHN PlayArt公式ホームページ
http://www.nhn-PlayArt.com/

ハンゲームホームページ
http://www.hangame.co.jp/

comico公式ホームページ
http://www.comico.jp/

comico 公式ツイッターアカウント
https://twitter.com/comico_jp

2014年6月16日 18:41